投稿者「ae1458hl9e」のアーカイブ

地図の利用について(ゼンリンからの回答)

2017.05.09

 以前の記事「ウェブサイトと知財の留意点(6.地図情報について)」にてグーグルマップやヤフー地図の利用にゼンリンの許諾が必要かどうかコメントしました。

 この点について実際にゼンリンに問い合わせて回答をもらいました

Googleマップやヤフー地図の利用について
・利用規約に記載されている条件に従い
・権利帰属を明確に表示
していればゼンリン社への申請や許諾は不要

とのことです。

 例えばヤフー地図をウェブ上で地図を利用する場合、利用規約に以下の記載があります。

地図の各ページへリンクしたい場合やご自身のサイトに掲載したい場合は、「この地図のURL」機能をご利用ください。詳しくは、下記のリンクをご覧ください。

  • 地図をブログやサイトで利用する

上記の機能を利用してリンクまたはブログやサイトで利用する場合は、個人利用、商用利用を問わずYahoo! JAPANへのご連絡は不要です。

 この利用規約に従っていればゼンリンの許諾は不要です。

 この場合、
 「この地図のURL機能」を使っていること
 ・権利帰属を明確にしていること(権利者をきちんと表示していること)
 を守っていればいいと言うことになります。

以上

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ブログと知財の留意点

2017.05.09

 前回、事業者を対象にした「ウェブサイトと知財の留意点」について書いきました。

 今回は個人(ブロガー)を対象にします。

 現在、かなりの人がブログをやっています。私の友人にも何人かいます。そして広告収入を得ている人も多いでしょう。

 広告掲載している場合、著作権法などの権利侵害(または権利侵害のおそれ)があると広告停止になります(すなわち広告収入が0円になります)。収入が多い人ほど痛いですね。

 また、最近は著作権侵害で逮捕というニュースも多くなってきました。

 


(産経ニュース記事:アニメに字幕をつけて公開し逮捕)
 
産経ニュース
 
ネットの写真で写真集 著作権法違反容疑で52歳男を逮捕
http://www.sankei.com/affairs/news/170209/afr1702090050-n1.html
インターネット上の風景写真を複製して写真集を販売したり、写真投稿サイトに無断投稿したりしたとして、長野県警は9日、著作権法違反の疑いで、東京都小平市小川町、団体…

(産経ニュース記事:ネットの写真で写真集を作って逮捕)
 
www.jiji.com
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016113000760&g=soc
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016113000760&g=soc

(時事ドットコムニュース記事:自炊代行で逮捕)
 
SANSPO.COM
 
「デイリーモーション」でTV番組を無断公開した疑い…28歳無職の男を逮捕
http://www.sanspo.com/geino/news/20160728/tro16072819380005-n1.html
 福島県警伊達署は28日、無断でテレビ番組をインターネット上で公開したとして、著作権法違反の疑いで、兵庫県伊丹市南本町、無職江上翔太容疑者(28)を逮捕した。

(サンケイスポーツ記事:TV番組を無断公開し逮捕)
 
産経WEST
 
発売前の「ワンピース」をネット海賊版に公開 著作権法違反で中国人ら4人逮捕 ...
http://www.sankei.com/west/news/151113/wst1511130081-n1.html
人気漫画「ONEPIECE(ワンピース)」の発売前作品を海外向けのマンガ海賊版サイトに公開したとして、京都府警は13日、著作権法違反の疑いで、埼玉県八潮市の配送…

(産経ニュース記事:発売前ワンピースを公開し逮捕)

 こうした検挙事例は警察のネズミ捕りに例えると、現状では速度オーバー(著作権法的に問題あり)している車が大量に走っている中、さらにぶっちぎりの速度違反のものだけが捕まっているといった感じでしょうか。

 警察が動く目安の一つとして経済的な影響が大きい場合(例えばそれを公開することで本やCD、DVDなどの売上が減る場合)が挙げられます。

 ですので、例えば発売後の漫画の一コマをブログに載せたからといって警察が出動し、即逮捕されることは考えにくいですね(断言はできませんが)。

 ただ、刑事的には罰せられなくても、民事的にも大丈夫だとは言えません。
 ブログに載せた内容は誰もが閲覧できるものですし、証拠が残るので注意するに越したことはありません。

 権利者から警告がきてすぐに侵害行為をやめたとしてもそれまでに権利者が被った損害がなくなるわけではありません(以下)。
 

 つまり損害賠償を請求されるリスクが消えるわけではないのです(参考:下の民法条文)。

不法行為による損害賠償)
第七百九条   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 最近は著作権だけでなく差別的表現個人のプライバシーなど、ひと昔前の感覚でいたらすぐに叩かれるようになってきました(そうした雰囲気を利用して出る杭を叩こうとする感じさえすることもあります)。

 こうしたことをリスクとして理解しておく分に損はないと思います。

 ポイントになりそうものを以下に挙げます。

1.引用

 漫画の引用ニュース記事の引用写真の引用テレビ番組の引用動画の引用など他人の著作物を拝借することがあると思います。

「引用」とは、例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載しそれを解説する場合のこと(文化庁:著作権なるほど質問箱より抜粋)

 こうした拝借行為で例えば以下の権利について侵害が問題になります。

複製権(コピーする権利)
公衆送信権(ネットで公開する権利)
同一性保持権(著作者の意に反して著作物に変更を受けない権利)、翻案権(著作物の形を変える権利)、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(上記翻案後のものを利用する権利)

 ここでは権利の詳細までは説明はしません。
 著作権法ではこうした権利侵害に当たらないとする例外規定がいくつか設けられています。
 その一つが“引用”です。
 ここではどうすれば引用として認められるのか見ていきます。

(1)引用できる著作物
 著作権法では引用できる著作物の種類を限定していません。
 “公表された”著作物であれば引用して利用できると考えることができます。

 脱ゴーマニズム宣言事件(事件番号 平成9(ワ)27869 東京地裁平成11年8月31日判決)があります。

 元々の作品である『ゴーマニズム宣言』の絵の一コマを引用し、これを一部改変(下の人物の目の部分を黒塗り)したことが同一性保持権を侵害するというのが原告請求理由の一つになっていました(参考:下の裁判資料)。
 

 本件における裁判所の判断を以下に抜粋します。

“引用が必要最小限度のものであることまで要求されるものではない
“絵を引用している例も多数存することが認められるのであるから、漫画によって示された主張を批評する場合に、絵を引用することなく批評するのが一般的であるとか、そのような慣行が成立していると認めることもできない

 上記のように絵の引用そのものは肯定されています(ただし、こうした引用を否定する声もあります)。


(2)引用として認められるためには?

 少しおかたいは話になりますが、著作権法第32条に引用の規定があります(以下)。

(引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 この条文だと「公正な慣行に合致」、「正当な範囲内」となんとも抽象的な表現になっています。

 文化庁では引用の条件を以下のように回答しています(著作権なるほど質問箱)。ア~キを全て満たせば引用成立となります。

既に公表されている著作物であること
公正な慣行に合致すること
報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること
引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
引用を行う「必然性」があること
出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)
www.bunka.go.jp
 
著作権なるほど質問箱
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/outline/8.h.html

 しかしこれでもまだ上記イ、ウの謎が解けていません。

 この点について文化庁HPに「公正な慣行」や「正当な範囲」とは具体的にはどのようなものか回答があります(著作権なるほど質問箱)。

 以下抜粋します。

最高裁判決(写真パロディ事件第1次上告審 昭和55.3.28)を含む多数の判例によって、広く受け入れられている実務的な判断基準が示されています。例えば、[1]主従関係用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること [2]明瞭区分性両者が明確に区分されていること [3]必然性なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性が該当します。   

 最高裁判決で示された有名な判断基準が実務的に使われている、と何だか歯切れの悪い回答です。
 

www.bunka.go.jp
著作権なるほど質問箱
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000304

 結局、裁判所が示した
[1] 主従関係:引用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること
[2] 明瞭区分性:両者が明確に区分されていること
[3] 必然性:なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性
が引用判断の拠りどころになるのでしょう。

 なお、文化庁の条件キ(出所明示)は著作権法の他の条文(法第48条の出所の明示)に基づくもので、引用の要件として示されなくても(専門家にとっては)当たり前の話です。

 まあ、法的要件の漏れがないようにするには、文化庁、最高裁判例のいずれの要件も参考にした方が安全ですね(以下)。
 

 具体的な引用例については前回記事「ウェブサイトと知財の留意点」の「3.無断利用の問題(3)引用」の部分を参照してください。

 上記要件を満たせば引用ということになります。

<外形的に引用の要件を満たせばいいのか?>
 いろいろなブログを見ていると、
漫画やアニメをネタバレ的に一コマ載せて厚めにコメントし、“主従関係”や“明瞭区分性”などの要件を満たしていればいいのか?
ブログの閲覧数アップ目的であっても著作権法が目的とする「文化の発展に寄与する」行為だと主張し得るのか?
 など様々な疑問が頭に浮かんできます。
 ニュース記事、音楽、動画、プロスポーツ選手や芸能人の写真などについても同じことが言えます。
 ここではこうした疑問は全部グレーゾーンとしておきましょう。

2.写真、動画(自ら撮影)

 被写体として例えば料理建物物絵画などがすぐに思い浮かびます。
 こうしたものを撮影すること、撮った写真や動画をブログに載せると何か問題があるのでしょうか?

 著作権法との関係で考えてみます。

(1)著作権がない被写体(許諾不要な被写体)

 著作権法では“著作物”を作った人に“著作権”が発生することになっています。裏を返せば、著作物でなければ著作権は発生せず、許諾の問題はないということになります。

 ここで“著作物”とは何か?ですが、著作権法では、

(定義)
第二条この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
と規定しています。
 
 ただ、著作物かどうかの判断は(裁判に発展するものも多く)かなり難しいです。
 
 一般論を表にまとめました(例外が存在する場合もあります)。
被写体 著作物性 ブログ掲載にあたっての留意点
人物 著名人の場合はパブリシティ権、一般人の場合にはプライバシー権に注意が必要です(記事「ウェブサイトと知財の留意点」の“4.人気キャラ、著名人、非著名人の活用”の(4)および(5)参照)。例えば赤の他人が写り込んだものは使わないか、ぼかしを入れた方がいいでしょう。
料理 いくら著作物性がないからといって、撮影を禁止している飲食店で勝手に撮影するとトラブルの元ですね。
建築物
 
仮に著作物性を有していたとしても写真を撮ることに著作権者の許諾は不要です(著作権法46条)。だからといって人の家をパシャパシャ撮っているとトラブルの元ですね。
 乗り物(鉄道、車など) 工業製品(量産品)は著作物でないという考え方が一般的です(ただし家具に著作物性を認めた判例があります)。
企業のロゴマーク 他社商品と関連があるかのような使い方は避けるべきです。商標権や不正競争防止法の問題があります。
 ※ 被写体に著作物性がなくても他人が撮った写真や動画(写真や動画そのもの)は著作物になり得ます。従ってその写真や動画の無断使用はできません。
 
 被写体に著作物性がある場合、それを創作した人には著作権が(自動的に)発生します。
 その場合は写真を撮る行為(複製行為)は原則、著作権者の許諾が必要になります。

 

(2)たまたま写ってしまったものの扱い

 たまたま写真や動画に著作物が入り込んでしまった場合(例えば後ろの方にキャラクターが写り込んでしまった場合、その場に流れていた音楽が録音されてしまった場合)はどうでしょうか

 この場合、一定の要件を満たせば権利侵害にはなりません。著作権者の許諾無しで利用できます(著作権法第30条の2)。

 これは“雪月花事件”と言われる裁判(事件番号 平成11(ネ)5641東京高裁平成14年2月18日判決)が元になっています。

 カタログに「雪月花」という書の著作物が写り込んだことが発端となっています(以下:裁判所HPより)。

 細かい説明は省略しますが、裁判所は上記写真の後ろの書程度であれば侵害にならないと判断しました。

 これを受けて文化庁では権利者の許諾が不要な場合許諾が必要となる場合を例示しています(以下)。

許諾不要

 ○写真を撮影したところ,本来意図した撮影対象だけでなく,背景に小さくポスターや絵画が写り込む場合
○街角の風景をビデオ収録したところ,本来意図した収録対象だけでなく,ポスター,絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれる場合
○絵画が背景に小さく写り込んだ写真を,ブログに掲載する場合
○ポスター,絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれた映像を,放送やインターネット送信する場合

許諾必要

○本来の撮影対象として,ポスターや絵画を撮影した写真を,ブログに掲載する場合
○テレビドラマのセットとして,重要なシーンで視聴者に積極的に見せる意図をもって絵画を設置し,これをビデオ収録した映像を,放送やインターネット送信する場合
○漫画のキャラクターの顧客吸引力を利用する態様で,写真の本来の撮影対象に付随して漫画のキャラクターが写り込んでいる写真をステッカー等として販売する場合

(出典:文化庁HPhttp://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/utsurikomi.html

<参考>
-該当する著作権法条文-

(付随対象著作物の利用)
第三十条の二  写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない
 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない

-本条文について-

 写り込みが認められるためには、
1.分離することが困難なこと
2.軽微であること
3.著作権者の利益を不当に害しないこと
を満たす必要があります(1項)。
 ただ、「分離することが困難」ってどういうこと?と謎が残る条文です(文化庁の例示を見ていると、意図的でなく写り込んだ著作物が小さければ許諾不要だという印象です)。

 

3.音楽(他人の著作物)

 まず、以下の記事(アフィリエイト広告収入を目的とする違法音楽配信に対して新たな著作権侵害対策を実施)を見てください。
 

www.jasrac.or.jp
 
プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)
http://www.jasrac.or.jp/release/12/12_1.html
日本音楽著作権協会(JASRAC)のプレスリリースを掲載しております。

 こうしたことを踏まえ、ここではJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)の管理楽曲を念頭にまとめます。

 まず上記1の「引用」に該当する場合はJASRACとの手続きは不要です。

 引用とは法律で認められているものです。この点についてJASRACもホームページで認めています。

 ただ、音楽に関しては数小節程度であれば利用可能という妙な誤解があるようです(私の知人でも誤解している人がいました)。

 何小節かというより“著作物”かどうかです。

 短ければ短いほど著作物性はなくなっていくという理屈が背景にあるのでしょうが、著作物かどうかの判断は難しいものです。

 JASRACのホームページに次のようなQ&Aがありました(以下)。

Q.4小節程度であれば、「引用」としてJASRACに手続きをしなくても歌詞や楽譜を雑誌に掲載したりできると聞いたのですが。
A.楽曲を利用する場合は、一部であっても手続きが必要になります。楽曲の部分的な利用と著作権法で定められている「引用」とは別の事柄です。

 整理すると以下の通りです。
 
 引用の要件は上述の「1.引用」を参照してください。

 個人使用の場合、月額1曲150円年額1,200円です(料金早見表http://www.jasrac.or.jp/info/network/side/hayami.html)。
 ただし、アフィリエイト収入がある場合にもこの金額が適用されるのかは不明ですので確認した方がいいでしょう。

 

 4.その他

 以下、前回記事「ウェブサイトと知財の留意点」と重複しますので該当箇所をご参照ください。
 
 ・著作権フリー著作物→「3.無断利用の問題」の(2)
 
 ・人気キャラ→「4.人気キャラ、著名人、非著名人の活用」の(3)
 
 ・地図→「6.地図情報について」
 
 ・リンク→「7.リンクについて」

 

 上記以外にもブログで疑問に感じたことがありましたら、気軽にお問い合わせください(すぐに回答できない場合、回答そのものが難しい場合もあるかもしれませんが)。

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ウェブサイトと知財の留意点

2017.05.06

 まず、以下のグラフを見てください。
 Q.横軸は何だと思いますか?
 
縦軸は従業員一人当たりの売上高を示します。
 
横軸は何かの保有率です。
 各点には県名が記されていますが、そのことはここでは問題にはしません。
 

 この横軸の保有率と売上高には相関があります。
 つまり、この保有率が高いほど売上高が大きいという関係があることを示しています。

 A.横軸は県内企業のウェブサイト保有率です。

 ウェブサイトを保有している企業はそうでない企業に比べて従業員一人当たりの売上高が大きいという傾向があります。

 最近ではホームページだけでなくFACEBOOK(フェイスブック)やLINE(ライン)などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も当然のように活用されるようになってきました。
 ブログによる日々の情報発信もそうですね。

 こうしたウェブサイトは顧客とのコミュニケーション手段です。新商品・再サービスなどの情報が効果的に顧客に届きますし、口コミ効果も期待できます。

 一方でコンプライアンス(法令順守)の重要性も高まってきました。記事や商品名の無断利用は(それが正当なものかどうかは別にして)すぐに問題になります。
 最近は“炎上”という言葉もしょっちゅう聞くようになりました。

 医療系まとめサイトWELQ(ウェルク)は素人が専門家記事をコピペ同然で掲載したことが発端だと言われています(炎上の本質的な原因は別にあるのかもしれませんが)。
 関連記事(上:東洋経済ONLINE 下:YOMIURI ONLINE)
 


 
www.yomiuri.co.jp
 
ページが見つかりませんでした : 読売新聞オンライン
http://www.yomiuri.co.jp/science/feature/CO017291/20161201-OYT8T50043.html

 以下、ウェブサイトと知財(主に著作権)の留意点についてまとました。

1.外注先(WEB製作会社など)とのトラブル回避

 ウェブ製作を外注することを前提に考えると大まかに
外注先(WEB製作会社、デザイナー)とのトラブル
外注したコンテンツを原因とした第三者とのトラブル
の2つが懸念されます。

 ここでは前者について触れます(後者については後述)。

 WEB製作やキャラデザイン外注先ともめたという話はよく聞きます。
 その一番の原因(と思われるの)として、著作権というのが著作物(プログラム、データベース、ホームページやキャラクターのデザイン、文章、写真、動画など)の創作者(外注先)に発生する権利であること(外注した者の権利ではないこと)を挙げることができるかもしれません。

 “著作権”と言っても様々な権利があります(下図)。
 
 
 ここでは上図上部の“著作者の権利”だけ見てください。

 著作者の権利はさらに“著作者の人格的権利(著作者人格権)”といわゆる“著作権”に分けられます。

 著作者人格権とは未公表の著作物を公表できる権利(公表権)著作者名に実名・ペンネームを表示する(あるいは表示しない)権利(氏名表示権)著作物について意に反する変更を受けない権利(同一性保持権)の3つがあります。

 著作権は財産権の一種なので譲渡することができるのですが、上記著作者人格権は人格的な性格のものなので譲渡することができません(参考:下の条文)。

(著作権法の条文:著作者人格権の一身専属性)
第五十九条  著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない

 この著作者人格権、特に同一性保持権がよく問題になります。
 有名なところでは彦根市のゆるキャラ“ひこにゃん”の事件があります。
 
 当初デザインされていたのは上の3ポーズでしたが、著作者の意に反して別ポーズやキャラクターの性格付けがされました。
 そのため同一性保持権侵害を根拠に使用禁止が申し立てられました。

 これはキャラクターの例でしたが、同一性保持権侵害は文章、写真、絵、音楽などウェブサイトを構成する著作物全てに関係する問題です。
 例えば、当初のウェブデザインを著作者に無断で変更すると同じ問題が起こる可能性があります。

 この場合の対策としては著作権譲渡契約の際に“著作者人格権を行使しない”ことを著作者(外注先)に約束させることが挙げられます(著作者人格権は譲渡できないので)。

 著作権の譲渡契約にも気をつけておきたいことがあります。
 著作権を包括的に譲渡しただけでは、翻訳権、翻案権等(法27条)と二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(法28条)は外注先に留保されたものと推定されることです。

 ひこにゃんの例で、もし、ひこにゃんにしっぽを付けるなどの改変を加えたい場合、そうしたことを行うためには上記著作者人格権が行使されないだけでなく、法27条および法28条の権利が必要です。
 法27条および法28条に何の言及もしない包括的な譲渡契約だとこれらの権利が相手先に残っていると推定されます(参考:下の条文)。

(著作権法の条文:著作権の譲渡)
第六十一条   著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
 著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。

 契約では“第27条および第28条に規定する権利を含む”と特掲する必要があります。


2.従業員とのトラブル回避

 ウェブサイトを外注先でなく従業員が作成する場合、従業員が描いたイラスト、撮った写真や動画などを利用することになります。

 従業員が作成したウェブデザインや写真、動画だからと言って必ずしも会社が自由に利用できるとは限りません

 中国国籍のデザイナーとアニメ会社との間でアニメキャラクターデザインの図画をめぐって法人著作か否かが争われた判例があります(事件番号 平成13(受)216 最高裁判所)。

 法人著作、つまり職務上作成されたのであれば法人が著作者になります(法人が自由に著作物を使えます)。
 著作権法では職務上作成する著作物の著作者について次のように定めています。

(職務上作成する著作物の著作者)
第十五条   法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

 上記条文が示す要件を整理すると次のようになります。
 

 ウェブサイト作成やウェブサイトに載せる素材(写真、動画、文章など)を従業員にまかせる場合は上表5要件(プログラムの場合は4要件)を満たす必要があります。

 上記判例では上表要件2が争われたものです。
 デザイナーは(来日3回のうち2回)観光ビザを使っていたものの、法人の“指揮監督下”にあり、“労務提供の対価”として金銭の支払いがあったことから雇用関係にあったといべき、というのが裁判所の最終的な判断です。


3.無断利用の問題

 例え外注先が無断使用した素材(著作物)を用いてウェブサイトを作成ものでも、サイト閲覧者にとってはその企業が権利侵害者に見えるでしょう。
 へたをすると炎上に発展するかもしれません。

 他人の著作物を利用することが問題になるパターンとして
 素材をそのまま利用
 ・素材を加工して利用
の2つあります。

 また原因者はウェブサイト所有者(企業)だけでなく、当該ウェブサイト利用者(例えば、掲示板などへの書込み者や当該ウェブサイトをプラットフォームとした商品売買者)の2者が考えられます。

 チュッパチャプス事件と言われるものがあります(事件番号 平成21(ワ)33872東京地方裁判所) 。

 楽天のショッピングサイトの出品者が著名な“Chupa Chups”のマークを出品物(帽子やカバンやマグカップなど)に貼り付けて販売していたところ、商標権者であるイタリア企業がその出品者でなく、サイト運営者である楽天を訴えたというものです(下図参考)。
 

 最終的に訴えは退けられましたが企業の管理責任が問われた問題だと言えます。こうした赤の他人の知的財産無断使用によって企業が損害を被るリスクがあるのです。

 訴訟結果を踏まえて上記リスク対応としては、
 ・権利侵害の日常的なチェック(訴訟予防)
 ・侵害のおそれがある場合には合理的期間内に対応(訴訟対策)
 が挙げられます。
 合理的期間とはどれくらい?という疑問がありますが、上記判例を参考にすると約1週間が目安の一つになりそうです。

 著作権というのは著作物(文章、プログラム、データベース、絵、写真、音楽、動画など)ができた瞬間にそれを創作した人(著作者)に発生します。
 ときどき誤解している人もいますが登録する必要はありません(登録制度はありますが、登録の有無で権利効力に差が生じることはありません)。

 他人の著作物を無断で使用し、複製権などの著作権侵害を侵害すると刑事罰(10年以下の懲役、1000万円以下の罰金など)や損害賠償などの対象になります。

 一方、著作権は独自創作したものであればどんなに似たものがあろうが別個独立に存在するものです。
 たまたま似ているのはセーフです(特許や意匠や商標など他の知的財産権との大きな違いがこの点です)。

 しかしながら上述した医療系まとめサイトWELQ(ウェルク)の問題がそうであったように、既存著作物(文章とか写真とか絵とか音楽とか・・・)をそのまま転用あるいは参考に改変して使用するケースが実際にはかなり多いのではないでしょうか?

 他人の著作物を使用できるケースを以下に整理しました。

(1)著作権の利用許諾あるいは譲受け

 無断使用せずに著作者(または著作者から権利を譲り受けた者)から許可をもらう、あるいは権利を譲り受けることでその著作物を複製などができます(参考:下の条文)。

(著作権の譲渡)
第六十一条  著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
(著作物の利用の許諾)
第六十三条  著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。

 ただし、改変して使用する場合同一性保持権の問題に留意が必要です(対応は上記「1.外注先(WEB製作会社など)とのトラブル回避」を参照)。


(2)著作権フリー著作物を使用

 現在、著作権フリーのサイトが数多く存在します。
 ただし、利用規約を見ると必ずしも完全な著作権フリーでない場合が多いので注意が必要です。
 具体的には、

商用利用禁止
 →ビジネス目的、広告料(個人のアフィリエイト含む)収入があるものは有料

数量制限がある
 →著作物の使用が所定数を超えた場合は有料

著作者名を表記
 →著作物を使用するときには併せて著作者名を表記しなければならない

改変禁止
 →著作物の一部を削除したり、変形したり、要素を追加したりできない

といった制限が課されている場合が多いです。

 実際に著作物(写真)を無断使用(自社ウェブサイトに掲載)したとして損害賠償請求に発展した例があります(事件番号 平成26(ワ)24391東京地方裁判所)。
 裁判所HP公開資料:全文別紙1
 裁判所は
 複製権侵害(無断で掲載)
 氏名表示権侵害(著作者名を明記せず)
を認め、被告に約20万円の支払いを命じました。
 裁判所の判断の抜粋を示します。

しかし,仮に,Eが本件写真をフリーサイトから入手したものだとしても,識別情報や権利関係の不明な著作物の利用を控えるべきことは,著作権等を侵害する可能性がある以上当然であるし,警告を受けて削除しただけで,直ちに責任を免れると解すべき理由もない。

 通常、加害者に故意や過失があったことを被害者が証明しなければなりませんが、この裁判では加害者の著作物無断使用の事実だけを立証するだけで決着しました。

 このように著作権者の権利が守られる方向に動いています。権利関係が怪しい著作物には手を出さない方がいいでしょう(でも、どうやって調べるんだよ、という問題がありますよね)。


(3)引用

 自社商品の紹介や専門用語の解説、仮説の証明などに他人の著作物を引っ張ってくる必要がある場面は少なからずあります。

 そのような場合にもいちいち著作権者の許諾が必要では不都合が生じますので著作権法では“引用”を認めています(参考:下の条文)。

(著作権法条文:引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 上の条文だけでは結局、どのように引用したらいいのかよくわかりませんが、文化庁や判例(最高裁 昭和55年3月28日判決)によって具体的にどのように引用すべきか示されています(以下)
 なお「公正な慣行」、「正当な範囲内」については文化庁から回答が公開されています(文化庁なるほど質問箱:http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000304)。

  例えば“クラウドファンディング”について記事を書くにあたり、クラウドファンディングとは何かを説明する必要があります。書籍あるいはサイトから次の条文を見つけたとします。

クラウドファンディングとは群衆(Crowd)と資金調達(Funding)を組み合わせた造語である。モノ作りや店舗展開などに必要な資金をインターネットを介して調達する仕組みである。

 このクラウドファンディングの定義を引用するにあたり、チェック例を上表に沿って説明します。
 引用文が公表されていること(上表文化庁1)
  
→未公表の文章であれば引用不可
  
 クラウドファンディング記事が文章量・内容ともに“主”で上記引用文が“従”であること(上表文化庁2、3、4、判例1)
  
→クラウドファンディングの記事に引用文しか載っていなければ、引用文が“主”と言えるので引用不可
 
 引用部分がカギ括弧や上記のようにイタリック文字になっていて明確に区分されていること(上表文化庁2、3、5、判例2)
  
→クラウドファンディング記事文章に溶け込むように使われていたら引用不可
 
 引用を行う必要性があること(上表文化庁2、3、6、判例3)
  
→クラウドファンディングとは関係ない記事には引用不可
  
 出所を明示すること(例えば書籍の場合は著作者名・出版物のタイトル・出版社名・出版年・該当頁、ウェブサイトであれば著作者名・サイト名・URLなどを明示)(上表文化庁7)
  →上記のように文章を記事中にて文章で再現(複製)する場合、出所を明示しないと引用不可。出所の明示は著作権法48条においても規定されており、これを守らないと著作権法違反に該当(※参考:下の条文)

※(著作権法条文:出所の明示)
第四十八条  次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない
 第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十七条第一項、第四十二条又は第四十七条の規定により著作物を複製する場合

 なお引用ができるのは文章に限りません。法的要件を満たせば絵画であっても写真であってもマンガであっても可能です。

 ただし、あくまで引用のために許されるというだけです。
 人の注意をひきつけるためにマンガのキャラや著名人を使うことは“報道、批評、研究その他の引用の目的上”のものとは言えないかもしません。
 また、著作権以外に商品化権パブリシティ権不正競争防止法など別の問題がありますので気をつけてください(後述)。


(4)アイデアの利用

 著作権法で保護されるのは表現でありアイデアではありません。

 例えばウェブサイト上で活用するプログラムがあったとします。プログラムは著作物であるため著作権で保護可能です。

 ただし著作権で保護されるのは表現物である(プログラムの)ソースコードです。ソースコードを文章の一種と考えると理解できると思います。
 アルゴリズムは保護されません
 アルゴリズムという問題解決手段は技術的アイデアです。こうした技術的アイデアは特許権で保護可能です。

 つまり、
 プログラムのソースコードをデッドコピーしたものについては著作権(複製権)侵害になること

 一方、アルゴリズムを参考にしただけでソースコードが異なる場合(文章表現が異なる場合)は著作権侵害にはならないこと(ソースコードに付加したり、ところどころ手を加えただけなら著作権侵害の余地はあります)

 こうした技術的アイデアそのものを守るためには特許権の取得が必要
ということになります。

 もしプログラムに特許権が取られていたら、特許となっている技術的範囲内であればソースコードが違っていても特許権侵害になります。
 参考までに特許権と著作権の保護の比較を以下に整理しました。

 

 また、次のような判例があります(事件番号 平成11(ワ)20965東京地方裁判所) 。
 原告キャラクターと被告キャラクターの図案が似ていると争われた例です(下図)(出典:裁判所HP公開資料)。

 

 両者は本を擬人化したという点で共通しています。
 ただし本の擬人化というアイデアは著作権法で保護されるものではない、というのが裁判所の判断でした(初見では両者は似ているように見えるかもしれませんが、“擬人化された本”として見比べると異なるキャラクターに見えませんか??)。

 また、広告デザインが類似すると争われた裁判があります(事件番号 昭和58(ワ)1367 大阪地方裁判所)(出典:裁判所HP公開資料)。
 
    細かい説明は省略しますが、裁判所は広告(1)と広告(2)の表現上の特徴部分が相当異なっており著作者人格権や著作権を侵害しないと判断しました。

 商業広告に限らずウェブデザインやプログラムに関しても、アイデアの利用と著作権の問題は別物だと理解されます。
 しかし道義的な問題が生じないように気を付けなければならないですね。


(5)著作物性がないもの
(これはあまり参考にはならないかも)

 そもそも著作物と言えないものには著作権は発生せず、著作権侵害は起こりません。
 著作権法において著作物を次のように定義しています。

(著作権法の条文:定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 著作物であると言えるためには(著作権があると言えるためには)、“創作的に表現”されていることが条件になります(条文後段の“文芸、学術・・・”の部分はそれほど重視されていません)。
 
 例えば、ソフトウェア開発会社(被告)がエクセルを利用して作ったソフトウェア画面が別のソフトウェア開発会社(原告)が作ったソフトウェアの画面に酷似しているという紛争があります(事件番号 平成15(ワ)15478東京地方裁判所)(出典:裁判所HP公開資料)。
 
 裁判所は、上図のような画面表示は普通に行われていることであるとして原告表示画面の著作物性を否定しました。
 
 ただ、著作物性を判断するのは非常に難しいです。
 これは著作物性がないだろうから大丈夫などという判断は避けた方がいいでしょう。 
 
4.人気キャラ、著名人、非著名人の活用
これも無断使用の問題ですが他の権利も絡んできますので別項目にします)

 ウェブサイトに人気キャラのイラストや著名人の写真を載せることで集客効果が期待できます。

 また、社内風景従業員インタビュー新商品紹介など、写真や動画に従業員、さらには一般人が写り込む場合も多いでしょう。

 以下、条件分けして説明します。

(1)第三者が著作物(イラスト、写真、動画など)を作成した場合

 著作権者であるその第三者から著作権の利用許諾または譲受けが必要になります(「1.外注先(WEB製作会社など)とのトラブル回避」参照)。


(2)従業員が著作物を作成したが職務著作に該当しない場合

 この場合も上記(1)と同様です。
 職務著作に関しては「2.従業員とのトラブル回避」を参照してください。

 上記(1)(2)をクリアしても以下(3)以降の問題があります。


(3)人気キャラを使う場合

 こうしたキャラクターは個別具体的なデザインについて著作権商標権意匠権などが発生している場合があります。その他に人気キャラの無断使用に関しては不正競争防止法の不正競争行為民法の不法行為が適用されることもあります。

 こうした権利によって守られるキャラクターの権利については、法律上の規定はありませんが“商品化権”とも呼ばれています(商品化権の明確な定義はありません)。

 例えば、あの船橋のゆるキャラには「ふなっしー」という名称、および下のポーズについて商標権が取得されています(標準文字商標 第5743777号 合同会社274LAND)。
  
 商標以外にも(権利未取得のようですが)例えば上記写真をTシャツに貼り付けて意匠権を取得することも可能です。
 
 人気キャラを使うためには、こうした商品化権の権利者とも言えるキャラクター所有者の利用許諾権利の譲受けが必要になります。


(4)著名人を使う場合

 無断で著名人の肖像氏名(その他に経歴記録肉声署名)※を使うとパブリシティ権侵害になる可能性があります。
※IT知財と法務 第2版 日刊工業新聞社 P107より

 “パブリシティ権”という法律上の規定があるわけではありません。著名人の顧客吸引力に経済的な価値があると認める判例の蓄積によって認められた権利です。

 著名人を使ったことでこのパブリシティ権をもとに訴訟に発展するケースがたびたびあります。

 ・中田英寿事件(事件番号 平成12(ネ)1617 東京高裁)
 (著名なプロサッカー選手であった原告の半生を描いた書籍の出版差止、損害賠償が請求された事件)

 ・ピンク・レディー事件(事件番号 平成13(受)216 最高裁判所)
 (ピンク・レディーの振付けを利用したダイエット法にピンク・レディーの写真を使用したことに損害賠償が請求された事件)

 いずれも裁判所はパブリシティ権という権利そのものについては認めています。ただ、上記判例ではパブリシティ権侵害は否定されました。

 パブリシティ権侵害を回避するための判断基準として上記中田英寿事件の第一審判決(東京地判平成12年2月29日)で示された以下の文言が挙げられます。

具体的な事案において、他人の氏名、肖像等を使用する目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、右使用が他人の氏名、肖像等の持つ顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるかどうかにより判断すべき

 例えば、ピンクレディー事件では思い出的に写真を使ったのであってピンクレディーの顧客吸引力を理由したのではないという理由になっています。

 ただ、パブリシティ権侵の判断基準以前に著名人の氏名や肖像を使うことで訴訟のリスクはあるわけですから、著名人を使いたければ本人の承諾を得ることを第一に考えた方がいいでしょうね。


(5)非著名人を使う場合

 非著名人の場合は“プライバシー権”、“人格権の問題”があります。

 プライバシー権とは私生活をみだりに公開されない権利、人格権とは肖像、氏名、名誉など個人の人格に関わる権利の総称です(プライバシー権の保護対象(個人識別情報)は以下)。

 

 ここでは細かい説明は省きますが、プライバシーや名誉を傷つけられた被害者からは損害賠償、差止、名誉回復などを求められることがあります。

 小説のモデルにされた者がプライバシー権侵害で慰謝料を請求した「宴のあと」事件というのがあります(昭和39年9月28日東京地裁判決)。
 この判決の中でプライバシー権侵害の成立要件が示されています(以下)。

1.私生活上の事実、またはそれらしく受け取られるおそれのある事柄であること
2.一般人の感受性を基準として当事者の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められるべき事柄であること

3.一般の人にまだ知られていない事柄であること
4.このような公開によって当該私人が現実に不快や不安の念を覚えたこと

 例えば、ウェブページで社員を紹介するにあたっては、その社員の肖像、氏名、学歴、所得、思想などの保護対象(個人識別情報)が
 私生活上の事実(上記要件1)
 公開を欲しない事柄(上記要件2)
 公知でない事柄(上記要件3)
であり、当該社員が不快の念を覚えたら(上記要件4)、プライバシー権侵害のおそれがあると判断し得ます。

 

5.音楽利用について

 音楽も文章や写真、動画などと同じ著作物です。
 著作権が創作と同時に著作者に発生する点をはじめ、基本的な考え方は上述した著作物と変わるものではありません

 ただ、音楽の場合はJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)などの著作権管理事業者がいて、多くの音楽を管理しています。
 著作権管理事業者は作詞家、作曲家、音楽出版社使用者(企業など)間に入って利用許諾、利用料の徴収を行います。

 音楽著作権管理事業者のリスト(ネットワーク音楽著作権協議会) 
 

 ここではJASRACの商用配信について見ていきます(JASRACが管理していない音楽の場合は他の管理事業者あるいは権利者と交渉することになります)。
 JASRACのHPでは以下を商用配信としています。

企業・個人事業主による音楽利用
有料配信での音楽利用
広告掲載など何らかの収入のあるWebサイトでの音楽利用
(ただし、非営利団体または個人の場合、広告収入のみを得てダウンロード配信を行う場合は、例外的に非商用配信の取扱い)

この商用配信は
1.動画を伴った音楽利用
2.CMコンテンツの配信に係る音楽利用
3.ゲーム配信に係る音楽利用
4.歌詞や楽譜の掲載に伴う音楽利用
に4分類されています(以下リンク:JASRAC)
  

 

(以下、JASRACのHP文面に基づいてのみの判断ですので、実際の運用と異なる可能性があります。実際にはJASRACに問い合わせるのが無難です)

 例えば、ウェブサイトで自社商品の紹介とともに音楽を利用する行為が上記2のCMコンテンツ配信に該当すると考えます。
 手続き詳細について記載されたPDF資料「CMと音楽著作権」を見ると以下のコメントがありました(以下抜粋)。

【インタラクティブ配信使用料】
情報料及び広告料等収入がない広告主ホームページで、CMをストリーム形式で配信する場合の使用料は、年額50,000円(月額5,000円)(いずれも税別)です。

また、市販のCDを利用する場合には著作隣接権を考える必要があります。
<市販のCD、テープを利用する場合の注意点>
 この場合、著作隣接権というレコード会社などが有する権利が働きます(著作権法89条~104条)。
 従って市販のCDを利用する場合、そのCDを販売しているレコード会社に連絡し、著作隣接権の手続きをとる必要があります。

 

6.地図情報について

 地図も著作物であり著作権が存在しています。
 従って権利が放棄・解放されているか、切れていない限り地図の無断使用は著作権者の権利を侵害することになります(以下参考:産経ニュース)。
 

 

 ただ、この地図というのは意外に権利関係や利用方法がわかりにくいです。
 例えばグーグルマップの利用規約を見ても、結局、どこまでがセーフでどこからがアウトなのかよくわかりません。

 ウェブサイトに埋め込む形式での利用ならOKだとか言われることもあるようですが本当のところはどうなのでしょうか。


 
地図利用行為用途について著作権法との関係を念頭に考えてみます。

(1)地図利用行為について
 地図を有形的に再製する行為は“複製”に該当し、地図の複製権を侵害する行為だと言えます(参考:下の著作権法条文)。

(定義)
第二条  
十五  複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むもの
(複製権)
第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

 例えば地図をコピー&ペーストでウェブサイト上に貼り付けたり、地図を印刷したりする行為は有形的に再製しているので複製権侵害行為に該当します(ただし、後述の例外により侵害にならない場合あり)。

 地図を埋め込みスクロールできる状態にしたとしてもやはり複製行為と実質的に同じではないかという疑問があります。

(2)地図利用用途について
 私的使用と商用に分けることができます。
 ①私的使用
  私的使用に関しては著作権法で例外的に認められています(参考:下の著作権法条文)。

第五款 著作権の制限
(私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

  従って、週末飲みに行く店の場所を確認するために地図をプリントアウトする行為は個人的なこと(私的使用)であり著作権侵害にはなりません。

  私的なホームページやブログはどうでしょうか?

  私的と言っても全世界の人が閲覧できるのであれば個人的とは言えないかもしれませんし、最近はアフィリエイトなどで広告収入を得ている人もいて商用だと言えるかもしれません。
  ここでは話を長くしたくないのでグレーとしておきます。

 ②商用
  私的使用のような例外規定は設けられていません。
  著作権者がにらみをきかせている限り、利用許諾を得るか、権利を譲渡してもらうしかありません。

 以下、商用での利用を想定して権利物との関係で考えます。

 インターネット上で利用できる地図としてよく挙げられるのが、
 ・Google マップ
 ・Yahoo!地図
 ・国土地理院地図
 ・OpenStreetMap
あたりですね。
 これらの利用規約からどのような利用が許されているか整理してみました。 

Google マップ 営利目的の場合はGoogle Cloud カスタマー担当者に問い合わせが必要(Google マップ、Google Earth、ストリートビューの使用
Yahoo!地図 「この地図のURL」機能を利用する場合、個人利用、商用利用を問わずYahoo! JAPANへの連絡不要 (リンク・転載・二次利用について
国土地理院地図 不特定多数の者がそれらを閲覧又は入手できる状態に置く場合は複製の承認が必要 (国土地理院の地図の利用手続  3.「測量成果の複製の承認」 )
OpenStreetMap OpenStreetMap のクレジット表記を前提に自由にコピー、配布、送信、利用可能
著作権とライセンス

 Yahoo!地図は埋め込み機能を使えば自由利用できるような表記になっていますが、注意が必要です。

 まず、下の図を見てください。
 GoogleマップやYahoo!地図を利用すると地図の下の方に著作権マークとともに“ZENRIN”の文字が表示されています(以下)。

   

  

 著作権マーク(©や(C))とともに“ZENRIN”と記載されています。
 つまりGoogleマップやYahoo!地図は地図製作会社であるゼンリンから地図を購入して利用したものなのです。

 著作権は著作物を創作した者に発生します。
 従ってGoogleマップやYahoo!地図のおおもとの著作権はゼンリンにあります。

 そしておおもとの地図(原著作物)を加工してできたGoogleマップやYahoo!地図は“二次的著作物”であり、著作権は誰かと言うとグーグルヤフーさらに原著作物の著作者であるゼンリンです(参考:下の関連する著作権法条文)。

(定義)
第二条
十一  二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。

(二次的著作物)
第十一条 二次的著作物に対するこの法律による保護は、その原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない

(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
第二十八条  二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

 従ってグーグルやヤフーが「埋め込みなら著作権者表示を条件に地図を使っていいよ」と言ってもそれだけでは足りません。ゼンリンの許諾も必要です(ゼンリンがグーグルやヤフーの裁量に任せているとかあるのでしょうかね?ここではそのような取決めはないもの考え進めます)。

 ちなみにゼンリンのホームページを見ると、地図を自社ホームページ上に掲載する場合には利用申請が必要だと記してあります(以下のリンク)。

 利用料について記載はありません。
 私(管理人)の企業勤時代の話になりますが、ゼンリンの住宅地図を何回か利用したことがあり、そのたびに利用料をゼンリンに支払っていました。1回の使用で数千円の利用料だった記憶があります(ウェブサイトの地図利用とは用途が異なりましたのでウェブサイト掲載の場合だと金額は異なるでしょう)。

➡その後、ゼンリンに地図利用について問い合わせ、回答をもらいました。記事「地図の利用について(ゼンリンからのコメント記載)」をご確認ください。


7.リンクについて

 自社サイトと外部サイトを結びつけるリンク機能はウェブサイトに欠かせないものです。

 引用するためのリンク、第三者のウェブサイトや商品・サービスを紹介するためのリンクなど様々な目的が考えられます。

 また、外部サイトと相互リンクを貼れば自社サイトへの訪問者数の増加が見込まれます。

 ここではリンクを次のように整理してみました。
 


Q.このようなリンクを貼る行為は知的財産権侵害になるのでしょうか?

 リンクを張る行為は自社サイトからリンク先に接続できるようにする(リンク先のウェブページの所在を示すURLをリンク元のウェブページを構成するhtmlファイルに書き込む)ことです。

 他人の著作物を複製したり、公衆送信等するものではなく、原則として著作権侵害に該当するものではないと考えられます。

 しかし、ユーザーのコンピュータでの表示態様によっては著作権侵害になる可能性があります。

 例えば、リンク先との関係を誤認してしまうようなリンク(リンク先の著作物がリンク元のウェブページ又はその他著作物であるかのようなリンク)著作者人格権の侵害となる可能性があります。

 商標権との関係では、インラインリンクやフレームリンクによりリンク元のウェブページの作成者あたかもリンク先の他人の商標を使用しているような場合は商標法上の「使用」と評価される可能性(商標権侵害の可能性)があります。

 また、リンク元とリンク先の営業を誤認混同させるように使用した場合や、他者の著名な表示を自己の商品などの表示として使用した場合には、不正競争防止法で規定されている不正競争行為に該当する可能性があります。

参考:電子商取引及び情報財取引等に関する準則(平成28年6月 経済産業省)

 

8.免責事項の設定

 企業のウェブサイトにはたいてい“免責事項”があります。
 ウェブサイトの情報を信じた結果、損害を被ったという人から訴えられないとも限りません。
 各企業は免責事項をトラブルを回避するための一手段として設けていると言えるでしょう。

 ECサイトなどの電子商取引においては“利用規約”が定められ、“免責事項”はその中の一項目になっているものを多く見かけます。
 こうした利用規約の有効性は消費者保護の観点から一般的に肯定される場合が多いようです。

 ただ、ここでは電子商取引とは関係なく多くの企業のウェブサイト上に設けられている免責事項に焦点をあてます。
 
 実際にどのような免責事項が設定されているか見た方が早いでしょう。
 以下に例を挙げます。

<経済産業省>(http://www.meti.go.jp/main/rules.html)

ア 国は、利用者がコンテンツを用いて行う一切の行為(コンテンツを編集・加工等した情報を利用することを含む。)について何ら責任を負うものではありません。
イ コンテンツは、予告なく変更、移転、削除等が行われることがあります。

<トヨタ>(http://www.toyota.co.jp/jpn/terms/)

弊社は当ウェブサイトの情報の正確性、適切性、確実性またはご利用になるお客様の特定の目的への適合性について、いかなる保証をするものではありません。弊社は、当ウェブサイトの内容に誤りがあった場合でも、一切の責任を負わないものとします。また、当ウェブサイトのご利用によって生じたいかなる損害、およびその損害の可能性について弊社が通知されていた場合も含めて、一切の責任を負わないものとします。
本項は準拠法の範囲内においてのみ適用されます。

弊社は当ウェブサイトのコンテンツやURLを予告なしに変更、修正および中止することがあります。あらかじめご了承ください。弊社は、当ウェブサイトのコンテンツやURLの変更、修正および中止によって生じるいかなる損害に対し、一切の責任を負わないものとします。

<NTTドコモ>(https://www.nttdocomo.co.jp/utility/term/)

・当ウェブサイトのご利用は、お客様ご自身の責任において行われるものとします。当ウェブサイト上に掲載されている各種情報については、慎重に作成、管理しておりますが、ドコモは、これらの情報の正確性、有用性、完全性等を保証するものではありません。 ドコモは、お客様がこれらの情報をご利用になったこと、またはご利用になれなかったことにより生じたいかなる損害についても責任を負いません。
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・ドコモは、お客様が当ウェブサイトからリンクが張られている第三者のウェブサイト、または当ウェブサイトへリンクを張っている第三者のウェブサイトから取得された各種情報のご利用によって生じたいかなる損害についても責任を負いません。
・お客様がご利用になる通信環境、コンピューター環境、その他の理由により、当ウェブサイトが正常にご利用になれない場合がございます。

 

<三菱UFJフィナンシャル・グループ>(http://www.mufg.jp/conditions/)

1.本サイトに掲載された情報、または本サイトを利用することで生じたいかなるトラブルおよび損失、損害に対して、当社を含むMUFGグループ各社は一切責任を負いません。

2.本サイトの運営の中断、中止や情報の変更によって生じたいかなるトラブルおよび損失、損害に対して、当社を含むMUFGグループ各社は一切責任を負いません。

 

<ソフトバンクグループ>(http://www.softbank.jp/help/legalnotice/)

グループ各社は、当サイトへの情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載された情報の内容の正確性については一切保証しません。また、当サイトに掲載された情報・資料を利用、使用、ダウンロードするなどの行為に関連して生じたあらゆる損害等についても、理由の如何に関わらず、グループ各社は一切責任を負いません。
また、当サイトに掲載している情報には、グループ各社のほか第三者が提供している情報が含まれていますが、これらは皆さまの便宜のために提供しているものであり、グループ各社はその内容の正確性については一切責任を負いかねますのでご了承ください。

<KDDI>(http://www.kddi.com/terms/sitepolicy/)

当社は、細心の注意を払って当社ウェブサイトに情報を掲載しておりますが、この情報の正確性および完全性を保証するものではありません。
当社は予告なしに、当社ウェブサイトに掲載されている情報を変更することがあります。

当社およびその関連会社は、お客さまが当社ウェブサイトに含まれる情報もしくは内容をご利用されたことで直接・間接的に生じた損失に関し一切責任を負うものではありません。

とまあこんな感じです。
 これらも著作物と言えるものなのでコピー&ペーストで免責事項として使用しないようにしてください(著作権侵害に該当する可能性があります)。

 参考にするとしたら、多くの免責事項において

情報の正確性などを保証するものではない
情報は予告なしに変更、更新されることがある
情報利用で生じた損害に一切責任を負わない

という内容が共通しています。
 これらの内容を念頭に自らのウェブサイトの性質にあったものを作成するのも一つの手かもしれません。

 ただし、免責事項があるからといって、必ずしも責任も免れるわけではないのはご理解いただけるものと思います。

 当サイトにも免責事項を設けています。自由に利用していただいて構いませんが、自己責任でお願いします。

以上

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事例で見るクラウドファンディングと知財リスク対策

2017.05.01

 前回記事「事例で見るクラウドファンディングの流れと留意点」で大まかなクラウドファンディングの留意点を整理しました。
 今回は知財に着目して整理したいと思います。
 商品は前回同様にラップフィルムケースにします(以下)。 
 上写真のラップフィルムケース内にはラップフィルムが入っています。サ〇ンラップの紙ケースがプラスチックケースに変わったようなものです。

 通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。

 全て片手の操作ででき、刃が飛び出した状態に維持させ続けることもできます。写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。

 例えば、料理中に片手がふさがっているとき清潔さが求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。

 業務用、個人用にハイスペックな商品として高価格で販売することを考えています。

 例えば5,000円で売っていくとします。

 そんな商品売れるかよ!と思う人も多いかもしれません。
 ただ、ひとたびヒットすれば次から次に類似品が出現するのでしょう。

 ここで売上高と模倣品の影響を考えています。
 例えば、発売から徐々に噂が広まり最終的に年間3万個(控え目?)売れるまでになったとします。10年間の売上は約13億円です(下グラフ)。

 

 これはいわゆるブルーオーシャンが続いた場合です。

 現実では模倣品という大きな脅威があります。海外安価品などが市場を荒らす可能性があります。

 3年目から模倣品が出現し、売上が半減したとします(模倣品のせいで売上が半減したという話をよく聞くので50%ダウンとします)。

 この場合、10年間の売上高は7億円、失った額は約6億円という計算になります。

 

 こうした模倣品に対抗する武器が特許権や意匠権などの知的財産権です。

 ただ、前回の記事でも少し触れましたが、特許権や意匠権を取得するためには商品公開前に特許庁に出願手続きを済ませていなければなりません。

 ヒットしたから特許をとる、ということはできないのです。

 このように模倣による利益損失リスクを回避するところに知的財産権取得の主な意義があると言えます。

 逆に考えると第三者の知的財産権に対しても十分な注意を払う必要もあると言えます。

 一方、知的財産権は経営のプラス要因として活用することもできます。

 例えば特許権などを取得していることは金融機関の事業性判断のポイントの一つになるでしょう。

 上グラフの模倣による売上落ち込みリスクは融資する側にとって大きな脅威です。知的財産権という対抗手段は事業計画を補強します。

 特許権を有していることはクラウドファンディングの支援者(個人や法人)に対するPRにもなり得ます。
 商品の製造や販売のラインセンス根拠にもなります。

 このようなことを念頭にクラウドファンディングの流れ(下図)とともに知財のポイントについて触れていきます。

 

1.起案段階

 前回の記事では既に試作品が出来ているところから始めましたが、今回はラップフィルムケースを着想した段階から始めます。

 すなわちまだ発明家の頭の中で商品アイデアが浮かんだだけで何もモノができていない状態です。

 まず手作りで試作品を作ることになるのですが、周りの誰かにそれを見せて意見を聞きたいところです。

 当初のアイデアのまま商品ができるわけはなく、いろんな人の意見を聞きつつ改良を重ねていかなくては良いモノはできません。

 手頃なところでは家族友人ご近所さんあたりの意見を聞くことになるのでしょう。

 ここで問題が出てきます。

Q.誰にどこまで開示したらいいのか?

 特許法や意匠法などでは守秘義務のない人に一人でも知られてしまったら権利を取得できなくなっています(参考:下の条文)。

(特許法条文:特許の要件)
第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
 
(意匠法条文:意匠登録の要件)
第三条   工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠

 ただ、正直これを厳格に受け取っていたらやっていられないというのが実情でしょう(企業レベルでも技術者が他人にポロっと秘密をしゃべってしまうことはよくあることですし)。

 友人やご近所さんと秘密保持契約を結ぶというのは現実的ではありませんよね。

 安心させるつもりではないですが、特許庁の審査官が出願人の身辺について聞き取り調査をやるわけではないので家族や友人に話してしまったこと自体が拒絶につながるというのは考えにくいです。

 しかしながら、その発明アイデアを聞いた人が情報を拡散した場合は問題です。フェイスブックLINEなどネット上で広がった場合はばっちり証拠として残ってしまいます。

 模倣者があらわれるかもしれません。

 誰かに見せなければ始まらないという場合、上記危険性を認識した上で相手にも注意を促し開示するということになるでしょう(口約束でも契約は有効です。約束したという証拠がない点で不安定な契約ですが)。

 また、例え試作品を開示したとして特許となり得る技術が知られていなければセーフです。

 従ってラップフィルムケースの技術ポイントがラップフィルムを保持する機構(内部のフィルム保持部がちょうどいい力加減になっていて、使用者が負担なくフィルムを引っ張ってキレイに千切れるようにすることを実現する機構)にある場合、その部分が技術的に理解されていなければセーフです。

 うっかり口をすべらせないようにしなければなりません(私もメーカーで開発業務に就いていたときはそうでしたが、開発者は苦労した技術のコア部分をつい言いたくなります。ぐっとこらえるべきですね)。

 権利化に関しては改良に改良を重ねた上で特許権などを早めにとりたいところです。

 例えばクラウドファンディング運営事業者のプラットフォーム上にプロジェクトを公開するときまでに特許権や商標権を取得していればその旨をプロジェクト紹介ページでPRできますし、模倣者を牽制することができます。

 企業向けにライセンス許諾(例えば販売できる権利を与える)をリターン品に設定するという先進的な活用方法も考えられます。

ここで、
Q.権利化までどれくらいかかるのか?
Q.
どの程度の費用がかかるのか?
気になるところです。

 いずれも、こうです、と言えないのが苦しいところです。

 例えば特許出願の場合、出願しただけではいつまでたっても審査してもらえません

 審査請求料という追加費用を払って審査請求しなければなりません。審査請求をして審査順番の最後尾に並ぶことできるのです。行列のできるラーメン店など比べものにならないくらい待たされます。

 そして審査の結果、拒絶理由通知が出された場合、その後のやりとりが必要になりさらに時間がかかります。

 費用にしても特許庁に支払う手数料は明確に定まっていますが、出願代理費用(弁理士費用)が特許事務所によって異なります。

 以下の表はあくまで参考という程度で見てください(実際の値と大きく異なることもあります)。

権利 権利化までの期間 費用
特許庁 弁理士※4 10年分維持まで含む合計
権利化まで 権利化後
10年分
特許権 15.2カ月 ※1 約15万円 約47万円 約55万円 約120万円
出願のみで約30万円
実用新案権 無審査登録 1.4万円 約10万円 約25万円 約40万円
意匠権 6.1カ月 ※2 1.6万円 約14万円 約16万円 約30万円
商標権 4.3カ月 ※3 約2万円 約6万円 約11万円 約20万円

※1 特許行政年次報告書2016年版1-1-25図最終処分期間(2014年平均)より
※2 特許行政年次報告書2016年版第一章P24意匠審査の現状FA期間より
※3 特許行政年次報告書2016年版第一章P31商標審査の現状FA期間より
※4 参考情報:平成18年に弁理士会が実施したアンケート結果
※その他 特許の請求項数3、実用新案の請求項数1、商標の区分数2、商標は一括納付で計算。

 どんなに頑張っても売上が数百万程度の市場ならこうした権利を取得するのはバカらしくなりますが、それなりの事業にしようと考えるのなら、こうした権利取得を怠る方が損です。

 模倣を防ぐ武器は知的財産権しかありません

 冒頭あたりに示した模倣品有無の違いのグラフを見るとわかりますが、模倣品の出現により数億円の売上を失っています。

 この喪失金額と上表の知的財産権取得費用を見比べると、知的財産権取得の費用など大した問題ではないことがわかります。

 それでは
Q.どのような権利を取得すればいいのか?
という疑問がでてきます。

 今回の商品であるラップフィルムケースには模倣されたくない要素が何かという視点で考えます。

 ①商品名
  商品名は自分のものと他人のものを区別する大事な要素です。商品を手に取って使い心地を十分に試すことができるのならまだしも、ネット上ではそれは不可能です。

 その後、店頭販売されるようになったとしても消費者が商品を識別するのは商品名になるでしょう(店員に商品名を尋ねるなど)。

   こうした商品名については商標権を取得できます。
  商標権は信用を保護するものだと言えますので永久に維持が可能です(10年ごとに更新可)。

  商標権は特許権や意匠権に比べて取得が容易です。

  プラットフォーム上では閲覧者に商品名を印象付けたいところですが、一方で商標権が取得されていないことに目を付ける者がいないとは限りません(というか高確率で存在するでしょう)。

  そうした者が先取り的に商標権を取得してしまうと、もう打つ手はありません

  (その商標権を取得した者に利用料を支払うなどしないと)その商品名を事業に使うことができなくなってしまいます。

  商標権の問題はモノ作り系プロジェクトだけでなく店舗開業プロジェクトなどビジネス系プロジェクト全てに関係します。

  知的財産関係の紛争で最も多いのは商標です。

 一番模倣されやすいのは商品名ですので(下の模倣被害実態に関するグラフ:2015年度模倣被害調査報告書 図1.2‐9より)、防御手段として確保しておきたい権利です。

 ②技術
  今回のラップフィルムケースで工夫が詰まった技術は模倣されたくない差別化要素です。

  商品購入者の使い心地、満足度を左右します。

  こうした技術については特許権または実用新案権を取得できます。
  特許権と実用新案権の違いについては以下にまとめました。 

  特許権 実用新案権
保護のため要求される技術レベル 高い(当業者が容易に発明できたら特許を受けることができない) 高くはない(当業者が極めて容易に考案できたら登録を受けることができない)
保護範囲 広い(技術全般:物、方法、製造方法) 狭い(プログラムや方法などは保護されない)
権利期間 出願日から20年 出願日から10年
権利の強さ 強い(特許庁審査官が審査したもの) 弱い(無審査登録のため損害賠償責任を負うことも)

 模倣品が出てきたときに裁判にも耐え得る権利ということであれば特許権、模倣牽制権利PR程度を想定するのであれば実用新案権が視野に入ってくるでしょう。

 ③デザイン
  
商品デザインはそれを見た人の心をひきつけるものですのでやはり模倣されたくはありません。

  プラットフォーム上で公開されているプロジェクトを見ても、支援金を集めているプロダクトはデザイン性に富んだものが多いです(プロジェクト成否を左右する重要な要素です)。

  こうしたデザインについては意匠権を取得できます。

  できれば早くデザインを確定しプラットフォーム公開に間に合わせたいですが、本件商品については見ての通り、改良の余地がありそうです(機能的にはハイスペックだとしても高級感を印象付けるという感じではないですので)。

  なお特許または実用新案にもなり得る商品形状がデザイン性も有しているのであればその技術を意匠権として保護することが可能です。

  例えば特許権は取れそうにないが実用新案権では心もとないという場合に意匠権を取得するという裏技的な方法もあるわけです(意匠権は特許庁審査官の審査を経ていますので実用新案権よりも確かな権利だと言えます)。

 まあこれはデザイン性が伴っているということが条件ですが。

2.相談段階

 クラウドファンディング運営事業者に守秘義務があるのかどうか

 もし守秘義務がなければ相談時に技術内容やデザインを開示することで特許権や意匠権などを取得できなくなってしまいます。

 運営事業者に守秘義務があるのかどうかは通常わかりません。利用規約にも載っていないケースがほとんどです。

 普通あるだろ、と思うかもしれませんが相談の際、確認した方がいいでしょう。

 黙っていれば特許庁にはわからないんだから気にしなくていいんじゃないのかと思われるかもしれません。

 通常であればそうなのですが、例外的な手続きにより特許出願や意匠登録出願をする場合、起算日になり得る大きな問題です。

 特許法や意匠法では技術やデザインを守秘義務のない第三者に知られたとしても、その日から6カ月以内であれば特許庁に出願できるという例外手続きがあります(参考:下の条文)。

(特許法条文:発明の新規性の喪失の例外)
第三十条
 特許を受ける権利を有する者の行為に起因して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項各号のいずれかに該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、前項と同様とする。

 

(意匠法条文:意匠の新規性の喪失の例外)
第四条  
 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同条第一項第一号又は第二号に該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、前項と同様とする。

 上記特許庁への例外手続きのデッドラインを以下に図示します。

 運営事業者に守秘義務がある場合はプロジェクトをプラットフォーム上で公開した場合を起算日としました。

 運営事業者に守秘義務の有無がデッドラインにどう影響するのか理解できると思います(当然、守秘義務があった方が出願人にとって有利)。

3.準備段階

 プラットフォーム公開に向けた準備作業にあたって主な留意点を挙げます。

 以下の内容は知的財産に馴染みのない人にとっては少し難しいかもしれません(難解な部分は専門家の助けを借りるのが一番早いですし、より安全です)。

(1)必要な権利化の準備は完了しているか
   ①商品名:商標権
   ②商品アイデア:特許権
   ③商品デザイン:意匠権
(2)第三者の権利を侵害していないか
   ①文章、画像、音楽、動画などの著作権
   ②商品名などに関する商標権
   ③技術アイデアに関する特許権
   ④商品デザインに関する意匠権
(3)模倣を許す情報が入っていないか
   ①商品デザイン
   ②商品名
   ③技術

 個別に確認していきましょう。

(1)必要な権利化の準備は完了しているか
   ①商品名:商標権
    クラウドファンディングの後もずっと同じ商品名を使っていくことを考えているのであれば、さっさと商標登録出願を済ませるべきです。

    商標権は特許権や意匠権などと違い、公開することで商品名が第三者に知られてしまっても登録可能です(誰もが知っている商品名ほど模倣による誤認が生じないよう保護する必要があるためです)。

    商品名を公開したからといって権利化できなくなることはありませんが、それを見た第三者が勝手に自分のものにするため商標権を取得する可能性があります。

    それが一番恐いですね。商標登録出願は済ませ、商標登録が公開までに間に合わなかったら、プロジェクトの紹介とともに「商標登録出願中」と明記すると良いでしょう。

    こうした知的財産権について明記したプロジェクトは割と多いです。一例を貼り付けておきます。
 


   ②商品アイデア:特許権
    ラップフィルムケースに関する技術内容を公開すると原則、特許権を取得することができなくなってしまいます。

    また、上述した例外的な手続きにより公開日から6カ月以内であれば後追いで特許出願することは可能ですが、その間に第三者が同一技術を特許出願してしまうと終わりです。先願主義と言って早い者勝ちなのです(参考:下の条文)。

   (特許法の条文:先願)
第三十九条  同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。

    従って公開前に出願を終え、登録が間に合わない場合はプロジェクト紹介の中で「特許出願中」と明記すると良いでしょう。

<その特許、本当に意味はあるのか?>
    そもそもの話になりますが、その特許権は本当に必要なのか?を十分に検討する必要があります。
    本商品(ラップフィルムケース)だと片手で簡単に操作できる構造、ラップフィルムを絶妙な力加減で保持しフィルムの引っ張りを楽にする機構、などオリジナリティのある部分は模倣されたくありません。
    ただ、技術者目線で重要と考える片手操作用に設けられたケース中央部のボタンやラップフィルム保持部は購入者にとってはどうでもいいことです。
    すなわち購入者にとって重要なのは“片手で簡単”、“楽にフィルムを引き出せる”という機能のはずです。
    従って、本ラップフィルムケースのボタンやラップフィルム保持部が別の機構によっても簡単に実現できるのであれば(特許技術を回避できるのであれば)特許権の意義は薄れるかもしれません。

  
   ③商品デザイン:意匠権
    ラップフィルムケースのデザインも公開すると原則、意匠権を取得することができなくなってしまいます。
    例外的な手続きや早い者勝ち(参考:下の条文)も特許法と同じです。

(先願)
第九条  同一又は類似の意匠について異なつた日に二以上の意匠登録出願があつたときは、最先の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができる。

    ただデザインは商品開発プロセスの後工程で決まるのが普通です。公開したデザインとその後のデザインが変わってくる可能性もあります。そうなると出願やり直しということにもなり悩ましいところです。

<知っておきたい意匠権の効力範囲>
    意匠権の効力は登録意匠だけでなく類似する意匠(下図の点線で囲んだ水色部分)にも及びます(参考:以下の条文)。従ってラップフィルムケースのデザインを後で変更したからとって当初取得した意匠権が必ずしも無駄になるわけではありません。
    ただし、デザイン変更後のラップフィルムケースに類似したとしても当初取得した意匠権の効力範囲外となる類似品には権利行使ができません(下図右側)

(意匠法条文:意匠権の効力)
第二十三条  意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。
 
 

  
(2)第三者の権利を侵害していないか
   ①文章、画像、音楽、動画などの著作権
     独自に創作した文章などの著作物には自動的に著作権が発生します。似たような文章が存在していたとしても別々に著作権が発生します。特許や意匠や商標とはこの点が大きく異なります。

     従って準備する資料がオリジナルであれば著作権侵害の問題は起こりません。

     ただ、専門用語や言葉の定義、その他誰かの記事や写真や音楽を引っ張ってきて使うこと、つまり引用することがあるかもしません。

     引用は著作権法で認められています(参考:下の条文)。 

(著作権法条文:引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

     上の条文だけでは結局、どのように引用したらいいのかよくわかりませんね。

     これについては文化庁や判例(最高裁 昭和55年3月28日判決によって具体的にどのように引用すべきか示されています(以下)。

     

     

www.bunka.go.jp
著作権なるほど質問箱
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/index.asp

     ただ、これはセーフ、これはアウトと判断することはなかなか難しい問題です。

     また、動画を用意する場合、動画のBGMに音楽を使います。音楽関係はJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)がうるさいとよく言われています。

     JASRACでは管理楽曲の商用配信について申請を求めています(参考:以下リンク)。
      


     JASRACが定める商用配信の定義を見る限り、CFプラットフォームで公開する動画のBGMにJASRAC管理楽曲を使う行為は商用配信に該当しますので、管理楽曲の使用を検討している場合は協会に相談した方がよさそうです。

     一方、著作権フリーの楽曲もあり、様々なサイトで提供されています。ただし、“商用禁止”とか“著作者明記”などの条件付きの場合があるので利用規約は必ず確認しておく必要があります。

     文章や動画などの作成を専門業者に依頼する場合の注意点は前回記事の「4.公開段階」の「(1)他人の文章、写真、動画など著作物を公開する行為」をご覧ください。

     著作権に関して詳細は別記事にします。

   ②商品名などに関する商標権
     頭をひねって生み出した商品ネーミングでも既に誰かが商標権を取得しているかもしれません。

     商標権の効力も意匠権と同じように同一の名前やマークだけでなく類似する名前やマークにまで及びます。

     前回の記事の「4.公開段階」の「他人の商標を使用する行為」にて少し触れましたが、他人が権利を有する商品名と同一または類似するものを使わないようにしなければなりません。

     例えば、今回のラップフィルムケースだと有名どころでは以下の商標には気をつけるべきです。

     これらは今回開発しようとしているものと商品がモロ被り(シートだけでなく“紙製包装用容器”についても商標権が取られています)ですので絶対に使わないようにしなければなりません。
       
     こうした商標は独立行法人工業所有権情報・研修館の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)にて検索することができます(ここでは検索のやり方は割愛します)。
     

     

<商標の類否判断>
     類似するする商品名を使わないようにしなければならない、と繰り返していますが、そもそもどうやって類否を判断するのか?

     一般的に、外観(見た目)称呼(呼び方)観念(意味合い)から判断されます。通常、どれか一つでも類似するならアウトです。

     例えば、本ラップフィルムケースに“触らんラップ”と名付けたとしましょう(このネーミング天才的?)。

     “触らんラップ”と“サランラップ”を比較すると、外観は識別力が弱い“ラップ”の部分が共通するだけで全体としては異なります。称呼が微妙です。違いは“WA”の読み部分です。観念は本開発品には余計な部分を“触らない”という意味がこもっています。

     外観と観念は異なると言えますが、称呼が微妙ですね。ただこの商品名は有名な“サランラップ”をもじっているのは明らかです。商標権者からすると苦々しく感じるかもしれません(笑って許してくれれば良いのですけど)。

     非類似だと主張する余地は十分にありますが、災いの元にしたくなければ、この名前はやめといた方が無難ですね。

     しかし、せっかく考えた商品名を使いたい場合はどうすべきでしょうか?

     商標登録出願してみるというのも選択肢としてありかもしません。登録されれば特許庁の審査官が“触らんラップ”と“サランラップ”が非類似だと認めたということになりますので堂々と使う根拠にはなります。

     例えば、高級時計として有名で商標登録されている「FRANCK MULLER」を意識したと思われる「フランク三浦」という商標も登録されています(だからと言って商標権者からクレームがないとは限りませんが)。

      商標類否判断について特許庁公表資料のリンクを貼っておきます。
     

           
   ③技術アイデアに関する特許権
     ラップフィルムケースというローテク風商品であっても様々な特許権が存在しています。

     上記②で紹介した特許情報プラットフォームで先行技術(特許権)を検索したら400件以上がヒットしました(以下)。
     
     こうした特許の中には、刃のカット性を良くするための工夫、フィルムの縦裂けを解消する工夫が施されていて、例えば刃の先端部分の曲率半径が〇〇μm~△△μmでバリ高さが□□未満、なんて感じで特定の技術的範囲に権利が取得されています。

     こうした権利範囲を回避しなければなりません。
     
     上表の水色部分は自由に利用できますが、赤色部分の技術については特許権者から許諾してもらうなどの対応が必要になります。

   ④商品デザインに関する意匠権
     ラップフィルムケースのデザインに関しても特許権と同じく多くの意匠権が存在しています。やはり特許情報プラットフォームで検索することができます。

     例えば以下のデザインに意匠権が取得されています。
     
     上のデザインは食品包装用ラップフィルムケースに関するものであり今回開発しようとしている物品と被ります(ちなみに物品が非類似であれば意匠権の効力は及びません。

     例えば上図がピンポン玉の収納ケースである場合など)。
     ただ、商標の類否と同じようにデザインの類否判断もなかなか難しいものです。

     簡単に言うとこの物品の流通過程における取引者・需要者の目線で似ている、似ていないの判断をする、ということになります。 

     類否判断の詳細については特許庁公表資料のリンクを貼っておきます。
     


 

(3)模倣を許す情報が入っていないか
   ①商品デザイン
     商品デザインは見ただけでどんなものなのかわかってしまいますし模倣も容易です。

     ただ、クラウドファンディングの場合、そのプロジェクトに係る商品(ラップフィルムケース)を見せないと始まりません。

     また、心に残るデザインほど目標金額達成に寄与するのでしょう。どうしても模倣を防ぐことはできません。

     デザインよりも機能(ラップフィルムケースであれば片手簡単操作という機能が重要)の方が重要というのであれば、プラットフォーム上で公開するときは仮デザイン、販売するときは本デザインという感じで使い分けるという手もあります。

     ただ、この場合、注意すべきことがあります。

     意匠法では公知になった意匠に類似する意匠も登録を認めていません(参考:下の条文)。

(意匠登録の要件)
第三条  工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
 前二号に掲げる意匠に類似する意匠

     従って当初デザインと類似するデザインは意匠登録されませんので(下図)、意匠登録したいのであれば、本チャン商品のデザインは当初デザインと非類似のものにしなければなりません。      

   ②商品名
     商品名は最も模倣容易で、しかも第三者に商標権を先取りされてしまったら打つ手がありません。

     対策としては公開前に商標登録出願するか、支援金募集時には商品名を出さない、のどちらかになるでしょう。

     仮の名前を出すというのも考えられなくはないですが、商品名をコロコロ変更するのは消費者の混乱を招くのでやめた方がいいです。

   ③技術
     上述しましたがプロジェクトを見た人にとって重要なのは技術の中身でなくその技術が実現する効果です。

     従って技術内容を公開する必要がなければ秘密状態にしていおいた方が得です。商品を公開しても技術の中身が知られていなければ公知化していなければ、特許権を取得する機会は失われません。

     ラップフィルムケースの場合はカバー部をパカっと開けてラップフィルムが入った部分を開示しなければ内部機構の秘密は保たれたままです。

     ただ、注意しなければならない点として、その商品の機構(技術)でなくても同じ効果を奏する代替技術が容易に考え付く場合です。

     ラップフィルムケースの場合、「簡単片手操作」が商品の大きな魅力点です。それを実現するためのいくつもの技術が詰まっています。

     しかし、「簡単片手操作」を別の方法でもやれてしまうのなら、プロジェクトを公開することはヒット商品アイデアを第三者に提供しているのに等しいことになります。
     こうしたことは開発初期段階で十分に検討すべきですね。
     

<技術の逃げ道に注意!>
     プログラムの場合、同じ効果を様々な方法で実現することが容易な分野です。あるアルゴリズムについて特許権を取得することができたとしても特許権外のアルゴリズムに対しては権利行使することができません(下イメージ図)。
     逃げ道のない権利を取ることが望ましいのですが、広く取ろうすればするほど権利を取得するのが難しくなります(様々な分野の技術について言えることです)。
     

 

4.公開段階

 クラウドファンディングプラットフォームに公開するということは全世界にプロジェクトの情報を発信するということになります。

 つまり他人の著作物を無断で使用した場合はそれが明るみになります。

 著作権は著作物を創作したのと同時に無条件で(登録する必要もなく)発生し、かつ全世界的に保護される権利です。海外から文句が来る可能性があります。

 特許権、実用新案権、意匠権、商標権は国別に発生する権利です。海外で特許権が取られている技術でも日本国内で取られていなければ国内の行為が権利侵害になることはありません。

 ただ、インターネットを介して海外の支援者にリターン品を送るということになると話が変わってきます。

 国を超えたビジネスになるので当該支援者の国の権利(その国だけで取得されている権利)にも注意を払わなければならなくなります。

 このあたりがインターネットビジネスのモヤモヤとした領域です(今のところこうした問題が起きたということは聞きませんが)。

 権利別に留意すべき範囲を以下に整理しました(以下の権利だけ考えれば十分ということではありません。

 例えば、不正競争防止法で保護される商品等表示や営業秘密なども考慮すべきです)。
 
 

5.お返し段階

 支援者の中にはライバル企業などがいるかもしれません(商品をいち早く入手するため)。

 そうした相手の元にリターン品(商品)が届けばすぐにリバースエンジニアリング(製品を分解して中身を分析すること)されるでしょう。

 自社特許権に抵触していないか、その技術機構を自社に取り入れることができないか、など様々な研究がされます。

 改良技術について特許権を取られてしまう可能性もあります。
 まあ、これはクラウドファンディングに限ったことではありませんね。

以上、おおまかに知財の留意点を説明しました。

ご不明点などあれば気軽にメールしていただければ幸いです。

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事例で見るクラウドファンディングの流れと留意点

2017.04.28

 前回記事にてクラウドファンディングの流れと留意点を解説しました。

 そこで今回は実際の試作品に基づき、より具体的に見ていきたいと思います。まず、以下の試作品を見てください。都内のある発明家が作ったものです。

 内部にラップフィルムが入っています。サ〇ンラップを入れるケースだと思ってください。
 なぜこのようなモノを作ったのか?ですが、

・手をケガしたときや片手がふさがっているときに一方の手だけで簡単に切れるものがあったらいい(写真にはありませんが、当該ラップフィルムケースには別に固定部品があり、壁などにピタッと設置することができます)

・その際、刃でケガをしない工夫が施されていたらさらにいい

という想いが出発点になっています。

 通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。
 全て片手の操作ででき、刃を飛び出した状態に維持させ続けることもできます。
 写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。

 例えば、料理中に片手がふさがっているとき、清潔さを求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。

 ローテク風に見えますが、フィルムにかかる圧力の調整などに知恵が込められています(既に特許権が取得されているのでこうして堂々と見せることができます)。ただし、デザインは確定していません。

 さあ、上の写真のように試作品はできましたが、事業化するために金型費500万円が足りません。
 銀行からの融資は期待できないのでクラウドファンディングで集めたいと考えています。

 前回記事でもお見せしたクラウドファンディングの簡単な流れ図を示します。

 

 順にお話します。

1.起案段階

 すでに試作品はできています。まず最初の悩みにぶちあたります。

Q.どの事業者のプラットフォームにすべきか?

 以前の記事「クラウドファンディングとは」で紹介し通り“クラウドファンディング”と言っても様々なタイプがあります。

 正直、応援者から対価なしの寄付型を使って資金提供してもらいたいところですが見ず知らずの個人事業につきあってくれる人はそうおらず無理でしょう。応援者に資金提供の対価(リターン品)を渡す購入型になりそうです。

 朝日新聞のA-portだと新聞広告力を活用できるかもしれませんし、手数料のことを考えると大手の一つであるCAMPFIREという選択肢もありそうです。ビジネス系に強いMakuakeもいいかもしれません。今回この検討は割愛します。

 ここでは仲介手数料が20%の架空のプットフォームということにしましょう。この仲介料を踏まえて次の悩みが浮かんできます。

Q.リターン品に何を用意すべきか?

 世界一周したいなどの個人的なプロジェクトの場合、資金提供の対価に“お礼メール”とか“記念Tシャツ”とか“旅の報告”といったお金がかからないものがリターン品として設定されることが多いです。

 ただ今回はモノ作りというビジネスプロジェクトです。一口千円、とか1万円という支援金の対価にお礼メールやTシャツを設定しても誰にも見向きされないだろうと容易に想像できます。

 やはり今回のラップフィルムケースの事業化に共感してくれる人はこのラップフィルムケースを使ってみたいと思う人でしょう。

 であればリターン品をこのラップフィルムケース完成品にするのが理にかなっています。もし支援者が少なかったとしたらこの商品の需要がないのか、さらに改良しなければ売れないのだ、と受け止めることもできます。

 リターン品はラップフィルムケースということにします。次の悩みどころがリターン品の設定金額です。

Q.リターン品(プロダクト)をいくらに設定すればいいのか?

 考え方として例えば、想定販売価格にし市場性を占う、金型費を調達するため多少上乗せした金額設定にする、ことが挙げられます。

 最近はクラウドファンディングで成功した(応援者が多くあらわれた)プロジェクトに金融機関が融資する取組みもでてきました。
 場合によってはそうした仕組みを活用し得るかも検討事項になり得るでしょう。

 本アイデア品の発明家はこのラップフィルムケースを業務用、あるいはキッチンを彩る高級品にしようと考えています。

 一個5,000円でどうでしょうか?(サ〇ンラップ愛用者からすると「マジかよ」と感じるかもしれませんが、ここではそうした突っ込みはいれないでください)

 ここで考えなければならないのが仲介料その他費用です。

 一口5,000円の資金提供があったとして仲介料20%を差し引くと残りは4,000円です。

 さらに応援してくれた人(資金提供者)へのリターン品送料も念頭に入れておかねばなりません。

 10cm✖10cm✖30cmで200gの配送物の税込送料を確認したところ次の通りでした。

送り先 定形外郵便物 ゆうパック 宅急便
都内 250円 690円 756円
愛知 250円 740円 756円
大阪 250円 840円 864円
福岡 250円 1170円 1188円
沖縄 250円 1290円 1296円

 定形外郵便物で送るのであれば大きな費用にはなりませんが、それ以外だと平均で1,000円程度はみておいた方がいいかもしれません(かなり大きな費用になります)。

 また、応援者が数百人、数千人とあらわれた場合、一人で発送作業を行うのはかなりの手間です。

 発送遅れはトラブルにもなりかねませんのでスケジューリングが重要になりそうです(この点、リターン品をネット介しダウンロードできるようなものだと楽になりますね)。

 発送関係の経費が1,000円だとすると先ほどの4,000円から差引いて自由になるお金は3,000円ということになります。

 500万円の金型費を集めるためには500万円÷3000円=1,667人(目標金額は1,667人✖5,000円=834万円)の応援が必要ということになります。なかなか道は険しそうですがやってみましょう。

 事業者用には10個、50個、100個をまとめて一口5万円、25万円、50万円というコースを用意するのもいいかもしれません。

 リターン品について
 リターン品の設定はいろいろと工夫する余地があるのではないかと思っています。例えば製造する権利販売する権利(特許法で言うところの通常実施権や専用実施権)をリターン品に設定すれば販売代理店を探す手間も省けますし、発送費用はかからなくなります。
 店舗開店系のプロジェクトでは会員権や食事権(券)をリターン品として設定しているケースがよく見られます。まさに権利をリターンにした例だと言えます。

 

2.相談段階

 さあ、クラウドファンディング運営事業者にアポをとって相談します。

 運営事業者が見るポイントは本気度、つまりその挑戦をやり遂げる力があるか(冷やかしでないか、技術的能力があるのか、など)です。

 それを示すためには相当の実績がある企業ならまだしも個人事業レベルでは試作品ぐらいないと話になりません。
 今回、この点では問題ないと言えます。

 ちなみに運営事業者がこうした相談者をどこまでチェックするのかはマチマチです。

 怪しくなさそうという程度でOKなところもあれば(調べようがありませんから)、起案したプロジェクト公開後に利用できるネットワーク(人脈)を有しているかまで確認をとるところもあります。

 それが売れそうかどうかという判断は基本的にしないでしょう。

 それが売れる、売れないの判断は購入者(クラウドファンディングではプラットフォーム上に公開されたプロジェクトを見た人)にかかっています。誰にもわかりません。

 <相談担当者
 若い人が多いです。そもそもクラウドファディングという事業が若いですので、基本的にどこも平均年齢は若い(20代のところも多い)です。
 ちなみに私(管理人)がMakuakeを運営するクラウドファンディング・サイバーエージェントの社員向けに内部勉強会をやったときに参加した人たちは大半が20代女性のように感じました。

 

3.準備段階

 採択されると次は準備に取り掛からなければなりません。

 文章を書いたり、写真動画を貼り付けたりする作業は自分でやるか、誰かに頼むしかありません。

 運営事業者(相談窓口の担当者)はアドバスをしてくれますが、こうした作業自体を手伝ってくれません

 これがクラウドファンディング初挑戦者に最も多い誤解であるような気がします。

 入力作業はパソコンを使ってプラットフォームの管理画面からやります。感覚としてはフェイスブックやブログの記事を書くようなものです。

 会員登録して管理画面に入ることもできないぐらいパソコンが苦手な人は誰か協力者が必須でしょう。

 公開準備のためにどのような情報が必要になるのか以下に整理しました。

プロジェクト名 プロジェクトのコンセプトをあらわしたタイトルを考える必要があります。
プロジェクトの概要と詳細 読んだ人に伝わる文章気持ちを引き付ける動画、写真などが必要です。
カテゴリ 例えば“プロダクト”とか“ファッション”など運営事業者が設定したカテゴリを選択します。プラットフォームではこれに従ってカテゴライズされますのでプロジェクトに適したカテゴリを選ぶ必要があります。
目標金額 目標金額達成しなければ1円も手にできない「オールオアナッシング」方式の場合は高すぎる金額設定にならないようにしなければなりません。
プロジェクト開始・終了日 多くのプロジェクトの募集期間は2~3カ月です。
リターン品 内容数量上限設定一口金額届出予定日などを記載します。
起案者情報 住所、口座番号など非公開情報です。

 公開資料の準備にあたってポイントとなりそうな点を列挙します。

①プロジェクトのシナリオとリターン品の一貫性
 今回はラップフィルムケースと作りたいということが動機ですので、プロジェクト名、プロジェクトの概要や詳細はそうした想いを表現するものになります。

 その想いに共感し応援(資金提供)してくれる人はどのような人かというと、今回のラップフィルムケースが商品化したら購入したいと感じる人だと言えます。

 従って、そうした応援者に対するリターン品は完成したラップフィルムケースだということになります。リターン品に“お礼メール”や“記念Tシャツ”を設定してもうまくはいかないでしょう。

 店舗開業プロジェクトの場合、“会員権”や“食事権”をリターン品として設定するケースが多いということは上述しました。これもその店が開店したら行ってみたいと共感を誘うシナリオに沿ったリターン設定だと言えます。

 寄付型クラウドファンディングであればこうした問題はありませんが、購入型クラウドファンディングというのはリターン品という対価で成り立つビジネスチックなものです。

 なぜそのプロジェクトを立ち上げたのかという目的からリターン品までの一貫性が重要になります。

②募集期間
 募集期間を長くすればより多くのお金が集まるような気がしますがそうでもありません。

 火がついたもので募集期間終了間際まで天井知らずに支援金が集まるものもありますが、時とともに頭打ちになるもの(クラウドファンディング利用人口はまだそう多くはないでしょうから仕方がないことかもしれません)、最初から最後まで低空飛行を続けるものなど様々です。

 ある程度支援が得られてプロジェクトに良い感触を得たというのであれば、クラウドファンディングによるお金集めはそこそこで切り上げるという考え方もあります(集まったお金は漏れなく仲介手数料を取られますし、リターン品発送の手間暇もかかりますので、さっさと事業化の方を進めた方が得かもしれません)。

 これはあくまで印象ですが、プロジェクトの成否は公開間もない時期、長くても1か月あれば大体予想がつく気がします。

 参考までに支援金の集まり具合の一例を挙げます。
 
 青天井タイプ
 
 頭打ちタイプ
 
 低空飛行タイプ

③動画の要否
 現在、多くのプラットフォームがプロジェクト紹介のページに動画をのせています。画像の品質も素人レベルとは思えないものも多いです。

 (ただ、最近のプロジェクトは海外からの輸入品紹介が多く、そうしたものは現地法人が作ったぽい感じの動画も多いですね)。

 動画があると見る側にはより多くの情報が伝わり共感安心感につながります。

 動画の有無はプロジェクト成功率に少なからず影響はあるでしょう。

 ただ起案者側からするとこの動画が一つの壁でもあります。自分で作ろうと思ってもそのような技術がない、業者に頼んだら余計な費用が発生すると頭に浮かんでくるのではないでしょうか?

 この点については閲覧者目線で考えると答えがでてくるかもしれません。

 プロジェクト閲覧者に伝わる心に響くものになっているかで判断し、動画があろうがなかろうがその差がなければ動画は必要ないでしょうし、動画があった方がより良くなるというのであれば動画は必要でしょう。

 今回のラップフィルムケースは片手でいかに楽ににラップが切れるか、いかに衛生面を維持できるかを伝えることがプロジェクト成否のカギになるかもしれませんので動画は必要だと考えます。

 それに販売促進資料を作っていると考えることもできますし(何もクラウドファンディングだけにしか使えないわけではありません)。

 なお動画がなくても成功してるプロジェクトはたくさんあります。一部のせておきます。これらを見ていると必ずしも動画は必要ではないとも感じます。
   


 
 
 
 
 

⑤「オールイン」か「オールオアナッシング」か
 
目標金額未達であっても応援者からの支援金を手にできる「オールイン」方式、目標金額達成時のみ支援金を手にできる「オールオアナッシング」方式のいずれにするかという問題があります(後者のみしか認めていない運営事業者の場合はこうした問題はありませんが)。

 両方の方式を用意しているどの事業者もオールイン方式の方が多いとのことです。

 せっかくの支援金ですのでいただきたくなるのが心情です。
 ただオールイン方式だと支援者にリターン品を届ける義務を負ってしまいます。

 例えば今回のラップフィルムに関するプロジェクトの支援者が50人(25万円分)いたとすると、プラットフォームで約束した届出日までに50個のラップフィルムケースを作り発送しなければならくなります。

 支援金25万円では金型費500万円(目標金額834万円)には程遠いですね。

 さあ金型どうしよう?

 となりますよね。へたに量産体制を作ってしまったら待っているのは地獄かもしれません。

 こうした心配があるので今回の案件はオールオアナッシングの方が適しているかもしれません。

 各方式のメリットデメリットを以下に整理しました。

  オールオアナッシング オールイン
メリット 目標金額未達の場合はリターン義務を負わない 目標金額未達の場合でも支援金を手にできる
デメリット 目標金額未達の場合は支援金を手にできない 目標金額未達の場合でもリターン義務を負う
活用イメージ テストマーケティング的に考えている場合(反応が悪ければプロジェクト中断しても構わない場合 そのプロジェクトに係る事業中断という選択肢はない場合

 こうした資料準備と並行してやらなけれいけないことに応援者づくりがあります。家族や親せき、友人、知人などの協力が必要です。選挙っぽいです。

「インターネットで公開して多くの人に情報を発信し、資金を集めるのがクラウドファンディングなのではないか?」

「自分の知り合いに資金提供をお願いするのは本末転倒ではないか?」

という声が聞こえてきそうですね。
 ただ、いくらインターネットを使った仕組みだと言っても、どこの誰かもわからない人に資金提供者は簡単にあらわれません。現実世界と変わらないのです。

  プラットフォームに公開されているプロジェクトの中には公開から数十日経つのに支援者0人、資金提供額0円というものもあります。

 そうしたプロジェクトの内容に共感したとして“応援する”というボタンを押してお金を払う気になるでしょうか?やはりお金を出すならある程度支援者がいるプロジェクトの方が安心します。

 ミョウバンの塊を大きくしていくには芯となる部分が必要なように、クラウドファンディングでもプロジェクト支援者を増やしていくにはコアとなる仲間が必要です。

 そうした仲間の口コミ効果、プロジェクトのロケットスタート感の演出は必要なのです。そのプロジェクトに合致した層にアクセスを持つ人がメンバーにいるかも成否要因になりますね。

4.公開段階 

 応援者を募り資金を集めるために公開するのですが、公開とは様々なリスクを伴います。

 特に知的財産権(著作権、特許権、意匠権、商標権など)を侵害したとか、公開したことで模倣されたとか、権利を取得できなくなってしまったとか・・・。

 ただ、こうした権利侵害の問題、模倣の問題はクラウドファンディング限定の問題ではありません(従って一般的な留意点や対策は別記事で触れます)。

 公開に伴うリスクのポイントだけ列挙します。

(1)他人の文章、写真、動画など著作物を公開する行為
 多くの場合、他人の著作物を個人的に使用する分には問題ありませんがプラットフォーム上で公開する行為はこの範疇を超えています。著作権侵害を指摘される可能性があります。

 最近では例えば医療系サイト「WELQ(ウェルク)」の記事転用問題が騒がれました(参考記事:YOMIURI ONLINE)。
 

www.yomiuri.co.jp
 
ページが見つかりませんでした : 読売新聞オンライン
http://www.yomiuri.co.jp/science/goshinjyutsu/20161212-OYT8T50096.html

 IT社会となり情報検索範囲がおそろくし広がった昨今、誰が目を光らせているかわかりません。東京オリンピックのロゴ問題もよくまあと思うほど類似著作物が次から次へと出てきました。誰が調べているんでしょうかね?

 他人の文章や写真を“引用”(意訳すると、例えば自分の文章中で他人の文章や写真などが必要になり、その他人の文章や写真の一部を取り入れること)することは著作権法で認められていますが(著作権法32条)、どこまで許されるのかという判断は専門家でも難しい場合が多いです。

 一方、その文章が誰の著作物にも依存せず独自につくられたものなら著作権侵害の問題はありません。

 どんなに似たものが存在しようが独自創作物には著作権が別個(何の手続きをすることもなく自動的に)発生するからです。

 ただし、それが元になる文章があってそれを少し変えてみただけ、とかパロディ化したというものは許されません。何物にも依存せず自力で作ったということが必要なのです。

 今回のプロジェクトで動画作成を専門業者に依頼する場合、その動画の著作権その専門業者に発生します。

 従って公開後も動画を自由に使っていくためにはきっちり権利を譲受けておかねばなりません(また、譲渡できない“著作者人格権”というものがありますので、その専門業が著作者人格権という権利を行使しないという約束も必要)。

(2)他人の商標を使用する行為
 本商品を“サ〇ンラップのケース”なんて感じで公開した日には当該ラップ会社から文句がきてもおかしくないです。「紙製包装用容器」について下の商標権が取得されています。

 Q.商標とは何か?

 商標とは、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)です(下リンク:特許庁HP)。
 

 つまり、商品や商品の包装などに商標登録された商品名や社名をくっつけて消費者がその商品が誰が作ったものなのか容易に判断できるようにするためのものです。

 商標権を取得するためには、
商標を貼り付けようとする商品やサービスを指定して特許庁に出願し
審査をパスする
必要があります。

 通常、指定する商品は自分が販売する商品です。この指定が商標権の範囲を決めます。

 上記商標権の効力が及ぶ商品は「紙製包装用容器」とその類似する商品です(商標権の効力は商品だけでなくサービスにも及びますがここでは説明を割愛します)。

 商標権はあらゆる商品やサービスに効力が及ぶものではないのです。

 従って「紙製包装用容器」と全く関係ない商品、例えば「ゲーム機」とか「パソコン」などに“サランラップ”の名称を貼り付けて販売しても商標権侵害にはなりません(実際に上記商標は様々な商品やサービスを指定して権利が取られていますが)。

 ただ、今回の商品はモロに商標権の効力範囲内ですから要注意です。

<文章中に他人の商標を使う行為>
 商標権が取られている言葉を文章中で使ったからと言って必ずしも商標権侵害になるわけではありません。 
 その文章を見た人が商標権者の商品と誤認する不都合は生じません。従って文章中に他人の商標を書くということは「商標的な使用ではない」ということになります(非侵害)。
 また、今回の商品紹介の文章中に上記商標を使うと、その文章を見た人が誤認混同する可能性があります。
 そのような誤解を招く文章は、まさに他人の商品と区別しようという商標の目的に真っ向からぶつかるものですので使用は避けるべきです。

(3)公開そのもの
 当たり前の話ですが、プラットフォームで公開するということは全世界にその内容が知れわたるのと同じことを意味します。

 そして守秘義務のない人に知られてしまった技術内容やデザインは原則、特許権や意匠権を取得することができなくなってしまいます。

 詳細は別記事にしますが公開されてしまうことで取得できなくなる権利を以下にまとめました。 

権利 どんなものに発生する権利か 公開されると原則どうなるか 備考
特許権 技術 権利化不可  
実用新案権 技術 権利化不可  
意匠権 デザイン 権利化不可  
商標権 名称、マークなど 影響なし 第三者に先取りされるリスクあり
著作権 文章、音楽、絵、写真などの創作物 影響なし 著作権は創作時に自動発生

5.お返し段階

 目標金額を達成し、事業化に向けて準備を進めることになりました。

 これは同時に応援者に対して約束した日までにリターン品を届ける義務を負ったことを意味します。

 前回記事でも申し上げたようにリターン品が届かないというのがクラウドファンディングにおける最大の懸念事項(応援者、運営事業者にとっての懸念事項)だと言えます。応援者にお返しができなかった場合のための保険があるくらいです。

 また納期遅延もクレームの原因となります。

 お金を払った人は常にプロジェクトのその後を見ています。こうした応援者の不安を少しでも軽減するため、経過報告(開発進捗状況などの報告)を怠らないようにしなければなりません。

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クラウドファンディングの流れと留意点

2017.04.27

 クラウドファンディングはインターネットを介して資金調達するという新たな仕組みです。前回記事で紹介したように1億円近く資金調達したプロジェクトもあります(下リンク)。
 

 世界一周したい本を出版したいなどの個人的なプロジェクトから新商品開発店舗を開業したいというビジネス的なプロジェクトまでクラウドファンディング利用目的は多岐にわたります。

 これだけ聞くと夢のような仕組みに思えます。すぐにでもチャレンジしたくなる人が何人もいるかもしれません。

 これまでそうした人の相談を何人も受けてきましたが、クラウドファンディングに関する勘違いもかなりありました。

 そうした勘違い押さえておくべき事項をクラウドファンディング挑戦の流れとともに紹介します。

 簡単な流れは下図①~⑤の通りです。

 

1.モノ作りや店舗開店などのプロジェクトを起案し、
 →留意点は下記(1)参照

2.クラウドファンディング運営事業者に相談し、採択され、
 →留意点は下記(2)参照

3.クラウドファンディング運営事業者のプラットフォーム上で公開する内容を準備し、
 →留意点は下記(3)参照

4.プロジェクトを公開し、賛同者に資金提供を呼びかけ、
 →留意点は下記(4)参照

5.一定額が集まった時点でプロジェクトを実行する。資金提供の見返り品(リターン品)を設定している場合は資金提供者に見返り品を送る。
 →留意点は下記(5)参照

その他
 →留意点は下記(6)参照

 

(1)プラットフォーム運営事業者から手数料を取られる
  これがクラウドファンディングという仕組みの大前提です。
  料率は事業者によって異なります。ざくっと10~20%がコアな料率です(前回記事にまとめていますのでご参照ください)。

  従って例えば100万円の資金が必要な場合は100万円集まればいいのでなく、仲介料その他費用を差し引いて100万円を集めなければなりません。

  購入型クラウドファンディングでは資金提供者に見返り(リターン品)を提供しなければなりません。ネットショッピング的な性質のものなのです。

  モノ作り系プロジェクトであればプロダクト(完成品)を見返りに設定するケースが多いです。

  その場合、プロダクトの販売金額をベースに一口いくらにするか決めるのが妥当ですが、差し引かれる仲介料のことを忘れていると資金提供者が増えるに従って損をすることになります(クラウドファンディングをPR的に利用するのであれば多少損してもいいという考えはありますが)。

  また、プロダクトの配送費などの経費も発生することを忘れてはいけません。遠方の資金提供者が多いほど費用はばかにならないはずです。

  手数料は資金提供者の提供資金から差し引かれますので、プロジェクト起案者が運営事業者の口座に振り込むという行為は必要ありません。

  この流れは以下①~③のようにイメージできます。

  ①プロジェクトを見た人が資金提供申請
   ネット上でクレジットカード振込みを申請しますが、この時点ではまだ振り込まれません。

  ②募集期間経過後、資金提供者の口座から引き落し 
   起案者はプロジェクトの目標金額を設定します。この募集期間内に支援者があらわれて目標金額を達成した場合にはプロジェクト成功となります。

   クラウドファンディング運営事業者の仲介料差引後の金額が起案者の口座に振り込まれます。
   仲介料が20%の場合、1万円の振込みに対して手数料2,000円が差し引かれた残り8,000円を手にすることになります。

   一方、目標金額を達成できなくても支援金をもらえる仕組みもあります(「オールイン」とか「実行確約型」などと言われています)。それを選択した場合は目標金額に届かなくてもお金の流れは前記の通りです。

  ③プロジェクトが失敗に終わったら資金提供者のクレジットカードから引き落とされることはない
   起案者が設定した目標金額に達成しなかった場合(目標金額未達成でプロジェクト終了の方式を選択した場合:「オールオアナッシング」とか「目標達成型」などと言われています)、そこでプロジェクトは終了です。

   この方式を選択する場合は目標金額の設定額も重要になります。例えば目標金額100万円と設定したら99万円の資金提供があったとしても、そこでプロジェクトは終了します。全てが無に帰すことになります。

   起案者には1円も入ってきませんし、資金提供者のクレジットカードからお金がが引き落とされることもありません。この場合、誰も手数料を取られません。

   ちょっとかわいそうですが、クラウドファンディング運営事業者がただ働きをしたということになるだけです。

 

(2)アイデアレベルでは採択されない場合が多い
  前記(1)③の通り、プロジェクトが失敗に終わるとクラウドファンディング運営事業者にはビタ一文入ってきません。

  そのため運営事業者としては相談者の本気度(途中で放り出さないか)を一番に知りたいのです。

  モノ作り系プロジェクトであれば試作品を持っていかないと話は進まないでしょう。

  店舗系プロジェクトであれば出店計画が固まっていないと(例えば出店場所について契約を済ませている)相手にされないかもしれません。

  どの程度の準備が必要かは事業者によって差はあります。

  また、採択率も事業者によるでしょう(採択率が低い事業者の場合はプロジェクト成功率は高く、一方、採択率が高い事業者は成功率が低いと見ることもできるかもしれません)。

 

(3)公開準備は自分でやらなくてはいけない
  これは誤解している人が多いと感じます。運営事業者は準備のアドバイスや資料作成を請け負う業者の紹介はしてくれますが、資料作成などの実作業には一切手を貸しません

  従ってパソコン上でプラットフォームサイトを開き、会員登録し、プロジェクト挑戦申込をし、文章の書込みを行ったり、写真動画を作成したりという作業は全て自ら行わなければなりません(私が受けた相談ではパソコンの操作はわからない、ということで諦めた例もありました)。

  また公開前の準備として一定のプロジェクト支援者を用意しておく根回しが必要になります。

  これが一番多い誤解ではないかと感じます。

  そういったことは運営事業者がやってくれるんじゃないのか?と思っている人が非常に多いです。

  なぜこのような根回しが必要かですが、新装開店する店舗を想像してもらえばわかると思います。

  開店日に行列ができている店には多くの人の目に留まりますし、関心を引き付けます。一方、ガラガラの店だったら入店をためらいます。

  インターネットの世界も同じことが言えます。

  公開直後に支援者が何人もあらわれるプロジェクトは勢いを感じますし、興味がわきます

  支援者0人、資金提供額0円というプロジェクトだと興味を持った人がいたとしても資金提供をためらうのではないでしょうか。

  また、大手クラウドファンディングは数多くのプロジェクトが公開されている中、トップページに表示されるにはこうした勢いが考慮されている可能性もあります(どのようなプロジェクトが上位表示されるかいくつかの業者に尋ねたことがありますがよくわかりませんでした。

  ただ、資金提供者がいない寂しい感じのプロジェクトが上位に来ているのはほとんど見たことがありませんので)。

 

(4)プロジェクトを公開は様々な知的財産リスクを伴う
 
 ここでは簡単に説明しますが、商品名や企業名が商標登録されていなければ、それをチャンスとばかりに第三者に先取り的に特許庁に出願される可能性があります。

 全世界の人の目に触れるので商品デザインやアイデアを模倣されるリスクも大きいです。

 一方、公開することで特許権や意匠権などの権利を取得できなくってしまいます。

 また、公開文書や写真、動画、商品名、プロダクトのデザインや技術が第三者の権利を侵害している場合はそれが明るみになります。

 クラウドファンディング運営事業者(相談員)はこうした専門知識を持っていません。運営事業者のスタンスとしては後述(下記(6))します。

 

(5)リターン義務を負う(に等しい)
  購入型クラウドファンディングはネットショッピングのようなものです。

  つまり資金提供者がプロットフォームの資金提供ボタンをクリックし、申し込んだ段階で売買契約が成立したと考えるべきで、この時点からプロジェクト起案者はお返し(リターン品)を資金提供者に届ける義務が発生することにります。

  確かにクラウドファンディングはプロジェクト起案者を応援しようという気持ちで成立している面があり、必ずしもそのプロジェクトを応援したからお返し(リターン品)が届くという保証はありません(例えば新たなモノ作りに挑戦しようとしたけれど、技術開発に失敗してモノが作れず、また提供資金を開発に全てつぎ込んでしまった、ということもあるでしょう)。

  しかし資金提供者からすると期待していた提供資金の対価がないというのが一番嫌なことです。

  実際に、お返し品の届け時期が遅れがクレームになることは珍しくないようです。お返しが届かないということは訴訟に発展してもおかしくないことです。

  これがクラウドファンディングで一番気をつけておかなければならないことかもしれません。

  参考までに海外で日本円で数億円レベルの資金を集めてリターンができず問題視されたプロジェクトを貼り付けておきます(上:プロジェクト 下:プロジェクト関するフリージャーナリストの記事。
 


 

 

(6)権利侵害などは自己責任
  どのプラットフォームの利用規約を見てもプロジェクト起案者の自己責任となっています。

  ある程度のトラブル事前回避チェックやサイト炎上処理などは対応してもらえるでしょうが、オールマイティで深い専門知識を有する担当者はまずいません。

  もし第三者の知的財産権を侵害しているということになったらそれは当事者同士の問題ということになります。
 

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クラウドファンディングプラットフォーム(購入型)

2017.04.26

 購入型クラウドファンディングについてプラットフォームを整理します。購入型については前回記事「クラウドファンディングについて」をご参照ください。

 現在、国内のクラウドファンディング事業者数十社とも百社近いとも言われていますが実態はよくわかりません(昨年調べたところ30社はありました)。
 2015年度のクラウドファンディング国内市場規模は360億円(2016年度は480億円)と見込まれています(下記リンク)。

 


 情報源:矢野経済

 ただ、クラウドファンディングが右肩上がりで市場が大きくなっているとは言え、金額ベースで見るとその大半は金融型(貸付型)であり、購入型は1割程度です(上リンク参照)。

 仮に市場全体が500億円だとしてもその1割は50億円であり、数十社が共存できるほど市場は大きくないです。今後、事業者の淘汰が進むかもしれません。

 また、参入者が多いことが示すように、クラウドファンディングの仕組みそのものに差別化要素はありません。そのため各事業者は手数料を安くしたり、販路開拓をサポートしたりと工夫しているようです。

 クラウドファンディングを利用する側からするとこうしたことを把握した上で主目的(資金調達なのか/テストマーケティングなのか/口コミ効果なのか)にあった事業者のプラットフォームを選択する必要があります。

 以下に各運営事業者のプラットフォームを挙げます(これが全てではありませんが、以下のプラットフォームだけで購入型クラウドファンディングのかなりのシェアを占めると思います)。

A-port(エーポート)

 朝日新聞社のプラットフォームです。
 新聞社ということで社会貢献型プロジェクトが多いイメージがありますが、商品開発系などのビジネス系プロジェクトも対応しています。
 革新的プロジェクトについては新聞掲載もされる点が特徴です。
 資金調達額が目標値を達成した場合のみ資金を受け取る方式「達成実行型」と目標値を達成しなくても資金を受け取れる方式「実行確約型」の使い分けができます。
 手数料は調達額の20%(達成実行型)25%(実行確約型)(資金調達額から手数料を差し引いた額を受け取る)(2017年4月25日時点)

 

CAMPFIRE(キャンプファイヤー)

 株式会社CAMPFIRE のプラットフォームです。
 現在の3大プラットフォームの1つ(他2つはMakuakeとREADYFOR)です。
 資金調達額が目標値を達成した場合のみ資金を受け取る方式「All-OR-Nothing」と目標値を達成しなくても資金を受け取れる方式「All-In」の使い分けができます。
 手数料はいずれも8%(2017年4月25日時点)。
 上記2プラットフォームに比べると一番安いのが最大の特徴と言えます。
 モノづくり系のものから社会貢献系まで幅広いプロジェクトが公開されています。

 

COUNTDOWN(カウントダウン)

 アレックス株式会社のプラットフォームです。
 全プロジェクトを英訳して海外支援者(日本人、外国人)にも情報発信している点が特徴です。
 資金調達額が目標値を達成した場合のみ資金を受け取ることができる方式をメイン(目標値を達成しなかった場合にも資金を受け取る方式も一部採用)にしてます。
 手数料は資金調達額の20%(2017年4月25日時点)

 

FAAVO(ファーボ)

 株式会社サーチフィールドのプラットフォームです。
 地域ごとにエリアオーナーを作って現地対応している点が特徴です。
 資金調達額が目標値を達成した場合のみ資金を受け取ることができる方式を採用しています。
 手数料は資金調達額の10-20%(地域による)(2017年4月25日時点)

 

kibidango(キビダンゴ)

 きびだんご株式会社のプラットフォームです。
 準備中のプロジェクトについても“プロジェクトの種”として先行的に公開し、資金提供者にPRできる点が特徴です。
 資金調達額が目標値を達成した場合のみ資金を受け取ることができる方式を採用しています。
 手数料は資金調達額の10%(2017年4月25日時点)

 

Makuake(マクアケ)

 株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングのプラットフォームです。
 インターネット広告代理店を親会社に持つ該社はインターネット網によるPRと小売店連携を通じた販売支援が特徴です。
 資金調達額が目標値を達成した場合のみ資金を受け取る方式「All or Nothing」と目標値を達成しなくても資金を受け取れる方式「All In」の使い分けができます。
 手数料は資金調達額の20%(手数料15%+決済手数料5%)(2017年4月25日時点)

 

READYFOR(レディーフォー)

 READYFOR株式会社のプラットフォームです。
 社会貢献的なプロジェクト(医療とか地域再生とか貧困対策とか)が多いです。
 また購入型だけでなく寄付型がある点が特徴です。
 資金調達額が目標値を達成した場合のみ資金を受け取る方式「All or Nothing」と目標値を達成しなくても資金を受け取れる方式「All In」の使い分けができます。
 手数料は資金調達額の17%(2017年4月25日時点)

 

WonderFLY(ワンダーフライ)

 全日本空輸株式会社(ANA)のプラットフォームです。
 モノ作りの特化している点、コンテストを設けている点、(支援者が)クレジットカードだけでなくマイルでも支援可能な点などかなり特徴的です。
 現在、常時プロジェクトを募集しているわけではないようです(2017年4月25日時点)。

 以上、(若干の漏れはあるかもしれませんが)主なプラットフォームとクラウドファンディング運営事業者を挙げました。

 

 繰り返しになりますが、どの事業者を選べばよいのかは状況によります

 例えば教育支援のような社旗貢献的要素が大きいプロジェクトであれば、そうしたプロジェクトの実績があるREADYFOR、新聞購読者にも訴求可能なA-portがよいかもしれません。
 その他、販路が合致するプロダクトならMakuake、手数料をできるだけ抑えたいのであればCAMPFIREなどとやはりプロジェクトの内容によるでしょう。

 なお、多くの事業者から確認しましたが、平均調達金額(成功したプロジェクト)はどこも100万円前後のようです。

プラットフォーム 運営事業者 タイプ 手数料 特徴
A-port 朝日新聞社 20%(A/N)
25%(AI)
新聞連動
CAMPFIRE CAMPFIRE 8%(A/N)
8%(AI)
手数料
COUNTDOWN アレックス 20%(A/N) 英訳発信
FAAVO サーチフィールド 10-20%
(A/N)
地域連動
kibidango きびだんご 10%(A/N) 先行公開
Makuake サイバーエージェント・クラウドファンディング 20%(A/N)
20%(AI)
販路支援
READYFOR READYFOR 購、寄 17%(A/N)
17%(AI)
寄付系
WonderFLY 全日本空輸    

 ※ ・・・購入型、・・・寄付型
   A/N・・・All or Nothing
   AI・・・All IN
   特徴は個人的な印象

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クラウドファンディングとは

2017.04.25

 クラウドファンディングとはクラウド(crowd:群衆)とファンディング(funding:資金調達)からなる造語です。

 簡単に言うと、モノ作りや店舗展開などに必要な資金をインターネットを介して調達する仕組みです。

 起案するプロジェクトは世界一周したい本を出版したいなどの個人的なプロジェクト、被災地の応援がん撲滅といった社会貢献的なプロジェクト、新商品開発店舗を開業したいというビジネス的なプロジェクトなど多岐にわたります。
 様々な事業者が運営するプラットフォーム上でこうしたプロジェクトが公開されています。

 

 実際にどのようなプロジェクトがあるのか一例を紹介します。

■モノ作り系プロジェクト

 約1億円を調達したプロジェクトです。2017年4月25日時点で国内最高額ではないでしょうか。

■コンテンツ系プロジェクト

 クラウドファンディングで映画化資金を調達したことで有名です。

■店舗開業系プロジェクト

 会員制焼肉屋を各所に店舗開業しています。

 

 こうした様々なプロジェクトが様々なクラウドファンディング運営事業者のプラットフォーム上で公開されています。

 クラウドファンディングはざっくりと3つのタイプに分けられます。

1.寄付型
 
例えば、発展途上国への寄付、動物保護、被災地支援など社会貢献的なプロジェクトが多いです。
 「寄付」とは資金提供者の立場から見た言葉です。その名の通り見返りを期待しない資金提供だと言えます。寄付行為をインターネットでやるイメージです。
 資金提供者の側から見ると、使途が明確である点がメリットの一つだと言われています。
 ジャパンギビングがあります。

2.金融型
 
例えば、メガソーラーファンドへの出資など資金提供者が金銭リターンを期待するプロジェクトだと言えます。
 このタイプはさらに貸付型ファンド型株式型に細分化されます。
 
AQUSH(アクシュ)があります。

3.購入型
 
例えば、手のひらサイズのドローンを作りたい、日本酒に特化したバーを作りたい、といったモノづくり、店舗開業などのビジネス系プロジェクトが主です。
 「購入」とは資金提供者の立場から見た言葉です。
 先に挙げた3つのプロジェクトはいずれも購入型です(いずれもMakuakeで公開されたプロジェクト)。
 資金提供者は提供した額に見合ったリターンを求めます。集めた資金で作った商品やサービスをリターンにする場合が多く、ネットショッピングに近い性質だと言えます。知財について最も注意を要するタイプだと言えます。
 様々な事業者が購入型プラットフォームを運営しています(大手:後述)。

 ビジネス目的でクラウドファンディングを利用するのであれば基本的に購入型が適当かと思います。
 リターン(資金提供の見返り)を用意しなくてよい寄付型が良さそうに見えますが、ビジネスを目的としたプロジェクトに対して寄付しようという資金提供者の共感が得られるのかという問題があります。
 被災地支援などの社会貢献的なプロジェクトであればそれに共感してくれる人は多いと思いますが、一企業、一個人のビジネス目的のプロジェクトを同じように考えるのは少し無理がありそうです。
 仮に寄付による資金が集まったとしてもそれは消費者目線のお金ではありませんので、そのことで市場性を判断する材料にもなりません(市場性がないのに寄付金が集まったばかりに「これはいける」と誤った判断してしまうリスクもあるかもしれません)。

 ビジネス目的でクラウドファンディングを利用するメリットとして次の3つが挙げられます。

(1)資金調達

 これは言葉の通りです。

(2)テストマーケティング

 起案したプロジェクトに資金提供者が多くあらわれた場合、市場で受け入れられる可能性が大きいと考えることができます。

(3)ファンづくり(口コミ効果)

 クラウドファンディングプラットフォーム上で公開すること自体がプロモーションの一つであると考えることができます。
 上述の「この世界の片隅に」製作プロジェクトはまさに映画集客に大きく寄与したと言われています。その他の大成功したプロジェクトに関しても同じことが言えそうです。

 クラウドファンディングの本来の目的は上記1の資金調達なのですが、上記(2)や(3)を重視する企業も多いです。また、クラウドンファンディングで一定の資金が集まったプロジェクトに融資を行うという金融機関の取組みもでてきました。

 

 クラウドファンディングの市場規模は右肩上がりで推移していいます。

 大手プラットフォームとしてはCAMPFIREMakuakeREADYFOR(アルファベット順)が挙げられます。いずれも購入型を扱っています。

 

 ここまでクラウドファンディングについて説明しましたが、いろいろと留意すべき点もあります(別記事にて)。

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2017.04.20

 こんにちは。
 管理者の緒方です。弁理士、大学講師をしています。
 本サイトでは知財を切り口に経営に役立つ情報を発信していきます。

 「知財」と言うとまず、
・自社事業を他人の模倣などからいかに守っていくか
・第三者の権利を侵害しないようするにはどうしたらいいのか
が挙げられます。本サイトではさらに一歩進めて、

・資金調達など知財をいかに経営に活用できるか

を取り上げていきます。
 例えば、最近はクラウドファンディングというインターネットを介した資金調達手法が出てきました(※クラウドファンディングについては以下のサイト参照)。まさに知財を活用した例だと言えます。さらに知財をもとにした融資も広がりつつあります。


(上記サイトについては順次(内容を更新し)本サイトに移していきます)

 私が講師を務める授業では企業と学生のコラボによる新市場開拓の試みをやっています。昨年度は講義の中から商品化したものも出てきました(下図)。

 経営課題を提供してくれたのは建設足場メーカーです。採用されたのが足場製造技術を活用してドローンポート(ドローン発着場)の製造・販売を新たな事業にするというアイデアです。

 (ワークショップの風景)

(イメージ図)

  (商品写真)

 一方で知財リスクは事業の成否を左右するほど重要なもので、気づいたときには時すでに遅し、ということも珍しくありません。

 本サイトではこうしたことを踏まえてビジネスに役立つ情報を発信していこうと思います。

 なお、本サイトの掲載内容には十分な注意を払っておりますが、常に記事に誤りがないとは言い切れません。万が一、本サイトの情報にもとづき損害が生じたとしても一切の責任を負いかねます。ご了承いただきたくお願いいたします。

2017年4月19日 緒方禎浩

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