情報流出リスク対策(その2):退職社員対策

2017.06.22

 前回記事「情報流出リスク対策」にて情報流出の原因者として中途退職者が最も多いというデータを挙げました。

 顧客情報などの営業情報から製造ノウハウなどの技術情報まで経営にとって致命傷になり得る情報の持ち出しリスクがあります。

 どのような情報の流出が多いのか以下のデータがあります。

 

 最も多いのが“顧客情報、個人情報”です。

 営業に直結する情報だと言えます。

 製造やサービス提供に関する“ノウハウ”の流出も多いですね。

 退職者によってどのようなリスクがあるか?

 退職者が営業や技術のキーマンである場合、その人物が退職すること自体が企業にとっての損失となります。

 営業担当者であれば売上が低下し、技術担当者であれば開発力や技術品質が低下します。

 管理者であれば組織の管理運営に支障がでることが考えられます。

 さらに退職者が競合企業に移転するリスクが挙げられます。

 営業担当者であれば顧客を奪われるリスクがありますし、技術担当者であれば技術ノウハウを使われるリスクがあります。

 また、顧客情報や製品設計情報等を持ち出しされてしまうと企業としての信用を失ってしまいます。

 どのような退職者対策をすべきか?

 前回記事では情報の持ち出しなどを防ぐ具体的な対策を挙げました。

 USBメモリなどでの物理的に持ち出しができないようにするのは一つの対策です。

 一方、契約にて退職者に競業避止義務を課すことも考えられます。

 競業避止義務は秘密保持義務などと比べて義務違反の立証が容易であり、義務違反の事実をもって差止、損害賠償を請求することができます。

 一方、退職者にこうした義務を課すにあたっては、憲法上の「職業選択の自由」(憲法22条)との関係を十分注意する必要があります。

 競業避止義務契約締結にあたってのポイントを以下にまとめました。

最初に考慮すべきポイント ・企業側に営業秘密等の守るべき利益が存在する
・上記守るべき利益に関係していた業務を行っていた従業員等特定の者が対象
有効性が認められる可能性が高い規定のポイント ・競業避止義務期間が1年以内となっている
・禁止行為の範囲につき業務内容や職種等によって限定を行っている
・代償措置(高額な賃金など「みなし代償措置」といえるものを含む)が設定されている
有効性が認められない可能性が高い規定のポイント ・業務内容などから競業避止義務が不要である従業員と契約している
・職業選択の自由を阻害するような広汎な地理的制限をかけている
・競業避止義務期間が2 年超となっている
・禁止行為の範囲が、一般的・抽象的な文言となっている
・代償措置が設定されていない
労働法との関係におけるポイント ・就業規則に規定する場合については、個別契約による場合がある旨を規定しておく
・当該就業規則について、入社時の「就業規則を遵守します」などの誓約書を通じて従業員の包括同意を得るとともに、十分な周知を行う

参考:競業避止義務契約の有効性について 経済産業省(http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/sankoushiryou6.pdf)

 より重要な秘密に関係していた退職者には秘密保持契約を個別に締結することが望まれます。

 秘密保持義務締結にあたってのポイントを以下にまとめました。

対象となる情報の範囲 情報の特定方法例
・「~に関するデータ」「~についての手順」と概括的な概念による特定
・ファイル名により指定するなど媒体による特定
・「特許請求の範囲」のような詳細な特定
在職時及び退職時の秘密保持義務の内容 ・複製、社外持ち出し、送信(アップロードなど)の禁止
・適正な管理及び管理への協力
・退職時の記録媒体の返還、確実な廃棄
・第三者の秘密に対する守秘義務の遵守
例外規定 営業秘密に該当しないものは除外
・公知情報
・公知となった情報
・第三者から守秘義務を課されることなく取得した情報
秘密保持期間 ・「プロジェクト終了後(退職時も含む)において も・・・」
・在職中および退職後○年間
義務違反に対する措置 ・営業秘密の要件が満たされれば、不正競争防止法に基づき、差止め、損害賠償、信用回復措置が請求
・契約の範囲で損害賠償義務等を規定

情報源:営業秘密管理(実践編)経済産業省 知的財産政策室 平成25年8月

<名刺は保護される情報か?>
  
 企業にとって営業社員が集めた名刺ファイル(名刺の束)は財産と言えます。

 不正競争防止法上、「営業秘密」とは、①秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に②有用な技術上又は営業上の情報であって、③公然として知られていないものをいう、とあります。

 名刺ファイルについて営業秘密として法的に保護を受けるためには、
秘密情報である表示を付す、従業員に対して保管指示をし
名刺ファイルを秘密管理している
などの必要があります(これらは営業秘密として最も重要な上記①の“秘密管理”の要件を満たすためです。上記②の“有用性”や上記③の“非公知”は上記①の要件に比べると緩いと言われています)。

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