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知財保険

2017.05.22

 前回の記事「事業リスクと保険」では事業の中における“知財リスク”について触れました。

 “知財”というと最新技術の限られた分野のリスクという印象があるかもしれませんが、企業のブランド化に直結する重要な要素です。

 前回も挙げましたが、例えば消費者に認知される商品名やマークを維持することはブランド化と密接な関係があります(下イメージ図)。
 

 ブランド化のためには長期的な視点からどのような権利を確保しておくべきか、など十分に検討する必要があります。

 ただし、それでもトラブルが発生する場合があります。
 中には第三者からの言いがかり的なものもあるでしょう。

 こうした知財に関するトラブル対策の一つに“保険”が挙げられます。

 これまで知財保険は各損害保険会社であまり積極的に売られてきませんでしたが、最近は状況に少し変化が見られます(知財重視の風潮が高まってきました)。

 特許庁海外知財訴訟費用保険について紹介しています。

 日本商工会議所などを介し、損保ジャパン日本興亜東京海上日動火災三井住友海上火災の3社が保険を引き受けています(下図)。

 
 (出典:特許庁https://www.jpo.go.jp/sesaku/shien_sosyou_hoken.htm)

 特許庁HPには各損保会社の保険パンフレットが貼り付けられています。
 

 この商工会議所を介した海外知財訴訟費用保険について公開情報に基づき整理してみます。
 引き受けの条件は損保会社によって異なる部分があると思いますので以下はあくまで目安です。

加入対象 中小企業基本法に定める中小企業(※1)であり商工会議所の会員事業者
補償対象 現地法人がない場合/現地法人がありその現地法人と契約関係がある現地販売店がある場合 (東京海上パンフより)
保険適用地域 全世界(日本・北朝鮮を除く) 
支払限度額 500万円/1,000万円/3,000万円/5,000万円
免責金額 10万円
保険料 国から半額助成(国の予算上限額に達するまで)(※2)
保険の対象係争 第三者の知的財産権(※3)を侵害したこと、侵害のおそれがあることを理由に第三者から訴訟の提起等(※4)を受けた場合
 保険の補償費用  訴訟費用(弁護士費用、鑑定費用、その他の費用)(ただし、敗訴の場合の損賠賠償金等は対象外
 加入に当たっての確認事項 ・保険対象地域の売上高(実績がない場合は事業計画) 
・中小企業

※1 中小企業の定義(中小企業基本法に基づく)

業種 資本金   従業員数
小売業 5,000万円以下 または 50人以下
卸売業 5,000万円以下 または 100人以下
サービス業 1億円以下 または 100人以下
製造業その他 3億円以下 または 300人以下

※2 損保ジャパンのパンフによるとアジア全域での売上高が1億円の場合、保険銀額500万円で保険料は10万円(助成により半分補助)、保険金額1,000万円で保険料は20万円(助成により半分補助)とあります。

※3 ここで言う知的財産権とは(下表は三井住友海上のパンフより)

特許権 新たな発明を行ったものがもつ権利
実用新案権 物の形状・構造等に関する考案に与えられる権利
意匠権 物品の形状・模様・色彩のデザインに関する権利
商標権 自社の商品と他社の商品とを区別するための文字、図形、記号、色彩などの結合体に関する権利
著作権 特許権、実用新案権、意匠権または商標権に相当すると引受保険会社が認めるもの

※4 損害賠償請求、差止請求、信用回復措置請求、不当利得返還請求、これらに付随してなされる審査、審判、訴訟による知的財産権に関する有効性の確認

 以上についてポイントと思われる点を列挙します。

保険料(損保会社に支払う掛け金)は通常の知財保険に比べると安い。

・対象エリアが全世界(日本、北朝鮮除く)なので訴訟リスクが大きく、訴訟費用が高額な国にも対応できる(例えば米国)。

・保険が適用されるのは訴えられた場合だけ(自社が相手方の知的財産権を侵害した場合だけ)なので防御用途にしか使えない。すなわち自社商品を模倣する第三者に対して訴訟を提起しても保険金はおりないので模倣対策には使えない(通常の知財保険よりカバー範囲が狭い)。

・著作権に起因した訴訟は、著作権が特許権、実用新案権、意匠権または商標権に相当すると認められる必要があるので、イラスト、写真、文章、音楽などの文芸、美術的な著作物については認められない可能性がある。プログラムに関する著作物は特許権にもなり得るので認められる可能性が大きいと考えれる。

 本保険商品は訴えられた場合限定ではあるのですが、商品名や企業名などについてその国で第三者が先取り的に商標登録出願していた場合(その後、その出願が登録され、その第三者から商標権を根拠に訴えられるリスク)などに対応できると考えられます。

 例えば、当該国への商標登録出願が未登録の場合において、本保険に加入しつつ当該国に商標登録出願を行い、当該国で商標登録されるまでのまさに“保険”にするという使い方ができそうです(特許や実用新案、意匠についても同様)(下イメージ図)。

 

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事業リスクと保険

2017.05.19

 事業には様々なリスクがつきものです。

 そうしたリスク対処手段の一つに保険があります。

一般的なリスク

 火災や自動車事故というのはほとんどの人がこれに備えて保険に加入すると思います。

 こうした保険を考える上で多くの人が一瞬のうちに(無意識のうちに)考えているのが、「発生確率」と「損害の程度」のことだと思います。

 火災の発生確率はものすごく低いですが(火事を経験した人はそうでない人よりも圧倒的に少数)、一回でも起これば全財産を失うほど影響は甚大です。

 自動事故は誰にでも起こる可能性があります。
 しかも事故の程度はかすり傷から最悪、死亡事故まで考えられるでしょう。

 これらは個人に限らず、事業を行うにあたっても同様です。

 損害保険会社にとって稼ぎ頭は自動車保険ですが、事故も多いため収益としてはトントンです。
 一方、火災保険は発生頻度がかなり低いため損害保険会社にとっておいしい商品だと言えます。

知財に関わるリスク

 新聞やネットなどでは知的財産を原因とした紛争記事をよく見ます(下例)。

 ・任天堂訴訟、マリカー側争う姿勢 衣装着るカートめぐり(朝日新聞デジタル)
 ・FC2等に対する特許権侵害訴訟提起のお知らせ(ドワンゴHP)
 ・「コメダ珈琲」に外観・内装酷似、和歌山の喫茶店舗使用差し止め命令 仮処分決定(産経WEST)
 ・ホームページの地図 976枚著作権侵害か(毎日新聞)
 ・米貿易委、トヨタなどの部品調査へ 特許侵害の恐れ(日本経済新聞)
 ・凸版印刷、越後製菓を提訴 鏡餅包装材の特許めぐり(朝日新聞デジタル)

 こうした記事の多くは訴訟まで発展したものですが、水面下には、自社製品を模倣されたけど何も対処できなかった第三者から権利侵害だと警告が届き示談金を支払ったという場合も多いのではなかと思います。

 こうした知財に関わるリスクは、

1.第三者の権利を侵害した場合

2.第三者に権利を侵害された場合

があります。

 それぞれどのような影響があるのか?

 整理してみます。

 イメージしやすいよう以前使った仮想事例で考えてみます。

 
 (写真:株式会社ニットーHPhttp://nitto-i.com/)(写真と仮想事例は何の関係もありません)

 1台1万円のゴージャスなスマホケースを製造販売しているとしましょう。
 条件は記事「利益、損失シミュレーション:サービス・流通業の場合」と同じで考えます。


1.第三者の権利を侵害した場合

 商品の売れ行きが順調で次の年には売上が10億円に近づこうかという状況だったとしましょう(下のイメージ)。

 

 そんな時に当該商品が“わが社が所有する権利を侵害しているので製造、販売を中止しなさい”と警告が届きました。

 この場合の対応してまず考えられるのが、警告内容が妥当かどうかの確認です。

 ・何の権利を根拠に文句を言っているのか?
 ・本当に権利侵害に該当するのか?

 こうしたことを検討する必要があります。

 決着がつくまで製造や販売をストップさせたら当然、売上がなくなります。

 上図だと10億円近くを見込んでいた売上が0円になります(以下)。

 

 また、

 ・交渉するべきか戦うべきか?

 という問題があります。

 もし応戦することなれば、弁護士をたてて長期戦になります。
 訴訟費用もばかになりません。

 敗訴の場合は損害賠償金の支払い、生産・販売停止実施料の支払い、これまで販売した商品の回収新聞への謝罪文掲載など経営への影響は計り知れないでしょう。

 商品イメージも低下します。

 商標権侵害の場合は商品名などの変更意匠権侵害の場合は商品デザインの変更など権利侵害の内容によってその後の影響も様々です。


2.第三者に権利を侵害された場合

 これは商標権や意匠権、特許権などの知的財産権を所有していることが前提となります(何も権利を持っていなければ権利侵害とは言いませんし、模倣されても泣き寝入りするしかありません)。

 権利侵害の形態として例えば
 ・商品名をマネされた
 ・商品デザインがそっくり
 な場合が考えられます。

 模倣品のせいで売上が半減したとすると、

 

 上図のようなイメージになります。

 警告を送っただけで相手が模倣を止めるというケースも多いですが、もし訴訟まで発展した場合は訴訟費用と時間がかかります。

 ちなみに1億円の損害賠償請求請求の着手金と報奨金で約1,000万円というデータがあります(ひまわりほっとダイヤル:https://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/remuneration08.html)。

 上記1、2から知的財産に関わるリスクをまとめました(下表)。

リスク 具体例
第三者の権利を侵害する ・一時的な生産販売停止による利益減少
・紛争対応費用(弁護士費用など)
(敗訴の場合)
・損害賠償金の支払い
・生産や販売の停止
・実施料の支払い
・販売した商品の回収
・謝罪文掲載
・イメージ低下
第三者に権利を侵害される ・売上低下
・紛争対応費用(弁護士費用など)

 こうしたリスクに対応する“知財保険”と言われる保険商品があります。

 簡単に“知財保険”と言いましたが、この保険カバーする範囲は各損保会社によって、また商品によって異なります。

 例えば保険がカバーする範囲として次のようなものが挙げられます。

・専門家費用(弁護士費用や弁理士費用)
・裁判費用
・損害賠償金
・製品回収費用

 注意点としては必ずしも上記全てをカバーするわけではないこと(商品による)、上限が設けられていること(1,000万ドルまでとか。掛け金が少ない商品の場合は当然上限は低い)、加入できる業種や企業規模があること(大企業は対象外など)、など挙げられます。

 知財保険は保険代理店や損保営業担当者でもその存在を知らないくらいかなりマイナーな保険(オーダーメイド的な保険)です。

 訴訟リスクを理解できる専門家も限られていて、リスクが読みづらいため、常に訴訟を抱えている大企業には販売していません。

 この保険に合った企業としては例えば、中小、中堅企業(売上高は1000億円以下ぐらいか)で、
 ・技術開発に力を入れている企業
 ・訴訟リスクがある分野の企業
 ・輸出入している企業(訴訟や模倣リスクがある地域と取引がある企業)
 ・買収先の知財リスクがある企業(M&A)
などが考えられます。

 損保各社ともあまり公にはしていませんでしたが、最近では特許庁が海外進出する中小企業のための知財保険をホームページで公開しています。
  

 

知財保険の検討事項

 一概には言えませんが以下のような事項が挙げられます。

(1)守るべき権利があるか

 そもそも保護すべきものがあるかの検討です。
 例えば商品名が商標登録されない普通名称を使っている場合、ビジネスの手法が優れているだけでデザインや技術に何の目新しさもない場合は権利を所有しようがありません(事業化の前にどのような権利を確保しておくべきかという検討が必要ですね)。

(2)リスクの発生確率

 自分の権利を侵害された場合誰かの権利を侵害した場合の両面から検討する必要があります。
 例えば、知名度が高まってきた場合、海外との取引を始める場合は模倣品が出現する可能性が大きいですし、競合品が多い分野では第三者の権利を侵害する可能性が大きいと言えます。
 こうした検討は商標やデザイン、技術といった要素ごとに行います。

(3)損害額

 これも上記(2)と同様に自分の権利を侵害された場合誰かの権利を侵害した場合の両面から検討する必要があります。
 模倣を許した場合における売上減少、権利侵害した場合の訴訟費用損害賠償金リコール費用謝罪広告費用などが挙げられます。

(4)その他

 例えば海外の販売代理店を安心させるために保険加入するという考えもありますね。

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知財の意味が出てくる売上高:サービス・流通業の場合

2017.05.18

 今回、サービス・流通業について知財の“費用対効果”をシミュレーションします。

 参考:記事「利益、損失シミュレーション:製造業の場合

 製造業の場合は知財の意義を感じる企業が多いと思いますが、サービス・流通業の場合はどうでしょうか?

 知名度が増すにつれ知財の問題にぶちあたります。

 例えば店舗に掲げる看板が類似することで問題になったもの、なりそうなものはいくらでもあります(以下、紛争例)。

 

 

 
 
 消費者としては有名な店舗が別コンセプトの店を出したのかと勘違いするかもしれません。

 自社サービスから派生した商品を販売する場合はさらにリスクが大きくなります。

 最近は様々な商品を気軽にネットで出品できるようになりました。
 知名度が高まるほど自社名や商品名を付した偽物が出回りやすいと言えます。

 <偽造関係のニュース例>
ヤフーオークションで偽ブランド販売1億円以上の売上(産経WEST)
五輪招致ロゴ入りマグカップ自作ネット販売で逮捕(産経ニュース)
悪質サイトによる有名店の偽キャンペーン(朝日新聞)

 こうした問題は様々な業種(ラーメン店、喫茶店、小売店、居酒屋、美容院、フィットネスジム・・・)で起こり得る問題です。

 とりあえずラーメン店で考えてみましょう。

 福岡地裁で類似商号を使用するラーメン店が提訴された事件があります(平成22(ワ)3490)。

 原告の主張の中に、
 被告店舗の開店前の原告店舗の1日平均売上は74万円、被告店舗開店後の1日平均売上は55万円で19万円低下した(売上が約25%低下
 とあります。

 請求は棄却されましたが、類似店出現による影響の目安にしたいと思います。

 単純に1店舗開店するごとに年間1億円の売上があるとします。
 そして類似店が出現によって売上が25%ダウンとすると考えます。

 

 一店舗のときは2,500万円、10店舗で2億5,000万円の売上高が失われるイメージです(上グラフ)。

 こうした店舗の看板名やマークを保護する権利は“商標権”です。
 商品化(ラーメン店なら土産用ラーメンや小売店とタイアップした商品、美容院ならシャンプーやリンス、フィットネスジムならTシャツやプロテインetc)した場合に商品に付す名称やマークも保護します。

 この商標権の取得費用は10年分で約20万円が目安です(事業を行うサービスとサービスに関連する商品の2区分※について商標権を取得した場合)。
 ※“区分”とはサービスや商品を便宜的に区分けしたものです。区分が増えていくほど料金が倍増していきます。
(費用に関しては「知的財産権を取得するための費用は?」参照)

 商標権自体は事業収入から見ると微々たるものですが、いざ訴訟となると弁護士費用が発生します(模倣した相手に警告を送るだけで止めてくれる、警察が動いてくれる、のであれば余計な費用が発生しなくて理想的ですけどね)。

 知的財産権1億円の損害賠償請求における弁護士費用は顧問契約をしていない場合、着手金平均額が270万円報奨金平均額が730万円というデータがあります※。
※出典:ひまわりほっとダイヤルhttps://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/remuneration08.html

 つぎの条件で商標権を取得していることで守れた利益をシミュレーションしてみます。

・類似店の出現で売上が25%ダウン
・店の粗利は50%
・商標権の効果としては、売上ダウンを完全に防げる、売上ダウンを5%に抑える、10%に抑える、15%に抑える、20%に抑えるの5パターンを想定

 シミュレーション図は以下の通りです。
 横軸が売上高、縦軸が商標権の効果(商標権を持っていることで守った利益額)です。
 

 商標権取得費用と訴訟費用あわせて1,000万円だとすると上グラフの縦軸の1,000万円から横に線を引き、各直線との交点における横軸の値がかかった1,000万円をペイする売上高になります。

知的財産権の効果 ペイする売上高
(下の額以上の売上高が見込める場合は商標権を取得すべき)
売上低下を完全に防げる 8,000万円
売上高低下を5%にとどめる 8,500万円
売上高低下を10%にとどめる 9,000万円
売上高低下を15%にとどめる 9,500万円
売上高低下を20%にとどめる 10,000万円

  今回のシミュレーション上では全店舗の売上高が8,000万円~1億円以上ある場合は商標権を持つ意味があると言えます。

 しかし、商標権に関しては売上高に関わらず取得しておくべきです。

 それは第三者が先取りしてしまった場合、日本全国どこで事業を行っていようが、その第三者の商標権侵害になってしまうからです。

参考:記事「起業、新規事業で一番気をつけておきたい知的財産権

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知財の意味が出てくる売上高:製造業の場合

2017.05.17

 お金をかけてまで知的財産権を持つ意味があるのか?

 “費用対効果”という言葉がありますが、これが感覚としてよくわからないという人は多いのではないでしょうか?

 どのような権利を取得しておけば効果があるのか?
 売上高がいくら以上なら知的財産権取得を考えるべきか?

 この点をイメージできるようシミュレーションしてみます。
 (あくまでシミュレーションです)

 まず以下の商品を作ったとします。
 
 (写真:株式会社ニットーHPhttp://nitto-i.com/)(写真と仮想事例は何の関係もありません)

 商品はゴージャスなスマホケースをイメージしてください。

 ・商品名は“ゴージャスマホ”としましょう!

 ・特殊な素材がスマホをしっかりガードし、リッチな形状と光沢です。

 ・販売価格はズバリ1台1万円です。

<情報>
 2016年のスマホ出荷台数は国内が約3000万台、世界で約15億台と言われています。
 低価格帯が多いスマホケースですが、ハイエンド商品のニーズも少なからずあります。

 1万台売れれば売上高1億円10万台で10億円
 上記出荷台数を考えると全然不可能ではない数値です(かね?)。

 ただ売れ出すと模倣品が出てくるのが世の常。 
 海外で安価に製造された低価格品が市場を荒らしまくる恐れがあります。

 どのような模倣が予想されるかパターンを整理しました。

模倣1 名称を“ゴージャスマホ”とした商品
模倣2 形状と光沢(外観)がそっくりな商品
模倣3 同じ特殊素材を使った商品

 これらが組み合わさった模倣も考えられます。

 模倣品の出現で売上高が半減したという話はよく聞きます。
 こうした被害は継続的なものです。
 イメージとしては、
 

 こんな感じです。
 売れ行きが好調なのを見た第三者が模倣し、時が経つにつれてその被害が大きくなっていくイメージです。

 何も対策をしないとやられ放題です。
 農作物における獣害のような感じでしょうかね。

 こうした知的生産活動に生まれた商品は知的財産権で守るしかないです。

 どのような対策をすべきか?

 先ほどの模倣パターンに対応する権利を追加しました。

模倣1 名称を“ゴージャスマホ”とした商品 商標権で対応可能
模倣2 形状と光沢(外観)がそっくりな商品 意匠権で対応可能
模倣3 同じ特殊素材を使った商品 特許権で対応可能

 さらに次のデータを見てください。

 
 (特許庁 2015年度模倣被害調査報告書 図1.2‐9より)

 統計的には商標に関する紛争が最も多いというデータがあります。
 やはり名称はマネしやすいからでしょう。
 (商標に関する詳細は記事「起業、新規事業で一番気をつけておきたい知的財産権」参照)

 ただ上記データはあくまで統計的なデータです。

 今回の商品が売れているポイント(消費者を惹きつけているポイント)がゴージャスな形状と光沢にあるのであれば意匠権の重要性が高いと言えます。

 そうではなく、実は今回の商品のために開発された特殊素材にポイントがあれば特許権の重要性が高いと言えます。

 取得する権利、権利の組み合わせについてはこうした事情をよく検討して決定すべきです。
 権利の組み合わせと取得・維持費用をまとめました。

 <条件、留意点>
 ・10年間の権利維持を想定
 ・費用は記事「知的財産権を取得するための費用は?」の表から
 ・実際には当該費用との乖離が大きい場合もあり(例えば、多くの技術が詰まっていて一つの特許ではカバーできない場合など)

 上記条件に基づき整理したものが次の表です。

目的 商標権 意匠権 特許権 費用合計
名称“ゴージャスマホ”の模倣防止     20万円
デザイン(形状と光沢)の模倣防止     30万円
素材技術の模倣防止     120万円
名称、デザインの模倣防止   50万円(20万円+30万円)
名称、技術の模倣防止   140万円(20万円+120万円)
デザイン、技術の模倣防止   150万円(30万円+120万円)
全部の模倣防止 170万円(20万円+30万円+120万円)

 この費用をどう見るかですが、
 今回の商品の利益率をざっくりと30%として考えてみましょう。

 知的財産権を取得しなかった場合、売上が50%低下するとします。

 知的財産権を取得していたことで売上高低下なしの場合売上高低下が10%まで抑えることができる場合、20%の場合、30%の場合、40%の場合に知的財産権が守った利益額は以下の図の通りです。

 

 商標権、意匠権、特許権を170万円かけて取得したとします。
 この場合、上グラフの縦軸の170万円から横に線を引き、各直線との交点における横軸の値が知的財産権費用をペイする売上高になります。

知的財産権の効果 ペイする売上高
(下の額以上の売上高が見込める場合は知的財産権を取得すべき)
売上低下無 567万円
売上高低下を10%にとどめる 708万円
売上高低下を20%にとどめる 944万円
売上高低下を30%にとどめる 1,417万円
売上高低下を40%にとどめる 2,833万円

 模倣した相手に警告レベルの措置しか考えていないのであれば上記売上高が知的財産権取得の目安になると思います。

 中小企業の場合、この程度でとどめ、裁判まではしたくないと考える場合が多いのではないでしょうか。

 また、2,000~3,000万円は通常の事業であれば達成したいレベルの売上高だと思います。

 であれば、上記シミュレーション結果を鑑みると、少なくとも知的財産権の取得の検討ぐらいはやるべきではないでしょうか?

<検討したいことの例>
模倣してきそうな相手がいるか?
模倣による影響はどの程度か?
どのような模倣(名称?デザイン?技術?)が考えれるか?
取得費用はいくらか?

  一方、模倣した相手には裁判裁判も辞さないというのであればペイする売上高はもっと上がります。
 弁護士費用など諸々含めて仮に1,000万円かかると仮定すると、ペイする売上高は以下の通りになります。

知的財産権の効果 ペイする売上高
(下の額以上の売上高が見込める場合は知的財産権を取得すべき)
売上低下無 3,333万円
売上高低下を10%にとどめる 4,167万円
売上高低下を20%にとどめる 5,556万円
売上高低下を30%にとどめる 8,333万円
売上高低下を40%にとどめる 16,667万円

 ペイする売上高がかなり上がりました。
 このペイラインを下げる方法として“知財保険”というのがあります。

 これは別の記事にします。

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起業、新規事業で一番気をつけておきたい知的財産権

2017.05.16

 起業するとき、新規事業を行う際に一番気をつけておきたいのが商標権です。

 業種を問わず言えることなので“一番”としました。

 商標は消費者にとっての目印です。売上も左右しかねません。
 
 上記はうがい薬(イソジン)のライセンスが切り替わったことで生じた問題を図示したものです。
 消費者に馴染みのカバのキャラクターは元ライセンシーの明治が商標権を取得しています。
 そのため現ライセンシーの塩野義製薬はイラストを変更して販売しています。

 このように商標権とは商品やサービスのブランドイメージにも影響を与えるものです。

 商標権とは商品やサービスの名前ロゴマークなどについて取得できる権利です。
 トヨタの“レクサス”とかソニーの“ウォークマン”とかアップルの“リンゴのマーク”とか(以下の商標)。
 

  “PPAP”が関係ない第三者によって商標登録出願されていた話題は記憶に新しいと思います(ちなみにこの出願は本記事作成時点で登録されていません)。
 (参考:毎日新聞記事 大阪の会社が商標出願…ピコ太郎さんとは無関係

 同じ人物がWINDOWS11、WINDOWS12・・・という感じで信じられない数の様々な出願をしています。

 こうした商標の問題は製造業だけでなくサービス業、小売業などあらゆる業種で起こり得ることです。

 特許権や意匠権に比べると権利を取得しやすく、一旦誰かに先取りされると後々まで苦労することになるからです。

 例えば、最近話題になった公道を走るサービスの「マリカー」の商標権に対して任天堂が異議申立てをしましたが認められませんでした。

 商標権侵害が成立すると、たとえ先にその名称やマークで事業を始めていても差止損害賠償の対象になってしまいます。

 名称やマークの使用停止、変更を余儀なくされます。審判や裁判で争うにしても費用・時間がばかになりません。

 なお、商標権は取得費用も特許権などと比べて安いです。
 商標権の存続期間である10年分(更新可)の費用、代理人費用などまるまる込みで10万円程度というイメージです(代理人によって異なるためあくまで参考イメージですが。
 詳しくは記事「知的財産権を取得するための費用は?」参照)。

 特許や意匠は最悪誰かに権利を取得されなければそれでいい、というのであれば誰よりも早く事業を行えばいいと考えることができます。

 事業化に伴い技術やデザインが世間に公開されることで、その技術やデザインは“公知”のものとなります。

 公知になった技術やデザインは誰も特許権や意匠権を取得することができなくなってしまいます(参考:下枠の条文)
 誰もが知る技術やデザインはもはや保護に値しないという考えに基づくものです。

(特許法の条文:特許の要件)
第二十九条  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明

(意匠法の条文:意匠登録の要件)
第三条  工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠

 つまり特許権や意匠権を持つことができなくなる代わりに第三者もその技術やデザインについて権利を取得することができず、特許権や意匠権の争いは発生しようがなくなるのです(ただし、模倣し放題という問題がありますが)。

 一方、商標権は公知だからと言って権利を取得できなくなるものではありません。
 誰もが知る名前やロゴマークはむしろ保護すべきものです。
 偽ブランド品を思い浮かべれば理解できると思います。

 公知化したものについても権利を取得できるという商標法の規定は、あくどい第三者あるいは偶然同じ名前やマークを考えていた第三者が商標権を先取りできてしまうという問題があります。

 事業リスクを低くするという意味からも商標権取得については検討した方がいいでしょう。

 以下、商標権取得を前提として説明します。

1.商標登録出願のタイミング

 商品やサービスの名称やマークが確定したらできるだけ早く出願すべきです。

 事業を開始してからではその商品名、サービス名を見た第三者がすぐに出願してしまう可能性があります。

 商標権は早い者勝ちなので、誰よりも早く出願する必要があります。
 ですので、どんなに遅くても事業開始前に出願を済ませておくべきと言えます。

 ただし、商標登録出願が必ず登録されるとは限りません

 似たような商標が登録されているということで出願が拒絶された場合は最悪です。
 商標を変更しなければその商標権者の権利を侵害することになります。
 店の看板とかチラシとかも全部変更しなければならなくなります。

 出願した商標が登録されるまで半年くらい見ておいた方がいいです。

 

2.商標権を取得する範囲

 名前やマークについて商標権を取得すれば、必ずしも第三者のどのような使用でも禁止できるというわけではありません

 商標登録出願は自分が使用する商品やサービスを指定しなければなりません。
 例えば、リンゴのマークの商標に関して「電子計算機」を指定する、など(以下イメージ)
 

 商標権の権利範囲は指定した商品やサービスに基づき決まります(指定した商品やサービスとは無関係な商品やサービスについては商標権の効力が及びません)。

 あれもこれも指定して出願することは可能ですが、商品やサービスに定められた区分(便宜的に商品やサービスを分類したもの)をまたがると料金が倍増していきます。

 さらに商標を使用しない商品やサービスについては審判で取り消される可能性があります。

 従ってやみくもに商品やサービスを指定するのではなく、開始する事業今後拡大しようと思っている分野に係る商品やサービスを適切に判断し、指定する必要があります。

 例えばフィットネスジム(サービス業)を例に挙げると、指定する役務として「フィットネス施設の提供」、「フィットネスの教授」が考えられますが、それだけでなくシャツプロテインの販売も視野にあるのであればこうした商品を指定する必要があります。
 特に、通信販売が可能な商品は勝手に商品名を使用して利益を得ようとする第三者が出てくることが予想されます。
 売上への影響自社品質についてイメージ低下につながるリスクと言えます。

 このように将来的な経営を見据えて権利を取得する必要があります。

3.商標を決めるときの留意点

(1)類似する商標がないか

 商標登録出願は早い者勝ちです。

 同じ商品分野、サービス分野に似たような名前やマークのものが存在しないか、商標権が取得されていないか確認すべきです。

 そうした商標権が第三者によって取得されている場合、自社の商標登録出願が拒絶されるばかりか、その名称やマークを使用して事業を行うと商標権侵害になってしまいます。

(2)品質などを表現するネーミングは権利的に弱い場合が多い

 「うまい」とか「大きい」とか「ヘルシー」とか「キレイ」などその商品の有用性や品質、成分などを直接的に表現した名称のものがよく見られます。

 そうした名称は消費者の目に留まりやすいですので売上に寄与する場合も多いのではないかと思います。
 こうしたネーミングの例を挙げてみます。

花王の「ヘルシア」
小林製薬の「糸ようじ」
ポッカサッポロフード&ビバレッジの「じっくりコトコトニ煮込んだスープ」
雪印メグミルクの「毎日骨太」
明治の「おいしい牛乳」

 一方、こうした商品名のデメリットとして、商標登録されづらいこと商標登録されても似たような第三者の商標を抑えづらいことが挙げられます。

 例えば、上表一番下の商標は「おいしい牛乳」ではなく「明治 おいしい牛乳」です。
 商標法では識別力がないものの登録を認めていません。
 「おいしい牛乳」では登録が難しいということでしょう(参考:下枠の条文)。 

(商標法の条文:商標登録の要件)
第三条  自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

 また、「おいしい牛乳」という表現を用いた商標権が他にも存在します(以下)。「森永の」と付いているのがポイントです。
 

 さらにセブンアンドアイからも「おいしい牛乳」と名の付く商品が発売されています(商標権は取られていません)。

 第三者が普通に用いられる方法で「おいしい牛乳」を表示しただけでは明治や森永は商標権を行使できません(参考:下枠の条文)。

(商標権の効力が及ばない範囲)
第二十六条  商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない

 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格普通に用いられる方法で表示する商標

 こうしたネーミングを採用すべきか否かはメリットデメリットをどう判断するかによるのでしょう(消費者への訴求力を重視するなら可、第三者と名前の競合を避けるなら否、など)。

 商標権として強い名前にしたいのであれば造語唯一無二の名前)が挙げられます(例えば、トヨタの「レクサス」)。
 模倣した第三者が言い逃れる道が少ないと言えます。

 ただし、その名称を浸透させるのにかなりの営業努力をしなければならない点がデメリットとして挙げられます。

 このようにパッと見は単なる名前やマークなのですが、商標権は重要な問題です。

 手遅れにならないよう気をつけてください。 

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知的財産権を取得するための費用は?

2017.05.15

 初めて“特許権”や“商標権”などの知的財産権を意識する人にとっての大きな関心事の一つが、いくらかかるのか?だと思います。

 費用を大きく分けると
1.特許庁に支払う手数料
2.弁理士に支払う代理人手数料
の2つあります。

 上記1はきっちりと料金が決まっていますが、上記2は特許事務所によって変動があります。
 また、特許庁から何の拒絶もなく権利が登録された場合とそうでない場合でも違ってきます。

 そのため一概にいくらです、とは言いづらいものがあります。

 既に以前の記事でざっくりとした費用について示しました(実態と大きく異なる場合があるのであくまで参考)。いずれも国内出願の場合です。

権利 権利化までの期間 費用
特許庁 弁理士※4 10年分維持まで含む合計
権利化まで 権利化後
10年分
特許権 15.2カ月 ※1 約15万円 約47万円 約55万円 約120万円
出願のみで約30万円
実用新案権 無審査登録 1.4万円 約10万円 約25万円 約40万円
意匠権 6.1カ月 ※2 1.6万円 約14万円 約16万円 約30万円
商標権 4.3カ月 ※3 約2万円 約6万円 約11万円 約20万円

※1 特許行政年次報告書2016年版1-1-25図最終処分期間(2014年平均)より
※2 特許行政年次報告書2016年版第一章P24意匠審査の現状FA期間より
※3 特許行政年次報告書2016年版第一章P31商標審査の現状FA期間より
※4 参考情報:平成18年に弁理士会が実施したアンケート結果
※その他 特許の請求項数3、実用新案の請求項数1、商標の区分数2、商標は一括納付で計算。

事例で見る各費用

 以下は以前の記事で紹介したラップフィルムケースを例に権利ごとに見ていきます。
 上表と条件が異なる部分もありますので必ずしも上表の費用を同じではありません
 
 上写真のラップフィルムケース内にはラップフィルムが入っています。サ〇ンラップの紙ケースがプラスチックケースに変わったようなものです。

 通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。
 

 全て片手の操作ででき、刃が飛び出した状態に維持させ続けることもできます。写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。

 例えば、料理中に片手がふさがっているとき清潔さが求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力と清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。

 そんな商品です。

 なお、以下の弁理士費用は日本弁理士会が集計したアンケート結果の最頻値を適用しました。

1.特許権

 ラップフィルムを適度な力加減で保持する機構などの技術要素は特許になり得ます

 特許権の権利範囲は出願書類中の“特許請求の範囲”の記載によって決まります

 例えば次のような権利の取り方が考えられます(記載は超簡略化しています)。

 【請求項1】ラップフィルム保持部を備えたケース
 【請求項2】刃の収納部を備えた請求項1記載のケース

 このように請求項を10個でも100個でも増やすことができます
 ただし、請求項が増えるにしたがって料金がかさんでいきます(ここではこれを言いたかっただけです)。

 以下は請求項数5、特許庁から1度拒絶された場合の費用イメージです。

 

 上図から
出願するだけで30万円程度
出願から権利までだと70~80万円
権利化後は維持費用が段階的に上がっていく
とイメージできます。

 なお、“審査請求”というのは特許庁審査官に審査を請求するものです(出願しただけでは特許権を取得することはできないのです)。
 出願から3年以内に審査請求しないと出願を取り下げたものとみなされます。

 特許庁に支払う手数料でネックになるのが審査請求料です。
 ただし、個人事業主など一定の場合は減免制度を利用することで3分の1にまで減額することができます(参考:特許庁HPhttps://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/genmensochi.htm)。

2.実用新案権

 本商品は実用新案権を取得することも可能です。

 実用新案とは技術的なハードルが特許ほど高くなく(ママさん発明といったイメージ)、また、無審査で登録される権利です(ただし、無審査ゆえ争いが起こると無効にされるリスクが大きい心もとない権利でもあります)。

 実用新案になり得るのは「物品の形状、構造又は組合せ」です。

 従って本商品の特徴であるラップを保持する形状や構造は実用新案になり得ます。

 以下は請求項数5で出願した場合の費用イメージです。

 

 上図から
出願、登録に20~30万円
権利化後は維持費用が段階的に上がっていく
とイメージできます。

3.意匠権

 本商品はデザインについて意匠権を取得することも可能です。

 意匠権で保護されるのは物品の外観デザイン物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合)です。

 従って本商品の形状などが特徴的であれば意匠権として保護され得ます。

 以下は拒絶されることなく登録された場合の費用イメージです。

 上図から
出願から登録まで13~29万円
登録後4年目から維持費用が上がる
とイメージできます。

4.商標権

 本商品は商品名やロゴマークについて商標権を取得することが可能です。

 商標権は商品(やサービス)を指定する必要があります。
 例えば本商品だと“プラスチック製包装用容器”を指定します。

 指定するのをもっと多くの商品にまで広げてもいいのですが、商品区分(便宜的に商品を区分けしたもの)数に従って料金が倍増します。

 また不使用商標は審判で取り消され得るので全く関係ない商品について商標権を取る意義は薄いです。

 以下は拒絶されることなく登録され場合の費用イメージです(指定する商品は一つ)。

 上図から
出願から10年分の登録料まで13~18万円
とイメージできます。
 ただし、商品区分が増えると料金も倍増していきます。

 以上、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の費用の目安にしてください。
 特許庁料金詳細は特許庁HPをご覧ください。
 特許庁 産業財産権関係料金一覧(2016年4月1日時点)
 

 なお、著作権を取得するのに費用は必要ありません
 著作権というのは著作物を創作した瞬間に手続き無しで自動的に発生するものですので。
 登録制度がありますが、登録の有無は権利の強さに関係ありません。
 登録費用は文化庁の「著作権に関する登録制度についてよくある質問」にあります。
 

 出願をお考えの方はまずはこちらよりお問い合わせください。

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知財融資:クラウドファンディング連動

2017.05.13

 前回記事「知財融資について:知財ビジネス評価書」では知財ビジネス評価書が融資に結びつく(かもしれない)話をしました。

 今回はクラウドファンディングと連動した金融機関の取組みについて整理します。

 なおクラウドファンディングについては過去記事(以下)をご参照ください。
 ・クラウドファンディングとは
 ・クラウドファンディングプラットフォーム(購入型)
 ・クラウドファンディングの流れと留意点
 ・事例で見るクラウドファンディングの流れと留意点
 ・事例で見るクラウドファンディングの知財リスク対策

 現在、国内にクラウドファンディングプラットフォーム運営事業者がかなり存在しますが、金融機関と連携した動きと言えばMakuake(マクアケ)を運営するサイバーエージェント・クラウドファンディングが挙げられます。
  

 Makuakeはモノづくりなどのビジネス系のプロジェクト支援に力を入れています。最高で1億円近い資金を集めたプロジェクトもあります(2017年5月12日時点)。

 Makuakeと金融機関の連携に関する記事をいくつか挙げます。
 ・常陽銀行と業務提携(2017年1月23日)
 ・みずほ銀行との連携(2016年12月9日)
 ・城南信用金庫、千葉銀行等と業務提携(2016年5月25日)

 こうした動きが世間的に広まったキッカケは今年の1月に放送されたガイアの夜明けです(出演された坊垣さんの話では、放送以降、金融機関からの問い合わせがかなり増えたそうです)。

 番組ではクラウドファンディングを商品のテスト販売の場ととらえて、もし500万円以上集めることができたら、それを岐阜信金が融資の判断材料にするという話が紹介されました(以下のプロジェクト)。
 

 クラウドファンディングとはインターネットを使った資金調達手段ではあるのですが、私はこのようにテスト販売(さらには口コミ戦略)のツールとして活用余地が大きいと思います。融資の判断材料になり得るものだと思います。

 クラウドファンディングプラットフォームに公開された商品を判断するのはそれを買いたいと思う消費者です(一部内部関係者も存在します)。

 金融機関の融資判断部署や金融機関と連携する専門家がどんなに事業性評価や知的財産価値評価をしても、それを買いたいと名乗り出る消費者の声には絶対に勝てません

 クラウドファンディングの資金提供者が一定数いるということは事業として成功率が高いことを意味します(当然慎重に考えねばなりませんが)。

 ある意味、究極の知財価値評価になるのかもしれません(知財価値評価には様々な手法がありますが、結局、机上でごにょごにょやっているだけで、どれだけ意味があるのかと首をかしげたくなることが多いです)。

 このクラウドファンディングと融資をスキーム化したのが上記、常陽銀行とのリリース記事です。

 クラウドファンディングで100万円~500万円の資金調達額のプロジェクトについて最高500万円の融資を行うというものです。

 なお、資金調達額に範囲制限がある点、融資額は500万円限度である点について理由はよくわかりません。初めての試みなので大きなリスクにならないように様子見でしょうかね?

 こうした新しい動きは一つの組織がやると他も続くように乗り出して来るでしょう。
 今後、このような融資形態が広がると予想します。

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企業と学生のコラボ(その2)

2017.05.12

 前回の「企業と学生のコラボ(その1)」はメーカーの新商品を考えることをテーマにしたものでした。

 今回はサービス業とのコラボを紹介します(今回は知財知財した話ではありません。学生の“知”をいかに企業施策として役立てるかという目線で見ていただければと思います)。

 前回同様、授業2回分(1回90分)を費やしました。

 今回の企業は警備業(株式会社セノン)です。
  

 警備業は国内に9,500社もあります。
 その中で該社は従業員8,600人売上高300億以上の大規模企業です。

 東京オリンピックテロ対策など警備ニーズの重要性は年々高まっています。
 さらに警備業という業種はドローンの活用などハイテク化していく要素が多く、業務範囲も単なる警備にとどまらずビルメンテナンスや医療事務など拡大の余地が大きい分野でもあります。

 しかしながら該社人事担当者によると採用には苦労しているようです。

 “警備業”というと体育会系とかガードマンなどイメージが先行するらしく就職先として敬遠する学生が多いとのことです。
 採用後に義務付けている最低2年間の現場経験もネックになっていると聞きました(現場を知ってこその仕事でしょうからこの点は仕方がないことなのかもしれません)。

 今回はこの就職先として不人気をいかに改善するか(いかに良い人材を集めるか)という該社の課題をテーマにしました。

テーマ:この業界のイメージを変えるPR活動

体育会系出身の男性カラーが根強くあるイメージを多く持たれている。このイメージを変え、より多くの人に興味を持ってもらうためにはどのようなPR活動が必要か?

 今回も前回同様の流れとしました(以下)。
 
 

 今回のテーマはまさに学生目線を活かせるものだったと思います。

 出てきた提案例としては、女性の採用率を高めるために該社で働く女性社員のライフスタイルを紹介する、会社紹介の冊子には女子学生が興味を持つよう女性誌のような表紙にすべき、といった女性学生ならではのものからホームページだけでなくツイッターなどのSNSを利用することは必須という今の学生の情報収集実態を鑑みたものまで様々でした。

 該社の評価が最も高かったのが以下のものです。

イベントブースで空港手荷物検査における金属探知検査を体験してもらう。例えば金属を体に隠す役、それを探知機で探す役など楽しみつつ仕事を理解してもらうイメージである。また、企業説明会でもこれをやって業務理解を深めてもらう。

 業務を肌で体験したいという学生からの提案でした(警備業という分野はその業務の性質上、インターンの受け入れができません)。
 本提案は有効な施策として採用されました。

学生コラボの有効性について

 今回はまさに学生目線が活きるテーマでした。

 商品開発、サービス開発に関しても同様に考えて展開できる分野は多いと考えます(その場合の知財の留意点については前回記事参照)。

 何か紹介できるものが出てきたらアップします。

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知財融資について:知財ビジネス評価書

2017.05.12

 最近、“知財金融”という言葉をいろんなところで聞くようになりました。

 金融機関が融資先の事業性評価を行うにあたっての切り口の一つとしてその企業が有する知的財産を評価するといったイメージです(融資に限定した言葉ではないですが、ここでは融資に焦点を合わせます)。

 去る3月3日には特許庁と金融庁の主催で「知財金融シンポジウム」が開催されました。 
 本シンポジウムは(かなり意訳すると)知財を切り口にした中小企業の融資評価に関するものです。


 中小企業にとっては今後銀行や信金などから柔軟な融資を受けられるようになるかも(あくまで“かも”です)しれません。

 特許庁が“知財金融ポータルサイト”というページ(以下リンク)を設けており“知財ビジネス評価書”という事業性評価結果を融資判断の参考材料、補強材料にする仕組みを広めようとしています。
  

 
 また、上記シンポジウムは特許庁だけでなく、金融庁も主催者になっているところがポイントでしょう。
 ここで最近の金融庁の動きを整理してみます。

 平成28年度10月に出された“金融行政方針”によると、「担保・保証がなくても事業に将来性がある先」、「信用力は高くないが地域になくてはならない先」の排除(日本型金融排除)(イメージ図:金融行政方針より)が生じていないか実態把握を行うとしています。

 

 また、企業からは「金融機関は、相変わらず担保・保証に依存しているなど対応は変わっていない」という声が依然として聞かれることを受けて、金融機関が企業の事業の実態を理解し融資に取組むための指標として「金融仲介機能のベンチマーク」というのを公開しています(平成28年9月)。

 この金融仲介機能のベンチマークを見ると、1.共通ベンチマークの項目(3)が「担保・保証依存の融資姿勢からの転換」、2.選択ベンチマークの項目(2)が「事業性評価に基づく融資等、担保・保証に過度に依存しない融資」とあります。それぞれ指標が示されています(以下)。
 これらの指標をもとに金融機関が自分たちの業務のあり方を見つめ直しましょうというものだと考えられます。

項目 指標
担保・保証依存の融資姿勢からの転換 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
事業性評価に基づく融資等、担保・保証に過度に依存しない融資 事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数
事業性評価に基づく融資を行っている与信先の融資金利と全融資金利との差
地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
地元の中小企業与信先のうち、根抵当権を設定していない与信先の割合(先数単体ベース)
地元の中小企業与信先のうち、無保証のメイン取引先の割合(先数単体ベース)
中小企業向け融資のうち、信用保証協会保証付き融資額の割合、及び、100%保証付き融資額の割合
経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)

 こうした指標に示される融資のあり方が今後広がっていく可能性が示唆されます。
 そうした取組みの一つが上述した“知財ビジネス評価書”であると言うことができるかもしれません。

 知財ビジネス評価書を活用した融資スキームは下図の通りです(出典:知財金融ポータルサイトから抜粋)。
 

本スキームの主なポイント
対象は特許、実用新案、意匠、商標のいずれかの権利を有している中小企業
申請は金融機関から(中小企業から申請はできない)
知財ビジネス評価書作成に係る費用は全額特許庁が負担するため中小企業、金融機関に負担が発生しない
採択は申請から約1週間
必ずしも融資につながるわけではない(判断は金融機関に委ねられる)

 平成27年度の知財ビジネス評価書提供金融機関は63機関(150件)となっています(出典:知財金融ポータルサイト)。
 

 知財ビジネス評価書が融資につながった案件が銀行のホームページや知財金融ポータルサイトに紹介されています。

 例えば岩手銀行にて有機ELの材料評価などの事業を行う企業(資本金8,000万円)が有機EL素子の電圧制御に関わる特許について知財ビジネス評価書を作成し、最終的に3200万円の融資につながっています(岩手銀行ホームページより)。

 本制度を利用できるのはメーカー系ばかりかと思いきや名古屋銀行の知財ビジネス評価書を活用した融資の2号案件を見ると学習塾を運営する企業(資本金5,000万円、従業員数90人)でした(名古屋銀行ホームページより)。

 その他ポータルサイトで紹介されている融資例をまとめました(情報源:ポータルサイト、銀行・企業のホームページ)。  

金勇機関 企業 融資額
百五銀行 ゴムの混練設備および混練設備周辺機器などの製造・販売を行う企業(資本金5,000万円、従業員数29人) 1億円
岩手銀行 精密機械器具製造業(資本金4,227万円) 3,000万円
岐阜信用金庫 シリコーン製品製造(資本金3000万円、従業員数30人)  情報なし
岐阜信用金庫 プラスチック製品製造(資本金2億1,100万円、従業員数717人(連結2,242人))  情報なし
商工中金 発表スチロール製造業(資本金8000万円、従業員数85人) 5,000万円
名古屋銀行 バイオ事業(資本金2億5,600万円)   1億円

 

 なお知財ビジネス評価書に似たものとして“知的資産経営報告書”というものがあります。

 人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランドなどの自社固有の知的資産を認識し収益につながる経営をしましょう、というのが知的資産経営です。

 こちらは経産省のホームページに知的資産経営ポータルが設置されています(以下リンク)。
   

 知的資産経営報告書にて経営資源を見える化することでステークホルダー(取引先、顧客、株主・投資家、従業員、地域社会など)に認知・評価してもらいやすくなるというのこの報告書の意義になっています。

 金融機関からの融資も本報告書活用の一つとして挙げられるようですが、知財ビジネス評価書のスキームのようなものは立てられていないようです。

 思想としては知財ビジネス評価書も知的資産経営報告書も大して変わらないと感じます。

 ただ、知財ビジネス評価書の場合は特許庁の受託事業者として三菱UFJリサーチ&コンサルティングがスキームに関わっているためか、割と積極的な(?)金融機関が増えてきた点、またこのタイミングで金融庁が金融機関に事業性評価のあり方などに言及してきた点から知財ビジネス評価書の方が中小企業にとって実利が大きいような気がします。

 だからと言って知財ビジネス評価書から融資という流れを金融機関がどの程度受け入れるのかは、なかなか予測が難しいですね。

 それに呼び方に関して“知財知財”と言ってはいますが、まずは当然、ビジネスとして有望かどうかの方ですよね。
 特許権などが融資の主役になるケースはなかなかイメージしづらいです。
 こうした権利は主にビジネスのリスクを減らすための手段ですからね。

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企業と学生のコラボ(その1)

2017.05.10

 昨年、大学の授業(2年生が対象)が企業の商品化に寄与しました(以前の記事「サイトを開設しました」でも紹介)。

 授業2回(1回90分)を費やした成果です。

 こうした企業と学生のコラボ新ビジネス創出のキッカケになり得ると考えています。

 企業と学生のコラボに至った背景からコラボの流れ、知財の留意点について紹介します。

1.コラボの背景

 私が担当していたのは明星大学理工学部 環境・生態学系を専攻する大学2年生を主とした授業(選択科目)です。

 単位を落とした3、4年生もいて毎年30人くらいが受講しています。

 この科目ではビジネスについて知り、それを学習意欲につなげることを目的としています。

 当初は講義形式でビジネスの話をしたり、企業の研究所を見学したりしていました。

 そのような中、昨年、自社技術を活かして新たな事業展開のアイデアを模索しているという企業から相談を受け、授業を利用し、新規事業のアイデアを検討しようということになりました。

 相談企業は仮設機材メーカー(中央ビルト工業)です。
 

 該社の製品例としてはビル建築の足場造船所の足場イベント会場の仮設スタンドがあります(以下の写真:該社HPより)。
  

 

 こうした足場製造技術を活かした新市場開拓が授業のテーマになります。

 企業にとっては新規事業を模索する機会になり、一方、学生にとってはビジネスを肌で感じる機会になります(ここではどうでもいい話ですが、これは学生が自ら考えて能動的に学修に参加する“アクティンブラーニング”と言われる学習形態です)。

 ただ、短い授業の中でどこまで成果が出せるか、どのようにコラボを具現化するか、学生にまともな提案ができるのか、この時点では全くわかりませんでした。

2.コラボの流れ

 1回90分の授業です。
 だらだらやっているとすぐに時間が過ぎてきます。
 授業は2回で完結する立て付けにしました。

 初回授業では講義45分とワークショップ45分、次の講義をプレゼンテーションの場としました(以下のフロー図)。

 

 (グループワーク風景)
 

3.プレゼンの例

 発展途上国や被災地などの移動式遊具組み立て式簡易ベッド高齢者のための手すりトレーニング設備など内容の良し悪しは別にして様々なアイデアが出てきました。

 よく検討していた例としてプランタースタンドを作るというアイデアがありました。

 3年生女子が考えたもので、家庭菜園を楽しみたい女性向けに、ベランダなどの限られたスペースを有効活用できるプランタースタンドを開発するというものです(下イメージ図)。

 

 上図はエアコン室外機上部のデッドスペースを活用するイメージです。

 建設現場の足場という風雨に強い作りになっているので雨風、水やりなどに難なく耐え得る点、夏場は照り付けによる室外機の温度上昇を防止してエアコンの冷却効率の低下を防ぎ環境にも役立つというものです。
 これまでのBtoB商品からBtoC商品になったことでホームセンターなどの販路も開けます。

4.企業内検討

 授業は上記3で終わりますが、出てきたアイデアは企業内で検討されます。

 検討結果は学生にフィードバックされますので、結果次第で就職活動のPR材料にもなり得ます(これが学生にとっての一番のモチベーションかもしれません)。

 上記3のプランタースタンドの試作イメージがあります(以下の写真)。自分のアイデアが実際にこのような形で具現化しているのは学生にっても励みになります。

 

5.商品化

 今回の授業を通じて商品化したものが以下のドローンポートです(イメージ図)。

 今後ドローンによる宅配の時代がやってくるでしょう。そうするとドローンが離着陸する場所の問題が出てくると思われます。

 そうした将来ビジネスを念頭にしたアイデアです。

 

 以下の写真はドローンによるカメラ撮影のための設備として商品化されたものです。
 

6.学生コラボの可能性について

 今回のような企業と学生のコラボは企業にとっても学生にとっても双方にメリットがあります。

 今回は授業2回分を費やしましたが、学生の積極参加を条件に最適化する余地が大きい思っています。

 例えば、上記2「コラボの流れ」のフロー図の1回目授業を自宅学習(あるいは学生同士の自主的な検討会)とすることで授業回数を1回にできます。

 また、必ずしも大学の授業でやる必要はないかもしれません。

 授業と同様に検討の場、プレゼンテーションの場さえあればいいのですから。

 ネットを利用する、コワーキングスペースなどを利用してイベント化するという手もあります。

 ただし、その場合は学生の積極参加を促す要因が必須になります(上記は大学の授業ということで単位目当てで参加していた学生もいますので)。

7.知財の留意点

 今回の取組みで感じた点を挙げます。

(1)どこまで企業情報を開示するか?

 今回は、既存商品である足場で別の市場機会を考えてみる、というかなりざっくりとしたテーマでした。

 学生に提供する情報は企業が公開するホームページの範囲にとどめました。

 学生に事業上の秘密を話し、聞いたことは口外するなと言っても安心はできません(まあ、今回のような事業展開を検討していることも秘密と言えば秘密の情報ではあるのですが)。

 自社情報を外部漏洩させないという観点で学生に示すのは公開情報にとどめておいた方がいいと判断しました。

(2)出てきたアイデアは誰のものか?

 アイデア段階では誰も権利を取得していませんし、それが特許権などの権利になり得るかどうかもわかりません。

 ただ、発明をした者には一定の要件を満たせば特許を受ける権利”というものが発生します(実用新案や意匠についても同様)(参考:下の条文)。

(特許法条文:特許の要件)
第二十九条  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる
 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

 この“特許を受ける権利”は譲り受けることができますが(特許法第33条)、特許を受ける権利を持たない者がした特許出願は冒認出願といって出願拒絶理由になりますし(参考:下の条文)、トラブルの元になります。

(特許法条文:拒絶の査定)
第四十九条   審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき

 一方、アイデアを提供しただけで、本当にその者が発明者としての権利を主張できるのかという問題があります。

 学説では発明の成立過程を
1.着想の提供(課題の提供または課題解決の方向づけ)
2.着想の具体化
の2段階に分けています。

 学生の場合は上記1の着想の提供者だと言えます。
 着想提供者は着想が新しければ発明者になり得ます。

 ただ、上記アイデアレベルに関しては着想提供者である学生が発明者となり得るかというと疑問があります。

 上記、発展途上国や被災地などの移動式遊具、組み立て式簡易ベッド、高齢者のための手すり、トレーニング設備などのアイデアを出してきた学生はそのアイデア商品のイメージを語るにとどまる、あるいはイメージに近しい既存の商品やデザインをそのままプレゼン資料としただけで具体的にどのように実施したらよいのかまで示されていませんでした当業者が実施できる程度の具体的な着想でないとして発明者と認定しなかった例があります(昭和59 年(行ケ)第58 号審決取消請求事件))。

 また発明とは上記特許法第29条にもある通り新規性(1項)、進歩性(当業者ががんぱっても簡単には発明できないもの)(2項)を有していなければ認められません。

 あくまで今回の授業の提案に限定した話ですが学生が発明者にはならないでしょう(その後、企業と商品開発を一緒に行って具体化に協力したというのなら話は別ですが)。

 ただし、実用新案だと特許よりもレベルが低くなりますので、学生のアイデアとは言え、具体的な形にして出してきた場合は実用新案の考案者となり得るケースが多くなるのではないでしょうか。

(3)合意形成の必要性

 今回は大学の授業の中でのことでしたし、学生相手ということあったのでアイデアの対価がどうこうという話で問題になることはありませんでした。

 ただ、中には「もし商品化したら何百万円もらえるんですか?」と聞いてくる学生もいました。

 上記(2)の話を含め、アイデア提供者との合意形成は必要でしょう。

 例えば、既に企業で検討中のアイデアや技術があり、それと同じ提案が出た場合で、その後、その既存のアイデア・技術が商品化したらアイデア提供者はアイデアを盗まれたと誤解するかもしれません。

 特許法(実用新案法、意匠法)には職務発明に関する規定があり、従業者が職務上した発明について特許を受ける権利を承継した場合には相当の対価を支払わなければならないとしています(参考:下の条文)。

(特許法の条文:職務発明)
第三十五条
 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の金銭その他の経済上の利益(次項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する。

 ここで、学生は“従業者”ではありませんから、本条文は適用されません。

 まあ、そもそも発明と言えるのかどうかという問題が先にありますが、対価という点でも双方納得がいく設定をした方がいいでしょう。

最後に

 ここでは“合意形成”など堅苦しいことに言及しましたが、利害関係をあまり気にしない学生相手だからこそのやりやすさや意外な発見があるのだと思います。

 また着想そのものに学力(偏差値)はあまり関係ない気がしています(技術的な裏付けは乏しい場合が多いですが)。

 今のところ一大学の一学科だけの取組みにおさまっていますが、今後は大学を超えた取組みができればと思っています。

 

 

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