模倣リスク対策(その7):税関活用

2017.06.13

ここまで、

・いかに模倣を早く見つけるか?
・模倣品を発見した場合の対応
・模倣の場所と対応
・ECサイトで模倣品を見つけた場合の対応
・権利の種類と利便性
・著作権活用

について触れてきました。

<過去記事>
 模倣リスク対策(その1):いかに模倣を発見するか
 模倣リスク対策(その2):模倣を発見したら
 模倣リスク対策(その3):模倣場所と対策

 模倣リスク対策(その4):ECサイトでの模倣発見時
 模倣リスク対策(その5):権利の種類と利便性

  今回は税関活用についてです。

 輸入時あるいは輸出時に税関で侵害品を食い止める、いわゆる“水際対策”は実効性のある対策の一つだと言えます。

 税関を活用するメリットはいくつかります。

費用がかからない 税関手数料がかからない(供託金発生する場合有)
取締り対象範囲が広い 知的財産権を侵害する貨物(※)
対応が早い 商標権だと1~2か月、技術照会などが必要となる場合で3~5か月と言われている
侵害抑止効果が大きい 貨物が侵害と認定されたら直ちに差止

※関税法では輸入してはならない貨物のひとつに次のものを定めています。

(輸入してはならない貨物)
第六九条の一一 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。

九 特許権実用新案権意匠権商標権著作権著作隣接権回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
十 不正競争防止法第二条第一項第一号から第三号まで、第十一号又は第十二号(定義)に掲げる行為(これらの号に掲げる不正競争の区分に応じて同法第十九条第一項第一号から第五号まで又は第八号(適用除外等)に定める行為を除く。)を組成する物品

 この関税法に基づき、権利侵害物品が取り締まられています(以下)。

<商標権侵害物品密輸入事件の例>
 税関HPでは取締りが実行された物品例が示されています。

 
 (神戸税関:平成27年6月19日発表)
  http://www.customs.go.jp/kobe/mitsuyu/mitsuyutekihatsu.html#270729

 
 (函館税関:平成28年4月22日発表)
  http://www.customs.go.jp/hakodate/11houdou/01mituyuhoudou/index9.html

 2015年度模倣被害調査報告書(特許庁)によると、国内、国外ともに税関への取締申請は模倣被害対策の一つとして一定の効果があることが示されています(下図)

 取締りの流れイメージを示します。

 

 大まかな流れとしては事前相談(任意)後、

1.権利者が事前相談を申し立て

2.申し立てが受理されたら取締りがスタートし、侵害疑義物品が発見されたら当該物品が侵害品であるかどうかを認定する「認定手続」を行う

3.侵害が認定されたら没収・廃棄

となります。

 なお、不正競争防止法に係る物品について申立てをする場合には申立てをする前に経済産業大臣の意見書(法2条1項10号の場合は認定書)を取得しておく必要があります。

 申し立てから処分の決定までは、商標権などで1~2か月、特許などで専門委員照会があった場合は5か月程度が目安になります。

 相談、申立てに必要な書類は以下の通りです。

 特に事前相談では侵害品、真正品の写真が重要になります。

事前相談 ・登録原簿及び公報等(権利関係の確認)
・侵害品又はその写真等(侵害の事実の確認)
・真正品又はカタログ等(識別方法の確認)
・その他関係資料 (並行輸入関係の資料等)
など
輸入差止申立て (必要書類)
・申立書(税関様式)
・登録原簿謄本・公報
・侵害の事実を疎明するための資料等
・識別ポイントに係る資料
・通関解放金の額の算定資料(特許権・実用新案権・意匠権
・保護対象営業秘密のみ)
・代理人が申立手続を行う場合には委任状等
(必要に応じて提出)
・判決書・仮処分決定通知書・判定書
・弁護士等の鑑定書等
・警告書等
・係争関係資料
・並行輸入関係資料
・その他侵害物品に関する資料

 参考:税関HPhttp://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/b_003.htm

 権利別の申立手順など詳細は税関HPで公開しています(以下)。
 http://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/b_004.htm

 ちなみにどのような権利に基づく差止実績があるのでしょうか?

 税関HPに次のデータがあります。

  

 商標権が圧倒的に多いことがわかります(識別が容易だからでしょうね)。

 商品としてはインクカートリッジ、スマホケース、医薬品、リュックサックなどが上位を占めています。

 

 

  輸入差止め申立ての受理要件として関税法に以下の規定があります。

(輸入してはならない貨物に係る申立て手続等)
第六九条の一三 
 申立先税関長は、前項の規定による申立てがあつた場合において、当該申立てに係る侵害の事実を疎明するに足りる証拠がないと認めるときは、当該申立てを受理しないことができる。

 すなわち、侵害の事実の疎明に必要な事項(受理要件)

1.権利者であること

2.権利の内容に根拠があること(権利登録など)

3.侵害の事実があること

4.侵害の事実を確認できること

がそろえば申立ては受理されます。

 侵害品が1点でもあれば動く点が税関の良い点だということもできます(著名でなくてもよい)。
 例えば、平成26年は税関の輸入差止件数は32,060件であるのに対し警察の検挙・押収実績は574件とデータにもあらわれています(警察は主に悪質なケースに動くイメージ)。

 なお、申立ては“輸入”だけでなく“輸出”についてもできます(ただし輸出についてはニーズが少ないようですが)。

 

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