模倣リスク対策(その2):模倣を発見したら

2017.05.25

 前回は“模倣をいかに早く見つけるか”という点に触れました。

<前回記事>
 模倣リスク対策(その1)

 今回は模倣を発見した後の話です。

 以前紹介したラップフィルムケース(下の写真)を元に進めます。 

 上写真のラップフィルムケース内にはラップフィルムが入っています。サ〇ンラップの紙ケースがプラスチックケースに変わったようなものです。

 通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。
 全て片手の操作ででき、刃が飛び出した状態に維持させ続けることもできます。写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。

 例えば、料理中に片手がふさがっているとき清潔さが求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。

 商品名は“触らんラップ”です。
(仮想名称なので、ご愛嬌ということで)

 業務用、個人用にハイスペックな商品として高価格で販売します。

 模倣品らしきものを発見したら、相手を特定してすぐに警告状を叩きつけたり、警察に通報すればよいのでしょうか?

 まずは模倣品が権利侵害に該当するかどうか判断するのが先です。

 今回の商品名“触らんラップそのままパクった商品名の商品が販売されていたとします。

 この場合でも、その商品名“触らんラップ”について商標権を取り忘れていたり、商標登録出願中の状態(権利化されていない状態)では権利侵害が成立しません。

 また、“触らんラップ”について商標権を取得していたとしても、このフィルムケースの最大の特徴である刃の収納と飛び出す技術機構について特許権(または実用新案権)を取り忘れていた場合、相手方がその特徴を備えたパクリ商品を別名で販売していたら、やはり権利侵害が成立しません。

 この技術機構について特許権を取得していたとしても商品デザインについて意匠権を取得しなかった場合、商品の見た目だけをパクった商品(技術要素を有しないただの見た目だけの商品)は権利侵害が成立しません。

 このように模倣品に対して根拠となる権利を備えていなければ、そもそも権利侵害が成立せず、黙って見ているしかないということになります。

 理想は取れる権利を全て取っておくことですが、金銭的な問題もあるでしょうし、多少の知恵がある模倣者でしたら完全コピーでなく微妙な商品を出して来るでしょう(下枠)。

 例えば、パロディ的な商品が出てくるかもしれません(この商品名がパロディだろ、というのはここでは忘れてください!)。

 自社商品“触らんラップ(さわらんらっぷ)”に対して“触れんラップ(ふれんらっぷ)”という商品が出てきたらどうでしょうか?

 模倣者は商標の称呼(発音)が違う、とか、商標外観の「ら」と「れ」の部分が違う、だから別商標だ、など言い張るかもしれません。

 これに対してこちらは商標観念の「手を触れなくていいラップ」で共通するから商標として類似すると主張することになるでしょう。
 
 聞き分けのいい相手ですぐに模倣を止めてくれたらよいのですが、そうでなければ裁判に発展、ということになります。

 どのような権利を取得するか、模倣者があらわれた場合の対応をどうするか、は会社としての方針や事業の将来を鑑みた上で判断することになるでしょう。

 今回の商品の場合、事前検討事項として次のようなことが挙げられます(評価内容はイメージで書きました)。

予想される模倣 模倣が出現する確率 取得を想定する権利 留意点
商品名の模倣 高い 商標 “触らんラップ”で本当の権利取得できるか、パロディを抑えることができるか(将来的なブランド化を考えたらもう少し独自性のある商品名の方がいいのではないか)
デザインの模倣 高い 意匠 特徴的部分(例えば、刃のスイッチ部)について部分意匠(ある部分について権利を取得できる)とすべきか、模倣者の逃げ道はないか
刃の収納機構 高い 特許、実用新案、意匠 技術レベルを考慮すると特許権取得は微妙(権利を取得できたとしても権利範囲がかなり狭い)。実用新案権、意匠権で代替的に技術保護することが可能か検討す
ラップ固定機構 低い 営業秘密化 特許になり得るが、容易に模倣し得る技術ではないので秘匿しつづける(情報盗難に対しては不正競争防止法で対応)

 また権利の費用対効果については過去記事をご覧ください。
 


 

 こうした権利はそれぞれ“権利範囲”があります。

 完全コピーの商品なら「権利侵害だ」とすぐに言えますが、上述したパロディ商標など模倣品が自己の権利範囲に属するのか否か判断するのは容易ではありません。

 専門家に相談するのがいいでしょう。

LINEで送る