前回記事「事例で見るクラウドファンディングの流れと留意点」で大まかなクラウドファンディングの留意点を整理しました。
今回は知財に着目して整理したいと思います。
商品は前回同様にラップフィルムケースにします(以下)。
上写真のラップフィルムケース内にはラップフィルムが入っています。サ〇ンラップの紙ケースがプラスチックケースに変わったようなものです。
通常は刃がケース内におさまっていて、下の写真のように真ん中のスイッチのようなものを押すと刃が飛び出してきます。
全て片手の操作ででき、刃が飛び出した状態に維持させ続けることもできます。写真では見えづらいですが、刃の中央部にフィルムがちょっとだけ顔をみせていて、その部分をさっとすくい取ることができます。
例えば、料理中に片手がふさがっているとき、清潔さが求められる業務でフィルムケースを手に持てないというとき、などに冷蔵や壁に設置されたこのフィルムケースなら最小限の労力と清潔を保ちつつラップフィルムを取り出せます。
業務用、個人用にハイスペックな商品として高価格で販売することを考えています。
例えば5,000円で売っていくとします。
そんな商品売れるかよ!と思う人も多いかもしれません。
ただ、ひとたびヒットすれば次から次に類似品が出現するのでしょう。
ここで売上高と模倣品の影響を考えています。
例えば、発売から徐々に噂が広まり最終的に年間3万個(控え目?)売れるまでになったとします。10年間の売上は約13億円です(下グラフ)。
これはいわゆるブルーオーシャンが続いた場合です。
現実では模倣品という大きな脅威があります。海外安価品などが市場を荒らす可能性があります。
3年目から模倣品が出現し、売上が半減したとします(模倣品のせいで売上が半減したという話をよく聞くので50%ダウンとします)。
この場合、10年間の売上高は7億円、失った額は約6億円という計算になります。
こうした模倣品に対抗する武器が特許権や意匠権などの知的財産権です。
ただ、前回の記事でも少し触れましたが、特許権や意匠権を取得するためには商品公開前に特許庁に出願手続きを済ませていなければなりません。
ヒットしたから特許をとる、ということはできないのです。
このように模倣による利益損失リスクを回避するところに知的財産権取得の主な意義があると言えます。
逆に考えると第三者の知的財産権に対しても十分な注意を払う必要もあると言えます。
一方、知的財産権は経営のプラス要因として活用することもできます。
例えば特許権などを取得していることは金融機関の事業性判断のポイントの一つになるでしょう。
上グラフの模倣による売上落ち込みリスクは融資する側にとって大きな脅威です。知的財産権という対抗手段は事業計画を補強します。
特許権を有していることはクラウドファンディングの支援者(個人や法人)に対するPRにもなり得ます。
商品の製造や販売のラインセンス根拠にもなります。
このようなことを念頭にクラウドファンディングの流れ(下図)とともに知財のポイントについて触れていきます。
1.起案段階
前回の記事では既に試作品が出来ているところから始めましたが、今回はラップフィルムケースを着想した段階から始めます。
すなわちまだ発明家の頭の中で商品アイデアが浮かんだだけで何もモノができていない状態です。
まず手作りで試作品を作ることになるのですが、周りの誰かにそれを見せて意見を聞きたいところです。
当初のアイデアのまま商品ができるわけはなく、いろんな人の意見を聞きつつ改良を重ねていかなくては良いモノはできません。
手頃なところでは家族や友人、ご近所さんあたりの意見を聞くことになるのでしょう。
ここで問題が出てきます。
Q.誰にどこまで開示したらいいのか?
特許法や意匠法などでは守秘義務のない人に一人でも知られてしまったら権利を取得できなくなっています(参考:下の条文)。
(特許法条文:特許の要件)
第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
(意匠法条文:意匠登録の要件)
第三条 工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
ただ、正直これを厳格に受け取っていたらやっていられないというのが実情でしょう(企業レベルでも技術者が他人にポロっと秘密をしゃべってしまうことはよくあることですし)。
友人やご近所さんと秘密保持契約を結ぶというのは現実的ではありませんよね。
安心させるつもりではないですが、特許庁の審査官が出願人の身辺について聞き取り調査をやるわけではないので家族や友人に話してしまったこと自体が拒絶につながるというのは考えにくいです。
しかしながら、その発明アイデアを聞いた人が情報を拡散した場合は問題です。フェイスブックやLINEなどネット上で広がった場合はばっちり証拠として残ってしまいます。
模倣者があらわれるかもしれません。
誰かに見せなければ始まらないという場合、上記危険性を認識した上で相手にも注意を促し開示するということになるでしょう(口約束でも契約は有効です。約束したという証拠がない点で不安定な契約ですが)。
また、例え試作品を開示したとして特許となり得る技術が知られていなければセーフです。
従ってラップフィルムケースの技術ポイントがラップフィルムを保持する機構(内部のフィルム保持部がちょうどいい力加減になっていて、使用者が負担なくフィルムを引っ張ってキレイに千切れるようにすることを実現する機構)にある場合、その部分が技術的に理解されていなければセーフです。
うっかり口をすべらせないようにしなければなりません(私もメーカーで開発業務に就いていたときはそうでしたが、開発者は苦労した技術のコア部分をつい言いたくなります。ぐっとこらえるべきですね)。
権利化に関しては改良に改良を重ねた上で特許権などを早めにとりたいところです。
例えばクラウドファンディング運営事業者のプラットフォーム上にプロジェクトを公開するときまでに特許権や商標権を取得していればその旨をプロジェクト紹介ページでPRできますし、模倣者を牽制することができます。
企業向けにライセンス許諾(例えば販売できる権利を与える)をリターン品に設定するという先進的な活用方法も考えられます。
ここで、
Q.権利化までどれくらいかかるのか?
Q.どの程度の費用がかかるのか?
気になるところです。
いずれも、こうです、と言えないのが苦しいところです。
例えば特許出願の場合、出願しただけではいつまでたっても審査してもらえません。
審査請求料という追加費用を払って審査請求しなければなりません。審査請求をして審査順番の最後尾に並ぶことできるのです。行列のできるラーメン店など比べものにならないくらい待たされます。
そして審査の結果、拒絶理由通知が出された場合、その後のやりとりが必要になりさらに時間がかかります。
費用にしても特許庁に支払う手数料は明確に定まっていますが、出願代理費用(弁理士費用)が特許事務所によって異なります。
以下の表はあくまで参考という程度で見てください(実際の値と大きく異なることもあります)。
権利 | 権利化までの期間 | 費用 | |||
特許庁 | 弁理士※4 | 10年分維持まで含む合計 | |||
権利化まで | 権利化後 10年分 |
||||
特許権 | 15.2カ月 ※1 | 約15万円 | 約47万円 | 約55万円 | 約120万円 出願のみで約30万円 |
実用新案権 | 無審査登録 | 1.4万円 | 約10万円 | 約25万円 | 約40万円 |
意匠権 | 6.1カ月 ※2 | 1.6万円 | 約14万円 | 約16万円 | 約30万円 |
商標権 | 4.3カ月 ※3 | 約2万円 | 約6万円 | 約11万円 | 約20万円 |
※1 特許行政年次報告書2016年版1-1-25図最終処分期間(2014年平均)より
※2 特許行政年次報告書2016年版第一章P24意匠審査の現状FA期間より
※3 特許行政年次報告書2016年版第一章P31商標審査の現状FA期間より
※4 参考情報:平成18年に弁理士会が実施したアンケート結果
※その他 特許の請求項数3、実用新案の請求項数1、商標の区分数2、商標は一括納付で計算。
どんなに頑張っても売上が数百万程度の市場ならこうした権利を取得するのはバカらしくなりますが、それなりの事業にしようと考えるのなら、こうした権利取得を怠る方が損です。
模倣を防ぐ武器は知的財産権しかありません。
冒頭あたりに示した模倣品有無の違いのグラフを見るとわかりますが、模倣品の出現により数億円の売上を失っています。
この喪失金額と上表の知的財産権取得費用を見比べると、知的財産権取得の費用など大した問題ではないことがわかります。
それでは
Q.どのような権利を取得すればいいのか?
という疑問がでてきます。
今回の商品であるラップフィルムケースには模倣されたくない要素が何かという視点で考えます。
①商品名
商品名は自分のものと他人のものを区別する大事な要素です。商品を手に取って使い心地を十分に試すことができるのならまだしも、ネット上ではそれは不可能です。
その後、店頭販売されるようになったとしても消費者が商品を識別するのは商品名になるでしょう(店員に商品名を尋ねるなど)。
こうした商品名については商標権を取得できます。
商標権は信用を保護するものだと言えますので永久に維持が可能です(10年ごとに更新可)。
商標権は特許権や意匠権に比べて取得が容易です。
プラットフォーム上では閲覧者に商品名を印象付けたいところですが、一方で商標権が取得されていないことに目を付ける者がいないとは限りません(というか高確率で存在するでしょう)。
そうした者が先取り的に商標権を取得してしまうと、もう打つ手はありません。
(その商標権を取得した者に利用料を支払うなどしないと)その商品名を事業に使うことができなくなってしまいます。
商標権の問題はモノ作り系プロジェクトだけでなく店舗開業プロジェクトなどビジネス系プロジェクト全てに関係します。
知的財産関係の紛争で最も多いのは商標です。
一番模倣されやすいのは商品名ですので(下の模倣被害実態に関するグラフ:2015年度模倣被害調査報告書 図1.2‐9より)、防御手段として確保しておきたい権利です。
②技術
今回のラップフィルムケースで工夫が詰まった技術は模倣されたくない差別化要素です。
商品購入者の使い心地、満足度を左右します。
こうした技術については特許権または実用新案権を取得できます。
特許権と実用新案権の違いについては以下にまとめました。
特許権 | 実用新案権 | |
保護のため要求される技術レベル | 高い(当業者が容易に発明できたら特許を受けることができない) | 高くはない(当業者が極めて容易に考案できたら登録を受けることができない) |
保護範囲 | 広い(技術全般:物、方法、製造方法) | 狭い(プログラムや方法などは保護されない) |
権利期間 | 出願日から20年 | 出願日から10年 |
権利の強さ | 強い(特許庁審査官が審査したもの) | 弱い(無審査登録のため損害賠償責任を負うことも) |
模倣品が出てきたときに裁判にも耐え得る権利ということであれば特許権、模倣牽制や権利PR程度を想定するのであれば実用新案権が視野に入ってくるでしょう。
③デザイン
商品デザインはそれを見た人の心をひきつけるものですのでやはり模倣されたくはありません。
プラットフォーム上で公開されているプロジェクトを見ても、支援金を集めているプロダクトはデザイン性に富んだものが多いです(プロジェクト成否を左右する重要な要素です)。
こうしたデザインについては意匠権を取得できます。
できれば早くデザインを確定しプラットフォーム公開に間に合わせたいですが、本件商品については見ての通り、改良の余地がありそうです(機能的にはハイスペックだとしても高級感を印象付けるという感じではないですので)。
なお特許または実用新案にもなり得る商品形状がデザイン性も有しているのであればその技術を意匠権として保護することが可能です。
例えば特許権は取れそうにないが実用新案権では心もとないという場合に意匠権を取得するという裏技的な方法もあるわけです(意匠権は特許庁審査官の審査を経ていますので実用新案権よりも確かな権利だと言えます)。
まあこれはデザイン性が伴っているということが条件ですが。
2.相談段階
クラウドファンディング運営事業者に守秘義務があるのかどうか。
もし守秘義務がなければ相談時に技術内容やデザインを開示することで特許権や意匠権などを取得できなくなってしまいます。
運営事業者に守秘義務があるのかどうかは通常わかりません。利用規約にも載っていないケースがほとんどです。
普通あるだろ、と思うかもしれませんが相談の際、確認した方がいいでしょう。
黙っていれば特許庁にはわからないんだから気にしなくていいんじゃないのかと思われるかもしれません。
通常であればそうなのですが、例外的な手続きにより特許出願や意匠登録出願をする場合、起算日になり得る大きな問題です。
特許法や意匠法では技術やデザインを守秘義務のない第三者に知られたとしても、その日から6カ月以内であれば特許庁に出願できるという例外手続きがあります(参考:下の条文)。
(特許法条文:発明の新規性の喪失の例外)
第三十条
2 特許を受ける権利を有する者の行為に起因して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項各号のいずれかに該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
(意匠法条文:意匠の新規性の喪失の例外)
第四条
2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同条第一項第一号又は第二号に該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
上記特許庁への例外手続きのデッドラインを以下に図示します。
運営事業者に守秘義務がある場合はプロジェクトをプラットフォーム上で公開した場合を起算日としました。
運営事業者に守秘義務の有無がデッドラインにどう影響するのか理解できると思います(当然、守秘義務があった方が出願人にとって有利)。
3.準備段階
プラットフォーム公開に向けた準備作業にあたって主な留意点を挙げます。
以下の内容は知的財産に馴染みのない人にとっては少し難しいかもしれません(難解な部分は専門家の助けを借りるのが一番早いですし、より安全です)。
(1)必要な権利化の準備は完了しているか
①商品名:商標権
②商品アイデア:特許権
③商品デザイン:意匠権
(2)第三者の権利を侵害していないか
①文章、画像、音楽、動画などの著作権
②商品名などに関する商標権
③技術アイデアに関する特許権
④商品デザインに関する意匠権
(3)模倣を許す情報が入っていないか
①商品デザイン
②商品名
③技術
個別に確認していきましょう。
(1)必要な権利化の準備は完了しているか
①商品名:商標権
クラウドファンディングの後もずっと同じ商品名を使っていくことを考えているのであれば、さっさと商標登録出願を済ませるべきです。
商標権は特許権や意匠権などと違い、公開することで商品名が第三者に知られてしまっても登録可能です(誰もが知っている商品名ほど模倣による誤認が生じないよう保護する必要があるためです)。
商品名を公開したからといって権利化できなくなることはありませんが、それを見た第三者が勝手に自分のものにするため商標権を取得する可能性があります。
それが一番恐いですね。商標登録出願は済ませ、商標登録が公開までに間に合わなかったら、プロジェクトの紹介とともに「商標登録出願中」と明記すると良いでしょう。
こうした知的財産権について明記したプロジェクトは割と多いです。一例を貼り付けておきます。
②商品アイデア:特許権
ラップフィルムケースに関する技術内容を公開すると原則、特許権を取得することができなくなってしまいます。
また、上述した例外的な手続きにより公開日から6カ月以内であれば後追いで特許出願することは可能ですが、その間に第三者が同一技術を特許出願してしまうと終わりです。先願主義と言って早い者勝ちなのです(参考:下の条文)。
(特許法の条文:先願)
第三十九条 同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。
従って公開前に出願を終え、登録が間に合わない場合はプロジェクト紹介の中で「特許出願中」と明記すると良いでしょう。
<その特許、本当に意味はあるのか?> そもそもの話になりますが、その特許権は本当に必要なのか?を十分に検討する必要があります。 本商品(ラップフィルムケース)だと片手で簡単に操作できる構造、ラップフィルムを絶妙な力加減で保持しフィルムの引っ張りを楽にする機構、などオリジナリティのある部分は模倣されたくありません。 ただ、技術者目線で重要と考える片手操作用に設けられたケース中央部のボタンやラップフィルム保持部は購入者にとってはどうでもいいことです。 すなわち購入者にとって重要なのは“片手で簡単”、“楽にフィルムを引き出せる”という機能のはずです。 従って、本ラップフィルムケースのボタンやラップフィルム保持部が別の機構によっても簡単に実現できるのであれば(特許技術を回避できるのであれば)特許権の意義は薄れるかもしれません。 |
③商品デザイン:意匠権
ラップフィルムケースのデザインも公開すると原則、意匠権を取得することができなくなってしまいます。
例外的な手続きや早い者勝ち(参考:下の条文)も特許法と同じです。
(先願)
第九条 同一又は類似の意匠について異なつた日に二以上の意匠登録出願があつたときは、最先の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができる。
ただデザインは商品開発プロセスの後工程で決まるのが普通です。公開したデザインとその後のデザインが変わってくる可能性もあります。そうなると出願やり直しということにもなり悩ましいところです。
<知っておきたい意匠権の効力範囲> (意匠法条文:意匠権の効力)
第二十三条 意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。 |
(2)第三者の権利を侵害していないか
①文章、画像、音楽、動画などの著作権
独自に創作した文章などの著作物には自動的に著作権が発生します。似たような文章が存在していたとしても別々に著作権が発生します。特許や意匠や商標とはこの点が大きく異なります。
従って準備する資料がオリジナルであれば著作権侵害の問題は起こりません。
ただ、専門用語や言葉の定義、その他誰かの記事や写真や音楽を引っ張ってきて使うこと、つまり引用することがあるかもしません。
引用は著作権法で認められています(参考:下の条文)。
(著作権法条文:引用)
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
上の条文だけでは結局、どのように引用したらいいのかよくわかりませんね。
これについては文化庁や判例(最高裁 昭和55年3月28日判決)によって具体的にどのように引用すべきか示されています(以下)。
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/index.asp
ただ、これはセーフ、これはアウトと判断することはなかなか難しい問題です。
また、動画を用意する場合、動画のBGMに音楽を使います。音楽関係はJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)がうるさいとよく言われています。
JASRACでは管理楽曲の商用配信について申請を求めています(参考:以下リンク)。
JASRACが定める商用配信の定義を見る限り、CFプラットフォームで公開する動画のBGMにJASRAC管理楽曲を使う行為は商用配信に該当しますので、管理楽曲の使用を検討している場合は協会に相談した方がよさそうです。
一方、著作権フリーの楽曲もあり、様々なサイトで提供されています。ただし、“商用禁止”とか“著作者明記”などの条件付きの場合があるので利用規約は必ず確認しておく必要があります。
文章や動画などの作成を専門業者に依頼する場合の注意点は前回記事の「4.公開段階」の「(1)他人の文章、写真、動画など著作物を公開する行為」をご覧ください。
著作権に関して詳細は別記事にします。
②商品名などに関する商標権
頭をひねって生み出した商品ネーミングでも既に誰かが商標権を取得しているかもしれません。
商標権の効力も意匠権と同じように同一の名前やマークだけでなく類似する名前やマークにまで及びます。
前回の記事の「4.公開段階」の「他人の商標を使用する行為」にて少し触れましたが、他人が権利を有する商品名と同一または類似するものを使わないようにしなければなりません。
例えば、今回のラップフィルムケースだと有名どころでは以下の商標には気をつけるべきです。
これらは今回開発しようとしているものと商品がモロ被り(シートだけでなく“紙製包装用容器”についても商標権が取られています)ですので絶対に使わないようにしなければなりません。
こうした商標は独立行法人工業所有権情報・研修館の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)にて検索することができます(ここでは検索のやり方は割愛します)。
<商標の類否判断> 一般的に、外観(見た目)、称呼(呼び方)、観念(意味合い)から判断されます。通常、どれか一つでも類似するならアウトです。 例えば、本ラップフィルムケースに“触らんラップ”と名付けたとしましょう(このネーミング天才的?)。 “触らんラップ”と“サランラップ”を比較すると、外観は識別力が弱い“ラップ”の部分が共通するだけで全体としては異なります。称呼が微妙です。違いは“WA”の読み部分です。観念は本開発品には余計な部分を“触らない”という意味がこもっています。 外観と観念は異なると言えますが、称呼が微妙ですね。ただこの商品名は有名な“サランラップ”をもじっているのは明らかです。商標権者からすると苦々しく感じるかもしれません(笑って許してくれれば良いのですけど)。 非類似だと主張する余地は十分にありますが、災いの元にしたくなければ、この名前はやめといた方が無難ですね。 しかし、せっかく考えた商品名を使いたい場合はどうすべきでしょうか? 商標登録出願してみるというのも選択肢としてありかもしません。登録されれば特許庁の審査官が“触らんラップ”と“サランラップ”が非類似だと認めたということになりますので堂々と使う根拠にはなります。 例えば、高級時計として有名で商標登録されている「FRANCK MULLER」を意識したと思われる「フランク三浦」という商標も登録されています(だからと言って商標権者からクレームがないとは限りませんが)。 商標類否判断について特許庁公表資料のリンクを貼っておきます。 |
③技術アイデアに関する特許権
ラップフィルムケースというローテク風商品であっても様々な特許権が存在しています。
上記②で紹介した特許情報プラットフォームで先行技術(特許権)を検索したら400件以上がヒットしました(以下)。
こうした特許の中には、刃のカット性を良くするための工夫、フィルムの縦裂けを解消する工夫が施されていて、例えば刃の先端部分の曲率半径が〇〇μm~△△μmでバリ高さが□□未満、なんて感じで特定の技術的範囲に権利が取得されています。
こうした権利範囲を回避しなければなりません。
上表の水色部分は自由に利用できますが、赤色部分の技術については特許権者から許諾してもらうなどの対応が必要になります。
④商品デザインに関する意匠権
ラップフィルムケースのデザインに関しても特許権と同じく多くの意匠権が存在しています。やはり特許情報プラットフォームで検索することができます。
例えば以下のデザインに意匠権が取得されています。
上のデザインは食品包装用ラップフィルムケースに関するものであり今回開発しようとしている物品と被ります(ちなみに物品が非類似であれば意匠権の効力は及びません。
例えば上図がピンポン玉の収納ケースである場合など)。
ただ、商標の類否と同じようにデザインの類否判断もなかなか難しいものです。
簡単に言うとこの物品の流通過程における取引者・需要者の目線で似ている、似ていないの判断をする、ということになります。
類否判断の詳細については特許庁公表資料のリンクを貼っておきます。
(3)模倣を許す情報が入っていないか
①商品デザイン
商品デザインは見ただけでどんなものなのかわかってしまいますし模倣も容易です。
ただ、クラウドファンディングの場合、そのプロジェクトに係る商品(ラップフィルムケース)を見せないと始まりません。
また、心に残るデザインほど目標金額達成に寄与するのでしょう。どうしても模倣を防ぐことはできません。
デザインよりも機能(ラップフィルムケースであれば片手簡単操作という機能が重要)の方が重要というのであれば、プラットフォーム上で公開するときは仮デザイン、販売するときは本デザインという感じで使い分けるという手もあります。
ただ、この場合、注意すべきことがあります。
意匠法では公知になった意匠に類似する意匠も登録を認めていません(参考:下の条文)。
(意匠登録の要件)
第三条 工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠
従って当初デザインと類似するデザインは意匠登録されませんので(下図)、意匠登録したいのであれば、本チャン商品のデザインは当初デザインと非類似のものにしなければなりません。
②商品名
商品名は最も模倣容易で、しかも第三者に商標権を先取りされてしまったら打つ手がありません。
対策としては公開前に商標登録出願するか、支援金募集時には商品名を出さない、のどちらかになるでしょう。
仮の名前を出すというのも考えられなくはないですが、商品名をコロコロ変更するのは消費者の混乱を招くのでやめた方がいいです。
③技術
上述しましたがプロジェクトを見た人にとって重要なのは技術の中身でなくその技術が実現する効果です。
従って技術内容を公開する必要がなければ秘密状態にしていおいた方が得です。商品を公開しても技術の中身が知られていなければ公知化していなければ、特許権を取得する機会は失われません。
ラップフィルムケースの場合はカバー部をパカっと開けてラップフィルムが入った部分を開示しなければ内部機構の秘密は保たれたままです。
ただ、注意しなければならない点として、その商品の機構(技術)でなくても同じ効果を奏する代替技術が容易に考え付く場合です。
ラップフィルムケースの場合、「簡単片手操作」が商品の大きな魅力点です。それを実現するためのいくつもの技術が詰まっています。
しかし、「簡単片手操作」を別の方法でもやれてしまうのなら、プロジェクトを公開することはヒット商品アイデアを第三者に提供しているのに等しいことになります。
こうしたことは開発初期段階で十分に検討すべきですね。
<技術の逃げ道に注意!> プログラムの場合、同じ効果を様々な方法で実現することが容易な分野です。あるアルゴリズムについて特許権を取得することができたとしても特許権外のアルゴリズムに対しては権利行使することができません(下イメージ図)。 逃げ道のない権利を取ることが望ましいのですが、広く取ろうすればするほど権利を取得するのが難しくなります(様々な分野の技術について言えることです)。 |
4.公開段階
クラウドファンディングプラットフォームに公開するということは全世界にプロジェクトの情報を発信するということになります。
つまり他人の著作物を無断で使用した場合はそれが明るみになります。
著作権は著作物を創作したのと同時に無条件で(登録する必要もなく)発生し、かつ全世界的に保護される権利です。海外から文句が来る可能性があります。
特許権、実用新案権、意匠権、商標権は国別に発生する権利です。海外で特許権が取られている技術でも日本国内で取られていなければ国内の行為が権利侵害になることはありません。
ただ、インターネットを介して海外の支援者にリターン品を送るということになると話が変わってきます。
国を超えたビジネスになるので当該支援者の国の権利(その国だけで取得されている権利)にも注意を払わなければならなくなります。
このあたりがインターネットビジネスのモヤモヤとした領域です(今のところこうした問題が起きたということは聞きませんが)。
権利別に留意すべき範囲を以下に整理しました(以下の権利だけ考えれば十分ということではありません。
例えば、不正競争防止法で保護される商品等表示や営業秘密なども考慮すべきです)。
5.お返し段階
支援者の中にはライバル企業などがいるかもしれません(商品をいち早く入手するため)。
そうした相手の元にリターン品(商品)が届けばすぐにリバースエンジニアリング(製品を分解して中身を分析すること)されるでしょう。
自社特許権に抵触していないか、その技術機構を自社に取り入れることができないか、など様々な研究がされます。
改良技術について特許権を取られてしまう可能性もあります。
まあ、これはクラウドファンディングに限ったことではありませんね。
以上、おおまかに知財の留意点を説明しました。
ご不明点などあれば気軽にメールしていただければ幸いです。