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ブログと著作権(その8):パロディ

2017.06.16

前回、企業名や商品名について取り上げました。

<過去記事>
ブログと著作権(その1)
ブログと著作権(その2):漫画の引用
ブログと著作権(その3):写真の引用
ブログと著作権(その4):自撮り写真
ブログと著作権(その5):文章の問題
ブログと著作権(その6):音楽とJASRAC
ブログと著作権(その7):企業名や商品名

 今回はパロディについて取り上げます。

 世の中にはパロディと言われるものがあふれています。

 パロディとは何?と言われると難しいものがありますが、風刺や批判目的の模倣品といったところでしょうか。

<最近話題になったパロディ>
・フランク三浦の勝訴確定 「フランク・ミュラー」と訴訟
(2017年3月6日 日本経済新聞)
 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG06HAF_W7A300C1CR8000/

・パーマ大佐の「森のくまさん」パロディー曲 作詞家が著作権侵害を主張、販売差し止め求める
(2017年1月18日 産経WEST)
 http://www.sankei.com/west/news/170118/wst1701180062-n1.html

 その他にも「白い恋人」のパロディである「面白い恋人」は有名ですし、さらにテレビや漫画の世界はパロディーのオンパレードです。
 
 (面白い恋人:一時紛争になるもその後、和解成立)

 このように世の中はパロディだらけですので、パロディは法的にも許されているかのように勘違いしている人もいるかもしれません。

 しかし法的にパロディは認められていません

 これまで繰り返してきましたが、他人の著作物を利用できる場合は次の3つです。

1.著作権が切れている場合

2.権利者から許諾(や著作物を譲渡)してもらった場合、著作権が放棄されている場合

3.引用などの例外規定に該当する場合

 パロディに関する例外規定は存在しませんので、さっそく上枠3は除外ですね。

 著作権が切れている場合、つまり著作者がとっくに亡くなっている場合はどうかですが、著作権法には以下の規定がありますので、この場合でもパロディが許されているとまでは言えません。

(著作者が存しなくなつた後における人格的利益の保護)
第六十条   著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。

 “著作者人格権”の中には“同一性保持権”と言われる権利があります。

 著作者は、意に反して著作物の変更など受けない権利です。

 意に反するパロディは著作者の死後も禁止されていることになります。

 漫画の世界でもこうしたパロディと権利関係の問題をよく目の当たりにします。

例えば・・・

 昔、“パーマン”という漫画がありました。
 主人公のみつおくんにパーマンセットを渡した“スーパーマン”はいつの間にか(→超人→鳥人→)“バードマン”という名称に変わっていました。
 
 (出典: 藤子・F・不二雄 パーマン1巻p11 小学館コロコロ文庫)
 最近ドラマになった“スーパーサラリーマン左江内氏”の原作も“中年スーパーマン左江内氏”でした。
  
 ネットの世界ではSS(サイドストーリー、ショートストーリー)と呼ばれる二次創作物が様々な掲示板に投稿されています。
 これらのパロディも法的には認められていません。

 そうするとパロディが許される最後の道は権利者から許諾があった場合ということになります。

 (実態がどうかは別にして)著作権法的にはパロディは不可ということです。

 一方、著作物でなければパロディは許されるのか?という疑問もあるかもしれません。

 著作物性がないものには著作権が発生しません。

 商品名とか会社名のパロディは許されるのでしょうか?

 その場合、商標法不正競争防止など別の法律の問題がでてきます。

 ブログと連動してそうしたパロディ商品を販売すると権利侵害になり得ますので注意してください。

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クラウドファンディングによる市場予測

2017.06.14

 作ったモノが一体どれくらい売れるのか?

 これがわかれば苦労しません。

 さはさりとて予測する何か良い方法はないのでしょうか?

 モノやサービスがどの程度売れそうなのか根拠のようなものがあれば励みになるでしょうし、計画的に事業を展開するのにも役立ちそうです。

 今回はクラウドファンディング(CF)の資金提供者数からどの程度の市場が予測されるのか考えてみます(以前、別サイトで検討しましたが、今回+αで)。

 CFとはインターネットを使ってモノづくりなどのビジネスプロジェクトの資金提供者を募るという資金調達手段です。

<CFに関する過去記事>






 このCF、資金提供者の数が多ければ多いほど、それが多くの人にウケるものだろうと想像はできます。

 ではCFで100人の資金提供者があらわれた場合、これをビジネス化したら実際に何人くらいに売れるのでしょうか?

 CFを利用者の層や普及度、地域性、設定するリターン、販路の違いなどさまざまな要因があって一概に論じることはとてもできませんが、実際のプロジェクトを例に考えてみたいと思います。

1.「この世界の片隅に」製作プロジェクト


(片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)のアニメ映画化を応援)

 全国の劇場で公開されたアニメ映画です。
 今月には観客動員数が190万人と言われています。
 このプロジェクトの支援者は3,374人います。
 上記データだけで単純に考えると、190万人÷3,374人=563
 つまり563倍の効果が得られたことになります。

2.スマホケース「トリックカバー」開発プロジェクト


(無駄にかっこいいヌンチャク系iPhoneケース「iPhone Trick Cover」)

 この商品は中小企業が全国で初めてCFで資金調達したものだと言われています。
 昨年夏の時点で販売台数が昨夏で約3万5,000のヒット商品です。
 このプロジェクトの支援者は200人。
 上記1と同様に計算すると、3万5,000人÷200人=175(倍)

3.SMAP大応援プロジェクト


(~新聞メッセージ・どうか届きますように~)

 直近のSMAPのアルバムである「SMAP 25 YEARS」は115.5万枚売れたとされています。
 上記プロジェクトの支援者が1万3,103人ですので、115.5万÷1万3,103人=88(倍)

 上記から単純に考えると、プロジェクト支援者数の90倍弱から560倍程度の潜在マーケットがあるということになります。

 商品の場合はマイナーチェンジによる買い替え、店舗サービスの場合はリピート客が見込めると考えると上記効果は数値よりももっと高いかもしれません(映画は何回も見に行く人はそういないでしょうが?)。

 ただし、上記はさまざまな条件の違いやプロジェクト起案者の営業努力などを無視して思いっきり単純化して考えたものですのであくまでご参考ということになります。

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模倣リスク対策(その7):税関活用

2017.06.13

ここまで、

・いかに模倣を早く見つけるか?
・模倣品を発見した場合の対応
・模倣の場所と対応
・ECサイトで模倣品を見つけた場合の対応
・権利の種類と利便性
・著作権活用

について触れてきました。

<過去記事>
 模倣リスク対策(その1):いかに模倣を発見するか
 模倣リスク対策(その2):模倣を発見したら
 模倣リスク対策(その3):模倣場所と対策

 模倣リスク対策(その4):ECサイトでの模倣発見時
 模倣リスク対策(その5):権利の種類と利便性

  今回は税関活用についてです。

 輸入時あるいは輸出時に税関で侵害品を食い止める、いわゆる“水際対策”は実効性のある対策の一つだと言えます。

 税関を活用するメリットはいくつかります。

費用がかからない 税関手数料がかからない(供託金発生する場合有)
取締り対象範囲が広い 知的財産権を侵害する貨物(※)
対応が早い 商標権だと1~2か月、技術照会などが必要となる場合で3~5か月と言われている
侵害抑止効果が大きい 貨物が侵害と認定されたら直ちに差止

※関税法では輸入してはならない貨物のひとつに次のものを定めています。

(輸入してはならない貨物)
第六九条の一一 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。

九 特許権実用新案権意匠権商標権著作権著作隣接権回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
十 不正競争防止法第二条第一項第一号から第三号まで、第十一号又は第十二号(定義)に掲げる行為(これらの号に掲げる不正競争の区分に応じて同法第十九条第一項第一号から第五号まで又は第八号(適用除外等)に定める行為を除く。)を組成する物品

 この関税法に基づき、権利侵害物品が取り締まられています(以下)。

<商標権侵害物品密輸入事件の例>
 税関HPでは取締りが実行された物品例が示されています。

 
 (神戸税関:平成27年6月19日発表)
  http://www.customs.go.jp/kobe/mitsuyu/mitsuyutekihatsu.html#270729

 
 (函館税関:平成28年4月22日発表)
  http://www.customs.go.jp/hakodate/11houdou/01mituyuhoudou/index9.html

 2015年度模倣被害調査報告書(特許庁)によると、国内、国外ともに税関への取締申請は模倣被害対策の一つとして一定の効果があることが示されています(下図)

 取締りの流れイメージを示します。

 

 大まかな流れとしては事前相談(任意)後、

1.権利者が事前相談を申し立て

2.申し立てが受理されたら取締りがスタートし、侵害疑義物品が発見されたら当該物品が侵害品であるかどうかを認定する「認定手続」を行う

3.侵害が認定されたら没収・廃棄

となります。

 なお、不正競争防止法に係る物品について申立てをする場合には申立てをする前に経済産業大臣の意見書(法2条1項10号の場合は認定書)を取得しておく必要があります。

 申し立てから処分の決定までは、商標権などで1~2か月、特許などで専門委員照会があった場合は5か月程度が目安になります。

 相談、申立てに必要な書類は以下の通りです。

 特に事前相談では侵害品、真正品の写真が重要になります。

事前相談 ・登録原簿及び公報等(権利関係の確認)
・侵害品又はその写真等(侵害の事実の確認)
・真正品又はカタログ等(識別方法の確認)
・その他関係資料 (並行輸入関係の資料等)
など
輸入差止申立て (必要書類)
・申立書(税関様式)
・登録原簿謄本・公報
・侵害の事実を疎明するための資料等
・識別ポイントに係る資料
・通関解放金の額の算定資料(特許権・実用新案権・意匠権
・保護対象営業秘密のみ)
・代理人が申立手続を行う場合には委任状等
(必要に応じて提出)
・判決書・仮処分決定通知書・判定書
・弁護士等の鑑定書等
・警告書等
・係争関係資料
・並行輸入関係資料
・その他侵害物品に関する資料

 参考:税関HPhttp://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/b_003.htm

 権利別の申立手順など詳細は税関HPで公開しています(以下)。
 http://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/b_004.htm

 ちなみにどのような権利に基づく差止実績があるのでしょうか?

 税関HPに次のデータがあります。

  

 商標権が圧倒的に多いことがわかります(識別が容易だからでしょうね)。

 商品としてはインクカートリッジ、スマホケース、医薬品、リュックサックなどが上位を占めています。

 

 

  輸入差止め申立ての受理要件として関税法に以下の規定があります。

(輸入してはならない貨物に係る申立て手続等)
第六九条の一三 
 申立先税関長は、前項の規定による申立てがあつた場合において、当該申立てに係る侵害の事実を疎明するに足りる証拠がないと認めるときは、当該申立てを受理しないことができる。

 すなわち、侵害の事実の疎明に必要な事項(受理要件)

1.権利者であること

2.権利の内容に根拠があること(権利登録など)

3.侵害の事実があること

4.侵害の事実を確認できること

がそろえば申立ては受理されます。

 侵害品が1点でもあれば動く点が税関の良い点だということもできます(著名でなくてもよい)。
 例えば、平成26年は税関の輸入差止件数は32,060件であるのに対し警察の検挙・押収実績は574件とデータにもあらわれています(警察は主に悪質なケースに動くイメージ)。

 なお、申立ては“輸入”だけでなく“輸出”についてもできます(ただし輸出についてはニーズが少ないようですが)。

 

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ブログと著作権(その7):企業名や商品名

2017.06.09

 前回、音楽とJASRACについて取り上げました。

<過去記事>
ブログと著作権(その1)
ブログと著作権(その2):漫画の引用
ブログと著作権(その3):写真の引用
ブログと著作権(その4):自撮り写真
ブログと著作権(その5):文章の問題
・ブログと著作権(その6):音楽とJASRAC

 今回は企業名や商品名について取り上げます。

 何も考えずにブログに企業や商品名を気軽に載せた場合、何か問題が生じるのでしょうか?

 文章や商品名などとともに“©”や“®”といった丸囲みされた謎の文字がコバンザメのようにくっついていることがありますが、気になったことはありませんか?

 今回の問題は著作権だけでなく“商標権”も考えなければなりません。

 著作権と商標権で分けて考えます。

1.著作権との関係から

 著作権というのは文章や音楽、写真、イラストなどの“著作物”を創作した瞬間に、その著作物作者に自動的に発生します。

 赤の他人がその著作物を無断でブログに掲載した場合、“公衆送信権”など著作権侵害になってしまいます。

 これまでの記事でも触れた通り、以下の場合は著作権侵害になりません。

1.著作権が切れている場合

2.権利者から許諾(や著作物を譲渡)してもらった場合、著作権が放棄されている場合

3.引用などの例外規定に該当する場合

 上枠1~3の話は今回は横に置いておきます。

 著作権侵害が成立するのは、そもそも対象物が“著作物”の場合です。

 “著作物”とは何か?

 著作権法では以下のように明記されています。

(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

 「思想又は感情を創作的に表現」したものであればレベルの高低は関係なしに著作物だと言えます。

 幼稚園児が描いた絵であっても著作物です。

 だったら世の中のほとんどのもの著作物になるんじゃないのか?と思うかもしれませんが、そうでもありません。

 例えば、以下の文章について著作物性を否定した裁判例があります。

 
<裁判所の判断の抜粋>
日頃よく用いられる表現ありふれた言い回しにとどまっているものと認められ、これらの記事に創作性を認めることはできない”
(事件番号 平成6(ワ)9532 )

 一方で、5・7・5の俳句はたった17文字しかありませんが著作物だと言えます。

 著作物かどうかの判断は意外に難しいのです。

 また、企業のロゴマークについて著作物性が否定された裁判があります。

 
 この裁判は被告が原告に類似する文字デザインで事業を行っていたことが原因になっています。
<裁判所の判断>
“文字は万人共有の文化的財産ともいうべきものであり、また、本来的には情報伝達という実用的機能を有するものであるから、文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは、一般的には困難であると考えられる。仮に、デザイン書体に著作物性を認め得る場合があるとしても、それは、当該書体のデザイン的要素が「美術」の著作物と同視し得るような美的創作性を感得できる場合に限られることは当然である”(事件番号 平成6(ネ)1470 )

 上記裁判所の判断のように通常、

 企業名やロゴマーク、商品名が著作物だと認められるためのハードルは高い

 と考えられます。

 つまり、

 企業名や商品名をブログに書いたからと言って、それが著作権侵害に該当するケースは稀

 だと考えられます。

 ただし、これは著作権との関係での話です。

 商売目的で企業名や商品名を勝手に使うとトラブルの元になります。

 特に“商標権”は留意すべき権利の一つです。

2.商標権との関係から

 “商標”とは自分の商品やサービスに付して他人の商品やサービスと区別するものです

 自社名や商品名、ロゴマークなど“これは〇〇社の商品”と見た人が識別できるものは商標になり得ます(下イメージ:特許庁HPhttps://www.jpo.go.jp/seido/s_shouhyou/chizai08.htmより)。

 

 商標を他人に使わせないためには、特許庁に事業を行う商品やサービスを指定して商標登録出願をする必要があります。

 他に類似する登録商標がないなど、拒絶理由がなければ商標登録されます。

 こうして得られる権利が“商標権”です。

 商品名などとともに表示されることが多い®のマークは「商標登録されています」ということを表すものです(一方、©は著作権を示すマークです)。

 商標権を取得することで出願の際に指定した商品やサービスを基準に、類似する範囲まで他人の使用(無断で商品に商品名を付けたり、そうした商品を販売したりする行為)を禁止できます(下図)

 

 多くの社名や商品名には商標権が取得されています。

 ではブログに“WALKMAN”や“アリナミン”など登録商標の文字を書けないのか?

 通常、そうした文字を書いただけでは商標権侵害にはなりません

 既述した通り、商標は他人の商品やサービスと区別するためのものです。

 ブログに登録商標の文字が記載されてあっても商標的な使い方ではありません。

 商標権が禁止されるのは上図の赤色部分に該当する行為、例えば「電子通信機械器具」に“WALKMAN”の文字を付してネット販売するような場合です(“WALKMAN”は電子通信機械器具を指定して商標登録されています)。

 ブログ上で販売する商品がある場合、広告の商品などとともに無関係の商品名を紛らわしい形で用いると(例えば、関係のない有名ブランド名を広告商品の近くに表示して、閲覧者が広告品がそのブランド品であるかのように誤解する場合)商標権侵害になり得ますので注意してください。

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情報流出リスク対策

2017.06.08

 企業の成長とともに秘密情報が増え、さらに秘密情報に接する機会がある従業員数は増加し、情報漏洩リスクも大きくなります。

 顧客情報が流出した、技術情報を盗まれた、という報道が度々流れます。

<情報流出関連記事例>
新日鉄住金、ポスコと和解合意 300億円受け取り 技術流出訴訟
 (2015年9月30日 日本経済新聞)
ベネッセHD、顧客情報漏洩 最大2070万件
 (2014年7月9日 日本経済新聞)

 情報漏洩の原因者は誰なのか?

 以下のデータがあります。

 

 秘密情報の漏えい者種別で見た場合、最も多いのが中途退職者(正社員)、次が現職従業員のミスになっています。

 多くの場合、内部の人間が原因者になっています。

 また最近は、インターネットや電子メールを介して電子化された情報が大量に流出する事件が多く見られます。

 それでは情報が流出してしまったきっかけ、原因は何なのか?

 これについてもデータがあります。

 
出典:2012年 情報セキュリティインシデントに関する調査報告書 特定非営利活動法人日本ネットワークセキュリティ協会http://www.jnsa.org/result/incident/index.html

 “情報流出”と言うとハイテク犯罪のイメージがあるかもしれませんが、現実的には大部分(約8割)が単純なミスで情報を流出させてしまっていることがわかります。

 具体的な情報流出対策

 先の結果が示す情報漏えい者種別からは従業員対策が、情報漏えいの原因からは誤操作等の単純な原因対策が挙げられます。

 ただ、ここでそもそも秘密にすべき情報とは何なのか?

 これを明確にしないと始まりません。

 何を秘密情報とするのかですが、営業情報、技術情報など様々な視点があります。

 例えば営業情報の視点では顧客情報、顧客個人情報、商品原価等の購買情報、発表前新商品情報、接客マニュアルなどが、

 技術情報の視点では製造ノウハウ、製品設計情報、特許等公開前の技術浮かび上がってくるのではないでしょうか。

 秘密情報を明確にするための視点例を挙げます。

視点例 具体例
職種 営業→顧客リスト、売上データ、営業日誌など
技術→設計図面、製造マニュアル、品質検査結果など
開発→試験データ、開発日誌、公開前特許情報など
購買→購入先リスト、購入品、原価など
保存媒体 紙媒体→契約書、設計図面など
電子媒体→サーバー、PC、USB保管情報など
現物→工場レイアウト、金型、試作品など
開示範囲 社内のみ→会議議事録、社員情報、教育訓練マニュアルなど
社外から開示→製造委託先情報、試供品など
社外へ開示→ノウハウライセンス情報など

 経済産業省が公表している秘密情報の保護ハンドブック(平成28年2月)には、従業員、退職者、取引先、外部者ごとに対策例が示されています。

 一方、メールやウェブサイト等によって標的となるPCにウイルスを感染させウイルス感染PCを遠隔操作し攻撃する標的型攻撃による情報流出等のサイバー攻撃の対策も怠ると大変なことになります。

 こうした攻撃に対しては「ソフトウェアの更新」、「ウイルス対策ソフトの導入」、「パスワード管理・認証の強化」、「設定の見直し」、「脅威・手口を知る」ことが基本となります(情報セキュリティ10大脅威2015 IPAより)。

 以下、秘密情報の保護ハンドブック平成28年2月経済産業省を参考に各対策をまとめました。

<従業員対策>
(ⅰ)アクセス権を有しない者を秘密情報に近づけない対策

対策 具体例
ルールに基づく適切なアクセス権の付与・管理 ・工場の作業ラインの一連の流れを複数人で分担(工程全体の情報を1人の作業員が把握できないようにする)
・業務や役職に基づきアクセス権を設定
アクセス権者のID登録 ・従業員等に対して情報システム上のIDを付与、パスワード設定
分離保管によるアクセス制限 ・書類、ファイルや記録媒体(USBメモリ等)は書棚や区域を分離、電子データは格納サーバーやフォルダを分離、アクセス制限
・入退室管理、警備システムの導入、警備員の配置
ペーパーレス化 ・電子化情報を印刷やコピーできない措置
・電子化情報について、印刷内容や、印刷できる者、印刷目的等を限定
秘密情報の復元が困難な廃棄・消去方法の選択 ・書類はシュレッダーにより裁断し、廃棄
・廃棄後取り出すことができない鍵付きゴミ箱
・重要度の高い情報は、信頼できる専門処理業者に依頼
・市販の完全消去ソフト、ハードディスク磁気破壊サービス等を利用

(ⅱ)秘密情報の持出しを困難にする対策

対策 具体例
会議資料等の適切な回収 ・会議等終了後、回収
・資料に通し番号を付す
秘密情報の社外持出しを物理的に阻止 ・ノートPC等をセキュリティワイヤーで固定、使用者不在時にはノートPC等を机の引出しやロッカー等に格納・施錠
・退社時の荷物検査、セキュリティタグで退社時の情報持出しチェック
電子データの暗号化 ・アクセス権を有するIDでログインしたPC等からのみ閲覧
遠隔操作によるデータ消去機能を有するPC・電子データの利用 ・遠隔操作によりPC内のデータを消去
・パスワードロックで一定の回数認証に失敗すると重要情報を消去
・一定期間、管理サーバーとのやり取りがなされない状態が続いた場合に指定したデータが自動的に消去
・電子データそのものに遠隔操作による消去
コピー防止用紙やコピーガード付の記録媒体・電子データ等 ・市販のコピー偽造防止用紙を使用
・印刷、コピー&ペースト、ドラッグ&ドロップ、USBメモリへの書込不可設定、コピーガード付きのUSBメモリやCD-R等に保存
コピー機の使用制限 従業員等のIDカードとコピー機を連動させ、同一のIDカードで1日当たりに印刷できる枚数を制限
私物のUSB、カメラ等の業務利用・持込み制限 ・PCやUSBメモリ等の利用は会社貸与品のみとする
・USB差込口無し、USB差込口無効化、物理的にふさぐ部品設置
・私物スマートフォンの持ち込み制限(重要箇所)
・工場へのカメラ等の撮影機器の持込みを制限
秘密情報の消去・返還 ・プロジェクト終了時、従業員等が有する秘密情報が記録された書類、目につきやすい状況を作りだす等の視認性確保のための対策記録媒体等を返還、電子データを消去、設定パスワード提出

(ⅲ)目につきやすい状況を作りだす等の視認性確保のための対策

対策 具体策
不要な書類等の廃棄、書棚の整理 ・不要な書類や書棚等を整理整頓、清掃
秘密情報の管理に関する責任の分担 ・分担体制をリスト化
「写真撮影禁止」、「関係者以外立入り禁止」表示 ・書庫や区域(倉庫、部屋など)の出入口に「写真撮影禁止」、「関係者以外立入り禁止」といった掲示
職場の座席配置・レイアウトの設定、業務体制の構築 ・従業員同士、上司の目につきやすい座席配置、死角のないレイアウト
・秘密情報を取り扱う作業は、可能な限り複数人で作業
・単独作業の場合は、各部門の責任者等が事前に単独作業の必要性、事後には作業内容を確認
従業員等の名札着用の徹底 ・他者が自己の氏名や所属部署を確認できるようにする
防犯カメラの設置等 ・書類、電子媒体が保管された書庫や区域等
・見えやすいところに防犯カメラを設置、「防犯カメラ作動中」と掲示
秘密情報が記録された廃棄予定の書類等の保管 ・廃棄するまでの間は、引き続き秘密情報としての管理
外部送信メールのチェック ・上司の承認を必要とするシステムを使用、自動的に上司等にもCCメールが送信されるよう設定
内部通報窓口の設置 ・情報漏えい行為と思わしき行為を確認した場合の通報窓口を設置、窓口が設置された旨を周知
・匿名での私書箱等を設置
・複数部門に窓口を設置
秘密情報が記録された媒体の管理 ・記録媒体を、共有し書庫等に保管、複製を禁止し、保管媒体に通し番号を付す
・貸出し時及び返却時に、その日時、氏名、貸し出した資料名等を記録して管理
コピー機等利用者記録・枚数管理機能導入 ・従業員等のIDカードとコピー機やプリンター等とを連動
印刷者氏名等の「透かし」印字設定導入 ・印刷時、強制的に印刷者の氏名やIDの「透かし」が印字されるように設定
秘密情報の保管区域等への入退室の記録・保存とその周知 ・台帳管理、ICカードや生体認証、その旨の周知
不自然なデータアクセス状況の通知 ・不自然な時間帯・アクセス数・ダウンロード量を検知した場合に上司等に通知、その旨を社内に周知し
PCやネットワーク等の情報システムにおけるログの記録・保存とその周知 ・ログを取得、保存、その旨を社内に周知
・ログの確認を定期的に実施

(ⅳ)不正行為者の言い逃れの排除のための対策

対策 具体例
秘密情報の取扱い方法等に関するルールの周知 ・必要な社内規程条項としては、社内規程の適用範囲(本規程を守らなければならない者)、秘密情報の定義、秘密情報の分類(「役員外秘」、「部外秘」、「社外秘」等)、秘密情報の分類ごとの対策(「秘密情報が記録された媒体に分類の名称の表示をする」等)、秘密情報及びアクセス権の指定に関する責任者、秘密保持義務(秘密情報をアクセス権者以外の者に開示してはならない旨等)
・研修等の実施
秘密保持契約等(誓約書を含む)の締結 ・社内の規程等に加え、又は規程に代えて、秘密情報を取り扱う従業員等と秘密保持に関する契約を締結したり、従業員等に対して誓約書を要請
・「持出禁止(持出が認められる場合はその条件)」といった取扱いの内容の定め(個人メールアドレスへの送信防止)
・締結タイミングとしては、入社・採用時、退職・契約終了時、在職中(部署の異動時、出向時、プロジェクト参加時、昇進時等の取り扱う情報の種類や範囲が大きく変更されるタイミング)等
秘密情報であることの表示 ・書類、書類を綴じたファイル、USBメモリ、電子文書そのもの、電子文書のファイル名、電子メール等に、自社の秘密情報であることが分かるように表示
・表示を見た者が、その情報が、自社における秘密情報であることに加えて、アクセスできる者の範囲(例えば、「役員限り」等)や、どのような取扱い方法(例えば、「持出し禁止等」)が求められている秘密情報であるのかも認識できるような表示
・秘密情報が記録された媒体等を保管する書庫や区域(倉庫、部屋など)に「無断持出し禁止」といった掲示
・工場の生産ラインのレイアウトや金型等には、当該物件保管場所に「無断持出し禁止」、「写真撮影禁止」と掲示、物件リストを従業員等へ周知

(ⅴ)職場のモラルや従業員等との信頼関係を維持・向上のための対策

対策 具体例
秘密情報の管理の実践例の周知 ・秘密情報の管理の徹底が、企業の発展・業績向上などに貢献したという事例を紹介
情報漏えいの事例の周知 ・秘密情報の漏えいが企業に多大な損害を与え得るものであることを自社内外の具体的な漏えいとその結果に関する事例等をまとめた資料や映像等を準備し紹介
情報漏えい事案に対する社内処分の周知 ・情報漏えい事案に対して、社内においてどのような処分がなされるのかについて、予め従業員等に説明
働きやすい職場環境の整備 ・長時間労働の抑制(適正な業務配分等)や年次休暇取得促進のための体制構築(労働時間の適正化、多様な休み方の提案等)、福利厚生の充実
・上司と部下、同僚同士がコミュニケーションを取りやすい職場環境の整備
透明性が高く公平な人事評価制度の構築・周知 ・業務貢献を多面的に評価するなど納得感の高い人事評価制度
・従業員等の能力や希望等を踏まえて配属等の適正な判断
・創意工夫で企業に貢献した者に対する表彰制度や報奨制度

<退職者等対策>(従業員対策の追加的事項)
(ⅰ)アクセス権を有しない者を秘密情報に近づけない対策

対策 具体例
適切なタイミングでのアクセス権の制限 ・退職時、退職者のIDやアクセス権限を削除、IDカード、入館証回収、当該IDカード等が使用不可になっていることの確認

(ⅱ)秘密情報の持出しを困難にする対策

対策 具体例
社内貸与の記録媒体、情報機器等の返却 ・定年退職が近い者は従事させる業務内容も踏まえた適切なタイミングで、中途退職者は退職の申出を受けてから速やかに返却
・在職中の使用PCは回収、退職までは初期化PCを新たに貸与

(ⅲ)目につきやすい状況を作りだす等の視認性確保のための対策

対策 具体例
退職をきっかけとした対策の厳格化とその旨の周知 ・退職の申出があった後だけでなく、以前のものも含めて、ログを集中的に確認

(ⅳ)不正行為者の言い逃れの排除のための対策

対策 具体例
秘密保持契約等の締結 ・就業規則等の規程の有無にかかわらず締結
・退職予定者等との面談等を通じ、在職中のアクセス情報を確認
競業避止義務契約の締結 ・重要なプロジェクトにおけるキーパーソン等
・「職業選択の自由」に留意
秘密情報を返還・消去すべき義務が生ずる場合の明確化 ・退職時に締結する秘密保持契約に、秘密保持義務の対象となる資料や記録媒体の返還、電子データ消去、その情報を自ら一切保有しないことを確認する契約条項の盛り込み

(ⅴ)職場のモラルや従業員等との信頼関係を維持・向上のための対策

対策 具体例
適切な退職金支払い ・退職手当の計算方法、支払い方法、支払い時期等を予め明確化
・キーパーソンの場合、退職後改めて秘密保持義務契約を締結し、アドバイスやコンサルティングを行う「非常勤顧問」として再雇用も検討
退職金の減額などの社内処分の実施 ・競業避止義務契約に反して競合他社に再就職する等、退職後において情報漏えいを行う可能性が高いと認められる場合

<取引先対策>
(ⅰ)アクセス権を有しない者を秘密情報に近づけない対策

対策 具体例
開示する情報の厳選 ・契約前は秘密情報が記載された資料は回収、コアな情報は伝えない
・コア技術は開示せず、周辺技術のみ開示、その範囲のみでの業務委託
・複数委託先に業務を分担、特定取引先に情報が集中しないように配慮
・来訪時、書庫や工場等への不必要な立入りを禁止
取引先での秘密情報の取扱者の限定 ・契約書等において、取引先における秘密情報の取扱者を指定、取扱者変更の場合は自社の許可が必要である旨契約書に規定
・契約後の秘密情報のアクセスについては自社サーバーを利用することとし、そのアクセス権限を自社で管理

(ⅱ)秘密情報の持出しを困難にする対策

対策 具体例
秘密情報の消去・返還と複製できない媒体での開示 ・電子データで取引先に開示した場合、消去義務に併せて、消去した旨の報告義務や消去の証明義務を設ける
・複製ができない媒体、文書作成ソフトの一般的な機能などを活用
・自社が直接管理できるサーバーを使用させた場合、そのサーバー内のデータのダウンロードや印刷等を禁止する設定
遠隔操作によるデータ消去機能を有するPC・電子データの利用 ・遠隔操作によりPC内のデータを消去
・パスワードロックで一定の回数認証に失敗すると重要情報を消去
・一定期間、管理サーバーとのやり取りがなされない状態が続いた場合に指定したデータが自動的に消去
・電子データそのものに遠隔操作による消去

(ⅲ)目につきやすい状況を作りだす等の視認性確保のための対策

対策 具体例
秘密情報の管理に係る報告の確認、定期・不定期での監査の実施 ・契約等に秘密情報を管理状況を定期的に報告、定期的に秘密情報へのアクセスログを提出させる義務、確認
・契約等に秘密情報の管理状況について監査を実施する旨を規定、定期・不定期に情報管理体制やその履行状況の監査を実施

(ⅳ)不正行為者の言い逃れの排除のための対策

対策 具体例
取引先に対する秘密保持義務条項 ・取引開始時、秘密保持情報を明確化した秘密保持契約等を締結
・秘密保持の対象を「基本契約又は個別契約により知り得た相手方の営業上又は技術上の情報のうち、相手方が秘密である旨明示したもの」とし、実際の秘密情報の受渡しに際して秘密であることを明示(公知情報の混在による秘密情報不明確化防止)
・契約書等において、「甲が乙に秘密である旨指定して開示する情報は、別紙のとおりである。なお、別紙は甲乙協力し、常に最新の状態を保つべく適切に更新するものとする」旨記載
・契約等指定した情報の範囲を超えるものを口頭で開示した場合、開示した側が、情報の開示後一定期間内に当該情報の内容を文書化し、当該文書を秘密保持義務の対象とすることとするなど、予め、口頭で開示した情報の取扱いに関する規定を設ける
秘密情報であることの表示 ・開示する紙媒体や電子記録媒体に「秘密情報」であることの表示
具体的な秘密情報取扱い等についての確認 ・取引先が実施する秘密情報の具体的管理方法や契約終了後の取扱いを事前に確認した上で、それを契約書に定める
取引先に対する秘密情報の管理方法に関する研修 ・契約における具体的な秘密情報の対象やその管理方法について研修等を実施
取引先とのやりとりの議事録等の保存 ・秘密情報特定の協議等のやりとりは、双方合意の上議事録を作成
・秘密情報の授受に当たり、それを台帳で共有管理
・メールで秘密情報を授受の場合にはそのメールを保存

(ⅴ)職場のモラルや従業員等との信頼関係を維持・向上のための対策

対策 具体例
適正な対価の支払い ・親事業者と下請事業者の関係の場合には、「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」を参考にする
・コンプライアンス宣言等を作成・公表
・公平な取引を推進するため、自社従業員に向けた倫理研修を実施
契約書等における損害賠償や法的措置の記載 ・秘密保持義務の違反時における損害賠償の責任を規定、契約時に秘密情報の漏えい等に対して法的措置等の厳正な処置をとることを明記

<外部者対策>
(ⅰ)アクセス権を有しない者を秘密情報に近づけない対策

対策 具体例
秘密情報を保管する建物や部屋の入場制限、書棚や媒体等のアクセス制限 ・施錠管理、防犯カメラの併設
・執務室には近づけないオフィスの設計
・敷地入口での警備員による身分確認
・入構ゲートを設置し、ID認証での入構制限
・書庫、サーバールーム等を施錠管理し、入退室を制限
・書棚の施錠管理、ID、パスワードによるPCの認証管理、USBメモリ等の記録媒体のパスワード管理
外部者の構内ルートの制限 ・それ自体が秘密情報である製造機械等はルートに含まない
・PCはフィルム等を貼って画面をのぞかれないようにする
・秘密情報が表示された物件にカバーをかける
ペーパーレス化 ・電子化された秘密情報には印刷やコピーができない措置
・印刷可データの内容、印刷できる者、印刷の目的等限定するルール
秘密情報の復元が困難な廃棄・消去方法の選択 ・書類はシュレッダーにより裁断し、廃棄
・廃棄後取り出すことができない鍵付きゴミ箱
・重要度の高い情報は、信頼できる専門処理業者に依頼
・市販の完全消去ソフト、ハードディスク磁気破壊サービス等を利用
外部ネットワークにつながない機器に秘密情報を保存 ・ネットワークに接続された機器で利用、保管する必要性のない秘密情報は不正アクセスに備える
ファイアーウォール、アンチウィルスソフトの導入、ソフトウェアのアップデート ・不正アクセスに備える
・不正侵入防御システムの導入
・秘密情報へのアクセス権者を最小限化
ネットワークの分離(複数のLANを構築) ・不正アクセス対策、ウイルス拡散防止

(ⅱ)秘密情報の持出しを困難にする対策

対策 具体例
外部者の保有する情報端末、記録媒体の持込み・使用等の制限 ・PCやUSBメモリ、カメラ、スマートフォン等の持込みを制限
・USB差込口無し、USB差込口無効化、物理的にふさぐ部品設置
・会社貸与のUSBメモリ以外は、PCが認識しないよう設定
PCのシンクライアント化 ・データ保存機能をPCから分離し、PCには秘密情報を保管しない
秘密情報が記載された電子データの暗号化 ・パスワードがなければ解読できない状態にする
遠隔操作によるデータ消去機能を有するPC・電子データの利用 ・遠隔操作によりPC内のデータを消去
・パスワードロックで一定の回数認証に失敗すると重要情報を消去
・一定期間、管理サーバーとのやり取りがなされない状態が続いた場合に指定したデータが自動的に消去
・電子データそのものに遠隔操作による消去

(ⅲ)目につきやすい状況を作りだす等の視認性確保のための対策

対策 具体例
「関係者以外立入り禁止」や「写真撮影禁止」の張り紙等 ・秘密情報が保管されている書棚や区域(倉庫、部屋など)
・「入室に関する問合わせ先」も記入
秘密情報を保管する建物・区域の監視 ・秘密情報場所や出入口が従業員等の死角とならないようなレイアウトの工夫、出入口の扉の開閉時のチャイムやブザー設定
・出入口での守衛による入退状況のチェック
・防犯カメラの設置
・入退室をIDカード等で制限、入退室のログを保存、確認
・入構の事前届出、社内活動に係る日報等の提出義務化
・機器メンテナンス事業者が来室には必ず作業に立ち会い、業務専用の一時的なIDを付与、作業終了後は権限を無効化、PC等の作業画面の録画や操作ログを記録
・社内では制服着用を契約において規定
来訪者カードの記入、来訪者バッジ等の着用 ・入口にて来訪者カード等を準備、氏名や訪問先を記入、アポイントの有無を確認、面識のある従業員が直接入口に出迎え

(ⅳ)不正行為者の言い逃れの排除のための対策

対策 具体例
秘密情報であることの表示 ・紙媒体、電子記録媒体に秘密情報であることを表示
契約等による秘密保持義務条項 ・各種メンテナンス業者等に対し「業務中に接する一切の情報を漏えいしてはならない」旨を規定

 

 

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ブログと著作権(その6):音楽とJASRAC

2017.06.07

 前回、文章の問題について取り上げました。

<過去記事>
ブログと著作権(その1)
ブログと著作権(その2):漫画の引用
ブログと著作権(その3):写真の引用
ブログと著作権(その4):自撮り写真
ブログと著作権(その5):文章の問題

 今回は音楽について取り上げます。

 創作物である音楽は著作物であり、音楽を作った瞬間にその人に著作権が発生します。

 そして著作権者に無断で音楽を利用すると著作権侵害になります。

 音楽は“作詞”、“作曲”とある通り、メロディーだけでなく歌詞にも著作権が発生しています。

 従ってブログにメロディーを用いなくても歌詞を無断で用いていたら著作権侵害になり得ます。

 音楽に関しては、パロディの問題や似ている似ていないの問題など、いろいろと紛争が多いですよね。

・「森のくまさん」訳詞者、替え歌CDの販売中止を要請  
 (2017年1月17日 日本経済新聞)
  http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG18H9Z_Y7A110C1CR8000/
・松本零士さんに賠償命令 名誉棄損、槇原敬之さん勝訴
 (2008年12月26日 朝日新聞)
  http://www.asahi.com/showbiz/manga/TKY200812260302.html

 ただし、これまでの記事でも触れた通り、以下の場合は著作権侵害になりません。

1.著作権が切れている場合

2.権利者から許諾(や著作物を譲渡)してもらった場合、著作権が放棄されている場合

3.引用などの例外規定に該当する場合

 音楽の場合(音楽には限りませんが)、著作権を管理する団体があり、その中でも日本音楽著作権協会(JASRAC)が有名です。

<音楽著作権管理事業を手掛ける主な団体・企業>
 http://www.nmrc.jp/hikaku4.html
(ネットワーク音楽著作権連絡協議会)

 JASRAC管理楽曲との関係で上記要件に留意する必要があります。

 JASRACホームページのQ&Aにも記載がありますが、

保護期間が経過して著作権が消滅した作品

著作権法第30条~第50条の「著作権の制限」に該当する場合

はJASRACの手続きは不要とあります。上枠の1と3を意識したものです。
(JASRAC:https://secure.okbiz.okwave.jp/faq-jasrac/faq/show/60?category_id=11&site_domain=jp

 著作物の存続期間について

 著作権の存続期間は著作物を創作した時にはじまり、著作者の死後50年を経過するまでの間、存続します。

(著作権法条文:保護期間の原則)
第五十一条   著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる
 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)五十年を経過するまでの間、存続する。

 従って著作者が死亡して50年経過した音楽は誰の許可もとらずにブログに載せることができます。

 ただし、二次的著作物(海外の歌を翻訳したもの、編曲したもの、替え歌など既に存在した著作物から作り出した新たな著作物)に係る著作権の存続期間は二次的著作物の創作者の死後50年(元々存在した著作物の著作者の死後50年でない)ですので注意が必要です。

 例えば、“大きな古時計”はアメリカの作曲家であるヘンリー・クレイ・ワーク(1832年 – 1884年)がとっくに亡くなっているので原作品の著作権は消失しています。
 一方、この歌の日本語版はドカベンやガッチャマンⅡなどの作詞で知られる保富康午(1930年-1984年)によって作られたものです。
 つまり、日本語版については二次的著作物創作者の死後50年経過していませんので著作権は存続しています。

 引用などの例外規定について

 著作権法は“引用”など一定の行為については著作権の効力が制限されることを規定しています。

 あらゆる行為に著作権の効力が及ぶとするといろいろと不都合が生じるからです。

 例えば、個人的、家庭的その他これに準ずる限られた範囲内の使用目的であれば著作物を複製できます(下枠)。

(著作権法条文:私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

 ただし、ブログ掲載目的は不特定多数の閲覧者がいることを考えると、“個人的”、“家庭的”、“準ずる限られた範囲”だとも言えません。

 また、“引用”の場合も著作権の効力は及びません。

 引用とは

「引用」とは、例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載しそれを解説する場合のこと(文化庁:著作権なるほど質問箱より抜粋)

というものです。

 著作権法では

(引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

と(条文に従っているのであれば)例外なく引用を認めています。

 ブログに音楽の著作物を用いるケースとして例えば、

ブログの雰囲気づくりのためにメロディーを流す

批評などのためにメロディーや歌詞の一部を掲載する

ことが考えられます。

 条文を鑑みると引用が認められるのは後者だとわかると思います。

 そして引用が認められるためには、判例によって導き出される以下の判断基準を満たしている必要があります。

[1] 主従関係:引用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること
[2] 明瞭区分性両者が明確に区分されていること
[3] 必然性なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性

 例えば、ある歌の歌詞をブログに載せる場合、

その歌詞の一部を持ってきて
  (ブログ本体の記事が“主”で歌詞は“従”)

その歌詞をカギ括弧などで括る
  (明確に区分)

批評のためには対象となる歌詞が必要
  (引用の必然性)

ということであれば上枠の要件を満たします。

 加えて、引用の出所を明示すること(下枠)、引用物を加工しないこと(例えば替え歌にしない)が求められます。

<出所の明示について>
“それぞれのケースに応じて合理的と認められる方法・程度によって行われなければいけないとされていますが、引用部分を明確化するとともに、引用した著作物の題名著作者名などが読者・視聴者等が容易に分かるようにする必要があると思われます。”   
著作権なるほど質問箱(文化庁)から抜粋
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000305

一方、

ブログに歌詞を全部載せて紹介する

ブログの雰囲気づくりのためにメロディーを流す

などの場合は引用の要件は満たさないでしょう。

 JASRACの手続きについて

 JASRACのサイトを見ると「インターネット上での音楽利用」について

 まず音楽利用手続きが“商用配信”か“非商用配信”かで区別されています。

 アフィリエイトは商用配信か、非商用配信か?

 JASRACは「バナー広告やアフィリエイト広告等により収入を伴うWebサイトで音楽を配信する」としています。

 アフィリエイトをやっている場合は商用配信とみなされます。

 手続きや料金については下記リンク先から確認してください。
 http://www.jasrac.or.jp/info/network/business/index.html
 (JASRAC)

 試しに使用料診断を以下の条件でやってみました。

配信者:個人
サイト収入の有無:情報料なし、広告料等収入あり
配信形式:ストリーム
利用内容:歌詞、楽譜の掲載、配信

 使用料は、

・広告料収入の3.5%(最低使用料月額5,000円)

でした。

 

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模倣リスク対策(その6):著作権の活用

2017.06.05

ここまで、

・いかに模倣を早く見つけるか?
・模倣品を発見した場合の対応
・模倣の場所と対応
・ECサイトで模倣品を見つけた場合の対応
・権利の種類と利便性

について触れてきました。

<過去記事>
 模倣リスク対策(その1):いかに模倣を発見するか
 模倣リスク対策(その2):模倣を発見したら
 模倣リスク対策(その3):模倣場所と対策

 模倣リスク対策(その4):ECサイトでの模倣発見時
 模倣リスク対策(その5):権利の種類と利便性

  今回は著作権活用についてです。

 ここまで何度か紹介してきたラップフィルムケース(下の写真)を元に進めていきます(下枠内は単なる前ふり)。

 上写真のラップフィルムケース内にはラップフィルムが入っています。サ〇ンラップの紙ケースがプラスチックケースに変わったようなものです。

 通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。
 全て片手の操作ででき、刃が飛び出した状態に維持させ続けることもできます。写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。

 例えば、料理中に片手がふさがっているとき清潔さが求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。

 商品名は“触らんラップ”です。
(仮想名称なので、ご愛嬌ということで)  

 業務用、個人用にハイスペックな商品として高価格で販売します。

 本商品について確固たる権利(いわゆる“産業財産権”)として以下のものが挙げられます。

  商品の要素 権利
商品名 商標権:触らんラップ
商品デザイン 意匠権:外観全体
刃の出し入れ機構 特許権:内部構造

 こうした権利を世界中で取得しようとしたらおそろしい額の費用が発生します。

 国内での権利取得費用は「知的財産権を取得するための費用は?」を参照してください。
 ざっくりとですが、海外でも権利を取得するのならこの金額が出願国数だけ発生するということになります(と、いうより翻訳などの海外対応費用もある分、国内取得費用を確実に上回ります)。

 さらに特許権侵害の疑いのある商品を発見したとしても、それが本当に権利を侵害するものかどうかには検証が必要です。警察や税関職員も判断しづらいでしょう。

 そこで今回、著作権活用の余地について触れます。

 著作権という権利が商標権や特許権よりも優れた点として

・登録不要なこと
 (著作物を作った時点で著作権が自動的に発生

・ほぼ世界中で保護されること
 (著作権保護に関するベルヌ条約には日本を含め168か国が加盟:2015年1月時点)

が挙げられます。

 権利をいちいちお金をかけて取らなくてもよく、かつ、世界的に保護される。

 これが著作権最大のメリットでしょう。

 また、ゲームや映画の海賊版、勝手にキャラクターのデザインが貼り付けられた商品など、うまく著作物を利用すれば、侵害の疑いのある商品の検知という面でも有用性があります(下枠の例)。

<サザエさん事件>
 古い裁判例ですが、バスの側面に以下のキャラクターデザインを描いたバス会社が著作者に訴訟を提起されたものです。損害賠償金が認められました。
 
 
 権利侵害に該当するか否かという問題はありますが、誰もが容易に検知できるという意味で紹介しました。

 著作権は著作物を創作した瞬間に発生します。

 ここで、著作物とは“思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの”と著作権法2条1項1号に明記されています。

 “思想又は感情を創作的に表現”とはレベルの高さは関係ないので、幼稚園児が描いた絵でも著作物になり得ます。

 以下のようなものが著作物の一例として挙げられます(出典:公益社団法人 著作権情報センター http://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime1.html)。

言語の著作物 論文、小説、脚本、詩歌、俳句、講演など
音楽の著作物 楽曲及び楽曲を伴う歌詞
舞踊、無言劇の著作物 日本舞踊、バレエ、ダンスなどの舞踊やパントマイムの振り付け
美術の著作物 絵画、版画、彫刻、漫画、書、舞台装置など(美術工芸品も含む)
建築の著作物 芸術的な建造物(設計図は図形の著作物)
地図、図形の著作物 地図と学術的な図面、図表、模型など
映画の著作物 劇場用映画、テレビ映画、ビデオソフト、ゲームソフトなど
写真の著作物 写真、グラビアなど
プログラムの著作物 コンピュータ・プログラム
二次的著作物 上表の著作物(原著作物)を翻訳、編曲、変形、翻案(映画化など)し作成したもの
編集著作物 百科事典、辞書、新聞、雑誌、詩集など
データベースの著作物 編集著作物のうち、コンピュータで検索できるもの

 今回の商品には著作物となり得るものがあるでしょうか?

1.商品そのもの

  博多人形や家具(幼児用椅子)が著作物だと認められた例があります(下の写真)。
  

  こうした商品でも純粋美術と同視し得るぐらい美的なものなら著作物性が認められる余地があります。

  今回のフィルムケースについてもそれが言えるでしょうか?
  

  ちょっと難しいと思います(純粋美術レベルだと言いづらいですね)。

  こうした工業的量産品のデザインは“意匠法”で保護されるものです。

純粋美術、同視し得るもの 著作権法
工業的量産品 意匠法

   従って、商品デザインについて著作権法でなく意匠法での保護を考えるべきです。

2.取扱説明書、仕様書、チラシなどの情報資料

   これらは著作物になり得ます。

   

   経済産業HPの相談事例でまさに取扱説明書が模倣された場合のことが掲載されています(以下)。   
   http://www.meti.go.jp/policy/ipr/soudanjirei/tyosaku4.html

3.その他に何かないか?

   設計図面は著作物になり得ます(ただ、設計図面は重要な営業秘密です。しっかり保護することの方が重要ですよね)。

   今回の商品に関連する著作物として思いつくものは以上です。

   一方、先に紹介したサザエさん事件は著作物活用のヒントになり得ると感じます(下枠)。

<商品のシンボルとして著作物を活用>

 サザエさん事件ではバス会社が他人のキャラクターを無断使用したものですが、これが自社の著作物だったらどうでしょうか?

 バスの側面にサザエさんの絵を付すように、キャラクターデザインという著作物(キャラクターに限らず著作物)を商品と一体的に用いることでその商品を(間接的に)著作権で守ることができます。

 識別力のある著作物を“商標”的に使うというイメージです(以下)。
   

 ハローキティのようなものをうまく自社で育てることができれば、(それを付した)模倣品の摘発を容易にできるのではないでしょうか。

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著作権登録の意義は?

2017.06.03

 文章音楽動画プログラムなど著作物を作った瞬間に“著作権”が“自動的に”発生します。

 自動的に発生する、というのは文化庁に登録する必要など一切ないことを意味します(登録しなければいけない、と誤解している人が多いようです)。

 ただし、著作権は特許権や商標権のように早い者勝ちという権利ではありません。

 独自の創作した著作物であれば、どんなに他人の著作物に似ていても(全く同じでも)別個独立に権利が発生するのです。

 独自に創作したのかそうでないのか?誰の権利か?が明確でない場合が多いです。

 これが様々な紛争の元にもなっていますね。

<近年話題となったもの>
・東京五輪エンブレム、ベルギーの劇場ロゴと「酷似」
  (2015年7月29日 日本経済新聞)
  http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG29HG8_Z20C15A7000000/
・佐村河内氏「うそで迷惑かけた」 作曲偽装で会見  
 (2014年3月7日 日本経済新聞)
       http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0701B_X00C14A3CR0000/
・松本零士さんに賠償命令 名誉棄損、槇原敬之さん勝訴
 (2008年12月26日 朝日新聞)
  http://www.asahi.com/showbiz/manga/TKY200812260302.html

 著作権は特許権や商標権と違って権利を得るのに登録する必要はありませんが、登録登録制度があります(下表)。

登録対象 登録の内容及びその効果 申請者
実名 内容 本名を登録できる 無名または変名で公表した著作物の著作者 著作者が遺言で指定する者
効果 著作権の保護期間が公表後50年間でなく、著作者の死後50年間となる
第一発行年月日など 内容 公表年月日を登録できる 著作権者 無名または変名で公表した著作物の発行者
効果 登録されている日に公表されたものと推定される
創作年月日 内容 プログラムの著作物が創作された年月日を登録できる 著作者
効果 登録されている日に当該プログラムの著作物が創作されたものと推定される
著作権・著作隣接権の移転など 内容 著作権などの譲渡や質権の設定などがあった場合に著作権などの登録ができる 登録権利者および登録義務者(登録権利者の単独申請も可)
効果 第三者に対抗できる
出版権の設定など 内容 出版権の設定や質権の設定などがあった場合に出版権の登録ができる 登録権利者および登録義務者 (登録権利者の単独申請も可)
効果 第三者に対抗できる

(文化庁HPを元に作成)

 登録に関するポイントは“効果”のところです。

 例えば「実名」の登録を受けると登録に係る著作物の著作者だと“推定”されます。
 ただし、推定、なので反証によっては否定される可能性があります。

 「第一発行年月日」、「創作年月日」についても同様です。

 「著作権の移転」、「出版権の設定」は権利取引を安心して行うためのものだと言えます。

 例えば、著作権の二重譲渡という問題があります。

 著作権を買い取ったはずなのに他にもその著作権を譲り受けたという者があらわれるかもしれません。

 この場合に登録しておけば、登録していない者に対して自分が著作権者であることを主張(対抗)する根拠になるわけです。

 上記が文化庁の登録制度の効果として挙げられます。

 登録することで権利がよりパワーアップするというものではありませんが、それなりのメリットはあります。

<その他登録のメリット>
 税関に侵害品の差止申請書類として使えます。
 (税関HP:http://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/b_004_5.htm
 また、顧客開拓目的でプログラムなどの著作物を登録し、PR材料にするという企業もあります。

 登録するためにはどうすればよいのか?

 文化庁に所定の申請書類を必要書類とともに提出します。
 約30日で登録、却下の処分がでます。

 なおプログラムの著作物に関しては財団法人ソフトウェア情報センターが指定登録機関として登録事務を行っています。

 各団体に支払う手数料は以下の通りです。

<文化庁>

実名の登録 9,000円/件
第一発行年月日、第一公表年月日 3,000円/件
著作権の移転の登録 18,000円/件
出版権の設定の登録 30,000円/件

※質権設定など手数料が異なるものがありますので詳細は文化庁HP(以下)をご確認ください。http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/toroku_seido/faq.html#faq01

<財団法人ソフトウェア情報センター>

 各種登録いずれも47,100 円/件

 

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ブログと著作権(その5):文章の問題

2017.06.02

 前回、自撮り写真について取り上げました。

<過去記事>
ブログと著作権(その1)
ブログと著作権(その2):漫画の引用
ブログと著作権(その3):写真の引用
ブログと著作権(その4):自撮り写真

 今回は文章について取り上げます。

 文章がないブログというのはそうないのではないでしょうか?(私は見たことがありません)

 文章を書くというのは大変な作業です。

 それだけに他人の文章を自分の文章のように利用しようと思う人は意外に多いかもしれません。

 昨年(2016年)末に問題になった“まとめサイト”の記事問題では文章の著作権侵害が原因の一つになっています。

<関連記事>
DeNA「WELQ(ウェルク)」休止…まとめサイトの問題点と背景は(読売新聞)
DeNAサイト、最大2万本超の記事で著作権侵害か(朝日デジタル)
DeNAサイト、画像74万件で著作権侵害の疑い(日本経済新聞)

 文章は著作物になり得ます。
 文章を作った瞬間に作成者には自動的に著作権が発生します。

 (これまで何度か言ってきましたが)そうした他人の著作物を利用できる場合は次の3つです。

1.著作権が切れている場合

2.権利者から許諾(や著作物を譲渡)してもらった場合、著作権が放棄されている場合

3.引用などの例外規定に該当する場合

 通常、ブログの作成において文章を自力で作成する場合は上記1~3の問題など発生しません。

 独自に創作した文章であるのなら、どんなに類似した他人の文章があったとしてもその文章とは関係なしに著作権が認められるからです。

<ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件>
 既存の著作物を知らないで同一性のある作品を作成した場合の著作権侵害が争われた事件です。

 裁判所は、
 “著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべき”
 “既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はない”
と判断しました。

(事件番号  昭和50(オ)324 著作権不存在等確認及び著作権損害賠償)
(出典:裁判所HP)

<銀河鉄道999の歌詞について争われた事件>
 それぞれ以下の表現があり、著作権侵害を巡って争われました。

 被告表現 “夢は時間を裏切らない、時間も夢を決して裏切らない
 原告表現 “時間は夢を裏切らない、夢も時間を裏切ってはならない

 裁判所は原告表現が被告表現(銀河鉄道999作中の表現)に接したと推認できない(さらに両表現は類似してもいない)と判断しました。

(事件番号 平成19(ワ)4156 著作権侵害不存在確認等請求事件)
(出典:裁判所HP)

 ただ、誰もが知っている表現や一度は接したことがあるであろう表現については不要に使わない方がいいでしょう(上記銀河鉄道999の事件では、歌詞を知っていたんじゃないのか?ということも争点になっていましたので)。

 誰かの文章を参考に加工を施した場合はまとめサイトのような問題が生じる可能性があります。

 加工の程度に応じてどのような問題が生じるかまとめました。

元々の著作物を覚知できるか   著作権侵害の判断
できる 侵害(複製権など)
できない 侵害しない(もはや別の著作物)

 上述したワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件で“著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべき”との判断がありました。

 つまり元々の著作物を認識できるのであれば、それは“複製”行為だと考えられます。
 “同一性保持権”という著作者の人格的権利なども侵害します。

 一方、元々の著作物の存在を認識できないくらい加工しているのであれば、そもそも誰も気づかないので著作権侵害の問題は生じません。

 加工しないものに関しては“引用”であれば著作権侵害に該当しません(下枠)。

(引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 そして引用が認められるためには、判例によって導き出される以下の判断基準を満たしている必要があります。

[1] 主従関係:引用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること
[2] 明瞭区分性両者が明確に区分されていること
[3] 必然性なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性

 例えば、“クラウドファンディング”に関する記事を書くために言葉の定義を引用する場合の例を示します。

 なお、引用したら出所も明示しなければなりません。
 上例では“出典:ウィキペディア”としていますが、出所の明示については文化庁が以下の回答をしています。

<出所の明示について>
“それぞれのケースに応じて合理的と認められる方法・程度によって行われなければいけないとされていますが、引用部分を明確化するとともに、引用した著作物の題名著作者名などが読者・視聴者等が容易に分かるようにする必要があると思われます。”   
著作権なるほど質問箱(文化庁)から抜粋
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000305

 引用に関してはそれほど難しい話ではない(イメージしやすい)と思います。

 ズルせずに自力で文章を作り必要な個所だけ引用する、というスタンスを貫けば文章に関して問題が生じる場合ことはそう多くないのではないでしょうか?

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模倣リスク対策(その5):権利の種類と利便性

2017.06.01

 ここまで、

・いかに模倣を早く見つけるか?
・模倣品を発見した場合の対応
・模倣の場所と対応
 ・ECサイトで模倣品を見つけた場合の対応

について触れてきました。

<過去記事>
 模倣リスク対策(その1):いかに模倣を発見するか
 模倣リスク対策(その2):模倣を発見したら
 模倣リスク対策(その3):模倣場所と対策

 模倣リスク対策(その4):ECサイトでの模倣発見時

   今回は権利の種類と利便性についてです。

 ここまで何度か紹介してきたラップフィルムケース(下の写真)を元に進めていきます。

 上写真のラップフィルムケース内にはラップフィルムが入っています。サ〇ンラップの紙ケースがプラスチックケースに変わったようなものです。

 通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。
 全て片手の操作ででき、刃が飛び出した状態に維持させ続けることもできます。写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。

 例えば、料理中に片手がふさがっているとき清潔さが求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。

 商品名は“触らんラップ”(さわらんらっぷ)です。
(仮想名称なので、ご愛嬌ということで)
 この商品名については指定商品を「プラスチック製包装容器」として国内で商標権を取得したとします。

 業務用、個人用にハイスペックな商品として高価格で販売します。

 本商品について以下の権利を保有しているとします。

  商品の要素 権利
商品名 商標権:触らんラップ
商品デザイン 意匠権:外観全体
刃の出し入れ機構 特許権:内部構造
フィルム保持機構 営業秘密:技術書類を施錠管理

 これを前提にECサイトで次の商品が出てきたとしましょう。

 フィルムケースは紙製ですが刃の出し入れ機構を備えているという説明が記載されていたとします。

 

 商品名といい、刃の出し入れ機構のアイデアといい、明らかにパクリ商品だと言えます。

 こうした模倣品が自分の権利を侵害しているかどうかすぐに判断できるかどうかは重要です。

 侵害と判断しやすいほど短時間で対応ができ、被害を少なく食い止めることができるからです。

 以下で述べるECサイト運営事業者、さらには税関、警察なども明らかな権利侵害だとわかるものほど対応しやすいはずです。

 上記各権利について侵害判断のしやすさともに再整理しました。

  商品の要素/権利 侵害の判断
商品名/商標権(触らんラップ) 容易に判断できる(商標権侵害は商品名およびその商品名が付されている商品から判断する)
商品デザイン/意匠権(外観全体) コピー品の場合は容易だが違いがある場合の類否判断は容易でない。また、ECサイトの紹介だけでは全体デザインが不明なので商品の入手が必要。
刃の出し入れ機構/特許権(内部構造) 刃の出し入れができる商品でも異なる機構(技術)の場合もある。検証が必要。内部機構の問題なのでぱっと見ただけではわからない。商品の入手は必須。
フィルム保持機構/営業秘密(技術書類を施錠管理)  状況による。誰かが情報を持ち出したなどの証拠があるならよいが、そうでなければ独自ノウハウだと主張され得る。

 一般的に判断のしやすさでは1>2>3>4といった感じでしょうか。

 前回、ECサイトにおける模倣品を発見した場合、ECサイト運営事業者への通報・相談が最も効果があるという話をしましたが、上記判断のしやすさはECサイト運営者に通報・相談する上でも重要です。

 商標権侵害であればECサイト運営事業者でも侵害の判断が容易なため、取扱い停止などの対応が取りやすいと考えられますが、特許権侵害を相談してもまず判断できないのではないでしょうか(専門家でも即決できるものではありませんので)?

<その他に容易に判断し得る権利はないのか?>
 
 不正競争防止法の“周知表示混同惹起行為”、“著名表示冒用行為”、“商品形態模倣行為”と言われる不正競争行為に該当する場合が考えられます。

 需要者の間に広く認識された表示や商品形態などが保護されます(参考:下図)。

     
 
 出典:経済産業省 不正競争防止法の概要http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/2012hontai.pdf)

 ただし、商品形態模倣行為は商品が最初に販売された日から3年を経過した商品は適用外になります。

 あと、著作権による保護の可能性も検討の余地があります。

 著作権は著作物の創作と同時に発生する権利であり、登録などは一切不要で、かつ、ほぼ世界中で保護されます(著作権保護に関するベルヌ条約には2015年1月時点で日本を含め168か国が加盟しており、著作権の発生に登録などの手続を必要としない無方式主義を条約上の原則としています)。

 上記商品に著作権を活用し得るかどうかは次回にします。

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