模倣リスク対策(その6):著作権の活用

2017.06.05

ここまで、

・いかに模倣を早く見つけるか?
・模倣品を発見した場合の対応
・模倣の場所と対応
・ECサイトで模倣品を見つけた場合の対応
・権利の種類と利便性

について触れてきました。

<過去記事>
 模倣リスク対策(その1):いかに模倣を発見するか
 模倣リスク対策(その2):模倣を発見したら
 模倣リスク対策(その3):模倣場所と対策

 模倣リスク対策(その4):ECサイトでの模倣発見時
 模倣リスク対策(その5):権利の種類と利便性

  今回は著作権活用についてです。

 ここまで何度か紹介してきたラップフィルムケース(下の写真)を元に進めていきます(下枠内は単なる前ふり)。

 上写真のラップフィルムケース内にはラップフィルムが入っています。サ〇ンラップの紙ケースがプラスチックケースに変わったようなものです。

 通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。
 全て片手の操作ででき、刃が飛び出した状態に維持させ続けることもできます。写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。

 例えば、料理中に片手がふさがっているとき清潔さが求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。

 商品名は“触らんラップ”です。
(仮想名称なので、ご愛嬌ということで)  

 業務用、個人用にハイスペックな商品として高価格で販売します。

 本商品について確固たる権利(いわゆる“産業財産権”)として以下のものが挙げられます。

  商品の要素 権利
商品名 商標権:触らんラップ
商品デザイン 意匠権:外観全体
刃の出し入れ機構 特許権:内部構造

 こうした権利を世界中で取得しようとしたらおそろしい額の費用が発生します。

 国内での権利取得費用は「知的財産権を取得するための費用は?」を参照してください。
 ざっくりとですが、海外でも権利を取得するのならこの金額が出願国数だけ発生するということになります(と、いうより翻訳などの海外対応費用もある分、国内取得費用を確実に上回ります)。

 さらに特許権侵害の疑いのある商品を発見したとしても、それが本当に権利を侵害するものかどうかには検証が必要です。警察や税関職員も判断しづらいでしょう。

 そこで今回、著作権活用の余地について触れます。

 著作権という権利が商標権や特許権よりも優れた点として

・登録不要なこと
 (著作物を作った時点で著作権が自動的に発生

・ほぼ世界中で保護されること
 (著作権保護に関するベルヌ条約には日本を含め168か国が加盟:2015年1月時点)

が挙げられます。

 権利をいちいちお金をかけて取らなくてもよく、かつ、世界的に保護される。

 これが著作権最大のメリットでしょう。

 また、ゲームや映画の海賊版、勝手にキャラクターのデザインが貼り付けられた商品など、うまく著作物を利用すれば、侵害の疑いのある商品の検知という面でも有用性があります(下枠の例)。

<サザエさん事件>
 古い裁判例ですが、バスの側面に以下のキャラクターデザインを描いたバス会社が著作者に訴訟を提起されたものです。損害賠償金が認められました。
 
 
 権利侵害に該当するか否かという問題はありますが、誰もが容易に検知できるという意味で紹介しました。

 著作権は著作物を創作した瞬間に発生します。

 ここで、著作物とは“思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの”と著作権法2条1項1号に明記されています。

 “思想又は感情を創作的に表現”とはレベルの高さは関係ないので、幼稚園児が描いた絵でも著作物になり得ます。

 以下のようなものが著作物の一例として挙げられます(出典:公益社団法人 著作権情報センター http://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime1.html)。

言語の著作物 論文、小説、脚本、詩歌、俳句、講演など
音楽の著作物 楽曲及び楽曲を伴う歌詞
舞踊、無言劇の著作物 日本舞踊、バレエ、ダンスなどの舞踊やパントマイムの振り付け
美術の著作物 絵画、版画、彫刻、漫画、書、舞台装置など(美術工芸品も含む)
建築の著作物 芸術的な建造物(設計図は図形の著作物)
地図、図形の著作物 地図と学術的な図面、図表、模型など
映画の著作物 劇場用映画、テレビ映画、ビデオソフト、ゲームソフトなど
写真の著作物 写真、グラビアなど
プログラムの著作物 コンピュータ・プログラム
二次的著作物 上表の著作物(原著作物)を翻訳、編曲、変形、翻案(映画化など)し作成したもの
編集著作物 百科事典、辞書、新聞、雑誌、詩集など
データベースの著作物 編集著作物のうち、コンピュータで検索できるもの

 今回の商品には著作物となり得るものがあるでしょうか?

1.商品そのもの

  博多人形や家具(幼児用椅子)が著作物だと認められた例があります(下の写真)。
  

  こうした商品でも純粋美術と同視し得るぐらい美的なものなら著作物性が認められる余地があります。

  今回のフィルムケースについてもそれが言えるでしょうか?
  

  ちょっと難しいと思います(純粋美術レベルだと言いづらいですね)。

  こうした工業的量産品のデザインは“意匠法”で保護されるものです。

純粋美術、同視し得るもの 著作権法
工業的量産品 意匠法

   従って、商品デザインについて著作権法でなく意匠法での保護を考えるべきです。

2.取扱説明書、仕様書、チラシなどの情報資料

   これらは著作物になり得ます。

   

   経済産業HPの相談事例でまさに取扱説明書が模倣された場合のことが掲載されています(以下)。   
   http://www.meti.go.jp/policy/ipr/soudanjirei/tyosaku4.html

3.その他に何かないか?

   設計図面は著作物になり得ます(ただ、設計図面は重要な営業秘密です。しっかり保護することの方が重要ですよね)。

   今回の商品に関連する著作物として思いつくものは以上です。

   一方、先に紹介したサザエさん事件は著作物活用のヒントになり得ると感じます(下枠)。

<商品のシンボルとして著作物を活用>

 サザエさん事件ではバス会社が他人のキャラクターを無断使用したものですが、これが自社の著作物だったらどうでしょうか?

 バスの側面にサザエさんの絵を付すように、キャラクターデザインという著作物(キャラクターに限らず著作物)を商品と一体的に用いることでその商品を(間接的に)著作権で守ることができます。

 識別力のある著作物を“商標”的に使うというイメージです(以下)。
   

 ハローキティのようなものをうまく自社で育てることができれば、(それを付した)模倣品の摘発を容易にできるのではないでしょうか。

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