特許を取るには何かが足りないパターン

2019.07.17

 スタートアップ企業出願経験のない/少ない企業によくある話です。

 「この商品の特許を取りたい

という相談を受ける場合に、特許を取るにはもう一つというよくあるパターンを紹介します。

1.単に思いつきのもの

 閃いたアイデアのまま特許を取りたいというもの。

 〇〇という商品が閃いた、とか、△△というビジネスモデルで商売を始めたい、など。

 こちらとしても早い段階からいろいろとアドバイスができるので、この段階での相談というのはある意味理想的なタイミングだと言えます。

 ただ、アイデアレベルのままでは特許を取れる可能性は小さいです。

 毎年何十万件という特許出願がなされていて、その中には自分が考えたアイデアと似たようなものがあるかもしれません。

 昔、メーカー勤務時代に同期が「電気自動車の時代が来たら無音走行になって危ないから、歩行者のためにあえて音を発生する装置を作れば売れる。俺が出願するまで他言するな」と言っていたことがあります。ですが、実際にそのアイデアはすでに数年前に大手自動車メーカーから特許出願されていました。

 

 このような競合発明は特許化の障害になります。

 似たようなアイデアは同じようなタイミングであちこちで着想を得ている人が存在するみたいです。

 このような場合、どうすれば良いか?

 公知のアイデア、類似するアイデアよりも技術的に優れた点を見出して、裏づけをとる(開発を進めていく)ことが必要になります。

 上の自動車の音発生装置の例だと、単に注意喚起音を発生するというだけのものでは出願の順番に関係なく特許化は難しいと思われます。

 音を出して歩行者に気づかせる装置としては車のクラクション自転車のベルが存在します。こうした音を電子化して通常走行時に発生することは技術的に困難なものではありません。ビジネス的に新規ではあっても転用容易であったり、こうした転用を容易に考えつくことができるものには特許は与えられないのです。

 

 この場合、発生音が小さくても歩行者の注意を引きつける音の質になっている、とか、事故につながりそうなシチュエーションであるかどうかをセンサーが識別して危ない場合だけ音を出す、などの技術的に独自の工夫が施されていれば(かつ、技術的に優れていれば)、特許になる可能性が高まります。

 こうしたことは試作してみてある程度、技術的な裏づけをとる必要があります。

 特に化学的要素が絡んでくる発明においては必須と言えます(その効果を実験結果で示すしかないから)。

 

2.有用なデータが取られていないもの

 試作品までできているが権利化を主張するのに有用なデータがないもの。

 産学連携の商品開発に関わることがありますが、産学連携においてもこれをよく感じます。

 まあ、大学は特許を取るために研究しているのではないのである程度仕方のないことかもしれません。

 よくあるのが、“効果あり”、というだけの実験で終わっているパターンです。その、効果、が特許化に必要な効果としては不十分なことがあります。

 例えば、プロテインなどのサプリメント商品を例に挙げると、“被験者の筋肉が向上した”、という実験結果で終わっている場合がこれに該当します。

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 その商品に一定の効果があることを示すのであれば、こうした実証データ競合他社品との比較データだけで十分かもしれません。

 ユーザーの興味を引きつける実証データは重要な情報です。ただし、収集データ数が少ない場合焦点がズレている場合、仮に特許を取れたとしても非常に狭い権利範囲になってしまいます。

 また、競合商品が多数存在する場合、単に成分配合率を変えた、などは研究開発において当たり前の話だといえます。そうすると、“新たな配合比を見出した”と感じるものであっても(特許庁の審査官は当業者が容易に考えつくものと判断し)特許にはなりません。

 成分の配合率に真の工夫があるのであれば、〇〇成分が下限△△%~上限▽▽%の場合に非常に高い効果を示す、というように臨界が見極められた情報収集をする必要があります。

<少ないデータに基づいて権利化した場合>
 例えば、成分A、B、C、Dが40%、30%、20%、10%の場合に効果あり、という限られたデータに基づいて、その場合の配合比率で特許が取れたとします。
 
 そうすると、この比率については確かに自社独占ですが、効能にほとんど影響のない成分を混ぜるなど配合を変えた模倣品には権利が及びません。

 また、上例の商品は体づくりに役立つという実証データはプロモーション的に重要でしょうが、特許的には(競合多数、配合率は研究されつくしている場合には)別の技術要素にフォーカスした方が良い場合もあるかもしれません。

 例えば、いくら摂取しても飽きない特殊な甘味料が含まれている、とか、製造方法に特徴があって非常に安価に製造できる、といった点に技術的特徴を見出すことができるかもしれません。

 そうであれば、(筋肉が発達した、という実証データだけでなく)そうした技術的特徴を裏付けるデータ収集を行うことが必須になります。

 

 以上、よくある2パターンを紹介しました。

 

 特許化のためには、結局はどこに自社の技術的独自性を見出していくかということがポイントになります。

 そのためには上記1、2で触れた知財の視点を取り入れた商品開発が必須です。

 なかなか簡単なことではないとは思いますが。

 

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