ブログと知財の留意点

2017.05.09

 前回、事業者を対象にした「ウェブサイトと知財の留意点」について書いきました。

 今回は個人(ブロガー)を対象にします。

 現在、かなりの人がブログをやっています。私の友人にも何人かいます。そして広告収入を得ている人も多いでしょう。

 広告掲載している場合、著作権法などの権利侵害(または権利侵害のおそれ)があると広告停止になります(すなわち広告収入が0円になります)。収入が多い人ほど痛いですね。

 また、最近は著作権侵害で逮捕というニュースも多くなってきました。

 


(産経ニュース記事:アニメに字幕をつけて公開し逮捕)
 
産経ニュース
 
ネットの写真で写真集 著作権法違反容疑で52歳男を逮捕
http://www.sankei.com/affairs/news/170209/afr1702090050-n1.html
インターネット上の風景写真を複製して写真集を販売したり、写真投稿サイトに無断投稿したりしたとして、長野県警は9日、著作権法違反の疑いで、東京都小平市小川町、団体…

(産経ニュース記事:ネットの写真で写真集を作って逮捕)
 
www.jiji.com
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016113000760&g=soc
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016113000760&g=soc

(時事ドットコムニュース記事:自炊代行で逮捕)
 
(サンケイスポーツ記事:TV番組を無断公開し逮捕)
 
(産経ニュース記事:発売前ワンピースを公開し逮捕)

 こうした検挙事例は警察のネズミ捕りに例えると、現状では速度オーバー(著作権法的に問題あり)している車が大量に走っている中、さらにぶっちぎりの速度違反のものだけが捕まっているといった感じでしょうか。

 警察が動く目安の一つとして経済的な影響が大きい場合(例えばそれを公開することで本やCD、DVDなどの売上が減る場合)が挙げられます。

 ですので、例えば発売後の漫画の一コマをブログに載せたからといって警察が出動し、即逮捕されることは考えにくいですね(断言はできませんが)。

 ただ、刑事的には罰せられなくても、民事的にも大丈夫だとは言えません。
 ブログに載せた内容は誰もが閲覧できるものですし、証拠が残るので注意するに越したことはありません。

 権利者から警告がきてすぐに侵害行為をやめたとしてもそれまでに権利者が被った損害がなくなるわけではありません(以下)。
 

 つまり損害賠償を請求されるリスクが消えるわけではないのです(参考:下の民法条文)。

不法行為による損害賠償)
第七百九条   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 最近は著作権だけでなく差別的表現個人のプライバシーなど、ひと昔前の感覚でいたらすぐに叩かれるようになってきました(そうした雰囲気を利用して出る杭を叩こうとする感じさえすることもあります)。

 こうしたことをリスクとして理解しておく分に損はないと思います。

 ポイントになりそうものを以下に挙げます。

1.引用

 漫画の引用ニュース記事の引用写真の引用テレビ番組の引用動画の引用など他人の著作物を拝借することがあると思います。

「引用」とは、例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載しそれを解説する場合のこと(文化庁:著作権なるほど質問箱より抜粋)

 こうした拝借行為で例えば以下の権利について侵害が問題になります。

複製権(コピーする権利)
公衆送信権(ネットで公開する権利)
同一性保持権(著作者の意に反して著作物に変更を受けない権利)、翻案権(著作物の形を変える権利)、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(上記翻案後のものを利用する権利)

 ここでは権利の詳細までは説明はしません。
 著作権法ではこうした権利侵害に当たらないとする例外規定がいくつか設けられています。
 その一つが“引用”です。
 ここではどうすれば引用として認められるのか見ていきます。

(1)引用できる著作物
 著作権法では引用できる著作物の種類を限定していません。
 “公表された”著作物であれば引用して利用できると考えることができます。

 脱ゴーマニズム宣言事件(事件番号 平成9(ワ)27869 東京地裁平成11年8月31日判決)があります。

 元々の作品である『ゴーマニズム宣言』の絵の一コマを引用し、これを一部改変(下の人物の目の部分を黒塗り)したことが同一性保持権を侵害するというのが原告請求理由の一つになっていました(参考:下の裁判資料)。
 

 本件における裁判所の判断を以下に抜粋します。

“引用が必要最小限度のものであることまで要求されるものではない
“絵を引用している例も多数存することが認められるのであるから、漫画によって示された主張を批評する場合に、絵を引用することなく批評するのが一般的であるとか、そのような慣行が成立していると認めることもできない

 上記のように絵の引用そのものは肯定されています(ただし、こうした引用を否定する声もあります)。


(2)引用として認められるためには?

 少しおかたいは話になりますが、著作権法第32条に引用の規定があります(以下)。

(引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 この条文だと「公正な慣行に合致」、「正当な範囲内」となんとも抽象的な表現になっています。

 文化庁では引用の条件を以下のように回答しています(著作権なるほど質問箱)。ア~キを全て満たせば引用成立となります。

既に公表されている著作物であること
公正な慣行に合致すること
報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること
引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
引用を行う「必然性」があること
出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

 しかしこれでもまだ上記イ、ウの謎が解けていません。

 この点について文化庁HPに「公正な慣行」や「正当な範囲」とは具体的にはどのようなものか回答があります(著作権なるほど質問箱)。

 以下抜粋します。

最高裁判決(写真パロディ事件第1次上告審 昭和55.3.28)を含む多数の判例によって、広く受け入れられている実務的な判断基準が示されています。例えば、[1]主従関係用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること [2]明瞭区分性両者が明確に区分されていること [3]必然性なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性が該当します。   

 最高裁判決で示された有名な判断基準が実務的に使われている、と何だか歯切れの悪い回答です。
 

 結局、裁判所が示した
[1] 主従関係:引用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること
[2] 明瞭区分性:両者が明確に区分されていること
[3] 必然性:なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性
が引用判断の拠りどころになるのでしょう。

 なお、文化庁の条件キ(出所明示)は著作権法の他の条文(法第48条の出所の明示)に基づくもので、引用の要件として示されなくても(専門家にとっては)当たり前の話です。

 まあ、法的要件の漏れがないようにするには、文化庁、最高裁判例のいずれの要件も参考にした方が安全ですね(以下)。
 

 具体的な引用例については前回記事「ウェブサイトと知財の留意点」の「3.無断利用の問題(3)引用」の部分を参照してください。

 上記要件を満たせば引用ということになります。

<外形的に引用の要件を満たせばいいのか?>
 いろいろなブログを見ていると、
漫画やアニメをネタバレ的に一コマ載せて厚めにコメントし、“主従関係”や“明瞭区分性”などの要件を満たしていればいいのか?
ブログの閲覧数アップ目的であっても著作権法が目的とする「文化の発展に寄与する」行為だと主張し得るのか?
 など様々な疑問が頭に浮かんできます。
 ニュース記事、音楽、動画、プロスポーツ選手や芸能人の写真などについても同じことが言えます。
 ここではこうした疑問は全部グレーゾーンとしておきましょう。

2.写真、動画(自ら撮影)

 被写体として例えば料理建物物絵画などがすぐに思い浮かびます。
 こうしたものを撮影すること、撮った写真や動画をブログに載せると何か問題があるのでしょうか?

 著作権法との関係で考えてみます。

(1)著作権がない被写体(許諾不要な被写体)

 著作権法では“著作物”を作った人に“著作権”が発生することになっています。裏を返せば、著作物でなければ著作権は発生せず、許諾の問題はないということになります。

 ここで“著作物”とは何か?ですが、著作権法では、

(定義)
第二条この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
と規定しています。
 
 ただ、著作物かどうかの判断は(裁判に発展するものも多く)かなり難しいです。
 
 一般論を表にまとめました(例外が存在する場合もあります)。
被写体 著作物性 ブログ掲載にあたっての留意点
人物 著名人の場合はパブリシティ権、一般人の場合にはプライバシー権に注意が必要です(記事「ウェブサイトと知財の留意点」の“4.人気キャラ、著名人、非著名人の活用”の(4)および(5)参照)。例えば赤の他人が写り込んだものは使わないか、ぼかしを入れた方がいいでしょう。
料理 いくら著作物性がないからといって、撮影を禁止している飲食店で勝手に撮影するとトラブルの元ですね。
建築物
 
仮に著作物性を有していたとしても写真を撮ることに著作権者の許諾は不要です(著作権法46条)。だからといって人の家をパシャパシャ撮っているとトラブルの元ですね。
 乗り物(鉄道、車など) 工業製品(量産品)は著作物でないという考え方が一般的です(ただし家具に著作物性を認めた判例があります)。
企業のロゴマーク 他社商品と関連があるかのような使い方は避けるべきです。商標権や不正競争防止法の問題があります。
 ※ 被写体に著作物性がなくても他人が撮った写真や動画(写真や動画そのもの)は著作物になり得ます。従ってその写真や動画の無断使用はできません。
 
 被写体に著作物性がある場合、それを創作した人には著作権が(自動的に)発生します。
 その場合は写真を撮る行為(複製行為)は原則、著作権者の許諾が必要になります。

 

(2)たまたま写ってしまったものの扱い

 たまたま写真や動画に著作物が入り込んでしまった場合(例えば後ろの方にキャラクターが写り込んでしまった場合、その場に流れていた音楽が録音されてしまった場合)はどうでしょうか

 この場合、一定の要件を満たせば権利侵害にはなりません。著作権者の許諾無しで利用できます(著作権法第30条の2)。

 これは“雪月花事件”と言われる裁判(事件番号 平成11(ネ)5641東京高裁平成14年2月18日判決)が元になっています。

 カタログに「雪月花」という書の著作物が写り込んだことが発端となっています(以下:裁判所HPより)。

 細かい説明は省略しますが、裁判所は上記写真の後ろの書程度であれば侵害にならないと判断しました。

 これを受けて文化庁では権利者の許諾が不要な場合許諾が必要となる場合を例示しています(以下)。

許諾不要

 ○写真を撮影したところ,本来意図した撮影対象だけでなく,背景に小さくポスターや絵画が写り込む場合
○街角の風景をビデオ収録したところ,本来意図した収録対象だけでなく,ポスター,絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれる場合
○絵画が背景に小さく写り込んだ写真を,ブログに掲載する場合
○ポスター,絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれた映像を,放送やインターネット送信する場合

許諾必要

○本来の撮影対象として,ポスターや絵画を撮影した写真を,ブログに掲載する場合
○テレビドラマのセットとして,重要なシーンで視聴者に積極的に見せる意図をもって絵画を設置し,これをビデオ収録した映像を,放送やインターネット送信する場合
○漫画のキャラクターの顧客吸引力を利用する態様で,写真の本来の撮影対象に付随して漫画のキャラクターが写り込んでいる写真をステッカー等として販売する場合

(出典:文化庁HPhttp://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/utsurikomi.html

<参考>
-該当する著作権法条文-

(付随対象著作物の利用)
第三十条の二  写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない
 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない

-本条文について-

 写り込みが認められるためには、
1.分離することが困難なこと
2.軽微であること
3.著作権者の利益を不当に害しないこと
を満たす必要があります(1項)。
 ただ、「分離することが困難」ってどういうこと?と謎が残る条文です(文化庁の例示を見ていると、意図的でなく写り込んだ著作物が小さければ許諾不要だという印象です)。

 

3.音楽(他人の著作物)

 まず、以下の記事(アフィリエイト広告収入を目的とする違法音楽配信に対して新たな著作権侵害対策を実施)を見てください。
 

 こうしたことを踏まえ、ここではJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)の管理楽曲を念頭にまとめます。

 まず上記1の「引用」に該当する場合はJASRACとの手続きは不要です。

 引用とは法律で認められているものです。この点についてJASRACもホームページで認めています。

 ただ、音楽に関しては数小節程度であれば利用可能という妙な誤解があるようです(私の知人でも誤解している人がいました)。

 何小節かというより“著作物”かどうかです。

 短ければ短いほど著作物性はなくなっていくという理屈が背景にあるのでしょうが、著作物かどうかの判断は難しいものです。

 JASRACのホームページに次のようなQ&Aがありました(以下)。

Q.4小節程度であれば、「引用」としてJASRACに手続きをしなくても歌詞や楽譜を雑誌に掲載したりできると聞いたのですが。
A.楽曲を利用する場合は、一部であっても手続きが必要になります。楽曲の部分的な利用と著作権法で定められている「引用」とは別の事柄です。

 整理すると以下の通りです。
 
 引用の要件は上述の「1.引用」を参照してください。

 個人使用の場合、月額1曲150円年額1,200円です(料金早見表http://www.jasrac.or.jp/info/network/side/hayami.html)。
 ただし、アフィリエイト収入がある場合にもこの金額が適用されるのかは不明ですので確認した方がいいでしょう。

 

 4.その他

 以下、前回記事「ウェブサイトと知財の留意点」と重複しますので該当箇所をご参照ください。
 
 ・著作権フリー著作物→「3.無断利用の問題」の(2)
 
 ・人気キャラ→「4.人気キャラ、著名人、非著名人の活用」の(3)
 
 ・地図→「6.地図情報について」
 
 ・リンク→「7.リンクについて」

 

 上記以外にもブログで疑問に感じたことがありましたら、気軽にお問い合わせください(すぐに回答できない場合、回答そのものが難しい場合もあるかもしれませんが)。

LINEで送る