模倣リスク対策(その5):権利の種類と利便性

2017.06.01

 ここまで、

・いかに模倣を早く見つけるか?
・模倣品を発見した場合の対応
・模倣の場所と対応
 ・ECサイトで模倣品を見つけた場合の対応

について触れてきました。

<過去記事>
 模倣リスク対策(その1):いかに模倣を発見するか
 模倣リスク対策(その2):模倣を発見したら
 模倣リスク対策(その3):模倣場所と対策

 模倣リスク対策(その4):ECサイトでの模倣発見時

   今回は権利の種類と利便性についてです。

 ここまで何度か紹介してきたラップフィルムケース(下の写真)を元に進めていきます。

 上写真のラップフィルムケース内にはラップフィルムが入っています。サ〇ンラップの紙ケースがプラスチックケースに変わったようなものです。

 通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。
 全て片手の操作ででき、刃が飛び出した状態に維持させ続けることもできます。写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。

 例えば、料理中に片手がふさがっているとき清潔さが求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。

 商品名は“触らんラップ”(さわらんらっぷ)です。
(仮想名称なので、ご愛嬌ということで)
 この商品名については指定商品を「プラスチック製包装容器」として国内で商標権を取得したとします。

 業務用、個人用にハイスペックな商品として高価格で販売します。

 本商品について以下の権利を保有しているとします。

  商品の要素 権利
商品名 商標権:触らんラップ
商品デザイン 意匠権:外観全体
刃の出し入れ機構 特許権:内部構造
フィルム保持機構 営業秘密:技術書類を施錠管理

 これを前提にECサイトで次の商品が出てきたとしましょう。

 フィルムケースは紙製ですが刃の出し入れ機構を備えているという説明が記載されていたとします。

 

 商品名といい、刃の出し入れ機構のアイデアといい、明らかにパクリ商品だと言えます。

 こうした模倣品が自分の権利を侵害しているかどうかすぐに判断できるかどうかは重要です。

 侵害と判断しやすいほど短時間で対応ができ、被害を少なく食い止めることができるからです。

 以下で述べるECサイト運営事業者、さらには税関、警察なども明らかな権利侵害だとわかるものほど対応しやすいはずです。

 上記各権利について侵害判断のしやすさともに再整理しました。

  商品の要素/権利 侵害の判断
商品名/商標権(触らんラップ) 容易に判断できる(商標権侵害は商品名およびその商品名が付されている商品から判断する)
商品デザイン/意匠権(外観全体) コピー品の場合は容易だが違いがある場合の類否判断は容易でない。また、ECサイトの紹介だけでは全体デザインが不明なので商品の入手が必要。
刃の出し入れ機構/特許権(内部構造) 刃の出し入れができる商品でも異なる機構(技術)の場合もある。検証が必要。内部機構の問題なのでぱっと見ただけではわからない。商品の入手は必須。
フィルム保持機構/営業秘密(技術書類を施錠管理)  状況による。誰かが情報を持ち出したなどの証拠があるならよいが、そうでなければ独自ノウハウだと主張され得る。

 一般的に判断のしやすさでは1>2>3>4といった感じでしょうか。

 前回、ECサイトにおける模倣品を発見した場合、ECサイト運営事業者への通報・相談が最も効果があるという話をしましたが、上記判断のしやすさはECサイト運営者に通報・相談する上でも重要です。

 商標権侵害であればECサイト運営事業者でも侵害の判断が容易なため、取扱い停止などの対応が取りやすいと考えられますが、特許権侵害を相談してもまず判断できないのではないでしょうか(専門家でも即決できるものではありませんので)?

<その他に容易に判断し得る権利はないのか?>
 
 不正競争防止法の“周知表示混同惹起行為”、“著名表示冒用行為”、“商品形態模倣行為”と言われる不正競争行為に該当する場合が考えられます。

 需要者の間に広く認識された表示や商品形態などが保護されます(参考:下図)。

     
 
 出典:経済産業省 不正競争防止法の概要http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/2012hontai.pdf)

 ただし、商品形態模倣行為は商品が最初に販売された日から3年を経過した商品は適用外になります。

 あと、著作権による保護の可能性も検討の余地があります。

 著作権は著作物の創作と同時に発生する権利であり、登録などは一切不要で、かつ、ほぼ世界中で保護されます(著作権保護に関するベルヌ条約には2015年1月時点で日本を含め168か国が加盟しており、著作権の発生に登録などの手続を必要としない無方式主義を条約上の原則としています)。

 上記商品に著作権を活用し得るかどうかは次回にします。

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