今回、サービス・流通業について知財の“費用対効果”をシミュレーションします。
参考:記事「利益、損失シミュレーション:製造業の場合」
製造業の場合は知財の意義を感じる企業が多いと思いますが、サービス・流通業の場合はどうでしょうか?
知名度が増すにつれ知財の問題にぶちあたります。
例えば店舗に掲げる看板が類似することで問題になったもの、なりそうなものはいくらでもあります(以下、紛争例)。
消費者としては有名な店舗が別コンセプトの店を出したのかと勘違いするかもしれません。
自社サービスから派生した商品を販売する場合はさらにリスクが大きくなります。
最近は様々な商品を気軽にネットで出品できるようになりました。
知名度が高まるほど自社名や商品名を付した偽物が出回りやすいと言えます。
<偽造関係のニュース例>
・ヤフーオークションで偽ブランド販売1億円以上の売上(産経WEST)
・五輪招致ロゴ入りマグカップ自作ネット販売で逮捕(産経ニュース)
・悪質サイトによる有名店の偽キャンペーン(朝日新聞)
こうした問題は様々な業種(ラーメン店、喫茶店、小売店、居酒屋、美容院、フィットネスジム・・・)で起こり得る問題です。
とりあえずラーメン店で考えてみましょう。
福岡地裁で類似商号を使用するラーメン店が提訴された事件があります(平成22(ワ)3490)。
原告の主張の中に、
被告店舗の開店前の原告店舗の1日平均売上は74万円、被告店舗開店後の1日平均売上は55万円で19万円低下した(売上が約25%低下)
とあります。
請求は棄却されましたが、類似店出現による影響の目安にしたいと思います。
単純に1店舗開店するごとに年間1億円の売上があるとします。
そして類似店が出現によって売上が25%ダウンとすると考えます。
一店舗のときは2,500万円、10店舗で2億5,000万円の売上高が失われるイメージです(上グラフ)。
こうした店舗の看板名やマークを保護する権利は“商標権”です。
商品化(ラーメン店なら土産用ラーメンや小売店とタイアップした商品、美容院ならシャンプーやリンス、フィットネスジムならTシャツやプロテインetc)した場合に商品に付す名称やマークも保護します。
この商標権の取得費用は10年分で約20万円が目安です(事業を行うサービスとサービスに関連する商品の2区分※について商標権を取得した場合)。
※“区分”とはサービスや商品を便宜的に区分けしたものです。区分が増えていくほど料金が倍増していきます。
(費用に関しては「知的財産権を取得するための費用は?」参照)
商標権自体は事業収入から見ると微々たるものですが、いざ訴訟となると弁護士費用が発生します(模倣した相手に警告を送るだけで止めてくれる、警察が動いてくれる、のであれば余計な費用が発生しなくて理想的ですけどね)。
知的財産権1億円の損害賠償請求における弁護士費用は顧問契約をしていない場合、着手金平均額が270万円、報奨金平均額が730万円というデータがあります※。
※出典:ひまわりほっとダイヤルhttps://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/remuneration08.html
つぎの条件で商標権を取得していることで守れた利益をシミュレーションしてみます。
・類似店の出現で売上が25%ダウン ・店の粗利は50% ・商標権の効果としては、売上ダウンを完全に防げる、売上ダウンを5%に抑える、10%に抑える、15%に抑える、20%に抑えるの5パターンを想定 |
シミュレーション図は以下の通りです。
横軸が売上高、縦軸が商標権の効果(商標権を持っていることで守った利益額)です。
商標権取得費用と訴訟費用あわせて1,000万円だとすると上グラフの縦軸の1,000万円から横に線を引き、各直線との交点における横軸の値がかかった1,000万円をペイする売上高になります。
知的財産権の効果 | ペイする売上高 (下の額以上の売上高が見込める場合は商標権を取得すべき) |
売上低下を完全に防げる | 8,000万円 |
売上高低下を5%にとどめる | 8,500万円 |
売上高低下を10%にとどめる | 9,000万円 |
売上高低下を15%にとどめる | 9,500万円 |
売上高低下を20%にとどめる | 10,000万円 |
今回のシミュレーション上では全店舗の売上高が8,000万円~1億円以上ある場合は商標権を持つ意味があると言えます。
しかし、商標権に関しては売上高に関わらず取得しておくべきです。
それは第三者が先取りしてしまった場合、日本全国どこで事業を行っていようが、その第三者の商標権侵害になってしまうからです。
参考:記事「起業、新規事業で一番気をつけておきたい知的財産権」