知財の意味が出てくる売上高:製造業の場合

2017.05.17

 お金をかけてまで知的財産権を持つ意味があるのか?

 “費用対効果”という言葉がありますが、これが感覚としてよくわからないという人は多いのではないでしょうか?

 どのような権利を取得しておけば効果があるのか?
 売上高がいくら以上なら知的財産権取得を考えるべきか?

 この点をイメージできるようシミュレーションしてみます。
 (あくまでシミュレーションです)

 まず以下の商品を作ったとします。
 
 (写真:株式会社ニットーHPhttp://nitto-i.com/)(写真と仮想事例は何の関係もありません)

 商品はゴージャスなスマホケースをイメージしてください。

 ・商品名は“ゴージャスマホ”としましょう!

 ・特殊な素材がスマホをしっかりガードし、リッチな形状と光沢です。

 ・販売価格はズバリ1台1万円です。

<情報>
 2016年のスマホ出荷台数は国内が約3000万台、世界で約15億台と言われています。
 低価格帯が多いスマホケースですが、ハイエンド商品のニーズも少なからずあります。

 1万台売れれば売上高1億円10万台で10億円
 上記出荷台数を考えると全然不可能ではない数値です(かね?)。

 ただ売れ出すと模倣品が出てくるのが世の常。 
 海外で安価に製造された低価格品が市場を荒らしまくる恐れがあります。

 どのような模倣が予想されるかパターンを整理しました。

模倣1 名称を“ゴージャスマホ”とした商品
模倣2 形状と光沢(外観)がそっくりな商品
模倣3 同じ特殊素材を使った商品

 これらが組み合わさった模倣も考えられます。

 模倣品の出現で売上高が半減したという話はよく聞きます。
 こうした被害は継続的なものです。
 イメージとしては、
 

 こんな感じです。
 売れ行きが好調なのを見た第三者が模倣し、時が経つにつれてその被害が大きくなっていくイメージです。

 何も対策をしないとやられ放題です。
 農作物における獣害のような感じでしょうかね。

 こうした知的生産活動に生まれた商品は知的財産権で守るしかないです。

 どのような対策をすべきか?

 先ほどの模倣パターンに対応する権利を追加しました。

模倣1 名称を“ゴージャスマホ”とした商品 商標権で対応可能
模倣2 形状と光沢(外観)がそっくりな商品 意匠権で対応可能
模倣3 同じ特殊素材を使った商品 特許権で対応可能

 さらに次のデータを見てください。

 
 (特許庁 2015年度模倣被害調査報告書 図1.2‐9より)

 統計的には商標に関する紛争が最も多いというデータがあります。
 やはり名称はマネしやすいからでしょう。
 (商標に関する詳細は記事「起業、新規事業で一番気をつけておきたい知的財産権」参照)

 ただ上記データはあくまで統計的なデータです。

 今回の商品が売れているポイント(消費者を惹きつけているポイント)がゴージャスな形状と光沢にあるのであれば意匠権の重要性が高いと言えます。

 そうではなく、実は今回の商品のために開発された特殊素材にポイントがあれば特許権の重要性が高いと言えます。

 取得する権利、権利の組み合わせについてはこうした事情をよく検討して決定すべきです。
 権利の組み合わせと取得・維持費用をまとめました。

 <条件、留意点>
 ・10年間の権利維持を想定
 ・費用は記事「知的財産権を取得するための費用は?」の表から
 ・実際には当該費用との乖離が大きい場合もあり(例えば、多くの技術が詰まっていて一つの特許ではカバーできない場合など)

 上記条件に基づき整理したものが次の表です。

目的 商標権 意匠権 特許権 費用合計
名称“ゴージャスマホ”の模倣防止     20万円
デザイン(形状と光沢)の模倣防止     30万円
素材技術の模倣防止     120万円
名称、デザインの模倣防止   50万円(20万円+30万円)
名称、技術の模倣防止   140万円(20万円+120万円)
デザイン、技術の模倣防止   150万円(30万円+120万円)
全部の模倣防止 170万円(20万円+30万円+120万円)

 この費用をどう見るかですが、
 今回の商品の利益率をざっくりと30%として考えてみましょう。

 知的財産権を取得しなかった場合、売上が50%低下するとします。

 知的財産権を取得していたことで売上高低下なしの場合売上高低下が10%まで抑えることができる場合、20%の場合、30%の場合、40%の場合に知的財産権が守った利益額は以下の図の通りです。

 

 商標権、意匠権、特許権を170万円かけて取得したとします。
 この場合、上グラフの縦軸の170万円から横に線を引き、各直線との交点における横軸の値が知的財産権費用をペイする売上高になります。

知的財産権の効果 ペイする売上高
(下の額以上の売上高が見込める場合は知的財産権を取得すべき)
売上低下無 567万円
売上高低下を10%にとどめる 708万円
売上高低下を20%にとどめる 944万円
売上高低下を30%にとどめる 1,417万円
売上高低下を40%にとどめる 2,833万円

 模倣した相手に警告レベルの措置しか考えていないのであれば上記売上高が知的財産権取得の目安になると思います。

 中小企業の場合、この程度でとどめ、裁判まではしたくないと考える場合が多いのではないでしょうか。

 また、2,000~3,000万円は通常の事業であれば達成したいレベルの売上高だと思います。

 であれば、上記シミュレーション結果を鑑みると、少なくとも知的財産権の取得の検討ぐらいはやるべきではないでしょうか?

<検討したいことの例>
模倣してきそうな相手がいるか?
模倣による影響はどの程度か?
どのような模倣(名称?デザイン?技術?)が考えれるか?
取得費用はいくらか?

  一方、模倣した相手には裁判裁判も辞さないというのであればペイする売上高はもっと上がります。
 弁護士費用など諸々含めて仮に1,000万円かかると仮定すると、ペイする売上高は以下の通りになります。

知的財産権の効果 ペイする売上高
(下の額以上の売上高が見込める場合は知的財産権を取得すべき)
売上低下無 3,333万円
売上高低下を10%にとどめる 4,167万円
売上高低下を20%にとどめる 5,556万円
売上高低下を30%にとどめる 8,333万円
売上高低下を40%にとどめる 16,667万円

 ペイする売上高がかなり上がりました。
 このペイラインを下げる方法として“知財保険”というのがあります。

 これは別の記事にします。

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