知的財産権の譲渡や相続

2017.07.05

 会社の事業承継や遺産相続などにおいて“この権利は誰のものだ?”と争いになることも多いのかもしれません。

 特許権や商標権、著作権などは“知的財産権”と言われるように財産ですので相続の対象になります。

 ここで、金銭などの有形財産であればそれを手にすることができる者は自ずと限られてきます。

 一方、知的財産権とは相手にそれをライセンスしたりできる“権利”、つまり無形物であるため、誰がそれを有しているのか判断することが難しいですし、同時に多数の人がそれを利用することもできます。

例えば、
親が興した会社に2人の息子がいて、1人が会社を継ぎ、もう一人は同じ看板(商標権)の会社を新たに興して紛争になった例があります。

 親族の遺産相続だけなく、共同創業者がスピンアウトするようなケースも考えれます。


1.特許権、実用新案権、意匠権、商標権の場合

 これらの権利は特許庁に出願し、審査などを経て、登録料を納め、初めて登録される権利です。

 まず誰の名義で出願したか?

 法人名義で出願した場合はその法人が権利者となります。

 従って、その法人から離脱した人が無断で当該権利を使用したら権利侵害になります。

 社長名義で出願した場合はその社長が権利者になります。

 この場合においてその社長が亡くなると通常の遺産と同じように息子などに遺産相続されます。

 これは“一般承継(包括承継)”(権利を一括して承継すること)と言われるもので、法的には社長が有していた権利を息子が登録しなくてもその効力は認められます(ただし、必要書類を添付した移転登録申請書にて移転登録を行うのが一般的です)。

 正当な権利者は自分だけだ!、といった骨肉の争い的なものについては特許法などの産業財産権法が決するものではありませんので、当事者間でよく話し合うべき、というだけです。

 上記のように相続以外では企業合併が“一般承継”であり、やはり法的に登録しなくても権利の効力が認められます。

 権利者が社長個人だった場合に誰か他人にその権利を譲渡した場合、あるいは跡継ぎの誰かに生前贈与する場合はどうか?

 これは権利を一括して承継する“一般承継”とは違い、特許権など特定の権利を承継させる“特定承継”と言われるものになります。

 特定承継の場合は移転登録をしないとその効力が発生しません。

 特許庁への手続きが必須です。

 ここまでを整理します。

承継の種類 具体例 移転登録手続き
一般承継 相続、合併など 不要
特定承継 贈与、販売など 必要

※必要書類を添付した移転登録申請書にて移転登録を行うのが一般的

2.著作権の場合

 著作権は文化庁に登録しなくても発生する権利です(著作物を創作したのと同時に発生)。

 登録しなくても効力を有する点が上記1の特許権などと大きく異なる点です。

 ただ、著作権にも登録制度は存在します。

 著作権は上述したように無形な権利ですから、二重譲渡などの問題が起こり得ます。

 著作権を譲渡するという契約だけでもその効力は発生するのですが、登録制度はより安心して著作権を譲渡するために設けられていると言えます。

 文化庁に移転登録の手続申請することで登録した者は自分が権利者であることを第三者に主張できます(これを“対抗”と言います)。

 将来、争いの予感がする場合は事前によく話し合い、念のため登録もしておく、というのが良いでしょう。

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