投稿者「ae1458hl9e」のアーカイブ

産学連携の留意点

2017.12.05

 企業が大学の研究室と共同研究することは一般的ですが、この場合のリスクは様々です。

 やはりこれは大学の先生にとって企業の知財問題にはあまり興味がない場合が多いからではないかと思います。

 大学の先生の場合、

・学会発表

・研究費

の2つが最大の関心事のような気がします(あくまで私見)。

 知財との関係で言えば、

 学会発表は情報を一般公開するものであり、発表した時点で原則、特許権は取得されなくなりますし、営業秘密として法的保護を受ける価値もなくなってしまいます。

 また、学会発表を聞いた他の企業(例えばライバル企業)がその先生のところに意見交換や共同研究の話を持ち込んでくる可能性があり、その際に、自社と行った研究情報が洩れるリスクもゼロではありません(後から接触した企業が提供する研究費が大きいほどリスク大??)。

 “利益相反”という言葉があります。

 弁理士の場合だとライバル関係にあるA社とB社の競合技術について両者から特許出願の依頼を受けることはできません。恣意的に一方を特許化し、一方を拒絶に追い込むことも可能だからです。これが利益相反のイメージです。

 同じことが大学の研究室にも起こり得るのですが、これに対する規制的なものはないように感じます(綿密に調べていないのでわかりませんが、実態としてはない感じ)。

 大学と共同研究する際には秘密保持契約(NDA)を結ぶ場合が多いと思いますが(私が知っている企業でNDAを結んでいない企業は多いですが)、先生がうっかりしゃべってしまうということを防止するのは意外と難しいのではないでしょうか(酒の勢いでしゃべる、学生から漏れる、etc)?

 この場合、共有する情報のどこからどこまでが自社の重要な財産であるか、他言しないで欲しいこと、を何度となく主張していく(先生の意識を変えていく)しかないかもしれません。

 そのためには自社ノウハウなど所有を主張し得る情報についてあらかじめ自社で検討しておく必要があります(これも意外に難しいか)。

 その他の留意点としては

発明者、権利者を誰にするか(あるいは、持ち分をどうするか)?

という問題が挙げられます(今回、詳細は割愛)。

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ノウハウと特許出願について

2017.12.04

 少し前の話ですが、お客さんからノウハウ技術について特許出願すべきか、すべきでないのか、ということを相談されました。

 “ノウハウ”というと、大企業で言えば、コカ・コーラの製法が有名ですし、国内中小企業ではメッキ処理の分野が挙げられそうです。

 こうした、ちょっとやそっとではマネできないもの(ノウハウ)は“営業秘密”として秘密管理するのが一般的です。

 理由としては、

A-1.特許出願すると一定期間後に一般公開され(出願から1.5年後に特許情報プラットフォームにて公開)、誰もがその情報を見ることができる(もっと言うとこそっと模倣できる)

A-2.模倣行為を阻止するのは困難(例えば、上記コーラを作っている現場に乗り込んで証拠を押さえるのは現実的に不可能)

A-3.特許は出願から20年で消滅してしまう(その後は誰もが自由に利用できる)

といったことが挙げられます。

 こうして見ると、特許出願しない方が良さそうに感じますが、総合的に判断する必要があります。

 特許出願をすることによるリスクは上記の通りですが、特許出願をしないことによるリスクもあります。

 例えば、

B-1.他人の技術レベルが自分と同等か近いものであり、かつ、その他人がノウハウ的な技術についてどんどん特許出願してくる

B-2.他人の出願が特許化され、自社が研究開発した内容を事業化できなくなる

B-3.事業化するのに権利者にライセンスフィーを支払わなければならない

 ということが挙げられます。

 その特許出願よりも前に事業化(あるいは事業化の準備)をしていた場合はその範囲内で“先使用権”(特許法79条)という権利が認められますが、それを超える範囲については制限されてしまいます。

 ライバルが特許という武器を量産する場合、対抗措置が必要になってくるという感じですね(例えがいいのかわかりませんが、現実世界の核武装のような感じ?)。

 上記リスクA(A-1~A-3)の模倣されるリスクとリスクB(B-1~B-3)の自分の事業が制限されるリスクの2つの視点で判断すると、

 模倣されるリスク>自分の事業が制限されるリスク

であれば特許出願しない。

 模倣されるリスク<自分の事業が制限されるリスク

であれば特許出願する。

と考えることもできます。

 また、ノウハウ技術をバカ正直に特許出願せず、ノウハウ部分を隠しつつ、自社の事業実施に(外形的に)必要な技術要素だけ先に特許出願しておけば、(それが特許権にならなくても)少なくとも自社事業の実施はできるでしょう。

 

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セミナー【クラウドファンディングと知財】を開催して

2017.11.02

 昨日(11月1日)、弁理士会館でクラウドファンディングと知財に関するセミナーを開催しました(主催は日本弁理士会関東支部)。

 参考:http://www.jpaa-kanto.jp/chizai_seminars/tokyo20171101.html

 (金融経済新聞に掲載されました)

 当初、定員30名としていましたが、申し込みが予想以上に多かったので増員し、当日は50人近くの参加がありました。

 私が所属する委員会が企画したイベントで、知財資金調達のダブルテーマでした(知財の講演は私が担当しました)。

 クラウドファンディング運営事業者数社にも協力してもらいました。

 各社からそれぞれクラウドファンディングに関する興味深い話があったのですが、私の文章ではそのニュアンスが伝わりそうもないので“かなり面白かった”とだけ言っておきます。

 協力してくれたのはレディーフォー朝日新聞きびだんごの3社です。各社からCF立ち上げ秘話や関わったプロジェクトなど具体事例を交えた話をしてもらいました。

 レディーフォーはクラウドファンディングの先駆け的な存在で寄付的なプロジェクトが多い点に特徴があります。寄付的、というと慈善事業プロジェクトをイメージするかもしれませんが、ものづくり系プロジェクトも全然アリですね。

 朝日新聞はメディアに強い点が特徴です。これは良いというプロジェクトが新聞に掲載されるというのは、まさに新聞社のCFプラットフォームという感じです。また、自社だけでなく他紙にもどんどん発信しているとのことです。

 きびだんごはモノづくりを中心に成功後のプロジェクトのイベントを開催したりするなど手厚い対応をしている点が特徴です。創業した松崎さんは自身もCFマニアでキックスターターの多くのプロジェクトの支援者になっているのだとか(今週11月4日のズームインサタデーにCFマニアということで出演するらしいです)。

 CFに挑戦したいという人には、まず、どのプラットフォームを使ったらいいのか、という最初の壁が立ちはだかります。

 今回は、利益度外視で各事業者に来てもうことができた点が良かったのかもしれません。

 大変好評だったので、年度内に第2弾を企画できればと考えています。

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クラウドファンディングで資金不足?

2017.10.19

 先日、クラウドファンディング実行者を顧客に持つ弁理士から聞いた話です。

 クラウドファンディングを活用して逆に運転資金にやりくりに苦労したということでした。

 クラウドファンディングの欠点云々というより、クラウドファンディング活用の際の留意事項として見ていただければと思います。

 モノづくりプロジェクトを想定してください。

 例えば、量産化のための費用(例えば金型費)をクラウドファンディングで集め、資金提供者には完成品をリターン品として送る、というプロジェクトです。

 この場合のフローイメージは下図の通りです。
  

 プロジェクトを公開して資金提供者を募集し、お金が集まったら早速量産化体制に向けて活動開始です(実行者は上図赤線の間で量産化し、リターンせねばなりません)。

 ここで集まった資金が実行者の口座に(CF運営事業者を介して)振り込まれるまでにタイムラグが発生します。

 ここが落とし穴になり得ます。

 資金の振込み日がプロジェクト終了日に属する月の翌々月、という決まりになっていたら、入金までにヘタすると2カ月待たされることになります。

 リターン品の遅延は炎上の原因になりかねませんので、それまでの間、ボーッとしているわけにはいきません。
 上記の件では、約束の日に間に合わせるために金融機関からお金を借りるはめになったらしいのですが、何とも変な気持ちになります。

 ではどうすればいいのか?ですが、

 リターン品の届出日を余裕をもって設定する、ということだと思います。

 ただ、入金まで指をくわえてボーッとしていなければならないという点で根本的な対策になっているとは言い難いです。
 作ったモノをできるだけ早く事業化し、模倣者にキャッチアップされる前に世間に浸透させることも重要ですから。

 話は変わりますが、最近では、公開中のプロジェクトに「特許出願中」とか「登録商標」というコメントを記載しているものを見かけるようになりました。
 上記のような足踏み時の知財対策の一つになり得るでしょう。

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クラウドファンディング:東京都の資金調達支援事業

2017.10.18

 今月2日から東京都クラウドファンディングを活用した資金調達支援事業を始めました(今回は知財は関係ありません)。

<参考記事>
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/09/22/09.html

 簡単に言うと、クラウドファンディングの事業者仲介手数料を東京都が一部負担するというものです(下図:スキーム)。

 都が負担してくれる額は仲介手数料の50%上限が30万円です。

 現在、クラウドファンディングの資金調達額は平均すると50~150万円がボリュームゾーンと考えられますので、この調達金額より多少多めの調達額に対応した設定になっています。

 仮に手数料が20%の事業者のプラットフォームを利用したとすると、お金が300万円集まったプロジェクトのときに手数料は60万円(=300万円×0.2)、この場合にMAX負担額である30万円を都が負担することになります。

 この事業ですが、CF運営事業者に対する補助事業という位置づけですので(実行者に対して補助金を出すのではなくCF運営事業者に対して補助金を出すというスタンス)、CF実行者からは詳細が見えにくです。

 公開情報を元に整理してみました(参考:東京都HP、「クラウドファンディングを活用した資金調達支援」に係る取扱クラウドファンディング事業者募集要項)。

<対象となるCF>

次の6社(6プラットフォーム)によるCFが対象です。

企業名 プラットフォーム
株式会社サーチフィールド FAAVO(ファーボ)
株式会社ワンモア GREEN FUNDING(グリーンファンディング)
株式会社JGマーケティング JAPANGIVING(ジャパンギビング)
株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング Makuake(マクアケ)
株式会社Motion Gallery Motion Gallery(モーションギャラリー)
READYFOR株式会社 Readyfor(レディーフォー)

<想定する実行者>

 主な要件を列挙します(以下のいずれにも該当すること)。

1.創業者(創業5年未満含む)、又は、新製品・サービスの創出に挑戦する者、又は、「都民ファーストでつくる『新しい東京』~2020年に向けた実行プラン」記載されたニーズの解決を図るソーシャルビジネスを行う者

2.都内に主たる事業を置く者(計画を有する者含む)

3.中小企業信用保険法第2条に該当すること(中小企業や個人であること)

3.大企業が実質支配していないこと

4.その他、宗教、政治、反社会的なものでないこと等

 CF利用者の多くは中小企業や個人であろうと考えると、ネックとなりそうなのは上記1と2ではないでしょうか(都内創業予定者、又は、都内で創業して5年未満)?

 ちなみにこの確認はCF事業者が行うようです。

<補助金交付限度額>

 平成29年度3,000万円です。

 プロジェクト1件あたりの平均負担額によりますが、仮に10万円とすると300件相当になります。

 対象が都内創業者(創業予定者)に限定されることを考えると、要件を満たしていれば今回の補助金を活用できる人はそれなりにいるのかもしれませんね??

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知的財産権の譲渡や相続

2017.07.05

 会社の事業承継や遺産相続などにおいて“この権利は誰のものだ?”と争いになることも多いのかもしれません。

 特許権や商標権、著作権などは“知的財産権”と言われるように財産ですので相続の対象になります。

 ここで、金銭などの有形財産であればそれを手にすることができる者は自ずと限られてきます。

 一方、知的財産権とは相手にそれをライセンスしたりできる“権利”、つまり無形物であるため、誰がそれを有しているのか判断することが難しいですし、同時に多数の人がそれを利用することもできます。

例えば、
親が興した会社に2人の息子がいて、1人が会社を継ぎ、もう一人は同じ看板(商標権)の会社を新たに興して紛争になった例があります。

 親族の遺産相続だけなく、共同創業者がスピンアウトするようなケースも考えれます。


1.特許権、実用新案権、意匠権、商標権の場合

 これらの権利は特許庁に出願し、審査などを経て、登録料を納め、初めて登録される権利です。

 まず誰の名義で出願したか?

 法人名義で出願した場合はその法人が権利者となります。

 従って、その法人から離脱した人が無断で当該権利を使用したら権利侵害になります。

 社長名義で出願した場合はその社長が権利者になります。

 この場合においてその社長が亡くなると通常の遺産と同じように息子などに遺産相続されます。

 これは“一般承継(包括承継)”(権利を一括して承継すること)と言われるもので、法的には社長が有していた権利を息子が登録しなくてもその効力は認められます(ただし、必要書類を添付した移転登録申請書にて移転登録を行うのが一般的です)。

 正当な権利者は自分だけだ!、といった骨肉の争い的なものについては特許法などの産業財産権法が決するものではありませんので、当事者間でよく話し合うべき、というだけです。

 上記のように相続以外では企業合併が“一般承継”であり、やはり法的に登録しなくても権利の効力が認められます。

 権利者が社長個人だった場合に誰か他人にその権利を譲渡した場合、あるいは跡継ぎの誰かに生前贈与する場合はどうか?

 これは権利を一括して承継する“一般承継”とは違い、特許権など特定の権利を承継させる“特定承継”と言われるものになります。

 特定承継の場合は移転登録をしないとその効力が発生しません。

 特許庁への手続きが必須です。

 ここまでを整理します。

承継の種類 具体例 移転登録手続き
一般承継 相続、合併など 不要
特定承継 贈与、販売など 必要

※必要書類を添付した移転登録申請書にて移転登録を行うのが一般的

2.著作権の場合

 著作権は文化庁に登録しなくても発生する権利です(著作物を創作したのと同時に発生)。

 登録しなくても効力を有する点が上記1の特許権などと大きく異なる点です。

 ただ、著作権にも登録制度は存在します。

 著作権は上述したように無形な権利ですから、二重譲渡などの問題が起こり得ます。

 著作権を譲渡するという契約だけでもその効力は発生するのですが、登録制度はより安心して著作権を譲渡するために設けられていると言えます。

 文化庁に移転登録の手続申請することで登録した者は自分が権利者であることを第三者に主張できます(これを“対抗”と言います)。

 将来、争いの予感がする場合は事前によく話し合い、念のため登録もしておく、というのが良いでしょう。

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情報流出リスク対策(その2):退職社員対策

2017.06.22

 前回記事「情報流出リスク対策」にて情報流出の原因者として中途退職者が最も多いというデータを挙げました。

 顧客情報などの営業情報から製造ノウハウなどの技術情報まで経営にとって致命傷になり得る情報の持ち出しリスクがあります。

 どのような情報の流出が多いのか以下のデータがあります。

 

 最も多いのが“顧客情報、個人情報”です。

 営業に直結する情報だと言えます。

 製造やサービス提供に関する“ノウハウ”の流出も多いですね。

 退職者によってどのようなリスクがあるか?

 退職者が営業や技術のキーマンである場合、その人物が退職すること自体が企業にとっての損失となります。

 営業担当者であれば売上が低下し、技術担当者であれば開発力や技術品質が低下します。

 管理者であれば組織の管理運営に支障がでることが考えられます。

 さらに退職者が競合企業に移転するリスクが挙げられます。

 営業担当者であれば顧客を奪われるリスクがありますし、技術担当者であれば技術ノウハウを使われるリスクがあります。

 また、顧客情報や製品設計情報等を持ち出しされてしまうと企業としての信用を失ってしまいます。

 どのような退職者対策をすべきか?

 前回記事では情報の持ち出しなどを防ぐ具体的な対策を挙げました。

 USBメモリなどでの物理的に持ち出しができないようにするのは一つの対策です。

 一方、契約にて退職者に競業避止義務を課すことも考えられます。

 競業避止義務は秘密保持義務などと比べて義務違反の立証が容易であり、義務違反の事実をもって差止、損害賠償を請求することができます。

 一方、退職者にこうした義務を課すにあたっては、憲法上の「職業選択の自由」(憲法22条)との関係を十分注意する必要があります。

 競業避止義務契約締結にあたってのポイントを以下にまとめました。

最初に考慮すべきポイント ・企業側に営業秘密等の守るべき利益が存在する
・上記守るべき利益に関係していた業務を行っていた従業員等特定の者が対象
有効性が認められる可能性が高い規定のポイント ・競業避止義務期間が1年以内となっている
・禁止行為の範囲につき業務内容や職種等によって限定を行っている
・代償措置(高額な賃金など「みなし代償措置」といえるものを含む)が設定されている
有効性が認められない可能性が高い規定のポイント ・業務内容などから競業避止義務が不要である従業員と契約している
・職業選択の自由を阻害するような広汎な地理的制限をかけている
・競業避止義務期間が2 年超となっている
・禁止行為の範囲が、一般的・抽象的な文言となっている
・代償措置が設定されていない
労働法との関係におけるポイント ・就業規則に規定する場合については、個別契約による場合がある旨を規定しておく
・当該就業規則について、入社時の「就業規則を遵守します」などの誓約書を通じて従業員の包括同意を得るとともに、十分な周知を行う

参考:競業避止義務契約の有効性について 経済産業省(http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/sankoushiryou6.pdf)

 より重要な秘密に関係していた退職者には秘密保持契約を個別に締結することが望まれます。

 秘密保持義務締結にあたってのポイントを以下にまとめました。

対象となる情報の範囲 情報の特定方法例
・「~に関するデータ」「~についての手順」と概括的な概念による特定
・ファイル名により指定するなど媒体による特定
・「特許請求の範囲」のような詳細な特定
在職時及び退職時の秘密保持義務の内容 ・複製、社外持ち出し、送信(アップロードなど)の禁止
・適正な管理及び管理への協力
・退職時の記録媒体の返還、確実な廃棄
・第三者の秘密に対する守秘義務の遵守
例外規定 営業秘密に該当しないものは除外
・公知情報
・公知となった情報
・第三者から守秘義務を課されることなく取得した情報
秘密保持期間 ・「プロジェクト終了後(退職時も含む)において も・・・」
・在職中および退職後○年間
義務違反に対する措置 ・営業秘密の要件が満たされれば、不正競争防止法に基づき、差止め、損害賠償、信用回復措置が請求
・契約の範囲で損害賠償義務等を規定

情報源:営業秘密管理(実践編)経済産業省 知的財産政策室 平成25年8月

<名刺は保護される情報か?>
  
 企業にとって営業社員が集めた名刺ファイル(名刺の束)は財産と言えます。

 不正競争防止法上、「営業秘密」とは、①秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に②有用な技術上又は営業上の情報であって、③公然として知られていないものをいう、とあります。

 名刺ファイルについて営業秘密として法的に保護を受けるためには、
秘密情報である表示を付す、従業員に対して保管指示をし
名刺ファイルを秘密管理している
などの必要があります(これらは営業秘密として最も重要な上記①の“秘密管理”の要件を満たすためです。上記②の“有用性”や上記③の“非公知”は上記①の要件に比べると緩いと言われています)。

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クラウドファンディングと知財リスク(その2)

2017.06.21

 プロジェクト実行者と支援者がともに国内居住者であれば、日本という閉じたエリア内での話ということですので、基本的に考えるべきは国内の法律ということになります。

 一方で資金調達を海外からも行う場合は問題が複雑になります。

 海外との商取引だと考えられ、国内法だけでなく、支援者が居住する関係国の法律も関係してくるからです(下イメージ図)。

 

 クラウドファンディングについては過去記事をご覧ください(知財リスクについては下枠の“事例で見るクラウドファンディングの知財リスク対策”参照)。

<クラウドファンディング関連記事>
クラウドファンディングとは
クラウドファンディングプラットフォーム(購入型)
クラウドファンディングの流れと留意点
事例で見るクラウドファンディングの流れと留意点
事例で見るクラウドファンディングの知財リスク対策
知財融資:クラウドファンディング連動
クラウドファンディングによる市場予測

 知財リスクに関する基本的な考え方は国内でも海外でも変わるものではありません。

 ここでは知的財産権のうち、特許権、実用新案権、意匠権の3つの権利(“特許権等”と言うことにします)、商標権、著作権に分けて考えます。

1.特許権等(特許権、実用新案権、意匠権)について

 これらの権利は国内と海外で権利の取得状況として次のパターンが考えられます。

<権利の有無と取引の制限について>
 モノづくり系プロジェクトにおいて完成品をリターン品として設定するケースを想定。

  国内 海外 プロジェクト起案者の取引制限と第三者による模倣リスク
  自分 第三者 自分 第三者
制限無、模倣リスク大
制限無、海外模倣リスク大
制限無、模倣抑止可
プロジェクト実行不可
海外から資金調達不可
プロジェクト実行不可

 技術やデザインはそれが守秘義務のない者に知れわたった時点で、原則権利化できなくなります。

 従って上記①のように何も権利を取得せずにクラウドファンディングプラットフォームで技術内容や商品デザインについて公開すると、原則、誰も権利を取得でなくなります

 従って第三者の権利によってプロジェクトが制限されることはなくなりますが、代わりに第三者の模倣を止めることができなくなります

 気をつけておきたいのが上記⑤の場合です。

 国内で権利化されていないからといって、海外支援者との取引行為は権利侵害になります。

2.商標権について

 商標権について気をつけておきたいのは、商標登録の対象となり得る商品名やマークなどは守秘義務のない者に知られても権利化できなくなるものではないことです。

 つまり、特許権等と違って商標権を取得しないまま商品名や商品マークを公開していると、権利化されていないことに気づいた第三者に商標権を先取りされることがあるということになります。

 その場合、商品名を変更するなどして当該第三者の商標権を回避しなくてはならなくなります。

3.著作権について

 著作権の特徴は著作物を作った瞬間に著作権が(無登録で)自動的に発生し、全世界的に保護されること、どんなに似たものがあったとしても、それが独自の創作されたものであるなら別個に存在すること、が挙げられます。

 クラウドファンディングプラットフォーム上でプロジェクトを公開する行為は、その中に含まれる著作物(文章、写真、音楽、動画、デザインなど)を全世界に発信するということです。

 他人の著作物の無断利用は加工を含めて避けるべきでしょう。

 

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クラウドファンディングと知財リスク

2017.06.20

 前回、米国クラウドファンディングのキックスターターの日本版ができるということで、国内クラウドファンディングと比較してみました。

 現行の国内クラウドファンディングよりも高額調達できるのかなど、現時点ではよくわからないことが多いです。

 一方で、資金調達先が海外まで広がるということになると、知的財産権のことが懸念事項として挙げられます。

 そこで知的財産リスクについて懸念事項を整理してみます。

<クラウドファンディング関連記事>
クラウドファンディングとは
クラウドファンディングプラットフォーム(購入型)
クラウドファンディングの流れと留意点
事例で見るクラウドファンディングの流れと留意点
事例で見るクラウドファンディングの知財ポイント
知財融資:クラウドファンディング連動
クラウドファンディングによる市場予測

 資金調達し、支援者にリターン品を届けるという典型的な購入型クラウドファンディングについて考えます。

 プロジェクト起案者(資金調達したい人)プロジェクト支援者(支援金を払う人)居住地から次の4パターンがあります。

  起案者
国内 海外
支援者 国内
海外

 上記①は国内で完結する従来的なクラウドファンディングです。

 上記③及び④は現在、海外で展開しているクラウドファンディングです(今回はこれは無視します)。

 上記②は起案者が国内、支援者が海外。キックスターターのような海外のクラウドファンディングプラットフォーム運営事業者が日本上陸した場合に出てくるであろう新たなパターンです(下イメージ図)。

上記①のケース(起案者、支援者ともに国内)

 この場合、東京と北海道で取引(支援金とリターン品のやりとり)をしようが、東京と九州で取引をしようが問題になるのは国内法です。

 

 基本的に国内の特許法や商標法など気をつけていれば問題にはなりません。

 これまでの記事で知財リスクと対策について説明してきた通りです。

上記②のケース(起案者国内、支援者海外)

 この場合は支援者居住国の法律にも気をつけなければなりません。

 

 インターネットを通じた取引とはいえ、相手国内で商売をしているのと変わりはありませんので。

 以上をざっくりと整理すると、

  日本の法律 関係国の法律
起案者、支援者ともに国内
起案者国内、支援者海外

ということになります。

 特許権や商標権は国ごとに別個独立して存在し得ます。

 例えば、プロジェクトに関する商品名について日本で商標権を取得していたとしても、その商標権は国内限定の権利です。

 資金提供者の居住国で同じ種類の商品に同一又は類似する名称の商標権が取られれていること(このままだとその国の商標権を侵害してしまうこと)もあり得る話です。

 (つづく)

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キックスターターについて

2017.06.19

 これまで国内の事業者が運営するクラウドファンディングプラットフォームについて触れてきました。

<クラウドファンディング関連記事>
クラウドファンディングとは
クラウドファンディングプラットフォーム(購入型)
クラウドファンディングの流れと留意点
ラップフィルムケース(新商品)で見るクラウドファンディングの流れと留意点
ラップフィルムケースで見るクラウドファンディングの知財ポイント
知財融資:クラウドファンディング連動
クラウドファンディングによる市場予測

 ここにきて海外のクラウドファンディング運営事業者であるKickstarter(キックスターター)が日本上陸すると話題になっています。

 

 キックスターターはアメリカのクラウドファンディングプラットフォームです。

 

 日本にあるクラウドファンディングプラットフォームと何が違うのか整理してみたいと思います。

<規模>

 国内のクラウドファンディング市場は2016年度見込みで478億円。このうちモノづくりなどのビジネス系プロジェクトが多い“購入型”クラウドファンディングは1割弱(50億円弱)です(矢野経済レポートサマリーより)。

 

  (出典:矢野経済レポートサマリーhttp://www.yanoict.com/report/12494.html)

 一方、キックスターターのサイトを見ると、2009年に事業を開始し、支援金31億ドル、126,558件のプロジェクト成功という実績が明記されています。国内のプラットフォームとは規模を比べると、少なくとも桁が一つ違う感じです。

 本記事作成時にキックスターターのサイトを開いて出てきたプロジェクトに以下のものがあります。

 

 レトロな(?)ゾンビゲームのようなものに約300万ドル(1ドル100円とすると3億円)集まっています。

 中には1,000万ドル以上集めたプロジェクトもあります(例えば以下のプロジェクト)。

 

 この規模感の違いが最大のポイントだと思います。

 現在、国内クラウドファンディングの最高調達額はプラットフォームによって違いがありますが5,000万円~1億円という規模感です。

 成功プロジェクトの多く(平均調達金額)は100万円程度だと言われています。

 この調達金額がもし1桁上がるのであればプロジェクト実行者にとっての利用価値も全く違ってくるでしょう。

<ルール>

 日本でどのような運用になるのかはわかりませんので、現行(海外)ルールに基づき、国内の購入型クラウドファンディングと比べてみます。
 (以下、キックスターターHPのFAQより)

 ★All-or-nothing(オールオアナッシング)

  集まった金額が目標金額に1円でも足りなかったら支援金が手に入らないルールです。
  国内クラウドファンディングでは、目標金額に達しなくても支援金額を手にできるAll-in(オールイン)を併用しているプラットフォーム運営事業者が多い点とは対照的です。

 ★手数料

  キックスターターが5%、支払い処理事業者が3-5%です。全体として10%程度ですね。
  国内クラウドファンディングはプラットフォーム運営事業者によって手数料が違います(8%から20%台のところまで)。
  支援金を手にできなかった場合に手数料が発生しない点は共通です。

 ★プロジェクトのタイプ

  キックスターターには「Art」、「Comics」、「Crafts」、「Dance」、「Design」、「Fashion」、「Film&Video」、「Food」、「Games」、「Journalism」、「Music」、「Photograhy」、「Pubishing」、「Technology」、「Theater」の15のカテゴリーがあります。
 これは国内のプラットフォームとほとんど差がないと思います。
 やはり、モノづくり系プロジェクトが多いでしょうか。

<今後どうなるか?>

 ☆高額調達の可能性について

  現在の国内クラウドファンディングは支援者の大半が国内在住者です。
  資金提供者が国外の人たちにまで広がれば当然調達金額は大きくなると考えられます。

 ☆リターンについて

  海外からの資金提供者に対して何をリターンにするかは大きなポイントになると思います。
  実際に出来上がったモノを提供します、というリターン設定に配送費が占める割合は大きくなるでしょう。
  また、店舗系プロジェクトでよく設定される“会員権”や“割引”も意味がないでしょう(そう簡単に現地に行けませんので)。
  モノづくり系でもネットを通じて提供できるもの(プログラムやデジタル化できるコンテンツ)であればこうした問題はクリアできそうです。

 ☆知的財産リスクについて

  プロジェクト実行者も支援者も国内であれば問題になるのは国内法ですが、国を超えた取引ということになれば相手国のことも考えなければならなくなります。リスクは大きくなります。
  これは別の記事にします。

 

 

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