模倣リスク対策(その3):模倣場所と対策

2017.05.26

 これまで
・模倣をいかに早く見つけるか?
・権利侵害に該当するか否か?
について触れてきました。

 <過去記事>
 模倣リスク対策(その1)
 模倣リスク対策(その2)

 今回は模倣の発生場所との関係について説明します。

模倣場所の違いで対策に影響があるのか?

  一口に“模倣”と言ってもそれが製造される場所販売される場所は必ずしも同一地域とは限りませんし、国をまたがることもあります。

 そしてこの模倣場所によっては商品の権利が届く範囲、届かない範囲が違ってきます

 商標権、意匠権、特許権、実用新案権の“産業財産権”と呼ばれる権利は国ごとの権利です。

 従って日本で特許権を取得していたとしても中国で取得していなければ中国国内で横行する模倣品をどうしようもありません。

 ビジネスを未来永劫国内に限定してやっていく、と決めているのであればそれでも良いかもしれませんが(そんな考え方はないと思いますが)、将来、中国市場やその他の海外市場への展開を考えているのなら事業の準備段階で手を打っておかないと手遅れになることがあります

 例えば、商品名について中国で商標権を先取りされてしまうと、これを挽回することは余程のことがない限り難しいと言えます。

 結局、商標権を取得した者に商標の使用料を支払うか、海外では別名称で商標を展開しなければならなくなるでしょう。

 そうなると統一的な名称で商品を展開できなくなり、商品のブランド化に支障が生じると考えられます。

 模倣の場所を“国内”と“海外”で、模倣の段階を“製造”と“販売”に分解して考えると、全部で次のパターンが考えられます(下図)。

 

 仮に、国内の権利しか持っていなかったとします。

 この場合、模倣者に対する権利行使の可否は次のようになります。

 ① 模倣品が日本で製造され、日本で販売される場合

   製造行為、販売行為のいずれに対しても権利行使可能です。

 ② 模倣品が海外で製造され、日本で販売される場合

   製造を止めることができませんが、販売を止めさせることはできます。
   また、国内輸入段階(税関)で止めることができます。

 ③ 模倣品が国内で製造され、海外で販売される場合

   製造を止めさせることができます。
   また、海外輸出団塊(税関)で止めることができます。
   ただし、海外での販売を止めることはできません。

 ④ 模倣品が海外で製造され、海外で販売される場合

   製造も販売も止めさせることができません。

 上記は日本の権利をベースに考えましたが、海外のある国をベースにした場合も基本的な考え方は同じです。

 このように特許権や商標権は効力が各国限定であるため、模倣者の模倣行為の対策が制限される場合があります。

 例えば、模倣行為を元から絶つ意味では製造現場を押さえるのが最も効果的ですが、模倣者が権利の届かない国に場所に工場を移してくることも考えられます。

 また、特許権が及ばないA国で製造し、その後、商標権が届かないB国で商標を商品に貼り付けるという巧妙な手を使ってくる可能性もあります。

 近年、インターネットを通じた販売も当たり前になっています。

 インターネットという仮想空間での模倣品の売買に対してはどうでしょうか?

 インターネット上での売買は現実に商品のやりとりがあるわけではありません。

 しかし商標法や特許法などではこうした「販売の申出」行為を禁じています(参考:下枠の条文)。 

(商標法条文:定義等)
第二条  
 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為

 従って、インターネット販売であっても上の“国内”、“海外”、“製造”、“販売”のマトリックスの考え方は変わりません

 ただ、インターネットは情報が全世界に行きわたるため、特定エリアに限定しているつもりでも全世界に店舗を有していることと同じである点に注意が必要です(つまり、何の権利も持たない国、第三者が何らかの権利を持っているかもしれない国に店舗を出していることと同じだということ)。 

 例えば、ある商品名について日本で商標権を有していても別の国では有していない場合において、

(さらに運が悪いことに)その商品名についてその国で同じ商品名について商標権が先取りされていた場合、

当該国にその商品名を付した商品を発送すると商標権侵害になり得ます。

 こうしたリスクを回避するために商標権を有していない地域は販売対象外とする(ウェブサイト上に明記する)などの対策が必要です。

 このようにインターネットでビジネスの対象が広がった反面、経営リスクの評価、検討も軽視できなくなったと言えます。

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