クラウドファンディングの流れと留意点

2017.04.27

 クラウドファンディングはインターネットを介して資金調達するという新たな仕組みです。前回記事で紹介したように1億円近く資金調達したプロジェクトもあります(下リンク)。
 

 世界一周したい本を出版したいなどの個人的なプロジェクトから新商品開発店舗を開業したいというビジネス的なプロジェクトまでクラウドファンディング利用目的は多岐にわたります。

 これだけ聞くと夢のような仕組みに思えます。すぐにでもチャレンジしたくなる人が何人もいるかもしれません。

 これまでそうした人の相談を何人も受けてきましたが、クラウドファンディングに関する勘違いもかなりありました。

 そうした勘違い押さえておくべき事項をクラウドファンディング挑戦の流れとともに紹介します。

 簡単な流れは下図①~⑤の通りです。

 

1.モノ作りや店舗開店などのプロジェクトを起案し、
 →留意点は下記(1)参照

2.クラウドファンディング運営事業者に相談し、採択され、
 →留意点は下記(2)参照

3.クラウドファンディング運営事業者のプラットフォーム上で公開する内容を準備し、
 →留意点は下記(3)参照

4.プロジェクトを公開し、賛同者に資金提供を呼びかけ、
 →留意点は下記(4)参照

5.一定額が集まった時点でプロジェクトを実行する。資金提供の見返り品(リターン品)を設定している場合は資金提供者に見返り品を送る。
 →留意点は下記(5)参照

その他
 →留意点は下記(6)参照

 

(1)プラットフォーム運営事業者から手数料を取られる
  これがクラウドファンディングという仕組みの大前提です。
  料率は事業者によって異なります。ざくっと10~20%がコアな料率です(前回記事にまとめていますのでご参照ください)。

  従って例えば100万円の資金が必要な場合は100万円集まればいいのでなく、仲介料その他費用を差し引いて100万円を集めなければなりません。

  購入型クラウドファンディングでは資金提供者に見返り(リターン品)を提供しなければなりません。ネットショッピング的な性質のものなのです。

  モノ作り系プロジェクトであればプロダクト(完成品)を見返りに設定するケースが多いです。

  その場合、プロダクトの販売金額をベースに一口いくらにするか決めるのが妥当ですが、差し引かれる仲介料のことを忘れていると資金提供者が増えるに従って損をすることになります(クラウドファンディングをPR的に利用するのであれば多少損してもいいという考えはありますが)。

  また、プロダクトの配送費などの経費も発生することを忘れてはいけません。遠方の資金提供者が多いほど費用はばかにならないはずです。

  手数料は資金提供者の提供資金から差し引かれますので、プロジェクト起案者が運営事業者の口座に振り込むという行為は必要ありません。

  この流れは以下①~③のようにイメージできます。

  ①プロジェクトを見た人が資金提供申請
   ネット上でクレジットカード振込みを申請しますが、この時点ではまだ振り込まれません。

  ②募集期間経過後、資金提供者の口座から引き落し 
   起案者はプロジェクトの目標金額を設定します。この募集期間内に支援者があらわれて目標金額を達成した場合にはプロジェクト成功となります。

   クラウドファンディング運営事業者の仲介料差引後の金額が起案者の口座に振り込まれます。
   仲介料が20%の場合、1万円の振込みに対して手数料2,000円が差し引かれた残り8,000円を手にすることになります。

   一方、目標金額を達成できなくても支援金をもらえる仕組みもあります(「オールイン」とか「実行確約型」などと言われています)。それを選択した場合は目標金額に届かなくてもお金の流れは前記の通りです。

  ③プロジェクトが失敗に終わったら資金提供者のクレジットカードから引き落とされることはない
   起案者が設定した目標金額に達成しなかった場合(目標金額未達成でプロジェクト終了の方式を選択した場合:「オールオアナッシング」とか「目標達成型」などと言われています)、そこでプロジェクトは終了です。

   この方式を選択する場合は目標金額の設定額も重要になります。例えば目標金額100万円と設定したら99万円の資金提供があったとしても、そこでプロジェクトは終了します。全てが無に帰すことになります。

   起案者には1円も入ってきませんし、資金提供者のクレジットカードからお金がが引き落とされることもありません。この場合、誰も手数料を取られません。

   ちょっとかわいそうですが、クラウドファンディング運営事業者がただ働きをしたということになるだけです。

 

(2)アイデアレベルでは採択されない場合が多い
  前記(1)③の通り、プロジェクトが失敗に終わるとクラウドファンディング運営事業者にはビタ一文入ってきません。

  そのため運営事業者としては相談者の本気度(途中で放り出さないか)を一番に知りたいのです。

  モノ作り系プロジェクトであれば試作品を持っていかないと話は進まないでしょう。

  店舗系プロジェクトであれば出店計画が固まっていないと(例えば出店場所について契約を済ませている)相手にされないかもしれません。

  どの程度の準備が必要かは事業者によって差はあります。

  また、採択率も事業者によるでしょう(採択率が低い事業者の場合はプロジェクト成功率は高く、一方、採択率が高い事業者は成功率が低いと見ることもできるかもしれません)。

 

(3)公開準備は自分でやらなくてはいけない
  これは誤解している人が多いと感じます。運営事業者は準備のアドバイスや資料作成を請け負う業者の紹介はしてくれますが、資料作成などの実作業には一切手を貸しません

  従ってパソコン上でプラットフォームサイトを開き、会員登録し、プロジェクト挑戦申込をし、文章の書込みを行ったり、写真動画を作成したりという作業は全て自ら行わなければなりません(私が受けた相談ではパソコンの操作はわからない、ということで諦めた例もありました)。

  また公開前の準備として一定のプロジェクト支援者を用意しておく根回しが必要になります。

  これが一番多い誤解ではないかと感じます。

  そういったことは運営事業者がやってくれるんじゃないのか?と思っている人が非常に多いです。

  なぜこのような根回しが必要かですが、新装開店する店舗を想像してもらえばわかると思います。

  開店日に行列ができている店には多くの人の目に留まりますし、関心を引き付けます。一方、ガラガラの店だったら入店をためらいます。

  インターネットの世界も同じことが言えます。

  公開直後に支援者が何人もあらわれるプロジェクトは勢いを感じますし、興味がわきます

  支援者0人、資金提供額0円というプロジェクトだと興味を持った人がいたとしても資金提供をためらうのではないでしょうか。

  また、大手クラウドファンディングは数多くのプロジェクトが公開されている中、トップページに表示されるにはこうした勢いが考慮されている可能性もあります(どのようなプロジェクトが上位表示されるかいくつかの業者に尋ねたことがありますがよくわかりませんでした。

  ただ、資金提供者がいない寂しい感じのプロジェクトが上位に来ているのはほとんど見たことがありませんので)。

 

(4)プロジェクトを公開は様々な知的財産リスクを伴う
 
 ここでは簡単に説明しますが、商品名や企業名が商標登録されていなければ、それをチャンスとばかりに第三者に先取り的に特許庁に出願される可能性があります。

 全世界の人の目に触れるので商品デザインやアイデアを模倣されるリスクも大きいです。

 一方、公開することで特許権や意匠権などの権利を取得できなくってしまいます。

 また、公開文書や写真、動画、商品名、プロダクトのデザインや技術が第三者の権利を侵害している場合はそれが明るみになります。

 クラウドファンディング運営事業者(相談員)はこうした専門知識を持っていません。運営事業者のスタンスとしては後述(下記(6))します。

 

(5)リターン義務を負う(に等しい)
  購入型クラウドファンディングはネットショッピングのようなものです。

  つまり資金提供者がプロットフォームの資金提供ボタンをクリックし、申し込んだ段階で売買契約が成立したと考えるべきで、この時点からプロジェクト起案者はお返し(リターン品)を資金提供者に届ける義務が発生することにります。

  確かにクラウドファンディングはプロジェクト起案者を応援しようという気持ちで成立している面があり、必ずしもそのプロジェクトを応援したからお返し(リターン品)が届くという保証はありません(例えば新たなモノ作りに挑戦しようとしたけれど、技術開発に失敗してモノが作れず、また提供資金を開発に全てつぎ込んでしまった、ということもあるでしょう)。

  しかし資金提供者からすると期待していた提供資金の対価がないというのが一番嫌なことです。

  実際に、お返し品の届け時期が遅れがクレームになることは珍しくないようです。お返しが届かないということは訴訟に発展してもおかしくないことです。

  これがクラウドファンディングで一番気をつけておかなければならないことかもしれません。

  参考までに海外で日本円で数億円レベルの資金を集めてリターンができず問題視されたプロジェクトを貼り付けておきます(上:プロジェクト 下:プロジェクト関するフリージャーナリストの記事。
 


 

 

(6)権利侵害などは自己責任
  どのプラットフォームの利用規約を見てもプロジェクト起案者の自己責任となっています。

  ある程度のトラブル事前回避チェックやサイト炎上処理などは対応してもらえるでしょうが、オールマイティで深い専門知識を有する担当者はまずいません。

  もし第三者の知的財産権を侵害しているということになったらそれは当事者同士の問題ということになります。
 

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