本日、他の先生と実用新案権の一番のメリットは何だろう、という話になりました。
実用新案とは“小発明”とか“ママさん発明”なんて呼び方をされることがあります。
ちょっとしたアイデア商品が対象になります。
かかと部分をちょんぎった“ダイエットスリッパ”とか洗濯機に浮いたゴミを捕集する“糸くずフィルター”のようなちょっとした工夫が施された商品(ハイテクとまでは言えない便利商品)が実用新案権の対象イメージです。
特許庁の説明によると、
そもそも実用新案とは? 実用新案権を取るメリットは?
|
とあります。
が、今回、わざわざ実用新案権のメリットは?と言うのは、そもそもデメリットが大きいからです。
大きなデメリットとして、全ての出願が原則、無審査で登録されるため、
・権利として信用力がない(無効になる可能性がある)
・実用新案権をふりかざして相手に損害を与えると場合によってはこちらが損害賠償責任を負う(実用新案法第29条の3)
ということが挙げられます。
これらは上記特許庁説明の3番の裏返しと言えます。
有象無象のアイデアも実体的な審査はされずに(無効になるという瑕疵を有したまま)権利になってしまうのが実用新案権です。
真に優れた技術であるなら特許権による保護が有用ですし、外観に特徴があるなら意匠権で保護するという手もあります。
そうした理由から実用新案権を積極的にすすめる弁理士は多くないと思います。
そのような中で実用新案権のメリットをどこに見出すことができるか、が今回の焦点です。
今回の話の結論は、(あくまで一意見となりますが)実用新案権の大きなメリットとして、
うやむやな権利状態のまま第三者への牽制効果を10年間継続できる
ということを挙げることができます。
実用新案を特許と比較すると、権利がうやむやな状態を維持できる期間は
特許 | 3年間(審査請求期限までの期間) |
実用新案 | 10年間(実用新案権の権利期間) |
と考えることができます。
特許の場合、出願から3年以内に審査請求という手続きをしなければ未審査のまま出願取り下げになります。つまり“出願中”ということで第三者を牽制できるのは3年間(審査請求し、拒絶査定になった場合は3年+αの期間)です。
一方、実用新案の場合、(権利が無効かどうかという問題はあるものの)10年間、第三者を牽制し続けることができます。
米国などに比べると、日本では実際に訴訟に発展するケースは多くないですし、権利侵害の可能性があると知ってなお積極的に争いに首を突っ込む企業は多くないと思います(時間とお金のムダですし)。
であれば、簡単に権利化でき、より長期間、牽制効果がある実用新案権にはそれなりのメリットがあると考えて良いかもしれません。
費用面ではどうか?
上記特許庁説明によると“安価”に登録可能とあります。
通常、権利化費用は大きく分けて、特許庁に支払う法定費用と弁理士に支払う代理人費用があります。
法定費用 | 代理人費用※3 | |
特許 | 1万4千円(出願料)※1 | 40~50万円 |
実用新案 | 1万4千円(出願料) 11万1400円(登録料)※2 |
20~30万円 |
※1 審査請求料、登録料は考えない(審査請求せずに3年で取り下げを想定)
※2 請求項数3、10年間維持で計算
※3 出願時における費用(日本弁理士会H15年アンケート結果のボリュームゾーンの費用:https://www.jpaa.or.jp/howto-request/attorneyfee/attorneyfeequestionnaire/#b4)(ただし、現在の費用は当時より下がっていると考えられる)
上表を見ると、牽制効果、という限定的なメリットに関して費用面では、本当に安価なのか?と感じる部分はあります。
費用面は諸々の効果を考えると特許の場合とトントンでしょうか。
ただひたすら牽制という利益だけ享受できれば良いというのであれば実用新案は有用、最大のメリットかもしれないというのが今回の結論です(特許と比べると、総合的には特許の方が有用な場合が多いと判断しますが)。