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ブログと著作権(その4):自撮り写真

2017.05.31

 前回、写真の引用について取り上げました。

<過去記事>
ブログと著作権(その1)
ブログと著作権(その2):漫画の引用
ブログと著作権(その3):写真の引用

 今回は自撮り写真について取り上げます。

 観光地の建物噂の店の外観や料理コンサート風景キャラクターや有名人同窓会鉄道美術品店に展示してある商品店の看板や広告テレビ画像や映画の一コマ授業の黒板・・・・

 様々な被写体が考えられます。

 写真一枚でそのブログの印象が全く違うものになるでしょう。

 こうした写真の著作権は写真撮影者に発生します。

 従って“引用”のときのようにどちらが“主”でどちらが“従”かなんて判断する必要はありません。

 他人が撮った写真と全く同じ被写体、同じ構図のものが出来上がっても気にする必要はありません(独自に創作したものであれば著作物は別個独立して発生しますので)。

 ただし、この場合もいくつか問題があります。

1.被写体が著作物の場合

 例えば、他人の絵画や書道、文章などの著作物には著作権があります。

 これを無断でパシャっと撮るのは複製行為ですので“複製権”を、ブログにアップすると“公衆送信権”を侵害することなります(下枠)。

<参考:著作権法>
複製権
第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

公衆送信権等
第二十三条  著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

 実際に著作物が写真に写り込んでいることを理由に訴訟になった例があります(下枠)。

<雪月花事件>
事件番号 平成11(ネ)5641東京高裁平成14年2月18日判決

(写真出典:裁判所HP)
上記カタログ写真の奥に「雪月花」という“書”の著作物が写り込んでいます。
裁判所は上記写真の程度であれば著作権侵害にならないと判断しました(過去記事「ブログと知財の留意点」の2(2)参照)。

 じゃあ、何が著作物なのか?

が問題になります。

 一般的に著作物になり得るもの、著作物でないものに分けてみました。

著作物 著作物でない
・文章
・絵
・建築物(芸術的なもの)
・彫刻などの美術品
・映画やテレビ映像
・写真
・模型
・地図
・図表
・図面
など
・人物
・料理
・一般建築物
・乗り物
・企業のロゴマーク
・自然の風景
など
これらを無断で写真に撮ったり、ブログにアップしたりすると著作権侵害 著作権の問題は通常生じないが、プライバシーなど別の問題に注意

 上表はあくまで“一般的”な例示であり例外となるケースもあり得ます。

 場合によっては居酒屋のメニュー表でも著作物になり得ます。

 建築物もその良い例です。
 どこにでもある民家やビルや店舗だと通常は著作物だと認められません
 一方、金閣寺やディズニーランドのお城のような特徴的な建築物は著作物だと考えられます(もっとも金閣寺は著作物だとしてもとっくに著作権切れです)。

<建築物が著作物だったら>
 “写真”に関して留意すべき点は、“販売目的と撮ること”、“撮った写真を販売すること”です(下枠)。

(著作権法の条文:公開の美術の著作物等の利用)
第四十六条  美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる

一 ~三  (省略)
四  専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

 撮った建築物をパソコンの背景用素材として販売すると著作権侵害が成立します。

 販売目的でなく写真に撮る行為、ブログにアップする行為は上の条文(著作権法第46条)の1~4号のいずれにも該当しないため意外にも(?)侵害行為には該当しません。

 また、著作物でないものについて著作権は発生しませんが、プライバシー権パブリシティ権と言われる別の権利の問題を考えなければならないものがあります。

 著作物でないからといって必ずしも大丈夫だというものではありません。

<ディズニーランドで撮った写真は?>
 ディズニーランドの園内は著作物で溢れています。

 著作権法的には、私的に写真を撮って自分や家族、友達の間で楽しむだけなら著作権侵害にはなりません(下枠:昔から園内で写真撮影サービスをやっているぐらいですし)。

(著作権法条文:私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる

 しかし、誰がも閲覧できる“ブログ”にアップする行為は個人的でも、家庭内でもなく“私的”とは言えそうにありません。

 従って、権利者の許しなく園内で撮った著作物をブログにアップすると権利侵害になってしまいます。

 ここで、ディズニーが写真撮影やブログへのアップを許可しているのかどうかが一番気になるところです(許可があるのならディズニーだろうがウルトラマンだろうが著作権の心配はありません)。

 公式サイトの規約でブログアップを禁止する文言は見当たりませんでした。
 (近しいものとしては“商業目的の撮影”を禁止するくらいでした)

 規約からは“アフィリエイトをやっている人がディズニーランドに遊びに行ったときの記念写真をアップしたらだめよ”というニュアンスは感じられませんでした(あくまで個人的な印象)。

 と言っても、権利者がスタンスをひるがえして個人利用についても運用を厳格にせまってきたら従うしかありません(そのようなことがあるのかはわかりませんが、法的にはそんな状況だと言えます)。
 
 著作権問題の難しいところというかグレーなところというか、これはまさにそうした問題の代表格と言えるでしょうね。

2.被写体が著作物でない場合

 著作権侵害の問題はありませんが、進入禁止箇所に無断侵入したり、全く関係のない第三者が写り込んでいる写真をモザイクをかけずに公開したりすると別の問題になり得ます(言うまでもないですが)。

 写真に撮られることを極端に嫌う人もいます。

 著作権の問題でありませんが、“プライバシー権”、“人格権”に留意する必要があります。

例えば、こんな感じでモザイクをかけて人物を特定できないようにするとか

 プライバシー権とは私生活をみだりに公開されない権利人格権とは肖像、氏名、名誉など個人の人格に関わる権利の総称です。

 例えば、以下のような情報がプライバシー権の保護対象になります。

 

 具体的にどのような場合にプライバシー権侵害になるかですが、小説のモデルにされた者がプライバシー権侵害で慰謝料を請求した“宴のあと”事件の判決を参考にすると、

1.私生活上の事実、またはそれらしく受け取られるおそれのある事柄であること
2.一般人の感受性を基準として当事者の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められるべき事柄であること
3.一般の人にまだ知られていない事柄であること
4.このような公開によって当該私人が現実に不快や不安の念を覚えたこと

 例えば、別に有名でも何でもない友人の写真や氏名をブログに載せたことでその友人が不快に思ったら上記1~4を満たし得ます。

 じゃあ、著名人だったらみんなが知っているから写真を載せてもOKか?

 という疑問がでてきます。

 例えば、政治家やアイドルだったら誰でも知っているし、公衆の前に顔を出すのが商売だから個人のようなプライバシー権の問題はないのではないか?と思うかもしれません。

 

 確かに著名人はプライバシー権の範囲は一般人(非著名人)より制限されるでしょう(例えば、コンサートで撮った写真をブログにアップしたからといってその人のプライバシー権を侵害したとは言えないでしょう)。

 しかし、著名人であってもまだ知られていない情報(例えば病歴、家族関係、犯罪歴、宗教など)がある場合、こうした情報を公開することは上記要件を満たし得ます(プライバシー権侵害)。

 また、著名人には“顧客吸引力”があります。

 こうした著名人の経済的価値については“パブリシティ権”という判例によって認められた権利があります。

 経済的価値のある著名人をネタにして(無断で)利益を得ようとする場合に問題になります。

<パブリシティ権が争われた事例>
・中田英寿事件(事件番号 平成12(ネ)1617 東京高裁)
 著名なプロサッカー選手であった原告の半生を描いた書籍の出版差止、損害賠償が請求された事件

 ・ピンク・レディー事件(事件番号 平成13(受)216 最高裁判所)
 ピンク・レディーの振付けを利用したダイエット法にピンク・レディーの写真を使用したことに損害賠償が請求された事件

 いずれも裁判所はパブリシティ権という権利そのものについては認めています。ただ、上記判例ではパブリシティ権侵害は否定。

 上の中田英寿事件の第一審判決では以下のことが示されました(抜粋)。

具体的な事案において、他人の氏名、肖像等を使用する目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、右使用が他人の氏名、肖像等の持つ顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるかどうかにより判断すべき

 例えば、何か商品の売上を上げるため、著名人の写真を無断でその商品に貼り付けて販売するとプライバシー権侵害の問題とモロにぶつかります。

 今のところ、個人的なブログで著名人の写真を載せて紛争に発展、という話は聞いたことがありません。

 ただ、ブログ作成にあたってはこうした権利に留意しておいた方がいいでしょう(適法でも相手の気分を害してしまうと紛争になり得ますので)。

 プライバシー権・肖像権とパブリシティ権のイメージは以下のような感じでしょうか。

 

 

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模倣リスク対策(その4):ECサイトで模倣発見時

2017.05.30

 ここまで、

・いかに模倣を早く見つけるか?
・模倣品を発見した場合の対応
・模倣の場所と対応

について触れてきました。

<過去記事>
 模倣リスク対策(その1):いかに模倣を発見するか
 模倣リスク対策(その2):模倣を発見したら
 模倣リスク対策(その3):模倣場所と対策

 今回はインターネット取引の模倣を発見した場合についてです。

 ECサイトで模倣品を発見した場合、どのような対応があるか?

 ここまで何度か紹介してきたラップフィルムケース(下の写真)を元に仮想事例を進めます。 

 上写真のラップフィルムケース内にはラップフィルムが入っています。サ〇ンラップの紙ケースがプラスチックケースに変わったようなものです。

 通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。
 全て片手の操作ででき、刃が飛び出した状態に維持させ続けることもできます。写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。

 例えば、料理中に片手がふさがっているとき清潔さが求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。

 商品名は“触らんラップ”です。
(仮想名称なので、ご愛嬌ということで)
 この商品名については指定商品を「プラスチック製包装容器」として国内で商標権を取得したとします。

 業務用、個人用にハイスペックな商品として高価格で販売します。

 本商品を販売して2年が経過しました。
 順調な売上で3年目もそれなりの収益が期待できそうです(下図)。

 

 そのような中、自社商品を購入してくれたお客さんから、あるECサイトで同じ名前の商品が売っていると知らせがありました(下図)。

 

 ただの食品ラップに何の工夫もなく“触らんラップ”と名前を付けているだけの商品のようです。
 普通の食品ラップ同様の価格で売っています。
 日本の消費者向けに売っています。

 これを見た消費者は、真の“触らんラップ”の低価格バージョンが出たと勘違いして購入するかもしれません。

 このままでは売上が下がるばかりか、衛生面に気を遣う事業者用、高級志向の奥様用に高級志向で売っていこうとするブランドイメージに傷がついてしまいます。

 何とかしなければなりません。

 商標権を取得している“触らんラップ”の名称を紙製のラップフィルムケースに無断で貼り付け販売する行為商標権侵害に該当します(参考:下の条文)。

(商標法の条文:侵害とみなす行為)
第三十七条  次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。

 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為

 今回は商標の模倣でしたのですぐに侵害の判断ができましたが、技術やデザインの模倣であった場合は模倣品を入手し、権利侵害に該当するのかどうか慎重に検討する必要があるでしょう。

 なお、インターネット上での模倣被害は商標が最も多いというデータがあります(下グラフ:2015年度模倣被害調査報告書 図1.3-7(2016年3月)特許庁)。

 

 模倣品を見つけた場合の対応としてまず頭に浮かぶのが、

・販売者を特定し通報・警告

することです。

 ただ模倣品を販売する相手が必ずしも素直に従うとは限りませんし、販売者が海外にいる場合は手が出せません。

 このようなECサイトを介した取引で最も効果があると考えられるのが、

・ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)への相談

です。
 つまりECサイト運営事業者にこの権利侵害商品を通報することです。

 近年、ECサイト運営事業者が出品者の権利侵害によって訴えられるなどの事例もでており(過去記事「ウェブサイトと知財の留意点」で紹介した“チュッパチャプス事件”など)、ECサイト運営事業者の権利侵害品に対する動きは強化されているように感じます。

 この対応の効果についてはデータがあります(下グラフ:2015年度模倣被害調査報告書 図1.3-10(2016年3月)特許庁)。

 

 上グラフの各項目はそのままインターネット上で模倣被害を発見した場合の対策になるものですのでかなり参考になると思います。

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ブログと著作物(その3):写真の引用

2017.05.29

 前回、漫画の引用について取り上げました。

<過去記事>
ブログと著作権(その1)
ブログと著作権(その2):漫画の引用

 今回は他人の写真の引用について取り上げます。

 “写真”も著作物です(著作物になり得るものです)。

 自分で撮った写真の著作権は自分のものです(著作権は登録などする必要がなく、写真が出来た瞬間に著作権が発生します)。

 一方、他人が撮った写真を勝手に使うとその人の著作権を侵害することになります。

 最近ではIT大手の医療系まとめサイトで他人の著作物が勝手に使われたということで問題になりました。

<記事>
“2万本で著作権侵害の恐れ=写真74万件、個別補償も-DeNA、まとめサイト問題”(JIJI.COM)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017031300783&g=soc

 ただし、これまでの記事でも触れた通り、以下の場合は著作権侵害になりません。

1.著作権が切れている場合

2.権利者から許諾(や著作物を譲渡)してもらった場合、著作権が放棄されている場合

3.引用などの例外規定に該当する場合

 前回、引用とは(それが法的要件に従っていれば)例外なく認められるものだと言いました。

 従って写真についても引用はできますし、漫画の場合と考え方が変わるものではありません。

<過去記事>
ブログと著作権(その1)
ブログと著作権(その2):漫画の引用

 前回、引用に関して説明した通り、

公表された著作物であること

をはじめ、いくつかの要件を満たす必要があります。

 どのように引用すべきかはこれまで判例によって判断基準が出来てきました。

 そうした判断基準を示した“パロディ事件”という有名な裁判があります。

 写真のパロディが原因で最高裁までいった事件です(下枠:写真は裁判所HPより)。

<バロディ事件> (事件番号 昭和51年(オ)第923号)

 左の写真は原告が撮影した元々の写真です。
 これに対して右の写真がパロディ作家である被告が作成した写真です。

 元々の写真を利用してシュプールがタイヤの跡に見えるように加工したことが著作者人格権を侵害すると判断されました。  

 様々な判例によって受け入れられている引用の判断基準は、

[1] 主従関係
引用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること

[2] 明瞭区分性
両者が明確に区分されていること

[3] 必然性
なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性

です。また、

出所を明示

引用物を加工しないこと

も漫画の引用の場合と同様です。

 ただ、上記医療系まとめサイトの問題でもわかる通り、写真の引用は漫画の引用と同様に(むしろそれ以上に?)リスクをはらんでいます。

 まとめサイトの問題を見ていくと、

 当初、サイト運営事業者はキュレーターと呼ばれる記事作成者に対して、写真画像は閲覧者の目を引くものなので効果的に活用するよう推奨していました。

 写真は抜群の訴求力を持つ素材だと言えます。

 写真を見ただけで内容が伝わってくることも多いでしょう。

 そうした写真の使い方によっては記事が上記3要件を満たさないケースも出てきます(下枠)。

<想定されるケース>
写真が“主”になっている場合(上記3要件の[1]を満たさない)

 

写真を用いる必然性がない場合(上記3要件の[3]を満たさない)
  

 また、漫画の場合は一コマ(すなわち著作物全部でなく引用に必要な一部分)を切り出し用いることで引用の正当性を主張しやすいかもしれませんが、写真の場合は写真をまるまる(著作物を全部)用いる場合がほとんどでしょうし、かと言ってへたに一部を切り出すと勝手に加工した(著作者人格権を侵害した)と言われる可能性もあります。

 このように写真は気をつかう著作物です。

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先使用権の確保(第三者の攻撃リスク対策)

2017.05.27

 特許庁に出願して知的財産権を取得するには費用が発生します。
(過去記事「知的財産権を取得するための費用は?」参照)

 製造業だろうがサービス業だろうが“費用対効果”が重要で、後々のことを考えたら費用が発生しても権利を取得しておいた方がいい場合が多いと思います。
 (参考:過去記事)
  「利益、損失シミュレーション:製造業の場合
  「利益、損失シミュレーション:サービス・流通業の場合

 一方で、最低限でも自分ビジネスを行う権利だけ確保できればいい(訴えられて事業がストップしなければそれでいい、模倣されても別にいいや)という考え方もあり得ます。

 模倣者があらわれたとしても、その時にはさらに新しい商品やサービスを展開して模倣者の先を行くビジネスをやる!

 というのなら特許の必要性は薄いかもしれません。

 ただ、そう簡単なことではありません。

 起業前やスタートアップ期に先を見る余裕はないでしょう(資金面の余裕もしかり)。

 順調に軌道に乗るまで誰からも邪魔されなければそれでいい、という考えで落ち着く場合も多いかもしれません。
  
 「先使用権」という権利があります。

<先使用権について>

 例えば、特許権を取得せずに事業を行っていたら、後からその技術について特許権を取得した第三者が現れたとします。

 自分が先に始めたのに、後発事業者(特許権者)のせいで事業ができなくなっては不公平ですね。

 特許法などではこうした不公平がないように、例え特許権が存在しようとも先発事業者にその実施をしている発明および事業の目的の範囲内でその発明に係るモノの製造や販売を行うことを認めています。

 これが先使用権です(特許法79条、実用新案法26条で準用する特許法79条、意匠法29条、商標法32条)。

<参考>
(特許法条文:先使用による通常実施権)
第七十九条  特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

   ただし、争いに備えて、先使用権を有することを立証するため証拠を準備しておく必要があります。

1.どのような証拠をそろえておくべきか
 (1)以下のような証拠は、後発事業者の特許出願時に、事業を行っていた(または準備をしていた)ことを立証する証拠となり得ます。
   ★ 研究ノート
     差替え不可のものに、ボールペンで、頁順に、日付・サインなどとともに第三者に理解しやすく記入
   ★ 技術成果報告書
     研究目的、方法、結果、結論、成果を日付などとともに記入
   ★ 図面、仕様書 
     検図・承認の押印、図面台帳などとともに
   ★ 事業計画書 
     製品名、製品番号、目標品質、目標原価、目標価格、目標発売時期、開発予算、開発担当部門などとおもに
   ★ 事業開始決定書 
     事業名、事業内容など
   ★ 見積書、請求書 
     デザインや金型発注など
   ★ 納品書、帳簿類
     原材料の購入、製品の納品など
   ★ カタログ、パンフレット、商品取扱説明書   
   ★ 製品現場の映像、製品そのもの(公証役場の確定日付印のあるもの) 

 (2)上記(1)の証拠を客観的なものにするためにはいくつかの方法があります。
   ☆ 確定日付 
     公証人が、私署証書に確定日付を付与。自ら保管。手数料は1件700円。ただし、文書の作成者や内容の真実性を証明するものではなく、改ざんを疑われないようにする必要があります(例えばなるべく手書きの文書にしない)。
   ☆ 事実実験公正証書
     公証人に現場を直接見聞してもらう方法です。文書は公証人役場の書庫に20年間保管されます。1時間11,000円(日当、旅費別)。
   ☆ 私署証書の認証
     認証対象文書の署名や記名押印が作成名義人本人によってされたことを証明するもので確定日付と比べて証拠力が高いです。手数料は1件11,000円。文書だけでなくDVDなども箱に入れて認証を受けることができます。
   ☆ 電子公証制度
     電子公証制度は公証人が電子データに対して内容の証明などを行うものです。利用者は事前に電子公証システムを利用可能な電子証明書を取得しておく必要があります。手数料は、認証または確定日付の付与がされた電子文書の保存が300円(20年間)、それらの電子文書と同一の内容であることの証明700円。
   ☆ タイムスタンプ
     民間サービスです。電子データに時刻情報付与することで、その時刻にそのデータが存在したこと、その時刻から検証した時刻までの間にその電子情報が変更・改ざんされていないことを証明するものです。
   ☆ 電子署名
     紙文書に押印、サインするのと同じように電子データに対して電子的に行うものです。上記タイムスタンプは日付と改ざんされていないことの証明に有益なのに対して、電子署名は誰が作成したかの証明が可能になります。電子署名を行うためには本人を認証するための電子証明書が必要です。
 
参考:https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/180902syou.pdf

2.商標にも使えるか?

 特許法の先使用権と同じ制度が商標法にもあります(商標法32条)。

 ただし、商標の場合にこの権利が認められるためには自分が使う商標(商品名、サービス名、店名、その他マークなど)が第三者の商標登録出願前に周知になっていることが要件になっています。

<参考>
(商標法条文:先使用による商標の使用をする権利)
第三十二条  他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項 の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

 この「周知」というのは全国にその名が知れわたっていることまでは必要でなく一地方に知れわたっていればよいとする裁判例が多くありますが、スタートアップ期の企業には非常にハードルが高いと考えられます(最初から大々的にCMをやっているなど)。

 また、その商品名や店舗名が商標未登録だと知った第三者が先取り的に商標登録出願して登録するリスクがあります。

 こうした場合、周知性の要件を満たすとは考えられません(そもそも周知な商標と同じ他人の商標登録出願は商標法上、登録されないことになっています)。

 最近ではPPAPの商標権に関する報道がありました。

 第三者に商標権を先に取られてしまった場合、なかなか先使用権が認められにくいです。

 その商標の使用をやめるか、商標権者の言いなりになるしかないのが現状です(裁判で争うというのも手ですが費用と時間がかかるだけかもしれませんし)。

 商標に関しては事前に出願しておいた方がいいでしょう。

 特許などに比べると費用はかかりませんし。

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ブログと著作権(その2):漫画の引用

2017.05.27

 前回「ブログと著作権(その1)」で自由に他人の著作物を利用できる場合を3つ挙げました(下枠)。

1.著作権が切れている場合

2.権利者から許諾(や著作物を譲渡)してもらった場合、著作権が放棄されている場合

3.引用などの例外規定に該当する場合

 上記1と2の場合は大手を振って著作物をブログに載せることができますが、微妙なのが上記3の場合です。

 これまで“引用”については何度も取り上げてきました。

 そもそも“引用”とは何なのか?

ですが、言葉の意味を説明しているものがなかなか見つかりません。

 文化庁は“引用”のルール的なものを公表していますが(これを守れば引用である、みたいな)、引用という言葉の意味はスルーしています(以下)。

文化庁HPhttp://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/outline/8.h.html

 これが判例から導き出された“引用”の解釈だということでしょうが、いきなり引用のルール的なものをポンと示されても、法律と無縁な生活を送ってきた人たちにとっては頭が痛いだけかもしれません(?)。

 引用について説明しているものをいくつか挙げます。

人の言葉や文章を、自分の話や文の中に引いて用いること
(デジタル大辞泉)

紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録すること
(「パロディ写真」事件の最高裁判決)

“「引用」とは、例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載しそれを解説する場合のこと”
(文化庁)(先に「文化庁が引用という言葉の意味はスルー」と言いましたが一応、説明はありました)

「引用」とは、例えば論文執筆の際、自説を補強するため、他人の論文の一部分をひいてきたりするなどして、自分の著作物の中に他人の著作物を利用すること
(公益社団法人著作権情報センター)

 イメージ的にはブログで他人の著作物が必要になった場合に一部引いてくる(拝借する)ということになるでしょう。

 法的には、引用は(要件を満たしているのならあらゆる場合に認められます

 著作権法において引用に制限を設けた規定(例えば音楽はダメよ、とか)はありません(下枠参照)。 

(著作権法条文:引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 従って

漫画であっても引用できる

というのが結論です。

 以前の記事でも紹介しましたが、こうした絵の著作物について引用を肯定した裁判例があります(下枠)。

脱ゴーマニズム宣言事件(事件番号 平成9(ワ)27869 東京地裁平成11年8月31日判決)


(裁判所資料:最高裁HPより)

 この裁判は、元々の作品である『ゴーマニズム宣言』の絵の一コマを引用し、これを一部改変(下の人物の目の部分を黒塗り)したことが同一性保持権という権利を侵害するというのが原告請求理由の一つになっていたものですが、
 判決の中で裁判所は
絵を引用している例も多数存することが認められるのであるから、漫画によって示された主張を批評する場合に、絵を引用することなく批評するのが一般的であるとか、そのような慣行が成立していると認めることもできない
と上記絵の引用を肯定しています。

 ただ、漫画の絵も使っていいんだ、と安心はできません。

 一番大きな問題が

引用としての法的要件を満たしていること

です。

 先ほどの引用に関する条文をもう一度示します。

(引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 まず“公表された著作物”でなければなりません。

 従って月曜日発売の週刊少年ジャンプを前の週にどこからか仕入れて、ブログにアップすることは許されません。

 次に“公正な慣行に合致”と“引用の目的上正当な範囲内”であるという、何だかよくわからない要件を満たさなければなりません。

 これらがどういうことなのかは最高裁判決(写真パロディ事件第1次上告審 昭和55.3.28)などの多くの裁判によって実務的な判断基準ができています。

 それが以下の3要件です。

[1] 主従関係:引用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること
[2] 明瞭区分性両者が明確に区分されていること
[3] 必然性なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性

 例えば、

漫画のネタバレが目的になっているもの(質的に漫画が主になっているもの)

もっともらしい文章が書かれてあるが、漫画が全編公開されているもの(量的に漫画が主になっているもの)

は上記“主従関係”を満たさないと言えます。

自作の絵と漫画の絵を融合させているもの(引用する漫画と自分の絵が区分されていないもの)

は上記“明瞭区分性”を満たさないと言えます。

批評目的とかでなく閲覧数アップという目的のために何の脈絡もなく漫画のコマを載せているもの(引用する理由がないもの)

は上記“必然性”を満たさないと言えます。

 また、引用した場合は“出所を明示”しなければなりません。

 出所の明示について法的なルールは示されていませんが、文化庁HPに以下のコメントがあります。

著作権なるほど質問箱(文化庁)から抜粋
“それぞれのケースに応じて合理的と認められる方法・程度によって行われなければいけないとされていますが、引用部分を明確化するとともに、引用した著作物の題名著作者名などが読者・視聴者等が容易に分かるようにする必要があると思われます。”   
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000305

 漫画の単行本であれば“タイトル”、“著作者名”、“出版社”、“巻数”、“ページ数”まで記しておけば閲覧者は容易に分かるでしょう。

 あと、気をつけておかなければないない点として

引用物を加工しないこと

が挙げられます。

 上記ゴーマニズム宣言事件はまさにこの点が争われました。

 著作者の権利の一つに“同一性保持権”というものがあります(参考:下枠)。

(著作権法条文:同一性保持権)
第二十条  著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

 作者の意に反して漫画を勝手に加工したり、新しい物語を設定したりすることができないということです。

 この同一性保持権を根拠にした紛争は多いですので注意してください(ゆるキャラの“ひこにゃん”の争いもこの権利が元になっています)。

 また、気をつけておきたい点としてもう一つ

 最近、インターネットで自由に閲覧できる漫画が増えてきました。

 例えば、“となりのヤングジャンプ”では「ワンパンマン」などの人気漫画を登録なしで無料で読むことができます。

 ただし、無料で読めるからといって著作権フリーとは限りません。

 従って考え方は上記事項と同じです。

 結局、漫画は引用しても大丈夫なのか?

という疑問があるかもしれません。

 適法な引用であっても著作者や権利管理者の怒りを買って訴えられることはあるかもしれません。

 訴訟で負けないことと訴えられないことは別問題です。

 結局、リスクが大きいか小さいかを自分で判断するしかないのでしょうね(ブログ保険なるものを作ったら売れるのでは?)。

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模倣リスク対策(その3):模倣場所と対策

2017.05.26

 これまで
・模倣をいかに早く見つけるか?
・権利侵害に該当するか否か?
について触れてきました。

 <過去記事>
 模倣リスク対策(その1)
 模倣リスク対策(その2)

 今回は模倣の発生場所との関係について説明します。

模倣場所の違いで対策に影響があるのか?

  一口に“模倣”と言ってもそれが製造される場所販売される場所は必ずしも同一地域とは限りませんし、国をまたがることもあります。

 そしてこの模倣場所によっては商品の権利が届く範囲、届かない範囲が違ってきます

 商標権、意匠権、特許権、実用新案権の“産業財産権”と呼ばれる権利は国ごとの権利です。

 従って日本で特許権を取得していたとしても中国で取得していなければ中国国内で横行する模倣品をどうしようもありません。

 ビジネスを未来永劫国内に限定してやっていく、と決めているのであればそれでも良いかもしれませんが(そんな考え方はないと思いますが)、将来、中国市場やその他の海外市場への展開を考えているのなら事業の準備段階で手を打っておかないと手遅れになることがあります

 例えば、商品名について中国で商標権を先取りされてしまうと、これを挽回することは余程のことがない限り難しいと言えます。

 結局、商標権を取得した者に商標の使用料を支払うか、海外では別名称で商標を展開しなければならなくなるでしょう。

 そうなると統一的な名称で商品を展開できなくなり、商品のブランド化に支障が生じると考えられます。

 模倣の場所を“国内”と“海外”で、模倣の段階を“製造”と“販売”に分解して考えると、全部で次のパターンが考えられます(下図)。

 

 仮に、国内の権利しか持っていなかったとします。

 この場合、模倣者に対する権利行使の可否は次のようになります。

 ① 模倣品が日本で製造され、日本で販売される場合

   製造行為、販売行為のいずれに対しても権利行使可能です。

 ② 模倣品が海外で製造され、日本で販売される場合

   製造を止めることができませんが、販売を止めさせることはできます。
   また、国内輸入段階(税関)で止めることができます。

 ③ 模倣品が国内で製造され、海外で販売される場合

   製造を止めさせることができます。
   また、海外輸出団塊(税関)で止めることができます。
   ただし、海外での販売を止めることはできません。

 ④ 模倣品が海外で製造され、海外で販売される場合

   製造も販売も止めさせることができません。

 上記は日本の権利をベースに考えましたが、海外のある国をベースにした場合も基本的な考え方は同じです。

 このように特許権や商標権は効力が各国限定であるため、模倣者の模倣行為の対策が制限される場合があります。

 例えば、模倣行為を元から絶つ意味では製造現場を押さえるのが最も効果的ですが、模倣者が権利の届かない国に場所に工場を移してくることも考えられます。

 また、特許権が及ばないA国で製造し、その後、商標権が届かないB国で商標を商品に貼り付けるという巧妙な手を使ってくる可能性もあります。

 近年、インターネットを通じた販売も当たり前になっています。

 インターネットという仮想空間での模倣品の売買に対してはどうでしょうか?

 インターネット上での売買は現実に商品のやりとりがあるわけではありません。

 しかし商標法や特許法などではこうした「販売の申出」行為を禁じています(参考:下枠の条文)。 

(商標法条文:定義等)
第二条  
 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為

 従って、インターネット販売であっても上の“国内”、“海外”、“製造”、“販売”のマトリックスの考え方は変わりません

 ただ、インターネットは情報が全世界に行きわたるため、特定エリアに限定しているつもりでも全世界に店舗を有していることと同じである点に注意が必要です(つまり、何の権利も持たない国、第三者が何らかの権利を持っているかもしれない国に店舗を出していることと同じだということ)。 

 例えば、ある商品名について日本で商標権を有していても別の国では有していない場合において、

(さらに運が悪いことに)その商品名についてその国で同じ商品名について商標権が先取りされていた場合、

当該国にその商品名を付した商品を発送すると商標権侵害になり得ます。

 こうしたリスクを回避するために商標権を有していない地域は販売対象外とする(ウェブサイト上に明記する)などの対策が必要です。

 このようにインターネットでビジネスの対象が広がった反面、経営リスクの評価、検討も軽視できなくなったと言えます。

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ブログと著作権(その1)

2017.05.25

 ブログで広告収入を得ている人(稼いでいる人)にとっては広告停止が一番の恐怖かもしれません(?)。

 先日、アフィリエイト(グーグルアドセンス)をやっている友人から、1回でも自分のブログの広告をクリックしたらアウト、だと聞いて驚きました。

 禁止事項のうちアダルト系や武器系コンテンツがダメなのは当然として酒やたばこもNGとはかなり厳格ですよね(初めて知りました)。

 そんな中で著作権侵害関係では以下のような文言が記されています。

Google のポリシーとして、デジタル ミレニアム著作権法(DMCA)に準拠した侵害の報告があれば対処いたします。AdSense のサイト運営者様についても、そのような報告を受けたり、サイトが著作権を侵害していると考えられる理由がある場合、プログラムへの参加を停止させていただくことがあります
出典:AdSense コンテンツポリシー著作権侵害https://support.google.com/adsense/answer/9892?hl=ja&ref_topic=1271507

 何か著作権侵害が例示されているのか探しましたが、これといったものは見つからず。

 Q マンガの一コマを掲載するのはセーフ?

 Q ディズニーランドで個人的に撮った写真はアウト?

など一般の人には判断不可能ではないでしょうか?(正直、専門家でもズバッと回答するのは難しいと思います)

 このように著作権の問題は白黒つけるのが難しい分野です。

 一口に“著作権”と言っても、著作権法には様々な権利が規定されています(下イメージ図)。

 

 この中でブロガーが最も意識しなければならないのが“公衆送信権”だと言えるかもしれません。

(著作権法条文:公衆送信権等)
第二十三条   著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

 “公衆送信権”とは「無断で公衆に送信されない権利」です。

 閲覧者がブログにアクセスすると、そのブログの“文章”や“写真”や“”や“音楽”などの著作物が閲覧者に送信されます。

 こうした“文章”や“写真”や“絵”や“音楽”などの著作物が他人のものである場合、その他人の公衆送信権を侵害するということになるのです。

 また、著作権法における“公衆”とは不特定多数はもちろん、不特定少数、特定多数も意味すると考えられています(著作権法2条5項)。

  特定 不特定
少数 ×
多数
(著作権法の条文:定義)
第二条
5  この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。

 従ってブログでアフィリエイトをやっている人は漏れなく公衆送信権の問題がついてまわるということになります。

どのような場合に他人の著作物を利用できるのでしょうか?

(まずは著作物性があるかどうかを一番最初に判断すべきですが、その判断は難しいためここでは著作物であることを前提に進めます)

1.著作権が切れている場合

 著作物は著作者の死後50年でなくなります(映画は公表後70年間)。
 従って平安時代や江戸時代に作られた物語の著作権は消滅しています。

2.権利者から許諾(や著作物を譲渡)してもらった場合、著作権が放棄されている場合

 例えば利用規約に「誰でも利用可能」と定められている場合が挙げられます。

3.引用などの例外規定に該当する場合

 いかなる場合も著作権者の許諾を得なければならないとすると不都合が多すぎるので、著作権法ではいくつかの例外規定を設けています。
 例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載しそれを解説する“引用”が挙げられます(引用は、それが適法な引用であるのなら、どのような場合でも許されます)。

 ざっくりと以上の場合において他人の著作物を利用することができます。

 ただ、これだけでは悩みは消えないと思います。

 例えば上記2については、「非商用のみ可」となっていたらアフィリエイトはどっちになるのか、という疑問があります。

 結局、権利者にとって非商法をどこまでと考えているのかによるのでしょう(答えを知るのは権利者のみ)。

 また、適法な引用とはどんな引用だよ、という疑問もあるでしょう。

 文化庁や判例によって引用の判断基準が示されていますが(過去記事「ブログと知財の留意点」参照)、一般の人にはわかりづらいかもしれません。

 今後、適当にブログと著作権の問題を取り上げていこうと思います。

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模倣リスク対策(その2):模倣を発見したら

2017.05.25

 前回は“模倣をいかに早く見つけるか”という点に触れました。

<前回記事>
 模倣リスク対策(その1)

 今回は模倣を発見した後の話です。

 以前紹介したラップフィルムケース(下の写真)を元に進めます。 

 上写真のラップフィルムケース内にはラップフィルムが入っています。サ〇ンラップの紙ケースがプラスチックケースに変わったようなものです。

 通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。
 全て片手の操作ででき、刃が飛び出した状態に維持させ続けることもできます。写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。

 例えば、料理中に片手がふさがっているとき清潔さが求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。

 商品名は“触らんラップ”です。
(仮想名称なので、ご愛嬌ということで)

 業務用、個人用にハイスペックな商品として高価格で販売します。

 模倣品らしきものを発見したら、相手を特定してすぐに警告状を叩きつけたり、警察に通報すればよいのでしょうか?

 まずは模倣品が権利侵害に該当するかどうか判断するのが先です。

 今回の商品名“触らんラップそのままパクった商品名の商品が販売されていたとします。

 この場合でも、その商品名“触らんラップ”について商標権を取り忘れていたり、商標登録出願中の状態(権利化されていない状態)では権利侵害が成立しません。

 また、“触らんラップ”について商標権を取得していたとしても、このフィルムケースの最大の特徴である刃の収納と飛び出す技術機構について特許権(または実用新案権)を取り忘れていた場合、相手方がその特徴を備えたパクリ商品を別名で販売していたら、やはり権利侵害が成立しません。

 この技術機構について特許権を取得していたとしても商品デザインについて意匠権を取得しなかった場合、商品の見た目だけをパクった商品(技術要素を有しないただの見た目だけの商品)は権利侵害が成立しません。

 このように模倣品に対して根拠となる権利を備えていなければ、そもそも権利侵害が成立せず、黙って見ているしかないということになります。

 理想は取れる権利を全て取っておくことですが、金銭的な問題もあるでしょうし、多少の知恵がある模倣者でしたら完全コピーでなく微妙な商品を出して来るでしょう(下枠)。

 例えば、パロディ的な商品が出てくるかもしれません(この商品名がパロディだろ、というのはここでは忘れてください!)。

 自社商品“触らんラップ(さわらんらっぷ)”に対して“触れんラップ(ふれんらっぷ)”という商品が出てきたらどうでしょうか?

 模倣者は商標の称呼(発音)が違う、とか、商標外観の「ら」と「れ」の部分が違う、だから別商標だ、など言い張るかもしれません。

 これに対してこちらは商標観念の「手を触れなくていいラップ」で共通するから商標として類似すると主張することになるでしょう。
 
 聞き分けのいい相手ですぐに模倣を止めてくれたらよいのですが、そうでなければ裁判に発展、ということになります。

 どのような権利を取得するか、模倣者があらわれた場合の対応をどうするか、は会社としての方針や事業の将来を鑑みた上で判断することになるでしょう。

 今回の商品の場合、事前検討事項として次のようなことが挙げられます(評価内容はイメージで書きました)。

予想される模倣 模倣が出現する確率 取得を想定する権利 留意点
商品名の模倣 高い 商標 “触らんラップ”で本当の権利取得できるか、パロディを抑えることができるか(将来的なブランド化を考えたらもう少し独自性のある商品名の方がいいのではないか)
デザインの模倣 高い 意匠 特徴的部分(例えば、刃のスイッチ部)について部分意匠(ある部分について権利を取得できる)とすべきか、模倣者の逃げ道はないか
刃の収納機構 高い 特許、実用新案、意匠 技術レベルを考慮すると特許権取得は微妙(権利を取得できたとしても権利範囲がかなり狭い)。実用新案権、意匠権で代替的に技術保護することが可能か検討す
ラップ固定機構 低い 営業秘密化 特許になり得るが、容易に模倣し得る技術ではないので秘匿しつづける(情報盗難に対しては不正競争防止法で対応)

 また権利の費用対効果については過去記事をご覧ください。
 


 

 こうした権利はそれぞれ“権利範囲”があります。

 完全コピーの商品なら「権利侵害だ」とすぐに言えますが、上述したパロディ商標など模倣品が自己の権利範囲に属するのか否か判断するのは容易ではありません。

 専門家に相談するのがいいでしょう。

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模倣リスク対策(その1):いかに模倣を発見するか

2017.05.24

 商品やサービスがヒットするほど模倣リスクが大きくなります。

 順調な売上を見せていたのに、あるときから売上が不自然に減少し、模倣品に気づくというパターンをよく聞きます(下イメージ図)。

 

 模倣に関するネット記事を見ていても模倣品の製造行為そのものを予防することは難易度が高いと思います(意識の問題?)。

 <ネット記事の一例>

 ・「シックスパッド」模倣品販売容疑 愛知県警が男逮捕(朝日デジタル)

 ・大阪府警/Gioの社長を逮捕/衣料品のデザイン模倣で(日本流通産業新聞)

 ・「マリカー」社を提訴=著作権侵害で-任天堂(時事通信)

 一口に“模倣”と言ってもいろいろあります。

どのような模倣が多いのでしょうか?

 

    (出典:特許庁 2015年度模倣被害調査報告書 図1.2‐9)

 特許庁の模倣被害調査報告書(上図)によると、

最も紛争が多いのが商標です。

 商標は消費者が商品を識別する商品名やマークなどに関する権利です。

 そしてこのような商品名やマークの模倣行為を止めさせるためには商標権が必要です。

 このように模倣対象に応じた権利がないと模倣リスクの対策はできません

 主ににどのような権利を有しておくべきか以下にまとめました。

模倣対象 模倣対策の主な根拠 備考
技術 特許権、実用新案権 特許庁への出願が必要
デザイン(商品外観) 意匠権 特許庁への出願が必要
商品名、マーク(商品を識別するの) 商標権 特許庁への出願が必要
著作物(文章、音楽、絵画、プログラムなど) 著作権 著作権は著作物創作と同時に発生(手続き不要)
製造ノウハウ、顧客情報(営業秘密) 不正競争防止法 不正競争防止法の要件を満たすこと

 模倣リスク対策を行うにはこうした権利を確保しておく必要があります。

 取得費用などは以前の記事を参照ください。
 

 製造ノウハウや顧客情報などの営業秘密が不正競争防止法で守られるためには特別の手続きは必要ありませんが、不正競争防止法第2条6項で規定されている要件(下枠)を満たしている必要があります。

<不正競争防止法第2条6項>

(定義)
第二条  

 この法律において「営業秘密」とは秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

 法律で定められている要件は
秘密として管理されていること秘密管理性
生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること有用性
公然と知られていないこと非公知性
3つです。
 この中で一番問題になり得るのが“秘密管理性”です。
 詳細は割愛しますが、文書に「マル秘」と記す、施錠管理する、などの措置が求められます。

いかに模倣を早く察知するか?

 模倣は放置するほど売上やブランドイメージへの影響が大きくなります(下イメージ図)。

 

 被害が大きくなる前に何か手を打ちたいところです。

 ただ、四六時中担当者が模倣品に目を光らせるということは現実的ではありませんし、それをやったからと言って大きな効果が得られるとも限りません。

 参考になる事例がありますので紹介します。

 

 上の写真はヌンチャクのような動きをするスマホケースです。
 (株式会社ニットー:http://www.trickcover.com/)
 どのような商品かは以下の動画をご覧ください。
 

 国内中小企業で初めてクラウドファンディング(※)を活用して資金調達し、当該商品を開発しました。

 ※ クラウドファンディングに関する過去記事
   ・クラウドファンディングとは
   ・クラウドファンディングプラットフォーム(購入型)
   ・クラウドファンディングの流れと留意点
   ・ラップフィルムケース(新商品)で見るクラウドファンディングの流れと留意点
   ・ラップフィルムケースで見るクラウドファンディングの知財ポイント

 クラウドファンディングなど口コミで商品が認知され、通常のスマホケースよりも高い価格設定にも関わらず売れているヒット品になりました。

 当然、模倣品があらわれるのですが、生産地である中国から輸入される直前でこれを止めることができました意匠権などを根拠に販売代理店に警告状を送ったら、それだけで効き目があったそうです)。

なぜ模倣品をすばやく察知できたのでしょうか?

・社内に専門知識を持った担当者がいたのでしょうか?

・外部調査機関を利用していたのでしょうか?

・たまたま発見できたのでしょうか?

答えは自社商品購入者からの通知です。

 購入者に自社商品のファンというレベルにまでなってもらえれば、そうしたファンが情報を運んでくれます。

 そうしたファンが多いほど情報網は広くなります。

 これは究極の知財対策ではないでしょうか?

 該社では商品購入者との接点を設けています。
 

 

 こうしたネットワークづくりはそれが模倣対策の強力な手段になり得ることがわかります。

 今後はこうした顧客との関係性づくりが重要になってくるのではないでしょうか?

 

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知財保険(その2)(&経営リスク検討)

2017.05.23

 前回記事「知財保険」で中小企業向け知財保険を紹介しました。

 特許庁が行う助成事業で50%(掛け金が10万円だったらその半分の5万円)を国が補助するというものです。

 掛け金が通常よりも少額で世界的に対応しているというメリットがある一方、敗訴の場合の損害賠償金までは補償してくれないというカバー範囲が限定的な面もあります。

 知財保険といっても上記以外にも各社からいろいろな商品が出ています。

 敗訴の場合の損害賠償額やリコール費用などを総合的に補償するもの、訴えられた場合だけでなく訴える場合の訴訟費用も補償するものなど。

 知財リスクは読みづらいことやモラルハザードの問題(例えば、最初から訴訟を提起する目的で保険に入る、など)もあってか、現在、各損保会社は知財保険を火災保険や自動車保険ほどオープンにしていません(そもそも知財についてわかる損保営業や保険代理店がほとんどいない、企業側でもそうした人材が限られている、というのもあるでしょう)。

 ここでは知財保険そのものについてはこの程度でとどめておきます。

 以下、「経営リスクの中の知財リスク」、「知財リスクをどのように考えるか」について述べます。

 今回もイメージしやすいよう以前使った仮想事例で考えてみます。

 
 (写真:株式会社ニットーHPhttp://nitto-i.com/)(写真と仮想事例は何の関係もありません)

 1台1万円のゴージャスなスマホケースを製造販売しているとしましょう。
 条件は記事「利益、損失シミュレーション:サービス・流通業の場合」と同じで考えます。

 まず、そもそもですが、

1.知財リスクは他の経営リスクと比較して大きいのか?小さいのか?

 リスクの代表格とも言える火災リスク自動車事故(バイク含む)リスクと比べてみましょう(情報年度などに多少のズレなどがあります)。

 上記商品(スマホケース)を生産する工場で火災が発生した日には生産がストップするだけでなく、従業員の命が危険にされされます。

 また営業社員が社有車で事故を起こした場合も同様です。

 こうしたリスクはリアルの想像できると思いますが、知財リスクはどうでしょうか?
 発生率を切り口に調べてみました。

 

リスク 発生率 考え方 情報源
火災 0.0075% 平成27年度総出火件数39,111件÷
平成25年度総世帯数52,453千世帯
総務省(消防庁)(※1)、
国土交通省(※2)
自動車事故 0.6% 平成27年交通事故発生件数53万6,899件÷(平成26年 二輪車保有台数11,482,344台+平成26年 自動車保有台数77,404,331台 公益財団法人交通事故総合分析センター(※3)、一般社団法人日本自動車工業会(※4)
知財 11%(海外で模倣品被害を経験)
7%(海外企業から権利侵害の指摘)
平成26年度外国出願補助事業を行った中小企業に対するアンケート調査(416社) 特許庁(※5)

※1 https://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h28/08/280819_houdou_2.pdf
※2 http://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-jutaku-2_tk_000002.html
※3 http://www.itarda.or.jp/situation_accident.php
※4 http://www.jama.or.jp/industry/two_wheeled/two_wheeled_3t1.html
   http://www.jama.or.jp/industry/four_wheeled/four_wheeled_3t1.html
※5 http://www.tokugikon.jp/gikonshi/278/278tokusyu1-1.pdf 

 知財に関しては模倣されるリスク第三者権利を侵害するリスクともに10%前後あり突出しています。

 これはどういった企業を対象に導き出した値なのかという問題があります(例えば、ある特定分野の企業に対象が限定されている、など)。

 国内の全企業(個人事業的な飲食店から商品が表に出てこない部品メーカーまで)を母数とすると発生率がかなり低くなるのは確実ですが、そうした企業がそもそも知財と関係あるのか、という問題もありますので、これをどう考えるかは難しいところです。

 しかしながら、事業展開にリスクが大きいと認識している企業、すなわちリスク対策意識が高い企業であっても10%前後の確率で起こり得る問題だと考えることもできます。

 別のデータがないか探したところ、最近特許庁から「2016年度模倣被害調査報告書」が公表されていました。
 概要は下枠の通りです。

★ 全国の国内4,529企業(日本国内にいわゆる“産業財産権”を有している企業※)(母集団168,893企業)を対象に無作為調査を実施
 ※産業財産権とは特許権、実用新案権、意匠権、商標権のことです。

★ 模倣被害を受けた企業の割合は約6.1%


出典:特許庁 2016年度模倣被害調査報告書 調査の結果
  https://www.jpo.go.jp/shiryou/toukei/files/mohou_higai_2016/0200.pdf

 やはりトラブルの発生割合は先の値とそんなに変わりません。

 こうした模倣品は売上の減少に直結しますし、権利侵害で訴えられた場合は訴訟費用生産停止損害賠償金商品回収謝罪広告など様々な問題が考えられます。

 従業員の生命に直接関わらないのは幸いですが、企業生命にはモロに関わります。

 以上から、知財リスクは経営リスクの中でも大きいと言えます(特許権や商標権の取得を考えるほどの市場に進出する企業に関して)。

 企業にとって知財保険は活用余地が大きいと思います(損保会社からすると引受けにかなりの慎重さが要求されますが)。

2.知財リスクをどのように考えたらいいのか?

 前回の記事でも示しましたが、経営リスクを考える上で、「発生確率」と「損害額」の予測は欠かせません。
 以下、この2つについて分けて見ていきます。

(1)いつ知財リスクの発生率が高くなるか?

   ① 模倣されるリスク

     売れている商品は模倣される運命にあります。模倣行為そのものを予防するというのは不可能に近いのではないでしょうか?
     ただ、こうした模倣を放置すると売上は確実に下がっていきます(下イメージ図)。
     

     企業としては商品がヒットするのを前提で考えるでしょうから、模倣リスクは事業開始段階から始まっていると考えられます。

   ② 第三者の権利を侵害するリスク

     産業財産権の中でも最も紛争が多いと言われる“商標権”は第三者が容易に先取りできる権利です。
         
     従って商標権はその商品を製造または販売する地域で権利を取得しておかないと常に権利侵害リスクにさらされていると言えます。
     一方、当該地で商標権を取得できればこのリスクはなくなると考えることもできます。

     これは他の権利についても言えることです。
     商標権と異なるのはその商品(本事例ではスマホケース)の技術やデザインは守秘義務のない第三者に知られた時点で権利化する機会を失います(上図のような第三者の行為はできません)。
     ただし、元々第三者が権利を所有していた場合、その第三者が権利を所有している限り常に侵害リスクにさらされていると言えます。      

(2)損害額の要因は?

   ① 商品売上の減少

    安価な模倣品に市場を荒らされること、訴訟で敗訴が決まり生産や販売停止になることが考えられます(下イメージ図)。
    

    敗訴の場合は権利者の許諾がなければ事業を継続できなくなりますので、投資資金を回収することができなくなってしまいます。

   ② 訴訟費用

     国内の場合、以前の記事でも紹介しましたが、顧問契約していない弁護士の平均費用は着手金が約270万円報奨金が730万円(1億円の損害賠償請求の場合)というデータがあります。
     米国だと10倍ぐらいかかるでしょう。

     また国内における損害賠償金額和解金額のデータがあります(下グラフ)。国内だと賠償金額の多くは1,000万円以下の場合が多いですが、弁護士費用を含めると決して低額ではありません。     

   ③ その他

     広告への謝罪、刑事罰の罰金など様々な費用が考えられます。
     なお、国内の罰則(の一部)は以下の通りです。

特許権侵害 10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金、又は併科(特許法196条)
実用新案権侵害 5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又は併科(実用新案法56条)
意匠権侵害 10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金、又併科(意匠法69条)
商標権侵害 10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金、又併科(商標法78条)

(3)他には何を検討すべきか?

   上記(1)(2)は一般的なリスクの考え方です。

   経営にとってのマイナス要因を主に評価するものですが、経営にとっての“知財”のプラス要因についても評価すべきと考えます。

   例えば、その商品やサービスがいかに競争力があるか紛争リスクがどれだけ低いか、などということは販売代理店などの取引者にとっても重要な要素です。

   知財はブランド化を推進するものでもあります。
   ブランド力があるほど取引者との信頼関係強化、長期的な取引関係にもつながるのではないでしょうか。

   ただ、中小企業の場合、事業開始前は金銭的な問題もあると思います。

   ここには知財保険を組み合わせるなどしてビジネス展開の最適化を検討する余地があるのだと思います(例えば、下図のような保険活用など)。
   

 

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